25.慟哭
数ある作品の中から、私の作品を見つけてくださり、ありがとうございます。
稚拙な文章ではありますが、読んでいただける方に楽しんでもらえるよう頑張りますので、今後ともよろしくお願いします。
王の死は、その日のうちに、国中に広まった。
人々の嗚咽、衛兵の慌ただしい足音、そして貴族たちのざわめき。
翌朝、王城の広報官が「5日後に国葬を執り行う。」と宣言した。
王の遺体は灰の庭に安置され、その間、王都は喪に服し、すべての祝祭と式典が中止された。
かつて魔王との戦いで焼かれた都の灰が撒かれたその庭は、王の遺志を象徴する場所となっていた。
貴族たちは沈黙した。
彼らの多くは、王の死が「自然なもの」であると主張したが、誰もが内心では動揺していた。
ジュエル王子は姿を見せず、取り巻きの貴族たちも表向きは沈黙を保っていた。
キラ・パラディオールは、王の死を確認した翌日、ヤーパニ皇国へ一時帰還した。
彼女は、王の死に関する報告書をまとめ、皇王陛下に提出した。
その報告には、王の決断、玉座の間でのやり取り、そして王子と貴族たちの動きが詳細に記されていた。
「王は、民の命を守るために誇りを捨てた。その選択は、我々が敵と見なしていた者の中に、真の王がいたことを示している。」
彼女は、報告の最後にそう記した。
皇国軍本部は、彼女の判断を支持し、ヘミエミルへの介入を一時停止することを決定した。
ただし、戦争責任の所在が明らかな者、王子や一部貴族たちについては、その身柄の確保を確実にするよう厳命された。
私は、報告を終えた後、一度ムーシルトに戻り、城の皆と一日を過ごすことで、心に溜まった澱を吐き出し、疲れを癒すことにした。
三日目の朝、私は再びヘミエミルへ戻った。
王都は、沈黙したまま時を刻んでいた。
民衆は、王の死を悼みながらも、訪れるであろう変化に不安を募らせていた。
私は、王城の灰の庭を訪れた。
王の遺体は、白布に包まれ、静かに横たわっていた。
その顔には、苦悩も怒りもなく、ただ静かな安らぎがあった。
「……あなたの選択は、間違っていませんでした。」
キラは、王の遺体に向かってそう呟いた。
五日目、国葬の日。
王都の広場には、民衆が集まり、王の棺が灰の庭から大聖堂へと運びだされる。
私は、喪服を纏い、玉座の間の奥からその様子を見守っていた。
王の棺が大聖堂に安置されると同時に、鐘が鳴った。
その鐘の音は、王都全体に響き渡り、民衆の沈黙を包み込んだ。
私は静かに立ち上がる。
処刑の準備は、すでに整っていた。
証拠は揃い、報告は終わり、あとは裁きの場を開くだけだった。
「……次は、責任を取ってもらう番ね」
彼女の声は、誰にも届くことはなかった。
だが、その言葉は、風に溶けるように広がっていった。
かつて魔王との戦いで焼かれた都の灰が撒かれたその庭は、王の遺志を象徴する場所となっていた。
私は、そこに立っていた。
黒衣を纏い、剣を帯びず、ただ一人の人間として。
「今日で終わります。」
その言葉は、王城の広場に集まった民衆に向けて発せられた。
兵士たちは周囲を固め、貴族は沈黙のまま列を成していた。
処刑台の前には、三人の男が立たされていた。
灰色の空が王都を覆い、鐘楼の鐘が十三回、鈍く鳴り響いた。民衆は広場に集まり、誰もが沈黙の中に怒りを携えていた。
中央の台座には、かつて絹と金で飾られていた王子が、今や粗末な麻布をまとい、膝を震わせて立っていた。彼の背後には、取り巻きの貴族たち、贅を尽くした饗宴で民の飢えを笑った者たちが並んでいた。彼らの顔には、理解できぬ恐怖と、まだ消えぬ傲慢が交錯していた。
「我が名はジュエル、王家の血を引く者だぞ!」
王子は叫んだが、その声は風にかき消された。民衆は応えず、ただ見つめていた。
その視線は剣より鋭く、炎より熱かった。
処刑人は黒衣を纏い、顔を覆っていた。彼は一歩ずつ台座に近づき、儀式の言葉を告げる。
「この者らは、民の命を奪い、国を腐らせたばかりか、あろうことか偉大なる我らが王ブランソン・ヴァルナ・フォン・ヘミエミル陛下を殺害するという悪逆非道の限りを尽くした大罪人である。本日、天と地と我らが神イアロ・クルセリーナの名において、裁きを受ける。」
貴族の一人バルド侯爵が膝をつき、泣き叫んだ。「我らは命じられただけだ!王子の命令に従ったまで!」
だが王子は彼を睨みつけ、「黙れ、裏切り者め!」と吐き捨てた。
その瞬間、民衆の中から笑いが漏れた。
それは喜びではなく、長年の絶望が形を変えた、冷たい笑いだった。
処刑人が剣を掲げると、空が低く唸った。
最初に斬られたのは、王子ではなく、最も傲慢だったバルド侯爵だった。
彼の首が落ちると、地面が震えたように感じられた。
民衆は声を上げず、ただその瞬間を見届けた。
次にミレイユ卿が倒れ、最後に王子が残った。
彼は震えながらも、何かを言おうとしたが、言葉は出なかった。
処刑人は彼の目を見て、静かに言った。
「貴様の罪、その命を持ってしか償うことはできない。」
剣が振り下ろされ、そして、その命の灯は何も語ることなく潰えた。
空から一筋の光が差し、広場を照らす。
そして、雨雫が一つ、二つと落ちてきた。
広場に集まった人は誰も動かない。
皆がただ雨に打たれたまま、その場に立ち尽くしていた。
皆の慟哭を、雨はただ洗い流していた。
処刑が終わった夜、私は王城の書庫に一人佇んでいた。
雨は止み、窓の外には灰色の雲が流れている。
私は、古びた地図を広げ、指先で北方の竜谷をなぞった。
竜族。かつて魔王と争い、魔物たちとも対立していた存在。
その理由は、誰も正確には知らない。
ただ、私はその理由に一つの仮説を立てていた。
竜が魔王領を焼いた目的。
私は、竜について、もっと知る必要があると考え、この国の書庫になら、何かヒントがあるかもしれないと。
人族と竜が互いに干渉せず、共存できる道を探るにしても、今のままでは情報が少なすぎる。
そして、それはまだ構想の域を出ない。
竜が応じる保証もない。
むしろ、魔王の封印をきっかけに、彼らが動き出す可能性すらある。
そして、彼女の視線は中央大陸へと移る。
霧に包まれ、魔物が蠢くその地。
人が住めぬ場所。
だが、最近になって、弱い魔物たちが海を越え、各地に現れたという報告も上がり始めていた。
私はその報告を聞いて、ひとつの計画を思いついていた。
人は魔物の脅威がなくなると、今度は人同士で争い始める。
今回の一件がいい例だ。
中央大陸の魔物はまだ手付かずだが、世界中に散らすことで、均衡を保つことは出来ないか。
人が抗えないほどの強者は封じ、弱者を拡散させる。
それが、世界の均衡を保つ唯一の道かもしれない。
だが、それもまた、確証のない仮説にすぎない。
竜との魔王との確執の理由がわからなければ、魔物の分散は新たな争いを生むかもしれない。
そして、世界の三つの大陸――
ヤーパニがあるウェザリア大陸、ヘミエミルやバキレム、コチミコの他、ミドガルやジャプラダ、ハプルなどが密集するイースロー大陸、そして謎多き中央大陸。
それぞれが、異なる脅威と可能性を孕んでいる。
私は、静かに地図を閉じた。
「ここにもほしい情報はなかった…。」
彼女の言葉は、誰にも聞かれなかった。
ただ、書庫の灯火が静かに揺れ、世界の深奥が、少しだけ顔を覗かせた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
感謝の言葉しかありません。
よければ次のお話も読んでいただけるとありがたいです。
どうぞよろしくお願いいたします。




