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異世界に転生してものの5分で最強種とエンカウントした俺のその後の話  作者: すずき 虎々


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22.審判の刻

数ある作品の中から、私の作品を見つけてくださり、ありがとうございます。

稚拙な文章ではありますが、読んでいただける方に楽しんでもらえるよう頑張りますので、今後ともよろしくお願いします。

 王城の朝は、いつも通りだった。

 魔法障壁が淡く輝き、衛兵たちは定時の巡回をこなし、空には雲ひとつない。

 3年前は不運な事故によって、その目的を果たすことはかなわなかったが、今回は勝利の報せが届くのを待つのみと、王都は祝賀の準備に沸き踊り、誰もが勝利を疑うことはなかった。


 しかし、異変はなんの前触れもなく訪れる。

 幾重にも張り巡らされた、鉄壁であるはずの魔法障壁に歪みが生じ、見たこともない魔法陣が姿を現したかと思うと、そこから一人の少女が現れる。

 彼女は、その身に光り輝く荘厳な意匠の鎧を身にまとい、女神が如き美しいその顔には何の表情も見て取れない。


 空気がひりつくような圧倒的存在感に、そこにいた誰もが息をのむ。


 そこに一人の衛兵が、絶望的な恐怖に抗い、声を上げる。

「貴様何者だ!ここを何処だと思っている。」

 しかし、その声には覇気はなく、震えてさえいる。

 彼女がその衛兵の顔を睨みつけた瞬間、その衛兵が手にしていた剣や盾は、音もなく崩れ落ち、まるで時間が遡ったかのように、ただの砂鉄と化した。

 衛兵の体はぴくりとも動かなくなり、ただその場に膝まづくことしかできなかった。


 すると、他の衛兵がさらに声を上げる。

「えぇい、侵入者だ!全員で囲め!」


 衛兵たちは各々が自らを奮い立たせるように叫び、手にしている槍や剣を構え、十数人で一斉に突撃する。

 一瞬、彼女はその場に立ち止まるが、表情を変えることもなく、ただ一歩、前へ進んだ。

 次の瞬間、兵士たちが構える武器は音もなく崩れ、全員がその場に膝をつくと、そのまま動くことができなくなっていた。

 兵士たちは膝をついたまま、震えながら彼女を見上げる。

 彼女は何も言わず、ただ、静かに歩き出す。

 その場にいた全員が、王城に向かって歩く彼女の後姿を、ただ見ていることしかできなかった。

 何も語らずただ静かに歩く彼女の後姿は、美しくしなやかであるにもかかわらず、圧倒的な恐怖そのものが歩いているかのようだった。



 王城へと続く石畳の大通りを、彼女は静かに歩く。

 その背に、誰もが手を出すこともかなわず、ただ震えて見送るしかなかった。

 だが次の瞬間、空気が震え、彼女の口が開かれた。

 その声は、拡声魔法によって王都全域に響き渡る。

 老若男女、兵士も商人も、貴族も子供も、すべての者がその声を耳にした。

「私はヤーパニ皇国軍総司令官 元帥キラ・パラディオールである。

 先刻、貴国を含めた三国より、宣戦布告を受け、これを受領した。

 連合艦隊112隻は既に海の藻屑と化した。

 しかし、それでも私に抗う意思を持つ者がいるのであれば、武器を取り、気が済むまでかかってくるがいい。

 非武装の者であっても、愛国心を持って戦う意思があるというのなら相手をしよう。

 準備が必要なら、待ってやる。それが、せめてもの慈悲だ。」

 その声には怒りも嘲りもなかった。

 ただ、淡々と事実を告げるだけの、温度のない宣告だった。

 王都は静まり返った。

 誰もが、自分が“どちら側”なのかを問われたような気がした。


 王城最奥、謁見の間。

 豪奢な天蓋と深紅の絨毯に囲まれたその空間は、彼女の声が響いた瞬間、まるで時が止まったかのような沈黙に包まれた。

 玉座に座す男――第76代国王、ブランソン・ヴァルナ・フォン・ヘミエミルは、誰よりも早くその声の主の名を理解していた。

 その瞳は、驚きも恐怖も浮かべず、ただ静かに、深く沈んでいた。

「……やはり来たか。三国連合の浅慮が、彼女を呼び寄せた。」

 彼の言葉に、側近たちは顔を見合わせる。

「陛下、これは……宣戦布告では……」

「違う。これは“終戦の勧告”だ。」

 ブランソンはゆっくりと立ち上がる。

 その背筋は年齢を感じさせぬほどに伸び、威厳に満ちていた。

「三年前、我が軍が壊滅した時、私は理解していたのだ、あれら全ての作戦失敗が偶然であるはずがないと。あれでもマーリは優秀な船乗りだった、あれが嵐などで、艦隊を壊滅などさせるものか。では、誰がそのような天変地異程の現象を引き起こせるのか。黒竜や魔王を討伐出来る程の力を持つ、あの少女しかおるまい。まだあどけなさすら残るあの少女は、ヤーパニに突然現れて、彼の国のみならず、世界を変えて見せた。あの者は、戦場において“神”と呼ぶに値する存在なのだ。だが、民は知らされず。貴族は見なかった。軍は信じようともしなかった。……そして今、彼女は再び我らの前に立ちふさがった。」


「陛下、どうなさいましょうか? 迎撃を……」

「迎撃? 誰が? 何をもって? 彼女に抗うことができるとすれば、そうだな、金竜にでも頭を下げて頼んでみるか、運が良ければ食い殺されずに済むかもな、彼女の存在はもはや“信仰”にすら等しい。だが、私は神を信じぬ。だからこそ、対話を試みる。」

 その言葉に、謁見の間は再び静まり返る。

 誰もが、王の言葉の意味を測りかねていた。


「止まれ、侵入者!」

 鋭い声が響き、彼女の前方に総勢300名の兵士が整然と現れる。

 彼らは王国軍の中でも選りすぐりの精鋭――“蒼鷲騎士団”と呼ばれる近衛部隊だった。

 甲冑に身を包み、各々が魔法や剣技を極めた者たち。

 その中心には、団長であるルーニーが立っていた。

「我らが王城を、貴様のような者に踏ませるわけにはいかぬ!」

 ルーニーの声には、恐怖はなかった。

 彼はキラの名を知っていた。

 三年前、海戦で壊滅した艦隊の報告書に記された“光の聖女”の存在も、噂として耳にしていた。

 だが、それでも彼は剣を抜いた。

「蒼鷲騎士団、陣形を展開! 魔導障壁、展開!」

 兵士たちは一斉に魔法陣を展開し、空間を封じる結界を張る。

 空気が震え、魔力が渦を巻く。

 彼女は立ち止まり、彼らを見つめた。

「抗うことを選んだのね。」

 その言葉と同時に、彼女の足元に淡い光が広がる。

 魔法陣ではない。

 それは、彼女自身の存在が放つ“圧”だった。

 ルーニーが叫ぶ。

「全員、突撃!」

 騎士たちは一斉に地を蹴り、彼女へと向かって突進する。

 剣が閃き、魔法が放たれる。

 炎、雷、氷――あらゆる属性が彼女を包み込もうとする。

 だが、次の瞬間。

 すべての魔法が、彼女の周囲で静止した。

 炎は凍てつき、雷は霧散し、氷は蒸発した。

 剣が彼女に届く寸前、騎士たちの武器は音もなく崩れ落ち、砂鉄となって地に帰る。

 ルーニーは目を見開いた。

「な……っ!」

 彼女は一歩、前へ進む。

 その瞬間、騎士たちの甲冑が軋みを上げ、次々と崩壊していく。

 魔力の流れが断ち切られ、彼らは膝をつき、動けなくなった。

 ルーニーだけが、かろうじて最後まで立っていることができた。

 彼は剣を失い、魔力も尽きていたが、それでも彼女を睨みつけていた。

「貴様は、何者だ…。いったいなんだっていうんだ。」

 私は彼に近づき、静かに言った。

「私は、選択を与える者。貴方は抗うことを選んだ。誇りある選択だとは思うけど、結果は変わらないわ。」

 ルーニーは、膝をついた。

 その瞳には、敗北の悔しさではなく、理解の色が浮かんでいた。

 彼女は彼に背を向け、王城の門へと歩き出す。

 騎士たちは誰一人、命を奪われていなかった。

 だが、彼らが再び立ち上がることは叶わなかった。

 謁見の間に、急報が届く。

「陛下……蒼鷲騎士団、全滅です。ですが、死者は一人もおりません。全員、魔力を奪われたかのように、身動き一つとれない状態にあるとのことです。」

 ブランソン王は、静かに目を閉じた。

「やはり、来たか。あれは、破壊者ではない。審判を下す者だ。」

 側近たちは震える声で問う。

「陛下、どうなさるおつもりですか?」

 王は、ゆっくりと立ち上がる。

「謁見の準備を。余が直に彼女と話をする。」


 王城へと続く石畳の大通り。

 キラ・パラディオールは、ただ静かに歩いていた。

 その背には、誰もが手を出すこともできず、ただ震えて見送ることしかできなかった。

 彼女の歩みは、まるで時間そのものを支配しているかのように、周囲の空気を変えていく。

 通りの両脇には、商人たちの屋台が並んでいたはずだった。

 だが今は、すべての店が閉ざされ、布で覆われている。

 人々は窓の隙間から彼女を見つめ、息を潜めていた。

 誰もが理解していた。

 この存在は、ただの軍人ではない。

 ただの侵略者でもない。

 彼女は只、選択枝を与えただけだっだ。

 その歩みは、迫りくる王都の命運を告げるための、置時計の秒針のように、正確なリズムを刻んでいた。

 ある老女が、震える手で孫を抱きしめながら呟く。

「……あの光の鎧……三年前の噂は、本当だったのかい……」

 その声に、隣の男が答える。

「いや、真逆じゃないか、あれじゃまるで、悪魔だ…。」

 兵士たちの間にも、動揺が広がる。

 蒼鷲騎士団が敗れたという報せは、瞬く間に城内を駆け巡り、それでいて、死者は一人もいない。

 それが、逆に恐怖を煽っていた。

「殺さずに、無力化する……そんなことが、できるのか……」

 若い兵士が呟くと、隣の先輩兵士が答える。

「出来るんだろうさ、あの女は。お前も聞いたことがあるだろう、カーミオの恐ろしい魔物を、あの女はただ一人で、一匹一匹首を引きちぎって、その血を啜りながら殺していったって話を。俺たちも、ヤツに見つかったら、武器を奪われ、ひとまとめに殺されるんだろ。まるで死神だな。」


 兵士が、民が、それぞれ彼女の噂をしながら、その歩みを見守ることしかできない。

 ヘミエミルの民は、恐怖に絡めとられて行くのだった。


 王城の上空には、魔導障壁が張られていた。

 だが、彼女の接近により、その障壁は微かに揺らぎ始めていた。

 まるで、彼女の存在が空間そのものに干渉しているかのようだった。

 魔導技師たちは、制御盤の前で顔を青ざめさせていた。

「障壁が…決壊を始めています!」

「魔力干渉ではありません! これは……構造そのものが拒絶されている!」

「彼女の魔力が、障壁の“存在理由”を否定している……!」

 王城の中枢にいる者たちは、もはや理解を超えた現象に直面していた。

 キラ・パラディオールの歩みは、ただの侵攻ではない。

 それは、世界の“理”そのものに問いを投げかける行為だった。

 そして、彼女は王城の門前に立つ。

 その背後には、沈黙の王都。

 その前方には、沈黙の王城。

 誰もが、次に起こる何かを恐れ、それを知ることにすら、怖気を感じずにはいられなかった。


 キラは、静かに門を見上げる。


 その瞳には、感情はなかった。


 ただ、審判の刻が近づいていることを、告げていた。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

感謝の言葉しかありません。

よければ次のお話も読んでいただけるとありがたいです。

どうぞよろしくお願いいたします。

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