35.閑話:ニャカの迷走1
数ある作品の中から、私の作品を見つけてくださり、ありがとうございます。
稚拙な文章ではありますが、読んでいただける方に楽しんでもらえるよう頑張りますので、今後ともよろしくお願いします。
物語はクライマックスに向けて進行中ですが、ここでちょっとニャカという私個人の押しキャラの閑話を挟ませてもらいます。
皆様方にも楽しんでいただけたら幸いです。
私はニャカ、ハーコッテの近くにある農村の出身で、幼いころに村が魔物に襲われて、命からがらハーコッテに逃れてきた。
その時に、両親と二人の姉は私を逃がすために犠牲になった、わけではなく、借金を苦にして両親は自殺、姉二人は売られてどこかに行ってしまったので、今は生きているのか死んでいるのかもわからない。
つまり、私は天涯孤独の身ということになる。
私の両親はなぜあんなことになったのか、幼い私に知る由もないが、今となっては、なんとなくわかる。
農村出身で、作物を育てること以外、取り柄のなかった両親は、きっとハーコッテでの生活に困窮し、借金を重ねたのだろう。
しかし、勘違いをしてもらっては困るので、あらかじめ言っておくが、私は農村出身とはいえ、農業の事は1ミリもわからない。
魔物に襲われた時の私はまだ4歳で、当時の記憶などほとんどないが、ただ、父親に抱かれている状態で見た光景。
大勢の人たちがただ必死に逃げ惑うという、子供にしてみれば、なかなかホラーな光景だけが脳裏に焼き付いている。
そして、両親が死んだあとは、ご想像のとおり、スラムでの生活が始まった。
両親と住んでいた家は、当然のごとく借家だったので、両親が死んだとたん、その日のうちに追い出されてしまった。
子供だった私は、家から何を持ち出せば良いかもわからず、着の身着のまま、少ない荷物をズタ袋に詰め込んで、その日食べるものすらなく、子供ながらに近いうちにおなかが減って死ぬのだろうと思っていた。
しかし、ハーコッテのスラムは以外と良いところだった。
当然スラムなので、家などと呼べるような場所はなく、雑に組み上げた端材の骨組みに、四方に布がかかっていれば立派な方で、ほとんどは地べたの上での生活を余儀なくされていた、が、私が餓死することはなかった。
おそらくハーコッテの騎士団か何かに所属していたのだろう一人のおじさんが、毎日ではないが、頻繁に食べ物を持ってきてくれたのだ。
そのおじさんは、帯剣していたので、たぶん騎士団の人なのだろうと思っただけだが、身なりも良くて、騎士団にしても、まぁまぁ地位のある人なんじゃないかと、子供ながらに感じていた。
そのおじさんは、大人にはあまり食べ物を配っていなかったが、でも、体の具合が悪いような人には配っていたと思う。
でも元気なのにどこかで拾って来たのか、酒ばかり呑んで、昼間から酔っぱらっているような大人には、いつも「働け!」と怒っていた。
私は幼いころから、とにかく要領が良いという評価を受けていたが、自分としては、面倒なことがとにかく嫌いだったので、無駄になると思うことは極力避けるようにしていた。
それが功を奏したのか、スラムの子供、特に女の子は、とにかく消えることが多い。
昨日まで一緒に遊んでいた子供が、今日になったら見当たらないなんてことは、ザラだった。
しかし、私の場合は、まずぬいぐるみを持っていなかったことや、髪を洗ったり乾かしたりするのに時間がかかることを嫌って、拾ったはさみで、つねに短くしていたので、周囲からは男の子と勘違いされていたらしく、男の子の割には華奢で、力も弱わそうだと思われたのか、攫われることがなかったのだ。
食べ物をくれるおじさんも、来る度に「あの子はどうした?」「またやられたか。」などとよく口にしていた。
私がスラムで2年近く過ごしたあたりで、いつものようにおじさんがやってきたので、食事がもらえると思っていると、おじさんが子供たちを集めて言った。
「長い間待たせてしまってすまなかった。今日からはもう安心して生きていけるからな。」
私は、この時はおじさんが何を言っているのか見当もつかなかったが、その後すぐ、その言葉の意味を、身をもって理解することになった。
なんとおじさんは私たち孤児の為の施設を作ってくれたのだ。
その施設では、子供が子供らしく生活できる環境が整えられていて、屋根のある部屋が与えられ、毎食食事を与えられ、読み書きや計算の勉強まで教えてくれた。
私はそのおじさんの善意によって救われたのだ、って、もうおじさんはまずいか。
その方は、なんとハイゼンスリーブ領の領主様であられる、ルドルフ・ハイゼンスリーブ辺境伯様だったのだ。
私は、その施設で学ぶことが出来たおかげで、16歳の時に住み込みで働ける、“タイタイ停”という食堂兼宿泊所に雇ってもらうことが出来たのだ。
私はそこでお給料をもらいながら、毎日の仕事も楽しくやっていたのだが、ある日転機が訪れた。
見慣れない格好をした、私よりもほんの少しだけ年下くらいのとても綺麗な顔をした少女が、さらに少し幼い竜人族の子供を連れて、私が働いているタイタイ停にやってきたのだ。
その少女は、タイタイ停に泊まった数日後には、皇王陛下に謁見し、侯爵の爵位を叙爵し、領地まで与えられたというではないか。
更にその数日後、私はミラねえちゃんという施設の時の友達のお見舞いに、タイタイ停でもらった果物を持って行くと、妹のマリアも丁度来ていて、マリアの勤め先がとても良い条件で雇ってくれるから、私にも来ないかと誘ってきたのだ。
マリアは辺境伯様のところでメイドをしていたので、私もとうとう辺境伯様のところでメイドをするのかと思って聞いてみたら、その数日前にタイタイ停に来ていた謎の美少女が雇い主だというので、本当にそんな条件で雇えるのかと聞くと、なんとその少女が叙爵した理由が、黒竜を討伐し、おまけにカーミオの魔物を一層したからだというではないか。
私の直感が働いて、これは面白いことになったと感じたので、その申し出を二つ返事で引き受けたのだ。
私のキラ様邸勤務初日は、キラ様は不在だった。
キラ様の妹様であるケイラ様は。タイタイ停で会った時同様、竜人族であるにもかかわらず、とても可愛らしいく、メイドの私にもちゃんとご挨拶をしてくれたりと、幸先が良いなと感じていると、案内された寮で私はとんでもない物を見てしまったのだ。
その私専用という寮には、見たこともない石のようなもので出来た棺桶よりも少し小さいくらいの箱がある部屋があり、壁には見たこともない形の謎の筒?がついていて、その筒には動物の内臓のような管がくっついているという、恐ろしい部屋があって、最初にその部屋を見たときは、きっと、仕事で失敗したら、この部屋で拷問されるのかもしれないと思っていたが、マリアが言うには、そこはなんと浴場という、体を洗う専用の部屋だというのだ。
私が、そんな王侯貴族の部屋にだってないような設備があるわけが無いと言うと、マリアがその謎の筒が付いている管の根本のレバーを上げると、なんと筒の先端から細かい水の束があふれ出てきて、しかもその水が丁度良い温度のお湯だったのだ。
私は驚きと感動のあまり、その部屋で一生を終えようかと思ってしまったほどだった。
しかし、驚きはそれだけでは終わらない。
次に案内された小部屋には、さらなる脅威が待ち受けていたのだ。
その部屋は何もなければ人一人が寝そべるには丁度良いくらいの広さだったが、残念なことに、正面にはこれまた謎の置物が設置されていた。
ただ、その置物は、今まで見たことのないような程に白く輝いていた。
ただ、置物の高さと良い、サイズ感といい、イタズラで上に乗ったり腰掛けたりしちゃいそうな雰囲気を醸し出していたので、私はそれが何かを恐る恐る聞いた。
もし、こんな高価そうなものを、イタズラで壊してしまった日には、私はきっと親と同じく借金奴隷に身を落とすことになると思ったので、あらかじめ知っておいた方が良いと思ったからだ。
私の精神が何とか持ちこたえたのは奇跡に近い。
いや、奇跡だな……。
私がその置物の正体を知った時、私の時間は停止した。
マリアが必死に揺すってくれたおかげで、私は今も生きている。
あのまま昇天していてもおかしくはなかった、それほどの衝撃だったのだ。
排便する場所が、あんなに綺麗で匂いもしないなんてあり得るはずがない、しかも、その排泄した汚物は、レバーをあげるだけで、きれいさっぱり流されて、どこかに消えていくなんて、常識としてありえない。
私はこのキラ様邸の寮から、一歩も出たくなくなってしまいそうになっていた。
浴場がついていて、トイレは芸術品かというくらいの美しさで、おまけにベッドなんて、狭い部屋に何人もが寝るための設備だと思っていたのに、寝るためだけの部屋があって、その真ん中に私サイズなら3~4人は寝れそうな巨大なベッドがあって、しかも布団が異常に厚くてフワフワしていて、それを一人で使うというのだから、顎が外れてどこかに消えてなくなったかと思ってしまったのはここだけの秘密ということで。
だって、あのサイズだよ、おかしいでしょ、寝るときは全員で雑魚寝なのかと思うくらい大きくて気持ちいんだよ、あのベッド!
失礼、取り乱しました。
とまぁ、個人に与えられる部屋というよりは、もはや私が貴族なのかと思う程の豪華な屋敷を与えられ、私はこれ以上の驚きはないと思っていたのだが、ここからさらに斜め上を行く驚きが待っているとは、この時の私はまだ知らない……。
翌日キラ様がご帰宅なされて、私はメイドとしては初めてキラ様とお会いすることになった。
あの部屋を取り上げられないように、私は最大限の敬意と愛想をふんだんに出し切ってご挨拶すると、突然窮地は訪れた。
来て二日目で、いきなり引っ越すと言われたのだ。
まぁ、私自身、天涯孤独の身なので、どこに行っても別にかまわないとは思っていたが、やはりあの豪邸を手放すのは苦渋の決断だった。
しかし、タイタイ停をあっさり「今までお世話になりました~♡」の一言で後にしてきた私としては、戻るという選択肢はなかったので、まぁ、あそこまでではなくても、それなりの部屋は与えてくれるのだろうと、ここでも二つ返事で了承したが、私はその選択を後悔することになる。
マリアの姉のミラは、私の知る限り、ずっと病に臥せっていた。
彼女の病は町の治療師程度では手に負えないもので、皇都の大きな病院にかかるお金があったとしても、治るかどうかは一か八かというものだった。
ミラは昨日からまた体調を悪化させていて、マリアと一緒にボロ家の板のベッドよりはキラ様邸の寮のベッドの方が良いだろうと、ここのマリアの部屋に連れ込んでいたのだが、なんとこのキラ様という方は、それを咎めるどころか、いともあっさりと、ミラねえちゃんの病を治したばかりか、ミラねえちゃんも雇って一緒に連れて行ってくれるというのだ。
私は、このキラ様の行いと、心優しさを目の当たりにした時、気づいてしまったのだ。
この人たぶん人じゃなくて天使様だと……。
私はなんと罪深いのだろう、孤児上がりで、街の食堂の給仕風情が、あろうことか、天子様のお宅のメイドを引き受けてしまうなんて……。
しかし、名残惜しい、あの浴場とトイレとベッド、あれはこの世の楽園だ……。
私如き矮小なる子羊が考えることなど、所詮はその程度、あの崇高なる天使様のお考えは、私如きが推し量れるものではなかった。
引っ越し先のムーシルトは、パラディオール領の領都で、ハーコッテよりもやや寂れた場所と聞いたことがある。
私たちは、引っ越しを言い渡された数日後、実際にハーコッテを後にして、ムーシルトに向かった、と思ったら、通り過ぎた……。
なんと、行先は、魔王領だというではないか。
私はここで気づいてしまった。
今まで見せられたのは、最後の思い出として、せめてもの気休め的なものだったのだと。
私は絶望を顔に出さないよう努めていたつもりだが、たぶん駄々洩れていたはずだ。
ここからが、旧魔王領よと説明されたので、私はあたりの景色を眺める。
きっと、地面とか紫色だったり、生えている木には顔とかがついちゃってるのだろうなと思って顔を上げると、そこには美しい森や街道が広がっていて、遠くに煌びやかなお城が見えた。
私の時間はまたもフリーズすることになる。
え?ここ綺麗じゃん、魔王感ないじゃん、ていうか、ハーコッテより、規模でかくね?
と、心の中で思っているうちに、早々に城についてしまった。
今まで、さらっと流してたけど、このキラ様の出した魔道具馬車?異常に速いんですよ。
しかも、"馬"走ってないんですよ。
それなのに、アホみたいに速いし、揺れないんですよ、全然。
なので、どのくらいの距離の移動なのか、体感的に理解が出来ないというか、もうね、キラ様は天使様だから仕方ないで済ますしかないくらい、何もかもが常識外れすぎてて笑える。
まぁ、笑っていられるのも、今のうちなんですけどね、この時の私さん。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
感謝の言葉しかありません。
よければ次のお話も読んでいただけるとありがたいです。
どうぞよろしくお願いいたします。




