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18.統治

数ある作品の中から、私の作品を見つけてくださり、ありがとうございます。

稚拙な文章ではありますが、読んでいただける方に楽しんでもらえるよう頑張りますので、今後ともよろしくお願いします。

 私がこの世界に来てから、早いものでもう半年の月日が流れていた。

 ヘミエミルのサルモア侵攻以降は、特に大きな問題もなく、ジェミソンも良い落としどころで断罪されたことで、私の領地運営は極めて順調に進んでいた。

 イチカ達ライブラ分体衆は非常に優秀で、私が法の整備を指示してから、僅か2日であらかたの法体系が整ってしまっていた。

 その後も、迅速な法の頒布、施行日の設定、施行後の実務を執り行うことの出来る人材の育成、日本で言うところの弁護士会的な所に関しては、領立では問題があるとして、ベルカーさんを出資者ということにした、民間組織としての立ち上げ、裁判所長官にしても、やはり他の分体衆とリンクしていたのでは、公平性に疑問が残るとし、スタンドアロンの分体を新たに製作し、裁判所長官ジャスティーが誕生した。

 そして、今日がとうとうそのパラディオール法の施行日で、これから私は領民の前に立って演説をすることになっていた。私が、演説をだ…。

「それでは領主様、司会の者が領主様のお名前を呼びましたら、あちらの扉からお願いいたします。」

「はぁ…。」

 私は気のない返事をすることで、全身全霊を持って演説を拒否したい感情を表現してみたが、そんなものは華麗にスルーされてしまう。

 すると、扉の向こうで司会者が「それでは、我らが御領主様であられます、キラ・パラディオール侯爵様より、皆さんにお言葉を賜ります。盛大な拍手でお迎えいたしましょう。キラ・パラディオール侯爵様、よろしくお願いいたします。」

 という、集まった人たちを盛大に煽る声が聞こえた。

 私は、これ以上ないという程の苦笑いを浮かべて会場内に入り、演台に登壇した。

「皆さん、本日はお忙しい中お集まりいただきありがとうございます。本日から、当パラディオール領において、新たにパラディオール法を施行することとなりましたので、一言ご挨拶を申し上げたいと思います。」

 私は会場に集まる民衆の一人ひとりを見つめるつもりで、ゆっくりと会場を見回した後で、「コホン。」と一つ咳ばらいをした。


「人は自分の生活圏を脅かす者を、排斥したり畏怖したりするものです。一方その垣根を超えた場所で起きていることに、関心は示せど、真摯に向き合おうとはしない。


 この世界には、ここで生きる全人類と同じだけの世界があって、各個人が自分を中心に回る世界を持っている。


 人は知らないものを恐れる、どんな人間なのか、どう扱えばいいのか、何を考えているのか、何処に向かっているのか、どんな力を持つのか。知らないから対処法が見えてこない、知らないからコミュニケーションが取れない、コミュニケーションが取れないから、知ることが出来たはずのことも知りえない。


 そして、言語、信教、皮膚の色、耳の形、鱗や角の有無、身体の大きさ、ありとあらゆる人との違いが、確執を生み、誤解を生み、差別を生む。


 だから、知る努力をしましょう、隣人を今一度見つめなおしてみましょう、宗教を信仰しているから善人なのか、公的機関に所属しているから堅実なのか、住む家も持たずその日暮らしだから悪辣なのか、小さな店を経営して生計を立てているから凡庸なのか。 


 答は否です。


 何処にいても、どんな姿をしていても、善人もいれば悪人もいる。所属する国や組織そのものには崇高な理念があるかもしれないけど、そこに属する全ての人は、それぞれ一つの人格をもつ個人であって、それぞれが意思を持っています。


 それと同時に、個人が何を信じ、誰を愛し、何を貴ぼうとも、それは自由です。


 そして、皆が等しく、平等に、生まれて、健康に、幸福に生きて、安らかに眠る権利を有しているのです。


 それを脅かそうという悪意には、皆で団結して立ち向かわなければならない。


 各個人が努力をして富を得ること、名声を求めること、堅実に凡庸に生きる道を選ぶこと、それらは全て悪ではない。

 悪とは、それら人が求めるであろうものを、不正な手段によって簒奪する行為を指します。


 このパラディオールは、人々が平等に生きる権利を有する領地であり続け、貴族も平民も、等しく公平公正であること、それらを正しく維持するため、パラディオール法を制定することとし、全ての領民は、法の下に平等であることをここに宣言します。」





 わずかな沈黙、そして、その後の大歓声は、本気で会場が割れてしまうのではないかと心配する程のものであった。

 私はしばらくの間、その歓声を全身に受け止めるという拷問を甘んじて受けた後、颯爽と身をひるがえし、降壇したのだった。

「あの沈黙、ありえない程にスベったかと思った。ていうか、これじゃあ完全に只の晒し者じゃん。もう二度と演説なんかしたくない…。」

 私はそう独り言ちながら、会場を後にした。


「キラ様、お見事な演説でございました。」

 深々と頭を下げながら、今の私には気休めとしか受け取ることの出来ないような賛辞を述べるベルカーさんに、鬼子から総帥に昇格した例の赤いあの人みたいな嫌味を言う。

「これではまるで道化だな。」

 当然ベルカーさんは言葉の意味を理解できずにキョトンとしている。

 私は一人、心の中で、言葉の意味を必死で理解しようと思案するベルカーさんに『坊やだからさ。』と、思い浮かべてニヤっとする。


 明日はいよいよ法整備後初の議会の予定だ、今までは私を中心とした会議だったが、今後は各方面の責任者を招集し、私が述べた意見に賛成する為の形式的な会議ではなく、それぞれが忌憚なき意見をぶつけ合う場にしたいという願いを込めて、領議会と命名した。

 まだ青写真段階ではあるが、いずれは代議制を敷くことが出来ればとも考えていて、なんなら私が領主ではなくなってしまっても、なんの問題もない。というか、むしろそうなってほしいとさえ願っている。

「それでは、これより第一回パラディオール領議会を開催します。本日の議題については、お手元の資料にある通りです。では、キラ領主様、お願いいたします。」

「はい、えぇ、皆さんご存じのとおり、昨日パラディオール法が施行されましたので、今後は、法に基づいた領運営に当たることになりますが、各方面で従来とは大きく変わる部分も多々ありますので、各方面の責任者の方々におきましては、疎漏の無いようご留意願います。つきましては、一点、従来と大きくその取扱いに変更が出るものの一つとして、犯罪者の取扱いが挙げられます。これまで、罪を犯した者の処遇については、一貫性が保たれることはありませんでした。時には窃盗を働いたからと手首を切り落とされたり、人を殺めたからと首を切り落とされたりする者もいれば、巨額の横領をはたらいた者を国外追放で済ませたり、人を欺いて金品を搾取したのに、騙された方が愚かだと済まされてみたり。

 汗水を垂らして働いて、必死で貯めたお金、親の形見と大切に保管しておいた思い出の品、人様に迷惑を掛けず、只々真面目に生きている者の命、そんな、善良な領民が、より良い領地になるようにと預けてくれたお金、この世界は掛替えのないもので溢れています、しかし、それを脅かそうとする者もまたいます。

 それらの、罪を犯した者は、今後はパラディオール法内の刑事法に基づいて、有罪か無罪かを決める裁判を行い、有罪の者については、今後は刑務所に入ってもらいます。刑を務める所で刑務所です。

 有罪判決を受けた者は、その罪の度合いにより、死刑に処すか、懲役を科すかを定め、懲役を科された者については、刑務所に入り、労働を義務付け、その他に矯正教育を受けてもらいます。何の刑だから何年というものではなく、矯正教育を修了し、再び社会に復帰した後に、再犯を犯さないと判断されるまで、刑は終了しません。

 また、人を殺めるという行為については、その被害の回復はどうすることもできないので、その場合は死刑とし、薬殺または魔法殺とし、いずれの方法によっても死ぬことがない場合は、私が任意の方法によって確実に刑の執行を完了します。

 それと、特殊な例として、性犯罪を犯した者の刑についてですが、これも一般の犯罪同様、刑務所で刑を執行することになりますが、この性犯罪という特質上、やはり殺人同様、被害者においては、回復できないトラウマを背負って生きていくことを強いられます。その恐怖や屈辱は、生涯拭われることも無く、人によっては自身を傷つける程の精神的障害を受ける人もいると聞きます。ですので、この性犯罪に関しては、私が開発した特殊な魔法紋を刻むこととし、刑務所から出所した後も、簡単に性犯罪者であることがわかるようにします。刑務所の部分については、箱についても既に郊外に建設済です、組織としても完全に警察機構とは分離した存在として、既に刑事法に明文化されておりますので、ご存じかと思いますが、この性犯罪の部分に関しては、今後、なるべく早い段階で、改正法として議会を通したいと思っていますので、皆さんよろしくお願いします。」 

 私の提案に対して、数名の代表者が難しい顔をしている。

「議長。」

「エドワルス商工会長。」

「只今のキラ領主様のご意見についてですが、流石の御配意に感服いたしました。しかしながら、この性犯罪者に対する魔法紋という点については、聊か度を越した刑罰なのではないかと。刑務所で受刑した後の人生において、死ぬまでその魔法紋を背負って生きていくということですよね。それでは改善更生したとしても、周りの目が気になって、まともに生きてはいけなくなるのではありませんか。」

 私はすかさず挙手をして、意見を述べる機会を求める。

「キラ領主様。」

「只今のエドワルス商工会長のご意見、まともに生きていけないという部分については同意です。私個人の意見としては、私の性別が女性だからということではなく、これまでそういった被害者となった方達の、その後の人生というものを見聞きしたうえでの意見となりますが、正直に言うと死刑でも差し支えないと思っております。ただし、それではあまりにという声も聞こえてくるのは目に見えていたので、譲歩したうえでの今回の提案となります。被害者と加害者で、加害者が被害者よりも優遇されるということはあってはならないというのがパラディオール法の理念です。であれば、確かに人によってはそれほどの精神的苦痛を覚えない被害者もいるかもしれませんが、そこを基準とすることが間違いであるのは商工会長もご理解いただけますよね。正直なところ、私は性犯罪の被害にあったことはありませんし、私を被害者にすることの出来る人間が、この世に存在するとも思えませんが、それでも、もしもという観点で考えた場合、性犯罪を受けた自分を許容出来るかと聞かれたら疑問が残ります。その後の人生を幸せに生きていくことが出来るかと聞かれたら、答えは否となるでしょう。本来子孫を残すため、愛する我が子を得る為、そういう目的で行われるはずの性行為を、ただ快楽を貪るための行為として、自分よりも力の弱い者を無理やり屈服させて行為に及ぶことの卑劣さや、相手に対する人権の軽視を考えれば、むしろ、生きていられるだけで感謝してほしいとすら思います。」

「エドワルス商工会長。」

「確かに、法の下の平等という観点からすれば、妥当と言えなくはないとも思います。ただし、やはり更生の機会を与えたいというキラ領主の理念からは外れるのではないでしょうか。そこで、私からの提案なのですが、魔法紋については初犯時は時効式にすることは出来ないでしょうか。5年とかそのくらいで一度消える、若しくは申し出により消すとか、そのような仕組みにすることは出来ないでしょうか。累積犯については生涯魔法紋を背負うというところを落としどころとすることはできませんでしょうか。」

「キラ領主様。」

「確かに、エドワルス商工会長のおっしゃる通り、更生の機会という観点で見た場合、初犯時から生涯となると、更生はほぼ不可能に近いとは思います。ただし、性犯罪というのは、ある種の病のような側面もありますので、受刑して矯正処遇を受けたからと言って、心の奥の底の底までを見極めることもまた不可能に近い。その点については私の方でも実は相当考えました。最初は魔法によって、強制的に脳を…。というのも考えましたが、それでは去勢と何も変わらないという結論になったほどです。

 そうですね、わかりました、では、5年ではあまりにその責任に対する対価としては安すぎると考えますので、10年でどうでしょう。初犯時は、出所後10年間魔法紋を背負うこととし、10年を経過した後は、自動的に紋は消えるという術式を構成しようと思います。ただし、その甲斐なく、さらなる性犯罪を犯した場合は、生涯消えぬ魔法紋を背負うこととする。これでどうでしょう。」

「エドワルス商工会長。」

「しかるべく。」

「キラ領主様。」

「ご理解感謝いたします。」


 といった感じで、パラディオール領議会は、私の意見だから全員が完全同意ではなく、それぞれがそれぞれの立場を代表して、意見を交換しあうという形で、あらゆる課題について議論を重ね、領地運営を進めて行くこととなる。当然私も最大限の理論武装で議会に挑むつもりではあるが、私の場合はライブラ様が付いてるので、他の代表者からみると、相当なアドバンテージを持っているに等しいのだった。





最後まで読んでいただきありがとうございます。

感謝の言葉しかありません。

よければ次のお話も読んでいただけるとありがたいです。

どうぞよろしくお願いいたします。

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