2.異世界初日
『おぉ、これが異世界かぁ。』
『やっぱり、転生=森の中はお約束なんだろうか。』
『ふむふむ、植生的にも地球と比較して違和感はないな。森の中では文明レベルは推し量れないけど、人の手が入っていない自然の森というわけでもなさそうだな。』
『ほうほう、この道は自然に出来たものじゃない、獣道というわけでもないだろうし、おっ!これは車輪の痕跡とみて間違いない。であれば、移動手段として徒歩以外の選択肢もあるということだな。多分馬車だろうけど、まぁいいや、とりあえず人を探すとしよう。』
『そうだ、この近辺で問題なく生きていけるだけの身体能力と魔力は必須として、この世界の情報収集の為にも、アニメかなんかでよくある対話型鑑定解析スキルを希望するとしよう。あの頭の中で声が聞こえるヤツ面白そうだし、発動条件は[ライブラ]と発声とかで良いかな。では、[ファクトチェンジ]と。』
俺は早速神イアロから受けた能力を試す意味でも、自分の能力値の補強と、情報収集の為にと新たなスキルをイメージした。
そして、早速手に入れたスキルを試そうと対話型鑑定解析スキル『ライブラ』を呼び出す。
「ライブラ。俺のステータスを教えて。」
[回:種族:人族(♀)
個体名:・・・
レベル:999
年齢:15
HP:99999
MP:99999
攻撃力:99999
守備力:99999
すばやさ:99999
賢さ:99999
運:99999
スキル:全能 鑑定
称号:なし]
俺は実際にスキルが発動したことへの感動を表現する間もなく、自分の顔や体をまさぐりながら、思わず声に出して言う。
「は?いきなりカンスト?名前『・・・』て、っていうか女ってなんだ!?つっこみどころしかないだろコレ。」
[回:マスターの性別は女性です。女性の特徴としては、男性と比較して身体能力や体格に劣る反面、生殖機能を備えていることで、]
「いや、いや、その辺の説明は良いよ。女が何かを知りたかったわけじゃないから。」
俺は女性についての説明を始めるライブラを遮る。
[告:学習しました。]ライブラは俺の言葉のニュアンスの違いを学習し、続けざまにこの世界にはないカンストという言葉の意味を俺自身の記憶に干渉することで学習しようとする。
[マスターのレベルは999です。カンストの意味をマスターの記憶からロードしました。
マスターのレベルはカンストではありません。
HPやMP等のステータスの数値に関してはたまたまです。]
「たまたま?」
[たまたまです。]
ライブラは俺の記憶へのアクセスにより、さらに数段人間に近い思考を手に入れることに成功していた。
「しかし、思っていたのとだいぶ違うな、無断で性別変更とかありえないだろ普通。」
俺は自分の姿をもう一度確認する。
自分の目で確認できるのは腕や足、そして、女性特有の大きく膨らんだ胸。
「手足細っそ!ていうか、胸がでかくて腹が見えない。以前は腹が大きくて股間が見えなかったけど。」
「ていうか、これはイアロと直接話す必要があるな!」
俺は憤慨しながらも、神イアロとの交信をイメージして[ファクトチェンジ]と念じた。
「イアロ!」
俺は怒気を含んだ声で神イアロに呼びかける。
「はい、あの、いきなり神様から名前呼び捨てに格下げですか。」
いきなり呼び出された上に、先程までとは打って変わって名前を呼び捨てられることになったイアロ。
精神的マウントをがっちり取られ、もはや立場が完全に逆転していることを認識してなのか、イアロは謎に正座中である。
「そんなことより性別女ってなんだよ、こういうことは事前に告知すべきだろ。年齢も中途半端だし、両親とか出身とか、細かい設定はどうなってんの?だいたい俺の名前が『・・・』って何!?設定雑すぎだろ。」
「あぁ、名前はご自分で好きにつけてください。そして、貴女にこの世界での両親はいませんね、両親を設定するとなると、赤ん坊からのスタートになるので。しいて言えば私が母ということになるのでしょうか。あと、両親の設定がないので、出身地も特にありません。必要であればこの森でも神界でも、好きな所でよろしいのではないでしょうか。」
イアロのこういう若干間の抜けたような回答にイライラを募らせる憲。
「あぁ、なるほど。私は神界から来た・・・です、お母さんの名前はイアロって言います、一応神様やっています。と、そう言えというんだ。」
「そんな感じでよろしいかと。」
「良いわけないだろ、言えるかそんなたわごと!」
俺は思わずマニュアル通りの突っ込みをかます。
いまいちよく意味を理解していないイアロだったが、俺の言葉の勢いに気おされて、「すみません、ごめんなさい、申し訳ありませんでした。」と、謝罪の三段活用を半べそをかきながら述べる。
「ほんとにもう、今度じっくり話す必要がありそうだね。神様がそんなんで本当に大丈夫かこの世界。まぁ、文句言い続けても埒が明かないから、落ち着いたらまた話しかけるから。じゃあまた。」
俺は言いたいことだけ言うと、一方的に会話をぶった切る。
イアロは突然の会話終了宣言を受けて、「唐突!?わ、わかりました、お待ちしております?で、では…。」と語尾をつまらせながらもなんとか別れを告げる。
俺は適度に膨らんでいる自分の両胸を持ち上げるように腕組をしながら、「とりあえず名前どうしようかな、この世界の一般的な名前なんてわからないし、かといって元の世界の名前じゃ語感的にも難がありそうだし、う~ん…。キモトアキラ、トモキ、ラキア、どっちも男っぽいな、う~ん、あ、最初と最後とってキラっていうのはどうだろう。あぁ、なんか良い響きだし、女の子の名前でもおかしくない気がする。ライブラどう?」
[回:この世界での一般的な女性の氏名としてのキラについては、特に問題点はありません。
一部地域の言語では、キラという単語が災害を意味しますが、個体の氏名としての使用に偏見があるという事例はありません。]
「なるほど、ありがとうライブラ。よし、俺の名前はキラに決めた。ライブラ。ステータスオープン。」
憲改めキラは満足そうな顔で自分のステータスを確認する。
[回:種族:人族(♀)
個体名:キラ
レベル:999
年齢:15
HP:99999
MP:99999
攻撃力:99999
守備力:99999
すばやさ:99999
賢さ:99999
運:99999
スキル:全能 鑑定 神託
称号:神の子]
キラは新たに追加された自分の能力と称号を見てつぶやく。
「神の子って…。イアロとの通信スキルは神託扱いになるんだ。ちなみにライブラこのステータスって他の人が俺のステータスを見ることはできるの?」
[回:不可能です。]
「じゃあ、俺が他の人のステータスを見ることはできる?」
[回:可能です。]
「つまり、この世界の平均値から算出した俺の現状のステータスとの対比としてライブラが計算したものを表示できるということで良いのかな?」
[回:正確な見解です。]
「じゃあ、他の人がもしライブラと同等のスキルを持っていたとしても、そのスキルの算出した数値が表示されるのであって、ライブラが算出した値が開示されるわけではないという意味での不可能という理解であってる?」
[回:概ね正確な見解です。マスターのステータスの数値をこの世界の平均値から算出していることから、逆算することで他の個体がマスターの数値の算出をすることは可能であったとしても、正確にスキルや称号を識別することのできるスキルの事例はありません。]
「つまりこのスキルは俺固有のものということになるのか。了解、わかったありがとう。ん?」
キラは背後の樹木の影からこちらを伺う気配を感じ、咄嗟に振り返る。
「早速魔物か?ライブラ。鑑定して。」
[回:種族:モカ
個体名:・・・
レベル:1
年齢:2
HP:12
MP:0
攻撃力:6
守備力:7
すばやさ:10
賢さ:2
運:2
スキル:なし
称号:なし
魔力を持たない一般的な野生の動物です。こちらに対し敵意を見せていますが、その動機は恐怖によるものと推察します、軽い威圧で撤退することが予想されます。]
「へぇ、モカか、名前の響きはモコちゃんみたいでかわいいけど、見た目が奇妙というかなんというか、足6本かよ。」
キラはモカのいる方を向いて勢いよく一歩踏み出すようなしぐさを見せると、モカは一度真上に飛び上がり、自分の体を反転させると、6本の足をフル回転させて、一目散に逃げだしていった。
キラはその後ろ姿を見送りながら、体毛があって6本足って何類?と疑問に思い、ライブラに質問する。「ライブラ、そういえば、この世界では哺乳類とか鳥類とかの概念はないのかな?」
[回:あります。マスターの認識と概ね合致します。不足な種族の一例を以下に列挙します。竜族・竜人族・魔族・魔物・獣人族。人族内でもヒューム・エルフィ・ドルフィ・ギガンテスなど身体的な特徴の差などによって、区別されています。]
「へぇ~、そうなんだ。完全に異世界ファンタジーの漫画やゲームだな。」
キラは自分の現状にいまいち現実味を感じることが出来ずにつぶやいた。
「ところでライブラ、俺のステータスだけど、全ステータスが99999はやりすぎじゃない?俺はこの森を無事に抜けられる程度を想定していたんだけど、さっきの毛の生えた蜘蛛みたいなのでさえHP12でしょ、魔物が出たところで、これ程のステータスは過剰なんじゃないの?」
[回:妥当です。この森には竜の生息が確認されています。
マスターが武器も魔法もない現在の状態で竜種と戦闘となった場合、一般的な人族のステータスでは高い確率で死亡することが予測されます。
しかし、マスターの現在のステータス値であれば、竜種と戦闘になった場合でも、問題なく生存可能です。]
「竜が出るの!?」
[出ます]
「ていうか、今の俺って竜と素手で殴りあって勝てるんだ…。でも、こんなに魔力あっても魔法って自然に打てるようになるものじゃないんだ。ライブラ魔法について教えて。」
[回:魔法とは、7種のエレメントを根源とした各種術式を組み合わせることで、あらゆる現象を引き起こすことが可能な技術の総称であり、火・水・風・土・光・闇・時の各エレメントを起源とする魔法を使用するためには、各エレメントとの契約が必要です。
複数のエレメントと契約することに制約はありませんが、通常の人族の魔力量では一種から二種のエレメントと契約するのが限界と言われています。]
「俺の魔力量だとどのくらいのエレメントと契約できそう?」
[全てのエレメントとの契約が可能です。]
「全部いけるんかい!」
ついにライブラとの会話でも突っ込みをかましてしまった。
[各エレメントとの契約を実行しますか?]
「ライブラがやってくれるの?じゃあ、よろしく!」
[了:各種エレメントとの契約を実行します。]
[火のエレメントとの契約を実行します。契約成功]
[水のエレメントとの契約を実行します。契約成功]
[風のエレメントとの契約を実行します。契約成功]
[土のエレメントとの契約を実行します。契約成功]
[光のエレメントとの契約を実行します。契約成功]
[闇のエレメントとの契約を実行します。契約成功]
[時のエレメントとの契約を実行します。契約成功]
[全てのエレメントとの契約に成功。続いて各エレメントを起源とする術式の解析・展開及び結合を実施しますか?]
俺は言葉の意味など1ミリも理解できていないが、そんなことはお構いなしに力強く右手を前に突き出し、満面の笑みでサムズアップしながら「Yes!」と答える。
[全てのエレメント起源の術式の解析・展開及び結合に成功しました。これにより現存する全ての魔法の使用が可能になりました。なお、記録にない魔法についても、場合によっては新たに精製することが可能な場合があります。」
「よ~し、それじゃ早速確認しますか。ライブラステータスオープン!」
特に意味はないものの、モチベーションが高揚しているキラは、左手の平らを左斜め前方に突き出して勢いよくステータスの開示を告げる。
[回:種族:人族(♀)
個体名:キラ
レベル:999
年齢:15
HP:99999
MP:99999
攻撃力:99999
守備力:99999
すばやさ:99999
賢さ:500000
運:99999
スキル:全能 鑑定 神託 火属性魔法 水属性魔法 風属性魔法 土属性魔法 光属性魔法 闇属性魔法 時空魔法
称号:神の子 魔導王]
「賢さヤバ、一気に5倍って。あぁ、でも魔法の具体的な名前は表示されないんだ。それじゃあライブラいくつかで良いから戦闘に向いてる魔法の具体的な名称と使用方法を教えて。」
[回:周辺で生息する平均的な魔物との戦闘を想定した場合、効果がある魔法は〈ファイア〉〈フリージング〉〈サンダー〉〈アースウォール〉〈シールド〉〈ヒール〉〈キュア〉などがあります。
使用方法に関しては、対象を認識して発声することで発動します。次に、魔法を使用して武器などを生成することも可能です。
製造方法は、完成形や素材、性能をイメージして〈クリエイト〉と発声することで物質が生成されます。
クリエイトの場合は生成する物の大きさや材質によって消費するMPが変わりますので、注意してください。]
「おぉ、戦闘魔法もすごいけど、物作りが出来ると!」
[可能です。]
キラはドラゴンとの戦闘を想定した武器と防具をイメージし、両手の平を前に突き出した姿勢で「よし、じゃあ早速。まずは剣と防具を。クリエイト!」と勢いよく言い放つと、目の前にいかにも高級そうなロングソードと鎧感は全く感じないものの、おしゃれを意識したものとは明らかに違う、戦闘のための軽装といった感じの防具が出現した。
装備が出現すると同時にキラは全身に若干の疲労感を覚えた。
「あぁ、これが魔力を消費する感覚なのかな、結構な量もっていかれたんじゃないかな。ライブラステータス。」
[回:種族:人族(♀)
個体名:キラ
レベル:999
年齢:15
HP:99999
MP:94999/99999
攻撃力:150000
守備力:120000
すばやさ:99999
賢さ:500000
運:99999
スキル:全能 鑑定 神託 火属性魔法 水属性魔法 風属性魔法 土属性魔法 光属性魔法 闇属性魔法 時空魔法
称号:神の子 魔導王]
「MP消費5000か、多いのか少ないのかわかんないな。ていうか、攻撃力と守備力の跳ね上がり方がエグい。武器と防具を持っただけでこんなに変わるものなんだ。もしかしてこれ魔法と一緒で、物理戦闘にも技術とかあるのかな。ライブラ、物理戦闘用のスキルとかってあるの?」
[回:存在します。剣術、槍術、体術など、それぞれ身に着けると相当な戦闘力の上昇が見込めますが、会得にはそれなりの時間が必要となります。]
俺は腕組みをしつつ右手で自身の顎を支え考える。『なるほどなるほど、普通ならそうだろう、自分で修行するなり、誰かに教わるなり、どちらにしても相当長期間の訓練をしないといけないだろうな。だが。』
キラはあらゆる物理戦闘用のスキル取得をイメージし[ファクトチェンジ]と念じた。
そして続けざまに「ライブラ、ステータス。」とつぶやく。
[回:種族:人族(♀)
個体名:キラ
レベル:999
年齢:15
HP:99999
MP:95999/99999
攻撃力:550000
守備力:500000
すばやさ:500000
賢さ:500000
運:200000
スキル:全能 鑑定 神託 火属性魔法 水属性魔法 風属性魔法 土属性魔法 光属性魔法 闇属性魔法 時空魔法 剣術皆伝 槍術皆伝 体術皆伝 弓術皆伝 棍術皆伝
称号:神の子 魔神 闘神]
キラは更新された自分のステータスを見て唖然としながらつぶやいた。「これって、人の範疇超えてるパターンだったりするんだろうか。」
[回:人族の戦闘職における平均値を大きく上回っています。
最上位の竜種及び魔物との戦闘においても、問題なく勝利することが可能と予測します。]
「つまり、人としてはぶっ壊れ性能ということか。」
するとその時、突然辺り一面が暗い影に覆われ、鼓膜が破れそうな程の咆哮が俺の耳を貫いた。何事かと空を見上げると、正面に、とてつもなく巨大な竜がその羽ばたきによって発生した暴風と共に降り立った。
辺りはさながらハリケーンでも通り過ぎた後であるかのように樹木が薙倒され、地面がえぐられている。
その姿は全身が漆黒の鱗に覆われ、血の色に似た瞳の中心には縦長の瞳孔。普通の人間であれば、その目で睨みつけられただけでショック死しそうな程の寧猛さがにじみ出ている。
「おいおいおいおい、マジかよ。これは所謂竜ってやつだよな。異世界に飛ばされて、初めてのエンカウントが竜とか流石に意味不明すぎて笑うしかないだろ。しかも見た目が昔流行ったカードゲームのレッドアイズブラック〇ラゴンそのまんまとかw」
犬のお座りの様な姿勢で俺の眼前に鎮座する竜。その姿はとてもそんな可愛いものではなく、全身から異様なまでのオーラをまき散らしている。
座った状態でも人間の身長の優に5倍はあろうかという巨大な竜が、頭上遥か高いところで大きく口を開け、俺を威嚇するように再度咆哮をあげる。
俺は即座に彼我の戦闘力の分析の為にライブラに呼びかける。
「ライブラ、あの竜を鑑定して。」
[回:種族:黒竜
個体名:・・・
レベル:132
年齢:172
HP:18000
MP:25000
攻撃力:30000
守備力:52000
すばやさ:12000
賢さ:38000
運:9500
弱点:逆鱗 氷系魔法
スキル:ブレス 飛行 風属性魔法 土属性魔法
称号:カーミオ大森林の竜王]
「ん?なんか、数値的には余裕を感じるんだけど。ライブラ間違いない?」
[回:はい。]
「これさ、カーミオ大森林ってこの森のことだよね?」
[回:はい。]
「ということは、さっきライブラが戦う想定してた竜ってコイツのこと?」
[回:はい。]
「俺のステータスできついなって相手、この世界にいる?」
[回:現時点で確認されている生命体の中で、マスターの身体及び生命を脅かす可能性が1%を超える存在はいません。]
「あぁ、やっぱりそうなったか。でもまぁ、死ぬかもしれないと怯えて暮らすよりは良いか。」
[回:現在この世界で確認されている成竜は17匹おり、黒竜より上位種の竜は紫竜、赤竜、金竜の三種存在しますが、これら全ての竜が束になってかかってきたとしても、マスターを死傷させることは不可能と予測します。]
「そこまで…。ちなみにこの黒竜は討伐した方が良いの?」
[回:人族の間では、年に数回捕食されるなどの被害が出ているため、度々討伐クエストやレイドが発生しています。
ただし、成功例はありません。]
「了解。まぁ、目の前にいるんだから成功はしてないんだろうけど。とりあえずは素手で行ってみるかっ。」
と、言い終わるより先にキラは上空高く飛び上がり、そのままの勢いで、黒竜の顎を下から突き上げるように殴りつけた。
咆哮を続けていた黒竜は、その咆哮を途中で遮られるかたちとなり、「グフォッ。」とおかしな声を出したかと思うと、そのまま崩れ落ちるように地面に突っ伏した。
俺は反撃を警戒して、地面に突っ伏している黒竜を睨みつけたまま、戦闘態勢を継続した。
すると、突然呼び出してもいないのにライブラが語り始める。
[告:レベルが上がりました。
ちなみに黒竜は死亡しています。]
「うわ、ビックリした。ライブラ突然どうした。」
[回:黒竜は先程のマスターの一撃で、人族でいう脳幹を破壊され、絶命しました。
マスターはその事実を把握していない可能性が極めて高いと判断し、告知を実施しました。]
「そうなんだ、いや、いちいち呼び出さなくても、その場の空気を読んで色々と教えてくれるのは正直助かるから、今後もこんな感じで頼める?」
[了:今後は常時起動状態を継続します。]
「ところでさ、この竜死んだの?生き返ったりしない?」
[回:脳の主要な組織が完全に破壊されているため、自然蘇生は不可能です。
魔法による蘇生を実施しても、一部の記憶や機能は欠損する可能性があります。]
「じゃあさ、これってさ、街とかに持って行ったら売れたりするの?」
[回:竜の素材は過去に取引の記録がありませんが、恐らく全ての部位が非常に高値で売買されると予測します。
下位種族であるワイバーンでも1匹丸ごと販売した場合、1000万ミル程度の価格で取引された記録があります。
以上を総合して判断すると、10億ミル以上の値が付くことは間違いないと予測します。]
「すごそうな金額だけど、貨幣価値がいまいちよくわからないからな。」
[回:パン1個の相場が1ミル 馬1頭の相場が7000ミル 家を建てるのに最低でも15万ミル 一家四人が一生遊んで暮らすのに必要な額が500万ミルと言われています。]
「ということは、1ミル100円くらいと考えて良いのかな。となると、10億ミルって1000億円級!?ただ、こんなの持ち運びなんてできないし、特に高そうなところだけ選んでって、そうだ、ライブラ、魔法で何か持ち運びに便利なのってないの?」
[回:次元収納の使用を推奨します。]
「おぉ!どうやって使うの?」
[回:対象を視認して「次元収納」と発声してください。
次元収納内では時間の経過も停止するので、現状のままの保存可能です。]
「ナイス便利技!でも、そんな高価なものなら売りに出したら一騒動起きるのは目に見えてるし、しばらくはそのまま保管になるだろうな。」
俺は先程倒した黒竜を次元収納に収めると、辺りを見回しつぶやいた。
「しかし、さっきの竜も傍迷惑な奴だな。自然破壊も大概だよこれは。なんとかならないかなこれ。」
[回:リカバリーを推奨します。]
「おぉ、あるのね、良い魔法が。じゃあ、リカバリー!」
辺りに倒れた樹木や破片が見る見るうちに元の姿にもどってゆく。
「いいね、完全に元通りじゃん。素晴らしいなこの魔法は。」
「そういえば、さっきレベルが上がりましたって言ってたよな。ライブラステータスお願い。」
[回:種族:人族(♀)
個体名:キラ
レベル:1002
年齢:15
HP:120000
MP:129955/130000
攻撃力:559000
守備力:520000
すばやさ:585000
賢さ:540000
運:280000
スキル:全能 鑑定 神託 火属性魔法 水属性魔法 風属性魔法 土属性魔法 光属性魔法 闇属性魔法 時空魔法 剣術 槍術 体術 弓術 棍術
称号:神の子 魔導王 格闘王 黒竜殺し]
「なんか、ステータスの上昇値が適当な感じがするけど、まぁいいか。それより早めに街にたどり着きたいけど、ライブラこの辺りに街はある?」
[回:この街道を黒竜が飛来してきた方向とは逆に進むと城塞都市があります。
徒歩で向かった場合6時間程度を要すると予測します。距離にすると38.7キロです。]
「結構遠いな。ライブラこの世界に魔道具的なものって存在する?」
[回:存在します。]
「じゃあ、魔力を流すことで小規模な爆発を繰り返す魔道具は?」
[回:存在します。]
「それじゃあ、丈夫な金属や金属加工技術、あと、ゴムやグラスウール、樹脂製品的なものなんかはある?」
[回:概ね存在します。]
「概ねか、無いのはどれ?」
[グラスウールや樹脂製品については、素材となる原材料の存在は確認されていますが、グラスウールやプラスチックなどの生成技術は存在しません。]
「なるほど、じゃあ目立つ部分にその材質は使えないな。カウルはあきらめるか。マフラーの中の消音材をどうするかな。ライブラなんかこの世界の難燃素材とかって何か良いものないかな?」
[回:消音材としての使用を想定しての難燃素材であれば、燃えない魔法をエンチャントした布の存在が確認されています。
主に冒険者などが着るコートなどに使われている素材です。]
「おぉ、それ良いね。それ使おう。」
俺は金属加工技術や必要な材料などの情報を確認すると、「クリエイト!」と発声した。
すると、キラの目の前に、オートバイのようなものが現れる。
「クリエイト凄いな、でも、おおざっぱなイメージしかできなかったからうまく動くのか。」
俺はバイクにまたがると、ハンドルグリップを握りしめ、魔力を注ぐ。するとバイクは大きな音をたててエンジンを始動させ、ギヤを入れるとゆっくりと動き出した。
「やった、動いた、これで街まで楽に行ける!」
俺は、魔力を込めると爆発を繰り返す魔道具をバイクの混合気爆発の代替として利用し、この世界で作れる最も熱に強いとされるミスリルと鉄の合金製のエンジンを載せたバイクを作ったのだ。通常のバイクのプラグにあたる部分をグリップまでつなげることで、魔力を流すことが出来る仕組みにし、魔力が尽きるまで動き続けることのできる、異世界特性バイクをクリエイトした。
「名付けるなら、魔導バイクかな。でも、道が道なだけに、あまりスピードは出せないかな。ところでライブラ、この森って竜以外に魔物はいないの?」
[回:カーミオ大森林には約70種の魔物の生息が確認されています。]
「にしては、まったく出てこないな。」
[回:先程から周囲に魔物は存在していますが、危機察知能力の高い魔物は、マスターの気配を察知し、危険な存在であると認識して襲ってこないものと推測します。
危機察知能力が低い魔物や、大型で頭の弱い魔物については、マスターの偉大さを理解出来ずに襲撃してくる可能性はあります。]
「了解、って、俺を持ち上げたり、口悪かったり、なかなか性格出てきたじゃん、相棒としても楽しくやれそうだな。それじゃあ出発するとしようかな。」
キラは、マフラーから聞こえる小気味の良いエンジン音を楽しみつつ魔導バイクを走らせた。