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【第1部完結】空想旅行社ラピエス【第2部開始】  作者: ことのはじめ
2.虹の橋を渡りに

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5.虹の国へ

「抱えるんじゃなくて、見渡すこと……」



 エーヴェルの語ったことは、シエラにはまだどういうことかはっきりとはわからない。だが、きちんと向き合っていきたい。そうシエラは心に決めた。



 それから会話は途切れて、二人でコテージパイを食べるだけになった。


 こんがり焼かれたマッシュポテトと、よく煮込まれたひき肉の旨味がぎゅっと詰まっている。


 初めて食べるまかないにシエラは一口、二口とどんどんコテージパイを食べ出していく。


 あっという間に一人前を食べきってしまい、もっと食べたいとばかりに残ったパイに視線を向けてしまった。



「クロードが見たら喜ぶな、その食べっぷりだと」


「あっ……」



 その一部始終をエーヴェルに見られて、シエラは恥ずかしくて縮こまる。


 エーヴェルは半人前しか取らなかったパイを平らげた後、シエラに皿をよこすように手を出した。


 シエラは食いしん坊みたいだと羞恥のままに皿を差し出す。


 それでも、もっと食べたいのは事実だ。


 大事な話をされた後だというのに、こんな風にたくさん食べるなんてと自分の腹が恨めしくなる。



 顔を赤くしながらも、シエラはエーヴェルが盛り付けてくれたおかわりを受け取った。






 それから少ししてデニスの食事が済んだのかウィンがスタッフルームに戻ってきた。早速パイを取り分け、頬張ってしまう。



「ん~、このお肉の味! シエラちゃんもどうだった?」



 にこにこしながら聞いてくるウィンに、シエラも微笑んで答えた。



「はい、とてもおいしかったです」


「でしょでしょ。後でクロードにも言ってあげて。きっと喜ぶから!」



 コテージパイに笑顔を浮かべるウィンに、シエラはそういえば、と話を切り出す。



「デニスさん……お客様に、何か変わったところはありませんでしたか?」


「普通にご飯は食べてくれたけど、何か気になるところでもあった?」



 腕組みをして食事を運んだときの様子をウィンは思い出す。だが特段気になることはなかったようだった。



「いえ、ちょっと廊下で話しただけなんですけど、気落ちしすぎてないかなって」


「あ~、なるほど。そういうことね」



 ウィンはそれだけで事情を察したようで、シエラの肩をぽんぽんと叩いた。



「それなら大丈夫。お客様ならちょっと表情が明るくなってたから。目的地の虹の国のことも楽しみにしてるみたいだったし」



 それを聞いてシエラは内心ほっとする。あの場限りの言葉ではなかったことが嬉しかった。



「虹の国っていうと、楽園に続く虹が有名だな」


「お客様も仰ってました。えっと、虹の麓から楽園に行けるお話」



 休憩しつつ新聞を読んでいたエーヴェルがふと顔を上げて会話に割り込んでくる。


 楽園に続く虹のことが出て、思わずシエラも同調してしまった。


 だが、とっさにレオのことは伏せられたのはよかったと後々シエラはひやりとした。



「動物たちの遺品を虹の麓に置くと、その動物が楽園に行ける、ってことでしたよね」


「へえー、なんだかロマンチックだね」



 ウィンがコテージパイを頬張りながら感想を述べる。さらにエーヴェルがシエラの話に付け加えた。



「虹の国はイリスの女神が虹をかけてるからな。国中をつなぐ大虹橋(だいこうきょう)はじめ、全ての虹は女神の力によって架けられてるんだ。

 とはいえ、雨を降らせて止ませての繰り返しらしいが」


「雨上がりにかかるもんね、虹って」



 当たり前だけど、とウィンが言う。


 シエラはフォレシア以外の異世界を見るのは初めてだから、少しだけわくわくしていた。


 ウィン達は当たり前のように過ごしているが、シエラにとっては異世界に行くことは未知の体験だった。



「虹の国……どんなところなんだろう」



 ほんの少し思いを馳せただけでも、シエラはドキドキする。


 まもなく、世界の狭間に到達する。アデーレの船内放送が流れてきた。


 あの星空のような狭間から、虹の国へ行くのだ。






 世界の狭間を通り抜け、辿り着いた先は鬱々とした雨の続く国だった。


 雨雲により暗い空の下、街並みも黒く沈んで見える。廊下の窓から虹の国に入る一部始終をシエラは覗いていた。


 虹と名前がつくくらいだからきっとたくさんの虹がかかっていると思ったのだが、見えてきたのは想像とだいぶ違う光景だった。



「雨が降ってる……」



 雨が降り続くその国は虹など一つもかかっておらず、ただしとしとと雨が降り続けている。停泊予定の港も、その向こうに見える街も全て雨雲の下だ。



「虹はこれから架かるのかな」



 エーヴェルも雨が降ったり止んだりしていると言っていたし、今はちょうど雨が降っている時期なのかもしれない。


 虹が見られないのは残念だが、虹が出るまで逆に待ち遠しくなる。



「君は、さっきの」



 ふと聞き覚えのある声がして振り返ると、そこにはデニスが立っていた。また一人でぶらつきたくなったのだろうか。



「デニスさん。虹の国の様子をご覧に?」


「そんなところです。さっきは話を聞いてくれてありがとう。えっと」


「シエラです」



 ずっと乗務員という立場だったから、名乗るのを忘れていた。シエラは自分の名前を名乗ると、デニスが窓の外を覗けるようにそっと横に体を避ける。



「外、雨が降ってるんですね」


「虹の国では、イリスの女神様が虹をかけていらっしゃるそうなんです。雨を降らせたり止ませたりして」



 エーヴェルに教えてもらったことを話し、シエラは窓の外を見やる。



「ですから、この雨が止んだらきっと虹がかかりますよ」


「そうか……そしたら、レオを……」



 レオの弔いのことを考えたのか、デニスがそっと目を伏せる。シエラは何も言わずに横に立っていた。

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