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【第1部完結】空想旅行社ラピエス【第2部開始】  作者: ことのはじめ
2.ガラスの国の乙女

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2-1 ガラスの国の乙女

 この国は一面ガラスでできている。人も、街も、大地も、全てがガラスでできている。


 そのガラスの国の空中港、ガラスの桟橋にオルテンシア号は停泊していた。

 スタッフルームの窓から見えるのはガラスの街並みだ。色ガラスで作られた住居は日差しを浴びてキラキラと光り輝いている。ガラスの街路樹はまるで巨大なガラス細工のようで、ともすれば見るものが小さくなって箱庭にいるかのような錯覚を覚えさせる。


 街路に連なるガラスの街灯は、今は昼間だから灯りはついていない。だが日差しを受けて輝く様は昼をさらに明るく見せている。

 ウィンは窓からその様子を眺めて珍しそうに目を丸くしていた。


「おお〜、すっごく綺麗〜!」

「ちんちくりんには珍しいだろうな」


 感嘆の声を上げるウィンをからかうようにエーヴェルが声をかける。標準的な中肉中背の若者で、飄々とした雰囲気の男だ。茶髪に緑の瞳とそこまで目立ちはしないものの、整った顔立ちがそれを引き立たせているようにも見える。

 ウィンはくるりとエーヴェルに振り返って頬を膨らませた。


「もう、何よ! 人がせっかく知らない国の郷愁? に浸ってるっていうのに」

「郷愁はそんな使い方しないぞ? お前、本当にエルフなのか?」

「エルフよ! この耳とかちゃんと見なさいってば!」


 とがった耳をこれでもかと引っ張ってウィンはエーヴェルに主張する。それでもエーヴェルはろくに取り合おうとしない。


「どうだか、エルフと言っても親元から逃げ出してきたんだからちゃんと知識がついたかも怪しいもんだね」

「なによ〜!」

「そんなに怒るなって、からかってるだけなんだから」

「からかわれて気持ちがいいわけないでしょーが!」


 軽い調子でやり合う中、スタッフルームの声に誘われるようにもう一人青年がやってきた。


「どうしたの? って、また二人でじゃれあってるんだ」


 現れたのは銀髪の青年だ。背は高いが線は細く、中性的な顔立ちに丸メガネをかけている。オルテンシア号の厨房を任されているクロードだ。


「じゃれあってないもん!」

「まあ、そんなとこだ」


 ウィンとエーヴェルが口々にいうが、クロードは人の良さそうな笑みでうんうんと頷くだけだ。


「仲良しだね、二人とも」

「はぁ?!」

「あー、はいはい」


 怒るウィンとは反対に呆れるエーヴェルに、クロードはおかしげに笑う。


「それよりアデーレがそろそろお客さんを連れてくる頃だよ、エーヴェルもウィンも準備して」


 クロードの呼びかけに二人はそれぞれ返事をして持ち場に戻る。


「今回のお客様って誰なのかな?」


 スタッフルームを出てすぐにウィンが首を傾げた。


「聞いてないのか? なんでもこの国一番の美人だって噂だぞ」

「え、そうなの?」


 ぽかんとするウィンに、エーヴェルが得意げに言った。


「国一番の美しさから、こう呼ばれてるらしい」



 ガラスの乙女。



「初めまして、グレイシア様。この度はラピエス旅行社をご利用くださいまして誠にありがとうございます。搭乗口はこちらです」


 ガラスの桟橋の上で、アデーレは美しいガラス細工の人形にお辞儀をする。正確にはガラス細工ではない。ガラス細工のようにも見えるガラスでできた人間だ。

 グレイシアと呼ばれたその人は、一目見て姿が目に焼き付くほどの美しさだった。顔や手足には白粉を振り、人間の肌のように見せているが、髪の毛は透明で陽の光に照らされると虹色に輝いている。瞳はビー玉のようにまんまるで、体も華奢で少し力を入れて抱きしめれば折れてしまいそうなほどだ。

 サラサラと肌触りのいい絹のドレスを着た彼女は、綺麗な所作でお辞儀を返しておぼつかない足取りで搭乗口に向かう。


 少し急な階段になっている登り口に差し掛かると、中からエーヴェルが出てきて流れるような動作でグレイシアの横に立った。


「お客様、お荷物をお持ちいたします」

「ええ、ありがとう」


 涼やかな声にエーヴェルは微笑んで小さなトランクを丁寧に抱える。そのまま船内に一旦荷物を置くと、今度はうまく階段を登れないグレイシアにすっと手を差し伸べた。


「こちら、お足元にご注意くださいませ。よろしければ、お手をどうぞ」

「助かりますわ。では、ありがたく」


 しなやかな白い手がエーヴェルの手に添えられ、エーヴェルはグレイシアを支えながらゆっくりと搭乗口の階段を登る。

 オルテンシア号の船内に入ると、エーヴェルはすぐさま置いてあったトランクを抱えた。


「お客様のお部屋までご案内いたします。どうぞこちらへ」


 部屋の脇で控えているウィンの元まで来ると、エーヴェルはトランクを部屋の荷物置き場に置き、ウィンに後を引き継いでもらう。


「いらっしゃいませ、お客様。私ルームサービスのウィンと申します。お部屋に不自由がございましたら、何なりとお呼びくださいませ」


 ウィンがお辞儀をしてグレイシアに部屋の案内をする。グレイシアはたおやかな所作で会釈をすると、あてがわれた客室に入っていった。

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