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二十七・赤の森から脱出

 赤いガイコツ娘は、服の中から朱色のヒョウタンを一個取り出すと。

 半人半山羊の悪魔、アザゼルのような名匠の前にそっと差し出した。

 ヒョウタンを磨いていた、山羊頭の名匠は手を休めると、赤いガイコツが差し出したヒョウタンを吟味する。

「違うぅぅぅぅ! 形が歪んでおるうぅぅ! 儂が求めておるのは、こんなヒョウタンではない!」

 そう叫んで、燃え盛る炎の中へ放り投げた。

 炎の中で弾けるヒョウタン。


 悪魔の職人たちに緊張が走る、一人の悪魔職人が磨き終わった朱ヒョウタンを名匠に差し出す。

「先生、ご評価を」

「うむっ」

 光沢がある見事な朱ヒョウタンを、角度を変えて眺め回している山羊頭の名匠が言った。

「光沢は申し分ない……お主、どのくらいの期間、このヒョウタンを磨いた」

「半年ほど」

「そうか……魂がこもっておらん! 雑念が入り込んでおる、未熟者!」

 無造作に炎の中に放り込まれる、ヒョウタンに悪魔職人の目に涙が浮かぶ。


 山羊頭の名匠が、唖然としているゾアを睨んで言った。

「酷いと思うか、少し待っておれ」

 名匠は水瓶に入っていた湧き水を、素焼きの容器に注いでゾアたちの前に差し出して言った。

「飲んでみろ」

 言われた通りに水を飲む。

「どうじゃ?」

「普通に冷たくて美味しい水です」

 次に名匠は、朱ヒョウタンに注ぎ入れた同じ湧き水を、容器に注いで飲んでみろと言った。


 一口水を口にしたオプト・ドラコニスの口から、冷凍光線が天井に向かって放射される。

「なんじゃこりゃあぁ? 別モンじゃねぇかぁ、うまいぞぅ!」

 月華の顔が美味に、にやける。

「なにこの水……水でありながら鼻腔に抜ける芳醇で、さわやかな香り……これはもう、極上の飲み物……この水だけでご飯なん杯もいけちゃう」

 ゾアも、この水は美味しいと思った。 


 山羊頭悪魔の、朱ヒョウタン作りの名匠『デビ・ルマン』が、鼻高らかに言った。

「この工房で作られる、酒ヒョウタンは最高品の極上品じゃ……儂の顔写真がプリントされたシールを貼るコトで、価値はさらに跳ね上がるのじゃどうじゃ、スゴいじゃろぅ!」


 なにかを思い出した、月華が言った。

「そう言えば、仁が言っていた。朱ヒョウタンを手に入れた時に、薄気味が悪い悪趣味なシールが貼ってあったから、すぐに剥がして捨てた……と」

 月華の言葉を聞いた名匠が……落ち込む。

「剥がしただと……儂のブランドシールが、薄気味が悪い悪趣味なシールだと」

 弟子の仕事には酷評するが、自分の評価が低いと落ち込む名匠だった。


  ◇◇◇◇◇◇


 その時──頬をパンパンに腫らした穂奈子が工房に飛び込んできて言った。

「やっと、追いつきました。しつこい精霊を何度も追い払ってててて……へへへっ、こんな居心地がいい体を手放すかよぅ……この森にいる限り、楽しんでやる。さあ、続きをやろうぜ……ひゃはぁぁ」


 怒鳴る山羊頭の名匠。

「仕事の邪魔だ! ふん縛って転がしておけ! 客人には一泊のもてなしをな……儂はふて寝する!」

 悪魔職人たちは、憑依された穂奈子を縄で縛って、口に木の横棒をくわえさせると床に転がした。

 それを見た、オプト・ドラコニスが激怒する。

「てめぇら! 穂奈子に、なにしやがる!」

 冷気が工房を凍らせる、縛られた穂奈子を肩に担いだオプト・ドラコニスが言った。

「穂奈子に、こんな酷い扱いをする所に一分もいられねぇ。おい、赤いガイコツ道案内をしろ……森を出るぞ」

 座り込んだ赤いガイコツ娘は、怯えながらうなずいた。


 ◆◆◆◆◆◆


 一行は、夜の赤の森を進み、明け方に森の出口に到達した。

 オプト・ドラコニスの肩に担がれ、口にくわえさせられた木の横棒が外れた穂奈子が、わめき散らす。

「てめぇ、降ろしやがれ! 森から出たら、憑依できねぇじゃねぇか! まだ辱しめが足らねぇ……あ、朝日がやめろぅぅ……あっ、おはようございます」

 森を抜けて憑依から解放された、穂奈子が降ろされて縛っていた縄が解かれる。

 オプト・ドラコニスが赤いガイコツに言った。

「すまねぇな……迷惑かけちまって」

 首をプルプルと横に振る、赤いガイコツ娘。

 オプト・ドラコニスが月華に頭を下げる。

「休憩時間を潰しちまってすまねぇ、穂奈子が手荒く扱われたのを見たら、頭に血が昇っちまって」

「別にいいよ、このエリアの夜設定は五時間で、日中設定は七時間だから……次の階層エリアに向かうよ」

 月華たちは、壁に投影される朝日に向かって歩き出し。

 後ろからついていくゾアは(やっぱり、世界は広い)と、思った。

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