46.再会
数ある作品の中から、私の作品を見つけてくださり、ありがとうございます。
読んでいただける方に楽しんでもらえるよう頑張りますので、今後ともよろしくお願いします。
はずかしながら、このエピソードを書いている際、キラ(憲)が美咲に謝るシーンで、涙がとまらなくなってしまい、自分で書いた物語で自分の涙腺を決壊させるという体たらくを演じてしまいました…。
『見慣れた街並み。
馴染みの喫茶店に、居酒屋。
何時も会社への通勤に使っていた地下鉄の入り口。
次の信号を左に曲がると見えてくる。
歳をとったら除雪が大変だからと、戸建てではなくマンションがいいと言ったのは美咲だ。
彼女の希望を叶えつつ、念願のマイホームとして購入した7階建てのマンションの6階西側の角部屋。
あそこだ。
彼女は今、何をしているだろう。
モコちゃんは元気だろうか。
あれからどれくらいの月日が流れているのだろう。
会いたい。
一目見るだけでいい、家族に会いたい……。』
私はガエリアを倒してすぐに、札幌の自宅近くに転移してきた。
見た感じでは私の身体はキラのまま、ということは私の姿は見えてはいないのだろう。
と思っていたが、何かがおかしい、ここに来るまでに何人かの人とすれ違ったが、皆が驚いたような顔をして、私を見ていたような気がする。
っていうか、今の人はあからさまにスマホで私を撮影しているようにしか見えない。
『え?ちょっと待って、私のこと見えてる?』
[告:マスターの存在は、地球の人間に認識されています。
通常の異世界人ではなく、過去に地球で生活していたことが関係していると推察します。
なお、マスターの現在の着衣が鎧であることに注目が集まっているようです。]
『マジか!?でも、まぁいいか、どうせ映画か何かの撮影ぐらいにしか思ってないでしょ。いったんそこの路地に入って、服変えよう、まだ魔法いけるでしょ。』
[告:ガエリアの魔素が完全に消失するまで、残り1時間程度と推察します。]
「いける!」
私は路地に入ると同時に認識阻害の魔法をかけ、クリエイトで、ここに来る途中の看板で見かけた、某有名アパレルメーカーの服を作ると、すぐに着替えを終わらせて、路地から出ようとして、即座に引き返す。
私は今髪が金髪で、顔立ちも洋風なので、魔法で黒髪和風に変身する。
これならこの街でも溶け込める。
私は路地を出ると、マンション目掛けて駈け出そうとして、すぐにその足を止めた。
マンション近くの路上で、白髪の初老に見える女性が膝をついて蹲っているのが見えた。
私は初老の女性に駆け寄り、声をかけた。
「大丈夫ですか、どこか体の調子が悪いのですか?」
すると、女性は顔を上げ、今にも死にそうな程の、か細い声をだす。
「御親切にどうも、ありがとうございます。大丈夫ですので……。」
私はその顔を見て思考が停止した。
「美咲……。」
思わず声にだしてしまっていた。
すると、老婆にすら見えたその女性は。
「え?」
と漏らして、私の顔を凝視する。
私は、咄嗟に誤魔化そうと咳払いをした。
「とりあえず、家に戻りましょう、休まれた方が良いですよ。立てますか?」
私は、そのまま女性を抱き起して、身体を支え、マンションの自室へと連れ帰った。
女性から鍵を預かって、玄関のドアを開ける。
ここのドアは、入居した時から癖があって、開錠するのに半回転させたあと、ほんの数ミリ戻さないと、鍵が抜けない。
玄関を開けて、そのまま家の中まで入って、居間のソファに座らせると、キッチンで水を汲んで女性に手渡す。
「何か薬でも飲まれてすか?」
私が尋ねると、女性…美咲は、「そこのキッチンカートの上に頓服の薬が……。」と言った。
私が薬を取ろうと、立ち上がると、奥の部屋に隠れていたモコちゃんが、音もなく足元に近づいてきて、私の足に体を擦り付けて、「にゃっ。」と鳴いた。
私は涙が溢れそうになるのを必死にこらえて、モコちゃんに「お母さんに薬飲ませるからちょっと待っててね、モコちゃん。」と言ってしまった。
すると、美咲は再び「え?」と声を漏らした。
私はまたもやってしまったと思い、再び、誤魔化すように言う。
「可愛いネコちゃんですね、ネコちゃん、ちょっとごめんね。お薬取るからね。」
と言って、キッチンカートの奥の壁に貼ってあるカレンダーを見て、思考が停止した。
令和7年10月17日(金曜日)
私が死んだ日は令和7年の8月、まだ、2か月ほどしか経過していない。
そういえば、先程から、かすかな線香の匂いがしていた。
それにしては、美咲の老け込みようが常軌を逸している。
私は思わず振り返って、美咲の顔を凝視した。
すると、美咲も真直ぐこちらを見ていた。
美咲はいつものように柔らかく、優しい表情で私を見つめている。
「憲さん。」
私の瞳から、こらえきれずに零れ落ちる涙。
私は必死に涙を隠そうと背中を向けた。
「私の夫、憲さんていうの。今年の8月8日に、出張帰りのバスの中で、急に亡くなってしまってね。私もこんなじゃなかったんだけど、急に老け込んじゃって、身体の調子も悪くなっちゃって。ダメね、モコちゃんにも心配させちゃってるみたいで、そういえば、モコちゃん、憲さんがいなくなってからというもの、私の腋に入って寝るようになったのよ。」
私は何も答えずに、背中を向けたまま、肩を揺らしていた。
「そんなわけないってわかってるのよ。でもね、あなたは私の顔を見て“美咲”と漏らした。玄関の鍵の癖も知っているかのようだった。モコちゃんの事も知っているようだったし、モコちゃんも貴女に安心感を抱いてる。警戒心の強い子だったでしょ、モコちゃん。貴女が若い女性だということは見ればわかるけど、でも、私達にはそうは見えないの。」
「貴方、憲さんなの?」
私は我慢の限界を超えていた。
ソファに横たわる美咲に駆け寄り、思い切り抱きしめて、言うつもりではなかった事を、吐き出すように言った。
「ゴメン、突然死んじゃってゴメン。予約してたレストラン、連れて行けなくてゴメン。美咲がこんなになるまで、気苦労かけてゴメン。俺はこの世界では死んだけど、別の世界で生きているから。一緒に暮らすことは出来ないけど、でも俺は元気だから。だからもう心配しないでくれ。アルティメットヒール!」
私が出来る最高のヒール。
状態異常、毒を含む、全ての機能を回復する魔法。
美咲の髪の色が元の黒々とした美しい艶のある髪に戻り、顔も、肌の艶も良くなる。
先程までは呼吸をするのも苦しそうにしていた美咲だが、今は自分で自分の身体を支えているのか、先程までに感じていた重みも軽くなっている。
「自分で言っておいてなんだけど、世の中には、不思議な事もあるのね。でも、貴方が生きているのがわかって本当によかったわ。今はこんなに可愛い女の子になっちゃってるけど。」
「実は、これも仮の姿というか、俺魔法使えるんだよ、札幌の街中歩いても浮かないように、見た目を変える魔法を使ってるんだ。本当はこんな感じなんだよ。」
私は認識操作の魔法を解除し、普段のキラの姿に戻る。
「あらあら、私の若い頃より綺麗じゃないの。お人形さんみたい。ん?あれ?ちょっと待ってくれる。」
そう言うと、美咲は急にテレビの電源を入れた。
テレビでは、朝のニュースを放送していた。
《続きまして、今朝起きた超極地型地震の続報です。函館を襲った地震で、一時は函館の街が壊滅状態となっていたにもかかわらず、その後、何事もなかったかのように、街が復旧し、怪我人や死人すらも回復したという極めて異例な事態について、新たな映像が届きました。これは、函館市在住の方が、自身が所有するスマートフォンで撮影した映像です。壊滅した街を撮影している最中に、人のようなものが、宙に浮いた状態で発光し、その後、街が復旧し、死亡したと思われる方が立ち上がる様子の、一部始終が録画された動画です。画像解析をした結果、中空に浮かんでいるのは、中世ヨーロッパで見られた甲冑のようなデザインの物を着込んだ若い女性で、彼女が発光した後に、一瞬で消えるという映像からも、一部SNSなどでは、フェイク動画であるとか、神が降臨したと騒ぎ立てる内容で炎上している模様です。続きまして次のニュースです、先程お伝えした函館の超局地型地震を受けまして、政府が緊急声明を……。》
「これ、貴方じゃないの?」
「あぁ、俺だよ。実は、天界っていうのがあって、まぁ、多分天国みたいな感じだとおもうんだけど、そこにいた、神様が、あ、神様って本当にいるんだよ。で、あぁ、いや、説明しだしたら8年分の話をしなきゃいけないから、要約すると、色々と紆余曲折があって、今俺がいる世界は色々と問題があってだな、まぁその、それを解決するために奔走してきた結果、この地球にくることになって。あ、実は、あの函館の映像って、俺しか写ってないけど、本当は、もう一体大怪獣がいて、えぇと、白いゴ〇ラみたいなヤツ。それと戦ってたんだ。まぁ、寝言にしか聞こえないかもしれないけど、本当の話なんだよ。」
「貴方が生きてて、女の子になって、私に会いに帰ってきてくれて、私の身体を治してくれたくらいだから、大怪獣が出てきても、神様がいても信じるわ。聞かせて。」
「あぁ、あぁ……。話すよ。いつまでも話していたいよ。」
私は止まらない涙を気にするのを止めた。
足元で私に体を摺り寄せていたモコちゃんは、私の顔を見つめると「にゃっ。」と小さく鳴いて、私の膝の上に乗り、頬からつたう涙をペロペロと舐めてくれた。
「俺さ、あのバスで寝てたんだよ、それで、目を覚ますともう天界にいて、身体がなくて、何て言えば良いかな、視覚とか聴覚とか、そういう感覚だけがある感じっていうのかな。それで戸惑ってると、イアロって神様が突然現れて、俺が神様の手違いで死んだって言うんだよ。
で、お詫びに別の世界で人生をやり直しできるからって言うんだけど、それなら元の世界に戻せって話だろ。でも、それは出来ないからって言われて、チートスキルもらって、あぁ、チートスキルってのは、反則的な能力みたいなもんかな。それで、その能力をもらって異世界に行ったら、案の定森の中でさ、しかも体が若い女の子になってるし、でも、そんなこと言ってる間にも、モンスターとか出てきたら困るなと思って、その森を無事に出られるくらいの能力をくれって言ったら、その森にいたのが竜でさ、ドラゴンだよ、モ〇ハンのリオ〇ウスみたいなヤツ、異世界行ってものの5分くらいで、いきなり最強種であるドラゴンだよ。でも、最初にお願いした能力が森を抜けられる程度の力だったから、竜より強くなっちゃって、竜を一撃で仕留めちゃったよw その後、街に行こうとした途中で、モンスターに壊滅させられた村の跡があったんだけど、そこに小さな女の子の生き残りがいてさ、その子を一人にもできないから、連れていくことにしたんだけど、あ、そうそう、その時お腹を空かせてたようだから、何か食べ物と思って食べさせたのが、鍋焼きうどんだよw それでさ………………。」
私は時間を忘れて、今までの異世界での生活を語りつくした。
魔力が尽きるまでの1時間なんて、あっという間だった。
美咲は、ただだまって相槌を打ちながら、私の話を聞いてくれた。
モコちゃんは、私の膝の上でお昼寝をしていた。
あの時までは、こんな時間がずっと続くものだと思っていた。
二人で年をとり、体の自由が利かなくなったとしても、お互い支えあって、生きていくものだと思っていた。
私は、そういえばと、今度は、私が死んでからの2か月程の話を聞こうとすると、美咲が私を不思議そうな顔で見つめていることに気が付いた。
「どうかしたか?」
私がそう尋ねると、美咲は私の胸元を指さして言った。
「貴方、光ってるわよ。」
「え?」
私は自分の胸元を見ると、光っていた。
「あぁ、またか、早いな。これ、さっきまで戦ってた神獣だよ。倒すと倒した人の僕になるらしくて、そのうちポンっていって出てくるよ。」
と、言うが早いか、“パンッ!”という破裂音と共に、白くて小さいミニ〇ジラのようなものが飛び出してきた。
「前より音が激しいな。」
「あら、かわいい、ぬいぐるみみたい。」
「ガエリアだからガエルでいいか?」
『かまわぬ、我を従える者よ。』
「話し方それで行くのか?」
『あ、砕けてもいいっスか?』
「楽に話した方が、後々良いんじゃないの?」
『じゃぁ、お言葉に甘えるっス!』
「何これ、頭の中に直接聞こえるみたい。」
「この神獣達の声ってこんな感じで聞こえるんだよ。」
「不思議ねぇ……。」
「ん?」
「どうかしたの?」
「いや、さっき、地球には魔素がないから、魔法が使えないって話をしただろ。でも、ガエルが現れた途端、魔力が戻ってる気がする。“クリエイト”」
私はクリエイトで金のインゴットを作ってみたところ、見事に金のインゴットが出てきた。
「え?魔法使えてる……。」
『それ、多分自分ッス』
「どういうことだ?」
『自分、冥王の眷属の中でも、ちょっと特殊っス!眷属は眷属なんスけど、そうっスね、自分スキルそこそこ持ってたじゃないっスか、あれ、普通眷属ってスキルは最初からあるんスけど、自分の場合、最初から持ってたのって神聖魔法だけなんスよ。その他のなんとか耐性系って、後から自力で習得したっていうか、そんな感じで、イレギュラー眷属なんで、眷属から僕になったやつって、神の管理から外れるので、魔素を発しなくなるんスけど、自分発しっぱなしみたいッス!』
「ということは、ガエルが俺の周りにいれば、俺は何時でも魔法を使えるってことか。」
『そうなるっスけど、主って、もう神っスよね?であれば、自分いなくても行けるんじゃないっスか?』
「いや、神じゃないし、ガエルが出てくるまでは、魔力の巡りを感じなかったぞ。ガエルが出てきた後に、また魔力が巡るのを感じたんだ。」
『じゃあ、自分がきっかけというか、触媒みたいになったんスね。主、身体の構造が既に人間じゃなくなってるッスよ。』
「なんか、もう何を言われても驚かない耐性が付いてきてるかも……。」
「死んだと思ったら、女の子になったり、神様になったり、なんだか忙しいわね。でもまぁ、別々に暮らすことになっても、生きて元気でいてくれるなら、私はそれで良いわ。」
「そうだ、聞きたいことがあったんだよ。マンションのローンどうなった?」
「ローン自体は貴方が急死したことで、返済免除になったわよ。会社も勤務中での死亡扱いで、退職金も弾んでくれたし、お金には困ってないわ。」
「いくら出た?」
「1,800万円」
「それじゃ全然足りないだろ。今も金って8,000円/グラムくらいか?」
「そんなに金が高騰したなんてニュースは聞いてないから、そのくらいなんじゃない。」
「俺の部屋って、まだそのままか?」
「えぇ、手を付ける気になれなくて。」
「ゴメンな。でも、都合が良いのは都合が良い。クリエイト!」
私は、美咲が触らなければ開かない仕様の生体認証機能付きの金庫と、その中に入るだけの金のインゴット(25g)を詰め込んで、元自分の部屋に設置した。
「この中に、金のインゴットが入ってるから、お金が大変な時は、ここから出して、換金すると良いよ。一度に換金しないようにな、普段の生活費とか、そういうことに使うようにしていれば、税務署に目を付けられることも無いだろう。」
「本当に貴方ったら、あいかわらず悪知恵は健在ねw」
「そういうなよ、心配なんだ。何か残してやりたかったけど、急だったんで……。」
「ありがとう、大切に使わせてもらうわ。」
「それと、一応これも身に着けておいてくれ。効果が発揮出来るかわからないけど、お守りだと思って。」
「肌身離さず持っているわ。」
美咲は、受け取ったリングを左手に嵌めた。
「きっと美咲を守ってくれるから。」
美咲は、キラの優しく微笑んだ顔を見て、憲を感じていた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
感謝の言葉しかありません。
よければ次のお話も読んでいただけるとありがたいです。
どうぞよろしくお願いいたします。




