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三十六・【イエローストーン遺跡】黄色い自然石遺跡のクモ女

 イエローストーン遺跡──自然石が遺跡のような空間を作る『黄色い岩の遺跡群』……横縞模様の長方形鉱石が、天井から逆さになって生えている建造物や。

 壁から突き出した、黄色い自然石建造物が生み出す不思議な絶景空間エリア。


 クモの白い綿糸が広がる、エリアにウェルウィッチア一行はやって来た。

 エリアの空に巨大なクモの網が張られているのを眺めながら、ウェルウィッチアが言った。

「このエリアまで来ると、菌糸の根もかなり広がっているわね……あたしが護衛できるのは、ここまで……この先は次の極楽号クルーに守ってもらって」

 ゾアは中心部に近づくにつれて、菌糸の根を消滅させる力が弱くなっていた。

 ほんの数十センチしか、消滅させるコトができなくなっていった。

 それも、消滅させた後は頭を押さえて苦しそうな表情をするコトが多くなった。


  ◇◇◇◇◇◇


 スクワットをしながら、ウェルウィッチアがゾアに言った。

「大丈夫? 菌糸を除去できる能力があるから、君が必要として、極楽号クルーが協力して中心部に連れていくんだけれど」

 ディアが、極楽号の第三サブ・コンピューター【マリアンマ】から導き出した、この非常事態から極楽号を救う唯一の答え。


『ゾア村のゾアという少年を、菌糸の核に連れていく』

 菌糸の遺伝子と、ゾアの遺伝子構造が似かよっているコトと、本人は気づいていない熟睡時にゾア人と似た姿に変わってしまうコトがマリアンマが、ゾアを選んだ理由だった。


(少年が熟睡している時に変貌する姿が、ゾア人の原種姿かも知れないってディアは言っていたわね……極楽号に入り込んで根を張っている菌糸生物と何か繋がりがあるのかしら?)

 ウェルウィッチアが、腕組みをして思案しているとゾアが言った。

「おばさん、ここまで一緒に来てくれてありがとう」

 次の瞬間、額に青筋が浮かんだウェルウィッチアは、取り外した自分の頭でゾアを殴りつけていた。

「このガキ! 最後まで」

 手に持った頭を振り下ろして、ゾアに何度も頭突きをするウェルウィッチア。

「ぐはっ!」

 外した頭をキュキュと胴体にハメ込んだ、ウェルウィッチアは不機嫌そうな表情で去っていった。


 ◆◆◆◆◆◆


 地面に倒れたゾアを、しゃがんで指ツンツンするオプト・ドラコニス。

「おーい、生きているかぁ……それにしても、次は誰が護衛で現れるんだ?」

 オプト・ドラコニスが首を傾げていると、いきなり穂奈子の前面に平面三次元通信モニターの投射画面が現れた。

 穂奈子の体からディアの声が聞こえてきた。


《あっ、やっと繋がった……ボクの声聞こえていますか?》

 オプト・ドラコニスが答える。

「聞こえているよ、送信パネルモニターも見えている……穂奈子の細胞をスピーカー代わりにした『細胞(セル)振動通信』を使うってコトは、相当の緊急事態なんだろうな」

《えぇ、本来ならそのエリアで護衛をするコトになっている…………さんの細胞にアクセスするところなんですが。なぜか…………さんの細胞に送信できなくて》

「誰が護衛をするって? ノイズが入って聞こえないぞ」


 ディアはオプト・ドラコニスからの質問が、届いていない様子で話しを進める。

《これを見てください、数十分前からの極楽号を、船外小型衛星から撮影した映像です》

 厚さがない電子モニターに、宇宙空間を進む菌糸の根が生えた極楽号の姿が映る。

 根は下部の主根以外にも、毛根のようなモノが極楽号の数ヵ所から生えていた。

 そして、主根の束には、なにやら白いモノが付着していた。


 穂奈子が触腕で、画像を拡大すると。

 オプト・ドラコニスが驚きの声を発する。

「根に花みたいなのが咲いているじゃねぇか!?」

《とにかく、ナゾの菌糸の極楽号の侵食が進んでいます急いで………さんと一緒に、中心部へ……ガガガ》

「おい! 聞き取れないぞ! 誰が来るんだ! おいっ」

 通信は切れて、モニターも消滅する。


  ◇◇◇◇◇◇


「まったく、このエリアのどこへ行けばいいんだ……護衛者が居ないと、動きがとれねぇぞ」

 ブツブツと文句を呟く、オプト・ドラコニス。

 だが、この時、護衛は確かに穂奈子たちの近くに来ていた。

 オプト・ドラコニスは気づいていなかったが、ドラコニスの影から金属の棒がスウーッと出てきて、すぐに引っ込んだ。

「とにかく、歩き回っていれば次のエリアへ向かうヒントがわかるだろう……ほら、ゾアいつまで寝ている立て」

 穂奈子たちは、衣のような白いクモ糸が広がる自然石遺跡を進む。

 先頭を進むオプト・ドラコニスがぼやく。

「しかし、本当にどうすりゃいいんだ……あてもなく歩き回っても……あれ? ゾアは?」


 後方を確認する穂奈子。

「さっきまで、後ろを歩いていたのに?」

「まったく、どこへ勝手に行ったんだ」

 オプト・ドラコニスが前方を見渡して、もう一度振り返った時──今度は穂奈子の姿が消えていた。

「穂奈子? どこ行った? おいっ、ふざけるな!」

 オプト・ドラコニスの体に頭上から、ピトッとクモの糸が飛んできて貼り付いて。

 そのまま、オプト・ドラコニスの体は、真綿のようなクモの巣の中に引っ張り上げられ消えた。


 ◆◆◆◆◆◆


 数分後──白いクモの糸で作られた巣の中に、首から下をクモの糸でグルグル巻きにされて吊り下げられた。

 ゾア、穂奈子、オプト・ドラコニスの姿があった。

 三人の前には、黄色いフード付きのケープをかぶった変な女が一人……火の前で胡座をかいて、背を向けたまま座り何やらブツブツと呟いていた。


「参ったなぁ、てっきり食べられる獲物かと思って釣り上げたけれど……食べ物じゃなさそうだなぁ、吊るして干物にすればイカ女は食べれるかなぁ? その前に一応は自己紹介して謝っておくかなぁ」

 立ち上がってオプト・ドラコニスたちの方を向き直したのは、体にピチッとしたラバー素材のような黄色と黒のスーツを着た、クモ女だった。

 額に単眼が並んでいる、クモ女が言った。

「すみません、エサかと思って釣り上げたら……食べられませんでした、先に謝ります。あたしの名前は『バニー・キューティ』見ての通りのクモ女です」


「触角がウサギの耳みたいでしょ……あたし【バニー・スパイダー】種族のクモ女なんです」

 バニーは並んだ、二柱の崇拝する神像に祈りを捧げる。

「こっちが〝レオパ神〟反対側が〝ルドン神〟です」


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