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二十六・【赤の森】危険な憑依

 衛星国家サンドリヨン──ゾア村表下の第二層にある『赤の森』に、ゾアたちは降りてきた。

 全体的に赤い木々の赤の森で、月華が言った。

「この森には、どんな生物が生息しているのか、まだ未調査だから……注意して」

 亜・穂奈子クローネ三号が、少し不安そうな口調で言った。

「不気味な森で、少し怖いいぃぃぃ……がはあはははぁぁ、ひゃはあぁぁ」

 いきなり、首をのけ反らせて笑う穂奈子。

 オプト・ドラコニスが口から冷気を吐く。

「穂奈子の肉体に、なんか憑依した!?」


  ◇◇◇◇◇◇


 ガクンッと反り返っていた首が元にもどり、跳び離れた穂奈子の表情は別人だった。

「ひゃはあぁぁ! やっと、憑依できる肉体の持ち主が赤の森にやって来たぜぇ……この肉体を使って繁殖を……あ、あれ?」

 穂奈子の顔で、股間をポンポン叩く憑依者。

「無いじゃねぇか! 男のアレが! これじゃあ、そこのウサギ耳ねーちゃんの体を使って……繁殖ができねぇ」

 穂奈子の触腕が勝手に動いて、自分の顔を平手打ちする。

「べちっ」

 憑依していたモノが抜けて、穂奈子は元の状態にもどる。

「ご心配お掛けしました……邪悪な霊は抜けましたから、もう大丈夫ぶぶぶぶぶ……ひゃはあぁぁ、こんな相性がいい体を簡単に手放すかよぅ! 森の奥で秘密のお楽しみだぁ! あひゃひゃひゃ」 


 憑依された穂奈子は、グルグル目で赤い森の奥へ走り去ってしまった。

 唖然と見ていた月華が我に返って叫ぶ。

「大変! 穂奈子ぅぅ」

 一行は憑依された穂奈子を追って、赤い森の奥へと走って行った。


  ◇◇◇◇◇◇


 穂奈子を追って、森の奥へと入り込んだ一行は、日が暮れて次第に暗くなってきた赤の森で……遭難した。

 月華がオプト・ドラコニスに言った。

「ちょっとだけ悪い報告と、少し悪い報告と、大変悪い報告があるけれど……どれから聞きたい?」


「じゃあ、大変悪い報告から」

「この、赤の森は自分の位置や居場所を他に知らせる方法がない『迷いの森』と、呼ばれていたのを思い出した」

「少し悪い報告は?」

「その難所の森で、うちらは遭難した」


「ちょっとだけ悪い報告は?」

「前方から、青白い炎を揺らすカンテラを持った、フード付きの黒い服を着た赤いガイコツが、こちらに向かって歩いてくる幻覚が見えはじめた……あの赤いガイコツ、死神かも知れない」

「それは、幻覚じゃねぇよ……オレの目にも見えている」

 カンテラを提げて、頭の両側にコウモリの翼を生やした、赤いガイコツが月華たちの近くまで歩いてくると、女性の声で言った。

「あれぇ? 迷子さんですか?」


  ◇◇◇◇◇◇


 赤いガイコツ娘の後方に続いて歩く一行、月華がガイコツに訊ねる。

「死神じゃなかった……この森に住んでいるんですか?」

「ええっ、工房の仲間と一緒に──この赤の森は、地形を熟知した者の案内がないと似たような風景だから遭難しますよ、あたしが通りかかって良かった……下手したら森で行き倒れになって、誰にも発見されずに白骨化しています」


 赤いガイコツの話しは続く。

「その、霊媒体質の女の子に憑依したのは、この森に巣くう邪悪な精霊ですね──憑依できる体質の者が森に来ると、肉体に入り込んで悪さをします──悪さと言っても性的羞恥な、イタズラをするだけですけれど」

 今まで一度もゾア村の外に出たことがない、ゾアが顔を赤らめながら呟いた。

「性的……羞恥なイタズラ」


 月華がさらに質問を続ける。

「工房って?」

「森の中で育っているあるモノを、加工する工房です……あたしは、その工房の先生の弟子なんです……ほら、工房に到着しましたよ」

 そこは、森の中で湧き水が流れる小川がある拓かれた場所に、作業場の工房と数棟の集落があった。

 赤いガイコツ娘は、薪が横に積まれた工房に月華たちを案内した。

「先生、今もどりました……収穫するには、まだ少し早かったようです」


 作業をしていた先生と呼ばれた、名匠が顔を上げる。山羊の頭をした悪魔的種族だった。

 工房の中で作業をしている他の者たちも、悪魔的種族だった。

 ソロモン七十二柱に登場するような悪魔たちが、作っているモノを見てオプト・ドラコニスが呟く。

「朱色のヒョウタン? 仁・ラムウオッカ・テキーララオチュウ・ギンジョウワインの旦那が腰に提げている酒ヒョウタンと同じモノじゃねぇか?」

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