表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/41

三十四・薄雪姫の亡くした心

 夜の宮殿に、宿泊二日目──夜だけの町にも菌糸の根は広がりつつあった。

 夜の宮殿の庭で、思案するウェルの姿があった。

「極楽号の深部に近づくほど、根が活性化している……一日も早く中心部に向かわないと」

 ゾアは、数時間前から体調が悪くて部屋で寝込んでいる。

 ウェルは、庭の夜道を歩いてきたツギハギの雑用人博士を呼び止めると、何やら数分間の会話をした。


 人造人間の博士が去ると、今度はオプト・ドラコニスと穂奈子がやって来た。

 腕組みをして思案していたウェルが、オプト・ドラコニスに訊ねる。

「あの子の様子はどう?」

「あの子? あぁ、おばさ……」

「あぁん?」


 ウェルウィッチアにギョロと睨まれた、オプト・ドラコニスは慌てて言い直す。

「姐さんに、失礼なコトを言ったゾアは、部屋で体調が悪いとか言って寝込んでいますよ」

 穂奈子がオプト・ドラコニスの言葉を繋げる。

「ゾアには、クライさんが付き添っていてくれます」

「そう、やはり中心部に近づいてきた影響を心身に受けたのかしら……あの子には、正しい言葉の使い方を教えてあげないと」

 穂奈子が、ウェルに質問する。

「通行証どうやって、発行してもらうんですか?」

「う~ん、とりあえず父親に娘のコトを聞いてみましょうか」


  ◇◇◇◇◇◇


 ウェルたちは、夜の宮殿の主人の部屋に向かった。

 部屋の中では、寝台に拘束された父親が放電球から迸る電流を、首に埋め込まれた電極に受けてリラックスしていた。

 怪しげな装置を操作しているヤミーが、通電されている宮殿の主人に訊ねる。

「旦那さま、電圧の強さはどうですか? もう少し強くですか、かしこまりました」


 ヤミーがダイヤルを回すと、宮殿主人の体から火花が飛び散り、さらに激しく体が跳ねる。

 ビクビクと痙攣している、宮殿の主人を見て心配したオプト・ドラコニスがヤミーに質問する。

「大丈夫なのか? それ? 旦那さまの体、魚みたいにビクビク跳ねているぞ」

「旦那さまにとっては、マッサージをされているようなモノです……なにかご用ですか?」

 ウェルが、薄雪姫について訊ねると。

 宮殿の主人の眼球が、ポンッと外に飛び出して床を転がる。


  ◇◇◇◇◇◇


「うわぁ!? 目ん玉飛び出した!」

 驚くオプト・ドラコニス、穂奈子は放心状態で固まっている。

 ヤミーが平然とした口調で言った。

「いつものコトです、そんなに驚かないでください」

 転がる眼球を、足で踏み押さえて拾って。

 軽く服で拭いて汚れを落としたヤミーは、慣れた手つきで眼球を、主人の眼窩(がんか)に戻して言った。

「いつもの、客人に語っている話しを新しい客人にもですか……わかりました」

 ヤミーが話しはじめる。

「少し長い話しになるだべぇ。わたしは元々、マッドな科学者に創造された男だべぇ」


 宮殿主人の話しだと、彼を創造した博士は、すでに亡くなっているらしい。

「わたしは創造主の博士から、科学知識を受け継いで。死んだ博士を甦らせて……今は宮殿の裏庭で雑用人として、こき使っているだべぇ」


 ヤミーの口を通した宮殿主人の話しは続く。

「宮殿の主人となった、わたしは町の娘と恋に落ちて、娘の薄雪姫が生まれたべぇ……母親の町娘は薄雪姫が生まれて、間もなく事故で亡くなったべぇ」


 臨終の間際に町娘の母親は『お願いだから、甦らせないで! 絶対にイヤだからね! あんな裏庭の博士みたいなツギハギの姿になって生きるのはイヤだからね……大事なコトなので二度言いました……ガクッ』と遺言を残して亡くなった。


「遺言に従って、町娘の母親は人造人間で復活はさせなかったべぇ……ゾンビ液を振りかけて、ゾンビにして毎晩墓場を仲間のゾンビ娘たちと楽しく徘徊しているべぇ」


 そして、成長した娘の薄雪姫は。思春期の反抗心で父親と口論した際に発作的に、宮殿の窓を突き破って転落して亡くなり。

 娘を愛する父親は、死んだ薄雪姫を人造人間として甦らせた。

「甦った薄雪姫は、表情も暗く、口もきいてくれなくなったべぇ……思春期の娘は何を考えているのか、さっぱりわからないべぇ」

 腕組みをして、話しを聞いていたウェルが言った。

「そうでしたか、それは父親としては複雑な心境で……けっけっけっ」

 ウェルウィッチアの首がストンッと床に落ちて、虫の足が生えた逆さ首が室内を走り回る。

 シュールな光景だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ