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【第1部完結】空想旅行社ラピエス【第2部開始】  作者: ことのはじめ
3.花人の花嫁

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3-2 求愛の花

 なんでも、花を運ぶ仕事らしい。正確には、花人の花嫁を連れていくのだが。

 朝礼でアデーレが従業員に今日の予定を話していく。


「お嫁さんを乗せるの?! すごいすごい! じゃあ積み込んでた荷物って嫁入り道具ってこと?」


 業務内容を聞かされたウィンは早速はしゃいでいる。それをアデーレはたしなめながら続きを読み上げていく。


「本日正午に乗客のプリムローズ様が乗船予定です。花の国より世界の狭間を越え、宵の国、月待までの航行となります。ウィン、内容の復唱」


 アデーレに指名され、ウィンははしゃいだ気持ちを抑えて直立する。


「えっと、正午にプリムローズ様がご乗船、花の国から狭間をこえて宵の国の月待までの航行!」

「よろしい。この前みたいに行き先聞いてないなんてことにはならないように。それと、最近空賊が世界の狭間付近で出没してるらしいから、各々それらしき機影を見たら速やかに報告すること。こんなところかしら、質問がなければ解散よ」


 誰からも声が上がらないことを確かめて、アデーレは朝礼を終わる。各々持ち場に戻るが、クロードは早速今日の食事のことを考えているようだ。


「花人さんたちはお肉は食べないんだよね、サラダとか、野菜のソテーだったら大丈夫かな」

「花嫁さんなんて素敵〜! 向こうで結婚式挙げるのかな?!」

「そうかもしれないわね、でも基本的に知らされていないことはノータッチよ、ウィン」


 ウィンが楽しげにアデーレに聞く中、めんどくさそうにエーヴェルはあくびをする。


「どっちにしろ連れてくだけなんだから失礼にならないように接してれば大丈夫だろ。お前も余計なこと言って怒らせたりするなよ?」

「なによ〜! そんな不躾なことあたししないもん!」

「こらこらじゃれあうな。不躾かどうかはともかく、お客様には変なこと言わないように」


 アデーレにまたたしなめられつつ、時刻は正午に近づく。

 迎えにいくと言ってアデーレが出た後、エーヴェルはオルテンシア号の搭乗口付近でプリムローズが訪れるのを待っていた。


 プリムローズはオエノテラ伯爵家の令嬢で、結婚相手のソムニウム子爵家の長子ローカスに一目惚れしたのだという。一目惚れで世界を跨いで嫁ぐのだから恋の力というものは計り知れないものだ。

 一目惚れする女性というものはどことなく恋の気配をあちこちに感じるものだ。移り気でなければいいのだが。


 そんなことを考えていると、アデーレが花の馬車を降りて着飾った女性と共に歩いてくる。おそらくあれがプリムローズ嬢だろう。出迎えの準備をしようと身だしなみを整え、エーヴェルは帽子を目深に被った令嬢に深々とお辞儀をした。


「お待ちしておりました、お客様。乗務員のエーヴェルと申します。搭乗口は狭くなっておりますので、お足元お気をつけください」

「あら……」


 プリムローズ嬢が帽子のつばを上げ、つぶらな瞳をまじまじとエーヴェルに向ける。

 空のように澄み渡った瞳がエーヴェルをとらえ、白い肌が薄紅色に染まる。お日様の光を糸にしたような滑らかで明るい黄色の髪を揺らし、プリムローズは口元を手で押さえた。


「まあ、まあまあまあ! なんてことなのかしら!」

「……お客様?」


 プリムローズの感激した様子に、エーヴェルは内心怪訝に思いながら顔を上げる。


「エーヴェル様! 私を助けてくださったエーヴェル様! こんなところでお会いできるなんてなんという僥倖でしょう!」


 よくよく見れば昨日虫に襲われていた女性とよく似ている。というより、本人だ。


「あなたは、昨日の……」

「ええ、ええ。あなたに命を救われました花でございます!」


 感激で抱きつきかねないプリムローズに気圧されながら、エーヴェルは困惑の表情を浮かべた。


「確かに昨日あなたらしき人を虫から守りましたが、一体どうされたのです?」


 ふるふると首を振ってプリムローズは言った。


「またお会いできたのもきっと運命ですわ! 私、あなたの花になりたいんですの!」

「花……?」

「花人にとって花になりたいという言葉はプロポーズとして使われる表現よ。エーヴェル、あなた一体何してきたの」


 いきなり突拍子もないことをアデーレに言われたエーヴェルは目を瞬かせて固まってしまう。何をしたも何もただ危なくなっていたご令嬢を助けただけの話である。だがたったそれだけでプロポーズをされるとは思ってもみなかったし、そうなるはずもないとエーヴェルは思っていた。


 だが実際プリムローズはエーヴェルにプロポーズをしている。困ったことに。


「お客様、出発時刻が迫っております、エーヴェルに関しては後ほどお話をするということで、まずは船にお乗りいただけませんか」


 アデーレは懐中時計を見た後、プリムローズにそう伝える。


「え、ええ、そうでしたわ。エーヴェル様、私あなたと共に参りますわ!」

「は、はぁ……では、お手をどうぞ」


 エーヴェルが形式的ながら搭乗口前で手を差し出すと、プリムローズは嬉しそうに手を取った。

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