9.邂逅
数ある作品の中から、私の作品を見つけてくださり、ありがとうございます。
稚拙な文章ではありますが、読んでいただける方に楽しんでもらえるよう頑張りますので、今後ともよろしくお願いします。
翌朝、皆で朝食を済ませた後、皇都に向かうための身支度をしていると、メイベルが部屋に来たので、何の用か尋ねると、皇都への身支度のお手伝いをしてくれるとのことだったので、お言葉に甘えて荷造りをお願いした。
荷造りを終え、ケイラやベルカー達に留守をお願いしていると、玄関のノッカーがなったので、ベルカーが応対のために「失礼します。」と言って席を外す。数分後、戻ったベルカーから「ハイゼンスリーブ卿の馬車が到着いたしました。」と報告を受けたので、私はハイゼンスリーブ卿に挨拶を済ませて、そのまま馬車に乗り込みハーコッテの街から皇都へ向けて出立した。
道中、昨日話した皇王への報告の内容を確認したが、概ね昨日話した通りの内容だったので、私もその内容で辻褄の合うように話すと伝えると、ハイゼンスリーブ卿がそういえばと、懐から美しいネックレスのようなものを取り出して、私に受け取るよう促すので、そのネックレスのような物を受け取ってよく見てみると、黒くて自然な艶感の鱗状のベースに赤い宝石のような装飾が施され、中央にドラゴンキラーという文字と、私の名前が彫り込まれていた。
私はこれが何かを尋ねると、ハイゼンスリーブ卿は「それは特別な冒険者証で、素材は黒龍の鱗と魔石からなり、キラ殿の冒険者としての足跡が記録されています。通常はDからBランクが銅板で、Aランクが銀板、Sランクになると金板となるのですが、貴女に渡したそちらの冒険者証はそのどれにも属さない特別な冒険者証となります。通常とは異なる冒険者証は誰でも発行できるものではなく、各国の将官以上の階級の者が承認した場合にのみ発行することが許され、その意匠についても、その冒険者の功績にちなんだものにすることが出来るのです。私も一応ヤーパニ皇国軍に籍があり、大将の階級を持っているので、キラ殿に交付する冒険者証であれば、通常の物というわけにもいかないと思い、訓練場に落ちていた鱗を使って作らせました。おそらくこの世界で最も価値が高く、また、今後誰一人として手にすることの出来ない冒険者証であることは間違いないと思います。」と言ったのに対し、私は照れ笑いしながら「そうなんですか、ありがとうございます。」と答えた。
ハイゼンスリーブ卿はさらに「この冒険者証は、通常の物とは違い、Sランクと同様に国内のみならず、国外との往来についてもフリーパスとなるので、周辺国家への移動も。」と、ハイゼンスリーブ卿が話している途中で、馬車の前方に据え付けられた小窓が開き、護衛の兵が「魔物らしきものが飛来してきました。」と切迫した表情で告げた。
ハイゼンスリーブ卿は「こんな場所でか!?」とだけ言うと、厳しい表情に変わり、続けて「魔物の種類は?」と報告を求める。
それに対して衛兵は「現状では不明ですが、飛翔している姿から、もしかしたら竜種の可能性もあります。」と述べた。
ハイゼンスリーブ卿は、固い表情の眉間に、さらに深い皴を作り、馬車を止めるよう指示をだした。
私は馬車の窓から身を乗り出して魔物を確認した。ライブラのサーチ魔法では竜種が3匹。
私は「ハイゼンスリーブ卿、私の力を示すのに丁度良いので、私が仕留めてまいります。」と言って返事を待たずに馬車を降りた。
馬車を降りた私は「アームズ」と言って神装衣をまとい、超高速で飛来する3匹の竜に向かってゆっくりと歩き出す。
ライブラが言うにはまだ3~40歳程度の若い竜だそうで、見た目も黒竜に比べるとかなり小さく、戦闘能力も相当落ちるとのこと。
3匹の竜は横一列になってこちらに向かってきている、その距離はもう数キロ先にまで迫っていた。私は竜に向かってゆっくりと走り出し、やがてスピードが乗ったところで一気に跳躍、さらに横回転を加えて竜とのすれ違いざまに、そのまま剣を横薙ぎに一閃した。
私が着地すると、背後でそこそこの大きさの地響きと共に、3匹の竜が地面に落下した。3匹共に胴体からは首が切断されていて、それぞれ3つの頭と胴体が地面に転がっていた。
馬車から降りてきたハイゼンスリーブ卿は、竜の死体に近づくと「小型とはいえ、3匹の竜を一撃で!?このサイズの竜でさえ、我々は一軍をもって相対し、撤退させることが出来れば御の字だというのに、なんという力…。」
「今のはデモンストレーションのようなもので、本来であれば、この装備も必要ないのですが、雰囲気が出るかなと思って装着してみました。ちなみに、先程はこの剣を振りましたが、実際にはこの剣は竜には一切触れておりません。剣圧のみで首を落としました。なので、血液どころか皮脂すらついていないので、ピカピカのままです。」
私は場の空気を和らげようと、冗談っぽく言ったつもりであったが、ハイゼンスリーブ卿を含めた護衛の面々の顔は青ざめていた。
私は3匹の竜の死骸を全て次元収納に格納し、武装を解いて再び馬車に乗り込むと、先に馬車に乗っていたハイゼンスリーブ卿が、護衛の兵士達に「先程見たことの一切を他言無用とする。」と厳命しているところだった。
馬車の中の空気は、先程までとはうって変わって重苦しいものになっていたが、私は構わずにハイゼンスリーブ卿に尋ねた。
「皇都へはあとどのくらいで到着するのでしょうか。」
すると、ハイゼンスリーブ卿ではなく、秘書であろうお付きの人が「既に三分の二以上は進んでおりますので、夕方には到着できる見込みです。」
「そうですか、皇都は意外と近いのですね、窓から見える景色もとても美しいので、退屈いたしませんわ。」
「キラ殿はこの何もない風景がお気に召したのかな?」
「はい、何もないだなんてとんでもない、私にはどれも初めて見るものばかりで、楽しませていただいております。」
それから、時折私たちは当たり障りのない会話をしつつ、馬車に揺られること3時間程で、皇都に到着した。
皇都は、ハーコッテとは比べようもない程に堅牢そうな城壁に囲まれた巨大な城を中心に、放射状に広がる街は、城以外では高い建物など無いにもかかわらず、どこまでも続いているかと錯覚するほどの巨大な都市であった。
皇都に着いた私たちは、皇都の衛兵に先導され、そのまま城近くの迎賓館のような大きな建物に案内された。
私は、屋敷の使用人であろう人に案内されて、今晩宿泊する部屋に通されたが、私がかつてネット情報などで見たことのある、海外の高級ホテルのスイートルームの優に数倍はあろうかという巨大な部屋で、窓よりに置かれた天蓋付きのベッドは、4~5人は余裕で寝られるほどの大きさがあり、ダイニングセットのようなものや、キッチンなのかバーなのかわからない程のバーカウンターっぽいものや、その他調度品も含めて、扱いに困るレベルのものが、それでいてゆったりと優雅に配置されていて、延べ床面積的な話をするならば、軽い体育館くらいはあるんじゃないかという広さの、凄まじい部屋だった。
使用人と思われる人は、一時間後に夕食の準備があるので、お迎えに上がりますと言って部屋から出て行ったが、私はその一時間で何をどうするべきか、まったくもって判断が付かないので、一度自分の家に戻ってベルカーやメイベル達にアドバイスしてもらうことにした。
自宅に戻ると、ベルカーは不在だったが、メイベルがいたので「これから一時間後に夕食と言われたけど、その一時間で私は何をどうするべきなのか教えて!」と言うと、なんでキラ様がここにと、相当困惑していたが、私はベルカー同様超高速で移動する魔法を使ったからと説明しつつ、急いでいるから悩むのは後にしてと言うと「かしこまりました。」と言って、私の部屋からドレスなどの一切合切をもってきて、着付けと髪のセットを30分ほどで済ませてくれた。
メイベルにお礼を言って、それじゃあ急いでいるからと、転移魔法を使うと、転移の瞬間にメイベルが「その靴じゃ速くは…。」と言いかけていたが、言葉の途中で転移してしまった。
彼女はおそらく速く走れないと忠告してくれていたのだとは思うけど、実際問題本当に走っているわけでもないので、気にする必要はない。
巨大な部屋に戻った私は、椅子なりソファなりに腰を下ろしてしまうと、せっかくメイベルが着付けてくれたドレスが着崩れてしまいそうで怖かったので、外の景色でも眺めていようと、高さ2メートル以上はある立派なエングレービングが彫刻された窓を開けると、風も穏やかだったので、そのままテラスに出て、街並みを眺めていた。
街並みに見入っていると、部屋の外から扉をノックする音が聞こえたので「はい。」と扉をあけると、先程の使用人が「夕食の準備が整ったのでご案内します。」と、食堂へと案内してくれた。
食堂に入ると、そこには既にハイゼンスリーブ卿が座っており、その左隣には見たことのない初老の人物が座っていたので、一瞬足を止めると、ハイゼンスリーブ卿とその人物は即座に立ち上がり「キラ殿、ご紹介いたしましょう、こちらはこの皇都で財務を取り仕切っているデズモンド卿です。」
「これは、これは、お初にお目にかかります、私は皇国内務省統括財務執行官のデズモンドと申します、以後お見知りおきを。」
私はドレスの裾を軽く持ち上げてお辞儀をし「キラと申します、今はまだ肩書も持たぬただの小娘ですが、デズモンド様どうぞよろしくお願いいたします。」と軽い挨拶をした。
すると、横からハイゼンスリーブ卿が割って入り「肩書なら既にとんでもないものをお持ちではないですか、デズモンド、彼女は特級冒険者だ、しかもドラゴンキラーの二つ名持ちのな。」と、まるで己の誉を誇示するかのように自慢げに話していた。
その様子を見た私は、自然な流れで、自分の娘を自慢する親バカパパを連想してしまったのだった。
3人での夕食では、主にカーミオ大森林の警戒が不要になったことで、今後西と北に割く人員の増員や、その際の予算の執行に関する話題であったが、ハイゼンスリーブ卿はデズモンド卿の関心が私に向くのをうまくかわしたりはぐらかしたりと、終始会話をコントロールしてくれた。
デズモンド卿はというと、専ら私への興味というよりは、噂に聞いたであろう黒竜の対価の支払いのようだったので、今すぐ払えなどと言うつもりはない旨話したところ、大分顔色が良くなったように見えた。
私は、あまり居心地の良い食事の席というわけでもなかったので、翌日の謁見をダシに早々に食事を切り上げて自室へと戻ると、一人でどうしていいかもわからないので、イアロを呼び出すことにした。
「イアロいる?」
「はい、何でしょう?」
「いや、特に用事があってというわけじゃないんだけど、とりあえずこれまでの状況を整理しておきたいと思って。」
「なるほど、確かになれない世界に転生して、勢いで突っ走ってきちゃいましたからね。」
「とりあえずさ、私が今まで使ったファクトチェンジでアウトなものはなかったでしょ?」
「そうですね、確かにファクトチェンジではありませんでしたが、あの魔導バイクですか、あれはマズイですね、極めてアウトよりのグレーです。技術的にも素材的にもそちらの世界に有る物で構成されているようですが、あの構造を発案することは、そちらの世界の人間ではおそらく未来永劫ないと思います。」
「そこなんだけどさ、この世界の人って無欲というか、状況に流されるがままに生きているというか、自分が望まない状況に対して抵抗しようとは思わないのかな。たとえば、戦闘行為にしてみても、せいぜい弓とか槍とか剣なんかが主体で、あとは魔法とか。そんな感じなんでしょ?剣だろうが弓だろうが、魔法なんかもそうだと思うけど、永久に使えるわけでもないだろうに、その先にある可能性に目がいかないというか、例えば銃のような物を思いつかないのかなと。あと、移動手段だって馬車だよ。別に金属がないわけでもないし、魔法っていう素晴らしい力があるんだから、なんとか快適にとか思わないのかな。今日も長時間馬車に揺られて皇都まで来たけど、お尻は痛いわ、遅いわ、久しぶりに乗り物酔いしたわ。地面との接地面を柔らかくて耐久性のある素材にするとか、その回転する車輪の軸をサスペンション程高度なものでなくても、板バネ使ってみるだとか、それだけでもだいぶ違うと思うんだけど、そういう探求心的なものを持った人ってこの世界にはいないのかな。」
「確かに、貴女の元居た世界は、技術や科学の発展速度は目を見張るものがありますが、それは魔法という概念がないことが大きく関係しています。しかし、そちらの世界も捨てたものでもないのですよ、そちらの世界には貴女という存在と、魔法という概念があるので、これから加速度的に発展していくと思います。そちらは人類が誕生してまだ3000年程なので、まだまだ若い世界ですから、これからに期待しましょう。」
「そうだったんだ、それじゃあ仕方がない部分もあるか、むしろ3000年でこれは上々と考えるべきか。それじゃあさ、私がこっちの世界をもっと快適にしても文句は言わない?」
「もちろん、人の技術革新は人が起こすものですから、その役割をキラさんが担うことには異論はありません。ですが、程々にお願いします。」
「あ、あとね、明日ここの皇王に謁見するんだけど、おそらく魔王を討伐してきてって話になると思うのよ。で、回りくどいことは面倒だし、承諾しようと思っていて、どうやら魔王を含む魔族全体を一人でヤレるっぽいんだけど、魔族の殲滅ってしちゃっても大丈夫なものなの?」
「キラさんが気になさっているのは、恐らく人間側の都合でという意味合いでのことと察しますが、そもそも魔物は魔素の集合体であって、個体ごとに意思を持つということが原則ありません。ですので、生態系や環境に影響を与えるとしても、悪影響しかありませんので、特段キラさんが気にする必要はないと思います。ただし、魔族を完全に根絶してしまった場合、その世界から魔素が消滅してしまい、魔素がある前提で行使する魔法という概念自体がその世界から淘汰されて行く運命にありますが、カーミオ大森林のようにダンジョン化を予定しているのですよね。それであれば問題はないと思います。むしろ、正しい方向への発展が見込めると思います。」
「わかった、じゃあ遠慮なくやらせてもらうよ。」
私は、イアロの言うこの世の理的な部分に関しては、何となく把握することが出来たので、明日の謁見に備えて眠りにつくことにした。
翌朝目が覚めると、辺りはまだ暗く、外も静寂に包まれていた。
昨夜は少々早く寝すぎたのかもしれないと思い、二度寝をしようとも思ったが、まったくうとうとする気配もないので、窓を開けてテラスに出ることにした。
外の穏やかな風が心地よく、寝静まっている街並みを眺めていると、不穏な気配を感じたので、ライブラに聞いてみることにした。
「ライブラ、何か嫌な気配がする気がするけど、これが何かわかる?」
[回:殺気です。現在地から西北西に400mの地点で、人族の個体が魔族の個体に殺害されようとしています。]
「マジかっ!?ってその辺りってお城じゃん!!!」
私はとっさにテレポートで魔族がいる場所まで移動すると、そこではまさに私よりも少し幼いくらいの少年がマンガやアニメでよく見るような、頭には短い角があって、背中には蝙蝠っぽい羽が生え、いかにも悪魔ですと言わんばかりの姿をした魔族に襲われていた。
私はとっさに背後の窓ガラス1枚をストーンバレットで割り、あたかもそこから飛び込んできたかのように装って、魔族に「そこで何をしている!」と一喝する。
すると魔族は片言の言葉で「コノクニノオウ、コロス!」と言った。
直後、扉から二人の鎧を着た兵士が入ってきて、口々に「何事ですか。」「いかがなさいましたか。」と言いながら入ってきた。
それとほぼ同時に自らの長く鋭利な右手の爪を少年目掛けて突き立てようとする魔族。
その予備動作として魔族が腕を振りかぶる一瞬で、間合いを詰めて魔族の右手をからめとり、床に組み伏せる私。
私は入ってきた兵士の方を向いて「このままとどめを刺した方が良いですか?それとも生け捕りの状態で引き渡しましょうか?」と尋ねた。
すると、兵士の一人が「我々で連行します、引渡して下さい。」と申し出たので、私はその兵士の言葉に従って魔族を引渡そうとしていると、さらに4名の兵士が部屋の中に入ってきて、6人がかりで魔族を拘束しようとしたが、あっさり振りほどかれてしまい、兵士の一人に対して再度右手の爪を突き刺そうとしたので、私は再び魔族の右手を取り、今度は関節を逆にとって腕を折った。
魔族は腕を折られて「グギャっ!」と声を漏らしたが、それほど痛がる様子もないので、兵士に拘束用の手錠が縫い付けられたようなベストのようなものを受け取り、魔族に装着してから兵士に引き渡した。
すると、あとから更に追加で応援に来た兵士が両足を連結する為のベルトを装着し、更に顔というか、口を固定するようなマスクのような猿轡のような物を装着し、腰は縄でグルグル巻きにして、その縄を引いて、魔族を引きずって連行していった。
残った兵士の一人から、事情を説明するように言われたので、私は自分の身分から、現在この街にいる理由に至るまでを説明するため、冒険者証を提示しようと自分の胸のあたりに視線を落としたところで、初めて自分の恰好が寝起きのままの状態で、透けている寝巻に下着もつけていないという、とてもではないが、人前で話しをする格好ではないことに気が付いた。
おそらく私の顔は薄暗い部屋の中でもわかるくらいに真っ赤になっていただろうことは想像に難くない、右手と左手で隠せるだけ隠そうと試みてはいるものの、やはり丸見えだろう。
私は柄にもなくモジモジとしながら「あの、その前に何か着る物を貸してもらうことは可能でしょうか。」と言うと、兵士は「いや、しかし…。」と困った顔をしていたが、背後から先程の少年が「よい、着る物を持ってまいれ、その者はそこの窓から飛び込んできて、朕の命を救ったのであるぞ。」と言った。
そこで私は気が付いてしまった。
「今、朕とおっしゃいました?もしかして、皇王陛下だったりなさりましか?」
私はあまりのことに動揺して、言葉があやふやになってしまっていた。
すると、自分を朕と呼称する少年が「いかにも、朕はヤーパニ皇国第67代皇王ブロニー・フォンドゥカリー・ヤーパニである。」と言った。
私は即座にその場で跪き「知らぬこととはいえ、このようなはしたない姿で大変ご無礼いたしました。」と言って頭を垂れる。
しかし、皇王陛下は「よい、其方は命の恩人である、面を上げよ、おぉ、丁度来たぞ、早くその女子に渡してやれ。」と言って、小走りで入室してきた兵士に命じる。
私はローブを受け取って羽織ると、兵士に続いて退室しようとしたところ、皇王陛下は「朕も話を聞いておきたいゆえ、ここで聴取をせよ、それとそこの衛兵、ディロンを呼んでまいれ、ヤツにも同席させる。」と言った。
その後、宮仕えの数名が、こんな早朝から割れたガラスの処理や、テーブルのセット、皇王陛下のお召替え等々それぞれに忙しそうに働いているのを眺めていると、案内されたテーブルにお茶が運び込まれたあたりで、一人の男が部屋に入ってくるなり「陛下、ご無事で?」と息も絶え絶えに言うと、皇王陛下は「ディロン来たか、朕は無事である。この者に命を救われた。」と言った。
このディロンという男は、現在部屋の周囲は厳戒態勢と言っても過言ではないくらいの兵士で固められている中、誰に見咎められることもなく入ってこられたことや、皇王陛下に直接名前で呼称されていることからも、かなり高位の者であることは容易に推察できるが、信頼関係を築けそうな人物であるか否かでいうなら否の方、速い話が生理的に無理という印象の人物で、見た目が醜悪だったり、言葉が乱暴だったり横柄だったり、人を侮蔑するような眼差しを向けるようなそぶりを見せるわけでもなく、むしろお茶を運ぶ給仕には笑顔で「ありがとう。」を言うなど、パっと見良い人そうではあるが、どうも受け付けられない。私の感性が拒絶しているのだ。
そのディロンが、私に向き直って私をマジマジと見ながら「私はヤーパニ皇国内務大臣のディロンと申します。それで、今回の件、どういう経緯なのかお話いただけますか。」と言ったので、私は改めて先程提示しようとしていた冒険者証を首から外してテーブルの上に置き、事の顛末を語った。
「私は東の方から流れてきた者で、カーミオ大森林の黒龍を討伐し、森の魔物も一掃したことで、この冒険者証をハーコッテ領主のハイゼンスリーブ辺境伯様から賜ったキラという者です。本日皇王陛下に謁見の機会をいただき、後刻参上する予定で、昨夜から迎賓館に宿泊していたのですが、未明に目覚めてしまい、テラスで風に当たっていたところ、この城で不穏な気配を察知し、気配の元となる魔族を殲滅するため、無礼とは承知しつつもそちらの窓を割って参上した次第でございます。」
私が話し終えると、ディロン内務大臣が「貴女がハーコッテの、陛下、本日午後の予定を全て中止してルドルフの謁見を差し込みましたが、それがこの方との会談と報奨の授与の為でございます。今お聞きの通り、黒龍を討伐したようですので、カーミオを制圧することが可能となって、ん?今、カーミオの魔物を一掃したとおっしゃいましたかな?」
「はい、昨日ハーコッテを出発する予定と聞きましたので、一昨日の午前中に時間が出来たので、それならと、カーミオ大森林全域に生息する人族に危害を加える恐れのある魔物を全て討伐してまいりました。また、その際、魔物からドロップしたアイテムにダンジョンコアがあったので、倒した魔物の魔素を吸収させて、ダンジョンを作ってきたので、今後、カーミオ大森林に魔物は出現しなくなりました。ダンジョン自体も、出入口には結界が張られており、外に魔物が漏れ出すこともございませんので、今後はカーミオ大森林を有効に活用することが出来ると思います。」
「ダンジョンを作った?そのような荒唐無稽な話を信用するにはいささか…。」
ディロン内務大臣が私の話を信用できないようだったので、私は話をつづけた。
「現在、ハイゼンスリーブ卿のご指示により、カーミオ大森林に配置されていた各駐屯地の兵士が、森林内の調査に従事しております。近いうちにそのご報告が上がってくるのではと思います。」
「ほう、大森林を制圧したと、して、それはなんじゃ。」
皇王陛下が私がテーブルに置いた冒険者証を見ながら言った。
「これは黒龍の鱗で作られたもので、冒険者証としてハイゼンスリーブ卿から授与されたものでございます。」
「ということはSランクよりも上ということか。まぁ、本来であれば、Sランクの冒険者がパーティーなりレイドなりを組んだうえで挑むのがカーミオ大森林であると聞いておる。それでも黒龍には幾人もの冒険者が挑み命を落としている。朕の父である前皇王でさえ黒龍討伐に出陣した際に片腕を失っておるからの。その黒龍を討伐し、カーミオの魔物を殲滅したという其方の言うことが本当であれば、最早それはランクなどで分類できる力ではないというのもうなずける。ルドルフの判断は妥当ということになるの。」
「確かに、しかし、話を戻しますが、迎賓館にいた貴女が魔物の気配を察知して、衛兵よりも先にこの部屋に到着し、魔物を制圧したというのが、どうにも現実離れしている気がするのですが、例えば、貴女はかねてから皇王陛下の暗殺を企てており、事前にこの城に侵入して機会を伺い、何らかの方法で魔物を招き入れ、殺害しようとしたところを衛兵に発見されたといったストーリーの方がよっぽど納得できるのですが、いかがでしょう。」
「ディロン、それでは朕まで嘘をついていることにならぬか。朕が不穏な気配に気づいて目覚めた時には既に魔物は朕の目の前におったのだ。その後に窓が割れる音が聞こえたと思ったら、そこのキラが飛び込んできて魔物を一喝すると同時に一瞬で距離を詰めて魔物を制圧したのだ。衛兵が入ってきたのはその前後であったと記憶しておる。」
「陛下のおっしゃる通りにございます。しかしながら、ディロン内務大臣の疑問もごもっともであるとも思います。常人であればそのような所業は不可能に近い事とは私も承知しておりますが、こればかりは出来てしまうとしか弁明のしようが御座いませんし、もしお望みとあらば、この国で最も強い者から順に100人くらいで良いでしょうか、その100人と私で御前試合でも致しましょうか。その100人には完全武装していただいて、私を殺すつもりで向かって来ていただいてかまいません、私は非武装でお相手いたします。そのうえで1滴の血も流さずに無力化するとお約束いたします。陛下の御前ですので。」
「おぉ、それは楽しみじゃ、ディロン、直ちに支度せよ。キラは午後にまた城に来るのであろう、あとでまたその話をしようではないか。此度は大義であった。ディロン、キラを迎賓館まで送って差し上げる手配を整えよ、あと、そのままの姿では寒かろう、誰かキラに着る物を用意せよ。皆ももう下がってよいぞ、朕はどこで寝ようかの、この部屋では窓が割れておるからの。」
「陛下、窓は直ちにお直しいたします。リカバリー。」
私が魔法で修理するのを見て、その場にいた皆が驚いた顔をしていた。
私は別の部屋に通され、衣装を整えてもらった後、馬車で迎賓館まで送ってもらった。
私が迎賓館に到着したころには既に朝日が昇っていたので、私はそのまま食堂へ向かい一仕事終えた後でもあったので、おいしく朝食をいただくことが出来た。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
感謝の言葉しかありません。
よければ次のお話も読んでいただけるとありがたいです。
どうぞよろしくお願いいたします。