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二十五・ゾアの旅立ち

 立ち上がった穂奈子は、足が痺れてよろめく。

 その時──穂奈子の中に強い思念が流れ込んできた。

《ゾア……ゾア……ゾア……どこ?》

 頭を押さえて不快な表情をする穂奈子。

 ヌイグルミ師匠が言った。

「穂奈子にも聞こえたか……この外部からの精神干渉を遮断した部屋に、入り込んできた強い思念を……行くのだ穂奈子! サンドリヨンはおまえの力を必要としている……さあ、巫女風の衣装を脱いでこの甲殻類ビキニに着替えて……ぐふふふッ」

 師匠が見せたのは、カニやエビの甲羅で作られた、意味不明のビキニアーマーだった。

 勝手に動いた穂奈子の触腕が師匠を、再度壁に叩きつける。

「どべっっ」


 ◆◆◆◆◆◆


 翌日、ゾア村の広場──極楽号内部から発生した菌糸が、太い樹の根のように森林の風景を投影している側壁を、破って生えてきた。

 菌糸の根は、反対側の側壁に向かって達する勢いで伸びていく……ゾア村の隣区域には海水に満たされた海があった。

 浸水防止の隔つ幾層もの壁空間があるので、そう簡単に壁が破られて海が村に流れ込むコトは無いが。

 ゾア村の住人は不安の表情で、横に伸び続ける菌糸の根を眺めていた。

「どうする? 根を叩き切るか?」

「オレたちと同じ菌子類だぞ、そんな酷いコトができるわけがない」

 村人が困っていると、何かに導かれているような足取りで、ゾアがフラフラと歩いてきた。

 菌糸の根に向かって歩いていくゾアに、村人が忠告する。

「危ないぞ! 近づくなゾア!」

 ゾアは、村人の声が聞こえていないように、菌糸の根を触れて言った。

「大丈夫……オレはここにいるよ」

 次の瞬間──菌糸の根は、ゾアが触れた箇所が半円形の塵になって消滅して、成長が止まった。

 驚く村人。

「今のどうやったんだ? ゾア」

 ゾアは、その場で意識を失い倒れた。


 ◆◆◆◆◆◆


 翌日──ゾア村に、月華、穂奈子、オプト・ドラコニスの三人がやって来た。

 ゾアの家にやって来て食卓に通された、鉄ウサギの月華がゾアに言った。

「菌糸の根を、消滅させたのは君ね」

 ゾアの母親は、三人の前にカップに入った飲み物を置く。

 うなづくゾア。

「どうやったのか覚えてないんです……なんか声が聞こえたような気がしたら、意識が薄れて……気がついたら家のベットに寝かされていました」

 月華が傍らで痛む頭を押さえている、穂奈子に訊ねる。

「何か精神的な声が聞こえているの?」

「さっきからずっと、この村に来てから《ゾア……ゾア……ゾア……どこ?》って呼ぶ声が」

 穂奈子の言葉を聞いて驚くゾア。

「それ、オレが聞いた声と同じだ! その声を聞いてから頭がボーッとして……村の広間に」

 月華が極薄の三次元投射板を出して、根が生えた現状の極楽号を線画で出現させて言った。


「どうやら、君が極楽号の中心部に行くことでしか、この緊急事態を解決できそうにないね……お願い、あたしたちと一緒に極楽号の深部に降りて」

 穂奈子もゾアに頭を下げる。

「お願いします」

 オプト・ドラコニスが口から冷気の息を吐きながら言った。

「穂奈子が行くなら、オレも行くぜ」

 急なお願いに慌てるゾア。

「ち、ちょっと待ってください! いきなり、そんなコトを言われてもオレ、母さんを一人置いて行くなんて」

 静かに話しを聞いていた、ゾアの母親が言った。

「一緒に行ってあげなさい、母さんは一人でも大丈夫だから」

 母親の姿が菌糸人間に変わる。母親は月華に耳打ちして、月華はうなづく。

 深々と頭を下げる母親。

「息子をよろしく、お願いします」

「わかりました、極楽号クルーが息子さんを守ります」

 小一時間後──旅の支度を整えたゾアは、月華たちと一緒に極楽号の中心部に向けてゾア村から旅立った。

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