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銀牙無法旋律ブルーローズ act2~絶望を希望に変える銀牙の『性悪女』~  作者: 楠本恵士
OMEGA・惑星【ユーフォリア】無法の旋律よ永遠に……
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十八・織羅・レオノーラ

 美鬼がボルトーが持っているピースサインとパンチが両側にそれぞれ付いた、打撃系武具を指差して訊ねる。

「前々から不思議でしたけれど、次元流の使い手がナゼ、打撃系武器ですの?」

「あぁ、これね」

 ボルトーが、腰にぶら下げた各種ハンマーを擦る。

 ボルトーは、幼い頃から剣術の『次元流』道場に通って、免許皆伝級の腕前を持っている。


【次元流】とは、時空を越えて、予想外の位置から相手を攻撃できる剣技だ。


「だって、剣でいきなり背後から、プスッって刺されるのって相手も嫌じゃない……それよりか後頭部をボコッと鈍器で殴られた方が、相手も納得するんじゃない、刺されるよりは安全だし」

 今一つ、攻撃の安全と危険の基準がわからない、炎将ボルトーであった。


 ◆◆◆◆◆◆


 次の日、デビュー戦を控えたゴキブリ仮面少女と、炎将ボルトーの二人は行方不明となった。


 ◆◆◆◆◆◆


 極楽号内にある喫茶店──遠隔操作のリモート接客ロボットが動き回っている店内。

 さまざまな事情があって、店舗で直接接待業務が行えない就労希望者のために開発されたリモート労働ロボット喫茶店。


 球体タイヤで移動をして、腕が四本あり、前方は料理を乗せて運べるワゴンのような構造になっている。

 円形の複眼が付いたロボットの胸部にはモニター画面があり、遠隔操作でロボットを操作して、勤務している者の顔が映し出されていた。


 遠隔操作ロボットには、仕事を教えたり指導をするヒューマンタイプ異星人の主任先輩が一人ついている。

 当初はロボットにプログラミングされた接客パターンで、経験が皆無の就労希望者でもリモート接客ができると想定されていたが。

 いざ、稼働させてみて。 不測の事態(イレギュラー)の発生時に、就労者がパニックになるコトが判明してミスが多発したので。

 極楽号では、人との接するコトを大切にして、生身で仕事を教える者も店舗には配置している。


 ◆◆◆◆◆◆


 本日の勤務時間が終了して、新人のリモートロボット従業員に、後の指示を済ませた先輩従業員が言った。

「それじゃあ、後はお願い……あたし、これで上がるから」

 ロボットの胸部モニターに映し出される、ウサギ耳種族の女の子が画面越しに言った。

 彼女は、画面の向こう側の家では横になって授乳をしている。


「はい、先輩お疲れさまでした」

 ヒューマンタイプの『セルキー星人』の従業員女性は、ロッカールームで脱いであったアザラシに似た生物の皮を着込むと、アザラシのように腹這いで「オゥオゥ」鳴きながら家に帰って行くのを眺めながら。

 椅子に座ってホットミルクを飲んでいたレオノーラが、向かいの席に座っている 三次元立体映像(3D)の美鬼アリアンロードに話しかける。


「惑星【ユーフォリア】の悪い噂は、ボクも聞いているよ……で、極楽号の目安箱に、美鬼が実名で依頼してきた真意は?」


【目安箱】とは、衛星級宇宙船の『極楽号』と『ナラカ号』に搭載されている、情報収集システムのコトだ。銀牙系中の助けや救いを求める声が集まってくる。


 実際はナラカ号にいて、立体映像だけを送ってきた美鬼が笑いながら言った。

《きょほほほ……今回は、わたくしが直接、動くわけにはいきませんわ──万が一、わたくしの身になにかがあったら、誰もアリアンロード十五将を抑えられませんわ……きょほほほっ》

 そう言って立体映像の美鬼アリアンロードは、コップの中にギョロ目のハ虫類が浮かぶ飲み物を飲んだ。

《それでは、惑星ユーフォリアの件お願いしますわ……極楽号風に、ご安全にですわ……きょほほほほほほっ》

 高笑いを残して美鬼アリアンロードは、一方的に通信を切って三次元立体映像も消えた。


 呟くレオノーラ。

「相変わらず、一方的で自由奔放な人だなぁ」

 レオノーラの近くに立つ執事で、遮光土偶型異星人の、アラバキ夜左衛門が言った。

「レオノーラさまの、お節介も今回ばかりは控えた方が……嫌な予感がします、ヒューマンタイプ女性の失踪が相次いでいますから……噂では、惑星ユーフォリアの者が関係しているとか」


「夜左衛門さんが、ボクの身を案じてくれるのは嬉しいけれど……ボクは惑星ユーフォリアに行くよ」

 椅子から立ち上がったレオノーラは、片腕の肩から指まで装着されている。各種機能が内蔵されたガンアーマーの通信器を通して船橋にいる、極楽号の航行総責任者に伝えた。

「カプト・ドラコニスさん、極楽号の進路を惑星【ユーフォリア】へ……跳躍」

 極楽号は、惑星ユーフォリアの座標に向かって跳躍航行した。

 

【跳躍航行】

 アルファ座標の空間から、ガンマ座標の長距離空間を銀牙系内で移動する場合、特に衛星級宇宙船やド級の大型宇宙船が、宇宙船がある周囲の空間を亜空間ラッピングをして使用する。

 デミウルゴスの古代文明が残した航行技術。

 先端がガンマ空間に突入していても末端は、まだアルファ空間に残っている。


   ◆◇◆◇◆◇


 時間軸は惑星ユーフォリア時間で、ゴキブリ仮面少女と炎将ボルトーが行方不明になった直前時間にもどる。

 三日後にデビュー戦を控えたゴキブリ仮面少女は、自分が試合をするリングを撫でながら悩んでいた──少女には、まだ自信が無かった。

(負けるかも知れない……三日後のデビュー戦で)

 悩んでいる少女に、声をかけてきた人物がいた。

「強くなりたいか、負けたくないだろう、その願い叶えてやろう」

 ゴキブリ少女が振り返ると、そこに狡猾(こうかつ)そうな目をして、オールバックの髪型をした血球人『ド・アッホー』が立っていた。

 無言の少女に、アッホーはさらに問いかける。

「知っているぞ、デビュー戦で負けたら、レスラーをやめる約束を両親としているんだってな……オレだったら、おまえをすぐに強くできる」

 薄笑いを浮かべながら、片手を覆面少女に向かって差し出すアッホー。 

「さあ、オレと一緒に来い。本来の力を引き出して最強のレスラーにしてやる」

 震える指先をアッホーに向かって近づける、その時──少女の背後から炎将ボルトーの声が聞こえてきた。


「嫌な予感的中、やっぱりド・アッホーが関係していたね」

 声が聞こえてきた方向に少女が目を向けると、そこに炎将ボルトーが立っていた。

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