2-7 作戦会議
ウィンは納得がいかなかった。せっかく自分が本当は何をしたいかわかったというのに、その先の未来が捨てられることだなんて。
なんとかしたくて支配人に引き返せないから交渉したが、目的地まで真っ直ぐいくとだけ告げられて取り合ってももらえなかった。
もやもやどころの話ではない。チクチクと胸に刺さる罪悪感にウィンは苦しくなる。
グレイシアは少し休むからといってウィンを部屋から出してしまったため、ウィンはしかたなくスタッフルームに戻る。
「ガラスの乙女はもういいのか?」
休憩用のソファで新聞を読むエーヴェルがぶっきらぼうに聞いてくるから、ウィンは思い切り舌を出してエーヴェルに苦い顔をしてやった。
「その様子だと色々あったみたいだな。ちんちくりんの手には負えないか」
流石に今からかわれるのはウィンもいい気がしない。
「あたしじゃ力不足って言いたいの?! なによ! グレイシアさんのこと、何も知らないくせに!」
「本人の気持ちはそりゃわからないな、ろくに話してないんだから」
「だったら……!」
「だったらなんだ? 俺たちは旅客船の乗務員で、必要以上にプライベートに関わるべきじゃないと思うけどな。支配人にもその様子だとあしらわれたんだろ。当たり前だ」
「うっ……」
エーヴェルの言うことはもっともだ。そもそも旅の足として使われるのがオルテンシア号、ラピエス社なのだから引き受けた旅行に責任を持たねばならない。客でもない、ただの乗務員が客の意向も聞かずに旅の中身を変えるなど普通はありえないだろう。
「それに、俺は今回の行き先に関して文句はないぞ」
「文句がないって、ガラクタの国だよ? もう捨てられるだけ、終わりを待つだけの国に置いてくなんてあたし……!」
「は? 何いってるんだ」
「何って、ガラクタの国が……!」
「エーヴェルもウィンもお疲れ様。まかない作ってきたから食べて食べて〜」
今にもヒートアップしそうなところに空気を読まずクロードがまかないのクロックムッシュを持って入ってきた。
「なんかピリピリしてたみたいだけどご飯食べるとちょっと気持ちもリラックスできるよ、ほら」
エーヴェルを睨みつけていたウィンだったが、クロックムッシュの香ばしい香りにぐう、と腹の虫が鳴ってしまう。それにクロードの料理は社内でも折り紙付きのおいしさである。食べないで過ごすのはいくら気が立っていたとしても避けたいところである。
しかたなしにウィンはクロックムッシュの乗った皿を取り、渡されたフォークでつつきはじめた。
「これはまた、うまく仲裁されちまったな」
エーヴェルも皿とフォークを受け取りすでに切り分けられているクロックムッシュを頬張った。
「うぅ……おいしい……」
ウィンは食べながら尖った耳をぺたんと倒し、悔しそうにクロックムッシュを食べている。
「何があったかはわからないから、食べながらゆっくり教えてくれないかな」
クロードは近くの椅子に腰掛けると、二人の諍いについて話を促した。
ウィンはグレイシアのことを、エーヴェルはウィンとのやり取りで揉めかけたことを話していき、一つ一つ確認を取りながらクロードは言い合いになっていたことを整理していく。
「……ってことで大丈夫かな」
「うん、大丈夫。あたしがバカでした」
「俺はてっきり確認してるかと思ったんだが……まあ、情報のすり合わせは大事だからな」
クロックムッシュを食べ終え、すっかり事情を理解した三人は改めて向かい合って作戦会議に臨む。
ウィンが思い浮かべるのはやはりグレイシアのことだ。
「あたしはグレイシアさんにもっと喜んでほしいっていうか」
「何か好きなものでも見せたらいいんじゃないのか? ほら、何か調べておいたりとかしてないか?」
「あっ、そういえば好きな光のメモ取ってた!」
「僕にも見せて?」
ウィンが取り出したメモをクロードとエーヴェルが覗き込む。先ほどグレイシアと話した光のことがつづられたメモを読み、エーヴェルとクロードは二人して顔を見合わせる。
「ろうそくの灯り……だよな」
「キャンドル自体なら飾り付け用のが少しあるけど、春の日差しかぁ」
調達するにも光を持ってくるにはそれ相応の手段がいる。二人で頭を悩ませていると、ウィンが思い出したように言った。
「そうそう、それとユヅルハさんがいろんなところの光を見せてあげてたかな」
「なるほど……」
「じゃあ、それがいいかな」
エーヴェルはクロードと顔を見合わせてうんうんと頷く。こういう時に役立つのがユヅルハという男である。遠慮なく手伝いをしてもらおうと画策するエーヴェルに、クロードも乗り気なようだ。
「じゃあ、僕はユヅルハさんと光の調達をしてくるよ。エーヴェルとウィンはグレイシアさんの方をお願い」
「はーい」
「わかった。呼び出す算段やらが整ったら教えにくるさ」
エーヴェルが答えればクロードはふわふわした表情でにこりと笑った後、ユヅルハに会うべく展望室へ向かった。
「さて責任重大だぞちんちくりん。まずは食事をどう運ぶかだな」
「だからちんちくりんって言うなぁ〜!」




