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【第1部完結】空想旅行社ラピエス【第2部開始】  作者: ことのはじめ
第1部 1.現実世界からのお客様

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1-2 オルテンシア号展望室

 滑らかに紹介をされたとしても、夏美には納得がいかないことが多い。


「あの、お名前はわかったんですけど、飛行船って? 旅行社って? そもそもここってなんなんですか?」


 アデーレはふむ、と頷いてウィンに目配せをする。


「お部屋のお掃除はしておきますから、お客様は支配人とご一緒してください。案内されたらいろいろとわかってくると思います」

「え? はぁ……」

「じゃあよろしく頼むわよウィン。お客様、こちらへどうぞ」


 アデーレに招かれるまま夏美は部屋を出る。外は少し狭いがきちんとした廊下になっていて、とてもではないがこれが飛行船とは思えない造りだった。


「あの、アデーレさん。ここって本当に飛行船なんですか?」

「もちろんです。今は情報海を航行中ですから、海の中ですけれどね」

「海って、全然飛行してないじゃないですか」

「飛行船が空だけ飛ぶと誰が決めたのでしょうね」


 夏美のツッコミをあっさりとかわし、アデーレは廊下の丸窓を夏美に見せた。


「こちらからご覧いただけるのが、情報海の珊瑚礁です」


 夏美が窓を覗くと、先ほど見えた珊瑚が珊瑚礁となって一面に広がっている。だが、その珊瑚はよくみればアルファベットやひらがなといった様々な文字が組み合わさった形をしており、夏美の知っている珊瑚とは明らかに違っていた。


「あの、珊瑚の形が」

「情報の珊瑚ですからね。やがて朽ちて情報の砂となって堆積するでしょう」

「情報の……」


 夏美はその不思議な光景に圧倒され、しばらく窓から見える珊瑚礁に見入っていた。

 情報の珊瑚は時折文章になっているものもあり、読める範囲で夏美は珊瑚の文字を読み取ろうとする。


 届かぬ愛を叫び続ける人へ……。

 嘆きに打ち据えられ……。

 いとしくひとしく……。


 何か文章になっていそうで、ただの言葉のかけらにも見える。意味が通っているのかどうかは、夏美にもよくわからなかった。


「この辺りの珊瑚礁は古い時代のものですから、だいぶ言葉が丸くなっているんですよ」

「言葉が丸く?」

「研磨されて丸くなって、触り心地のいい言葉になっているんです。沖の方の珊瑚は……最近は少し刺々しいものが多いですね」


 夏美が納得する中、アデーレは船首の方へと向かう。客室はウィンが掃除しているから戻れないが、船首にはなにがあるのだろう。


 船、という割には内装はホテルのように整っているし、廊下だって狭い以外は特に船らしい感覚はない。何より全く揺れないのだ。どういう仕組みかわからないが、本当に船なのか夏美は怪しみたくなる。


 船首に続くドアを開けると、そこは展望室になっていた。高級ホテルの最上階のように、バーカウンターも備え付けられている。そこでグラスを磨いていた男性が、おやと声を上げた。


「支配人、お客様ですか」

「ええ。当日ご利用のお客様。さ、どうぞおかけください」


 アデーレが席を進め、夏美をカウンターに着かせる。黒い長髪を結んだ長身痩躯の男性は、優しげな風貌だというのに顔に大きな傷跡があり、いかにもミステリアスな雰囲気を醸し出している。

 夏美が席につけば、長身の男性もウィンと同じようにお辞儀をして名乗った。


「初めまして。こちらのバーカウンターを任されております、ユヅルハと申します。どうぞよしなに」

「よ、よろしくおねがいします」

「さて、お客様。早速ですが何かご注文はございますか」


 だが夏美はバーにいったようなことなどない。いきなり注文を聞かれてもおしゃれな飲み物なんてすぐには答えられなかった。


「ユヅルハ、メニューをお見せして」

「かしこまりました」


 ユヅルハは片手をするりと夏美に差し出す。するとそこに突然品書きか書かれたメニューブックが現れ、夏美は目を丸くする。

 おそるおそる差し出されたメニューブックを取れば、夏美も読める字でメニューが書かれていた。

 ウイスキーや蒸留酒の他、カクテルやモクテルも取り揃えられ、ソフトドリンクまである有様だ。バックバーはそれほど広くない気がするのに、どこから飲み物を出してくるのだろう。


「じゃあ、ジンジャーエールで」

「かしこまりました、ただいまご用意いたします」


 お酒の気分ではなかったから、無難に飲めるソフトドリンクを夏美は頼む。ユヅルハはカウンターの裏から氷を取り出し、手慣れた様子でグラスに入れてジンジャーエールを注ぐ。


「お待たせいたしました、ジンジャーエールです」


 薄い金色のジンジャーエールはぷつぷつと涼やかな炭酸を弾けさせ、飲む前からおいしそうに思えてならない。

 グラスの冷たさを感じながら飲めば、炭酸の強さと生姜の辛味が心地よく喉を刺激していく。


「……おいしい!」


 夏美が冷たさに目を細めながらグラスを置けば、ユヅルハは感謝するように会釈をした。

 それを見届けたアデーレは、流れるような動作で夏美の隣に腰掛ける。


「ではお客様。当日ご利用ですので私からこの船のご説明をしたいのですが、よろしいでしょうか」


 アデーレの申し出に夏美は頷く。アデーレは会釈をしてから夏美にこの船のことを話し始めた。

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