1-10 空想界より現実へ
目を開けると、夏美は自分の部屋にいた。いつの間にか眠っていたらしい。起き上がるとスマホがゴト、と滑り落ちる。拾い上げて時間を見れば、もう十九時だ。そろそろ夕飯を食べないといけない時間になっており、夏美はスマホの画面を見やる。
「えーと、ごはん……デリバリーでいっか」
なんだか夢を見ていた気がする。ファーストフードのデリバリーを頼んだ後、夏美はさっきまで見ていた夢を思い出そうとする。
「なんか飛行船に乗って旅行してた夢だったなぁ」
夢を見ている時は明確に覚えていても、起きた途端に歯抜けの記憶になって薄らいでしまうのはどうしてだろう。だが、なんとなく気分がスッキリしているのだけは感じ取れる。
「空も飛んでたし……なんだったんだろ、船に乗ってるのに空飛ぶとか」
わからない、わからないが大切なことを知った気がする。それが何か断言はできないが、ただ夏美はどこか広い場所に立っているような清々しさを感じていた。
広い場所で運動をしてきたような開放感と頭のスッキリとした感覚とで、重い気持ちも軽くなっている。
スマホをいじっていつもの流れでSNSを開こうとして、夏美はタップする手を止める。
それからメモを開き、思いついた事柄をポチポチと言葉にし出した。
夢のこと、頭がスッキリしていること、それに対して不思議に思うこと。理由はわからなくても、夏美は書かずにいられなかった。
誰に見せるわけでもなく、ただ思ったことや思い浮かんだことを綴っていく。それがやけに癖になって、夏美はずっとスマホのメモに思ったことを書き出していった。
そんなとき、無意識に打ち込んだ一文が夏美の目を引く。
「またいつか、お会いできるでしょう」
「……なんのことだろ、これ」
なんのことだか夏美にもわからないが、その文が気になってメモを保存する。
とりとめのない言葉の塊、誰にも伝わらない言葉の群れ。だが、書き出すことで夏美は確かにすっきりしていた。
「うーん……」
でも、これだけだとなにか足りない。もっと形を整えて、もっと伝わるように言葉を尽くして、そうしたら自分の想像したものが形になりそうな気がする。
夏美はもう一度メモを開いて、自分が感じた、自分の思ったことを書き並べていく。何度も想像し、何度も考えて、言葉を練っていく。
デリバリーが届いた後も、夏美はスマホの画面に向かい続けていた。ハンバーガーが冷めても、構わず夏美はスマホに文字を打ち込んでいく。
「……ふぅ、できた、かな?」
やっとスマホの画面を見つめていた目が、時計を見やる。夜も遅くなってそろそろ寝ないと明日に響く時間帯だ。
気づけばSNSなど全く見ていなかったし、気にすることもなかった。情報を入れるばかりではわからなかった疲労や開放感に夏美はぼんやりとスマホから顔を離して浸る。
それに、案外書き出すと気持ちが楽になるのも確かだ。
「たまには、こういうのもいいのかもしれないなぁ」
そう一人で呟きながら、夏美はぼんやりとする。でも、どうしてそんなことを急にしだしたのかはわからない。
「思い切り羽を伸ばせって、こういうことなのかなぁ」
夢の中で言われたことを繰り返す。空色の髪の女性に言われた言葉が断片的にだが頭の中に残っている。
名前を聞いたかも思い出せないが、会っていたのは事実だ。
情報に溺れたなら、それを吐き出すように想像の翼を広げるといい。
だから夏美は拙いながらもひとつ、物語を書き上げた。
まだ名前のない話は、きっと夏美の物語なのだろう。




