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異世界に転生してものの5分で最強種とエンカウントした俺のその後の話  作者: すずき 虎々


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26. 閑話 モコちゃん

数ある作品の中から、私の作品を見つけてくださり、ありがとうございます。

稚拙な文章ではありますが、読んでいただける方に楽しんでもらえるよう頑張りますので、今後ともよろしくお願いします。

 この日、ムーシルトの空は、朝から灰色に曇っていた。

 昼過ぎにはぽつぽつと雨が降り始め、夕方には本格的な降りに変わった。

 屋敷の庭も、石畳の路地も、雨音を立てて静かに沈んでいく。

 ケイラは、姉の不在には慣れたはずだったが、時折ふと不安がよぎる。

 戦争を終わらせると言って家を出てから今日で十日目。一度帰宅したが、姉の表情は暗く沈んでいた。

 彼女は、キラが超人的な強さと、誰もが想像する事すら出来ないような新しいものを生み出す力、そして誰よりも深い知識を持ち、それでいて美しく、気高く、心優しい人であることを、誰よりも理解している。

 初めて会った3年前も、ほとんど会話などしないうちから、自分に衣服や食事を与え、その日のうちに竜人族である自分を妹だと言い、死にかけていたのを救い出してくれた。

 でも、だからこそ、なんでも自分で抱え込んで、心が疲弊しているのではないかと、不安にもなる。


 姉は強いとはいえ、まだ18歳の女の子でしかない。

 普通なら学校に通って、友達を作り、勉強したり、お茶を楽しんだりしているのが当たり前の年齢だ。

 しかし、姉は不平など一言も漏らさず、この地に住まう民のため、ひいては国のため、世界のためと、日々奮闘している。


 後輩妹のシェラも、最近では魔法の分野においては、姉に肉薄しているとまでは言えないんだろうけど、それでも、相当な努力をしているのは見ていなくてもわかる。

 事実、魔法の分野については、かなりの部分で姉の代理を務めることができている。


 ケイラも、二人の力になりたいと、唯一自分の得意分野と言える、身体の強さを生かして、日々軍警察の訓練など、色々な場所に顔をだしては、鍛え上げている。

 最近では、ハイゼンスリーブ領の領主で、姉が現れるまでは、ヤーパニ最強と噂されていた、ルドルフおじ様からも、剣の稽古で3本に1本はとれるくらいにはなってきた。


『でも足りない。』


 彼女は自分がパラディオール家のお荷物なのではないかと、常に不安に駆られていた。

 姉はきっと許しはしないだろうけど、でも、今回の戦争だって、本当なら自分も鎧を身にまとって、姉を支えるべく、先陣を切るべきだったのではないか。

 そんな焦燥を感じていた。


 しかし、出来ない事を出来ないと悔やんでいても仕方がないので、姉のいない屋敷を自分が守るのだ、という気持ちで毎日を過ごしていた。


 まず、その一歩目として、姉が大切に育てている庭の手入れを、毎日続けていた。

 今日みたいに雨が降っても、休まず欠かさず、手入れを続けていた。

 雨の中だろうと、無心で黙々と体を動かしていた方が、心は落ち着いた。


 今日も草むしりから始まり、土慣らしや、咲き終わりの萎れた花をつみとるなどの作業をこなし、一息付こうと、ふと顔を上げると、植え込みの奥の茂みの陰で、何かが動いた。

 彼女はしゃがみ込んで、そっと茂みをかき分けると、そこにいたのは、小さなキジトラの子猫だった。雨と泥にまみれ、毛は濡れて重たく垂れていて、なんだか衰弱しているように見える。

 だが、目だけは光を失っておらず、怯えながら背中の毛を逆立てて、可愛いシャーをしているが、どことなく誇り高い光を宿しているようにもみえた。

「……あなた、どこから来たの?」

 子猫は相変わらずシャーをしてはいるが、ケイラから視線をはずそうとはしない。

 ケイラはため息をつき、そっと手を伸ばして、子猫の首をつまみ上げると、そのまま抱きかかえた。

 一見彼女のこの行動は、乱暴にも見えるが、実は子猫というのは、本来親猫に首の裏側を咥えられて移動させてもらうので、子猫に安心感を与える行動なのだ。

 子猫は抱き上げられると、背中を丸めて四肢を折りたたみ、小さな目を細めた。

 その仕草に、ケイラは微笑んだ。

「じゃあ、今夜はうちに泊まりなさい」

 子猫は、抱きかかえられたまま、可愛らしい声でミャーミャーと鳴いていた。

 暖炉の前で、彼女が子猫をタオルで拭いてやると、雨と泥で汚れた毛並みが、少しずつ元のふわふわを取り戻していく。

 子猫はたどたどしい足取りで、部屋の中を確かめるように動き回っては、時折ブルブルと体を振るわせて、水気の残った体から雨雫を飛ばしていた。

「名前は……何て呼べばいいかな。」

 彼女は子猫を膝に乗せ、優しく撫でた。

 その夜、屋敷は雨音と子猫のゴロゴロという寝息で彼女の不安もほんの少し和らいだようだった。


 翌朝、突然姉が帰ってきた。

 姉は疲れた顔をしていたが、出迎えたケイラやシェラに向ける目は優しく、いつもと変わらない姉だった。

 ケイラとシェラは、何も言わずに姉に抱きついた。キラもそんな二人を優しく抱きしめ、一言だけ。

「ただいま。」

 と言った。

 二人の妹は、姉を抱きしめる手にギュッと力を籠めると、やはり一言。

「「おかえりなさい。」」

 と言ったのだった。


 姉は着替えてくると言って自分の部屋に入ったが、数分後には楽な服装で、暖炉のある一般的なところで言う居間に入ってきた。


 ケイラは子猫を抱きかかえたまま、姉に近づくと、姉に子猫を抱くよう促した。

 すかさずケイラは姉に尋ねる。

「お姉さま、この子、私たちの家族に迎え入れても良い?」

 子猫を受け取ったキラは、子猫を見るなり言葉を失っていた。

「モコちゃん……。」

 姉の唐突な言葉に、ケイラは首を傾げた。

「え?モコちゃん?」

 キラは少しだけはにかむ様に笑った。

「ごめんなさい、昔飼っていた猫。この子にそっくりだったの。」

 猫はキラの手に顔をこすりつけた。

 その仕草に、キラの目尻にほんのりと涙が浮かぶ。

「しぐさまでそっくり。あの子は……いつも私にべったりで、手のかかる子だった。」

 ケイラは黙って聞いていた。

 キラの声には、懐かしさの中にも複雑な感情が渦巻いているように感じた。

「この子、名前は?」

「まだ決めてないわ。お姉さまがつける?」

 キラは子猫を見つめた。子猫は目を細め、静かに喉を鳴らした。

「……モコちゃんでいい?」

 ケイラは微笑んだ。

「いい名前ね。」

 その夜、キラは猫を膝に乗せたまま、何も言わずに座っていた。

 ケイラとシェラは隣の椅子に座り、静かに紅茶を飲んでいた。

 雨は止んでいた。

 種族違いの三姉妹に、久しぶりの穏やかな時間が流れていた。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

感謝の言葉しかありません。

よければ次のお話も読んでいただけるとありがたいです。

どうぞよろしくお願いいたします。

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