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3.ケイラ

 魔導バイクを走らせて小1時間程度、森を抜けてからも30分は経過したころ、視界に村のような集落が目に入る。


 俺は魔導バイクから降りて次元収納にしまい込むと、徒歩でその村へと向かった。


「一応人に見られると面倒そうではあるからね、っと。」


 俺は村へと近づくにつれ、異様な雰囲気が漂うことに気付く。


「これ、人住んでないよな。人がいなくなって劣化したというよりは、襲撃を受けたって感じだよこれは、しかもまだ、襲われてからそんなに日が経ってないんじゃないかこれ。」


 俺は小走りに村へ近づくと、周囲を漂う異臭に顔をしかめる。


「ひどい…。」


 [告:ゴブリンの物と予想される武器などが多数落ちていることを踏まえると、おそらくゴブリンの集団に襲撃を受けたものと推察します。]


「こういう時って近くの街の救援とかってないものなの?」


 [回:基本的にはありません。]


「そうなんだ。どうしようかな、放置しておくのもしのびないけど、でも一人で村一つ分の埋葬となると、とてもじゃないけど…。」


 [回:セイリアルフレイムを推奨します。]


「ん?それは何?」


 [回:浄化の炎で、主にアンデッド系の魔物に対する攻撃魔法として利用されることが多い魔法です。

 宗教上の式典(火葬)においても聖なる炎として利用されます。

 通常の炎系魔法との相違点は、アンデット系の魔物限定ですが、核を除いて完全に消滅させることが出来、その他の生物の死骸については、焼却効果の他に浄化作用もあります。

 発動に関しては、効果範囲をイメージしてセイリアルフレイムと発声してください。]


「ん?死骸ってことは、生きてる人間は燃えないの?」


 [回:アンデット系の魔物以外魔物及び生命体には効果を発揮しません。]


「それは素晴らしい。万が一生存者がいても問題ないと。まぁ、このままじゃあまりにも気の毒だしね。よし、じゃあ村全体を一気に行っちゃうか。セイリアルフレイム!」


 キラの広げた両手から青白い炎が噴き出すと、その炎は静かに村全体を覆いつくした。


 天高く舞い上がる青い炎が村全体を焼き尽くすまでに、それほど時間はかからなかった。俺は魔物の核を拾い集めた後、村人の遺骨は一か所に集めてお墓でもと思い遺骨を拾い集めていると、視線の先に全裸の少女がうつぶせになって倒れているのを発見した。


「え!?なんで全裸?乱暴でもされた?」


 [回:セイリアルフレイムは生命体には効果を発揮しませんが、衣服は燃えます。]


「もしかして、俺がこの子の服燃やしちゃった?」


 俺は慌ててクリエイトで毛布と少女が着られそうな衣類一式を作成し、少女を直視しないように最大の努力をしながらそっと毛布を掛けてやる。そして、少女の肩を揺すり「大丈夫か?」と、声をかける。


 すると、気を失っていた少女は「う~ん。」とうめき声をあげながら目を覚ました。上体を起こして目をこすりながらキラの方を向いた少女は、かけた毛布がはだけてしまっている。


 私は慌てて両手で目をふさぎ「あぁ、ごめんごめん、これ着て、見えちゃってるから。」と顔を背けながら言った。


 しかし、少女はきょとんとした顔で只こちらを見ている。


「あぁ、言葉か、そっかそっか。言語の共通化をしないと謎に喚いてるだけのおっさんにしか見えないか。」


 私は言語の共通化をイメージして『ファクトチェンジ』と念じる。


「俺の言葉理解できるかな?」


 少女はキラをじっと見つめたままコクッとうなづいた。


「とりあえずその服を着てくれるかな、おじさん後ろ向いているから、着替え終わったら教えてくれるかい?」


 少女は首をかしげて「おじさん?」とつぶやく。


「あ、俺も少女か。ごめんまだ慣れなくて。」

「まぁ良いや、とりあえず服着てくれる。話はそれからにしよう。」


 私は自分が現在少女の姿になっていることを思い出し、苦笑いをする。同時に言葉遣いにも違和感があるだろうと、口調にも注意を払わねばなどと考えていると。少女が「終わりました。」と、か細い声でつぶやく。


 私は少女の方を向くと「おぉ、よく似合ってる、可愛い、可愛い。」と、とりあえず褒めておいて、少女の服を燃やしてしまった可能性については触れずに「ところであなたの名前を教えてほしいんだけど、まずは私から自己紹介するね。私の名前はキラと言います。年齢は15歳で、出身は遠い東の島国です。多分聞いたこともないだろうけどね。」と、自己紹介を始める。


 すると少女は俯きながらも、両手を握りしめて力を込め、絞り出すような声で話し出した。


「私はケイラといいます。10歳です。この村で生まれたわけじゃなくて、ガインさんに育ててもらいました。私は竜人族の子だそうです。ガインさんも村の人も優しかったけど、皆死んじゃいました。ゴブリンが襲ってきて、何人かは、攫われてしまいました。」


 ケイラと名乗る少女の瞳からは、途中から大粒の涙が零れ落ちていた。


「ケイラちゃんは竜人族の子で、この村のガインさんという方に育てられていたけど、ゴブリンに襲われて、ガインさんも他の村人も亡くなってしまったのね。何人かは攫われたと言っていたけど、どっちの方に行ったかわかる?」


「わかりません、ケイラはガインさんに隠れていなさいと言われたので、ずっと隠れていました。メルちゃんとかサリアさんの助けてって声が聞こえたけど、ケイラは怖くてずっと隠れていました。だからどこに行ったのかはわかりません。」


「ごめんね、もう大丈夫、辛かったね、でももう大丈夫だから。」


 俺はケイラをそっと抱きしめて、背中をポンポンとしながら優しく頭をなで、ケイラが落ち着くのを待った。

 ケイラの頭をなでている際、頭にほんの少しのふくらみを感じたので、良く見てみると、角のようになっていることに気が付き、竜人族は角がある以外は人間とほとんど同じなんだななどと思っていた。すると、ケイラのお腹がグ~っと音を立てるのが聞こえた。


「そっかそっか、ごめんね、気が付かなかった。もう何日もご飯食べてないよね。何か食べようか。ケイラちゃんはどんなものが食べたい?何か食べられないものとかある?」


「ケイラはなんでも食べます。ガインさんもケイラと同じでなんでも食べました。」


「そっか、それじゃあおいしいかどうかはわからないけど、急に消化に悪い物食べたらお腹こわしちゃうかもだから、柔らかいものにしようか。」

『ライブラ小麦の存在は?』


 俺は頭の中でライブラに小麦の存在を確認しながら「クリエイト」と唱えて簡易的なテーブルとイスを作った。もちろん材質は違和感のない木製のものにした。


 [回:存在します。]


「よし、それじゃあこの際細かいことは気にしないで、鍋焼きうどんでも良いか、体調不良時の鉄板メニューでしょ。」


 俺は鍋焼きうどんと小さなお椀、箸とフォークをイメージしながら『ファクトチェンジ』と念じた。


 俺は出てきた鍋焼きうどんを小さなお椀に取り分けて、ケイラに手渡すと、右手にフォークを持たせてやり「熱いからフーフーって息を吹きかけて冷ましてから食べてね。」と言って、自分も鍋焼きうどんをフーフーと息を吹きかけて冷ましながら食べるところをケイラに見せてやった。するとケイラはそれを見て、見よう見まねでうどんをすすり始めた。


 ケイラがお椀の中のうどんを食べ終わるのを待って「もっと食べる?」と尋ねると、ケイラはコクッと頷く。それを何度か繰り返すうちに、ケイラはほとんど一人で鍋焼きうどんを食べてしまった。


 私は「ケイラちゃんお腹いっぱい?」と尋ねると、ケイラは満足そうに「はい。」と答え、続けて「あんなの初めて食べました。赤いグルグルのがとってもおいしかったです。長いツルツルしたのもおいしかったです。」と言った。カマボコが気に入ったようだった。


 食事を終え、テーブルをはさんで向かい合って座る二人は、しばらくの間他愛もない会話を楽しんだ。大分緊張もほぐれて表情も明るくなってきたのを見計らって、私は「それじゃあケイラちゃん、ガインさんや村の皆にお別れをしようか。」と言った。


 ケイラは不安の表情を見せ「お別れ?」とつぶやく。


「そう、ガインさんや村のみんなが、安心して天国に行けるように、これからお姉ちゃんがこの村の皆さんのお墓を作るから、ケイラちゃんも一緒にお祈りしましょう。」


 ケイラはお墓や天国など、いまいちピンとこない単語に首を傾げつつも、お祈りという部分についてはしっかりと理解した様子で「ケイラお祈りします。」とつぶやく。


「あ、そうだ。ケイラちゃん、この村の名前はなんていうか知ってる?」


 墓石に刻む村の名前を知らないことに気が付いた俺は、しゃがみこんでケイラの顔を覗き込むようにして尋ねる。


 ケイラは私の目をまっすぐ見つめ返して「トーイ村です。」と力強く答えた。


 私は集めた遺骨を土魔法で開けた穴に埋めると、その上に黒い大理石の墓石をイメージして「クリエイト!」と唱える。

 すると、2メートル四方の祭壇の中央に高さにして80センチ程度の六角錐が据えられた立派なお墓が現れた。完成した墓石には『小さな命を守りしトーイ村の英雄たち ここに眠る』と刻まれていた。


 しばらくの間、墓石に向かってお祈りをした後、私はケイラに向かって言った。


「それにしても、私がキラであなたはケイラちゃんって、名前がそっくりだね、これも何かの縁かも。ケイラちゃん一人で寂しかったよね。でももう大丈夫、私がケイラちゃんのお姉さんになりたいと思うんだけどどうかな?ケイラちゃん私と一緒に来る?」


 ケイラの小さな瞳から大粒の涙が零れ落ちる。


 そしてケイラはコクリと頷くのと同時に俺の腰にしがみつき、静かに咽び泣いた。



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