16.陽光
数ある作品の中から、私の作品を見つけてくださり、ありがとうございます。
稚拙な文章ではありますが、読んでいただける方に楽しんでもらえるよう頑張りますので、今後ともよろしくお願いします。
私は皇都の皇王執務室に直接転移し、直接皇王陛下に自分の推測を話すことにした。
「皇王陛下、突然のご無礼お許しください。実は、取り急ぎ陛下にご報告しなくてはならない件がございましたので、こうしてご無礼を承知の上で参上いたしました。」
「よいよい、其方ならば今後も取り次ぎなど必要ない。其方がその気になれば、ここの護衛などあってないようなものであろう。して、報告とはなんじゃ。」
「はっ。実は、昨日の話になりますが、私が魔王を討伐する直前に、実はトベルの防壁が破られ、魔物が領内に侵入するという事件が発生しておりましたが、ちょうど私がムーシルトに到着した頃の話でしたので、そのまま私がトベルに赴き、魔物を殲滅し、そのまま魔王についても討伐してきたのですが、その際に、少々違和感を覚えるところがございましたので、軍の士官に調査を依頼しておりました。昨日の今日なので、それ程多くの情報は集まってはおりませんが、間違いなく言えることは、防壁の破損は人為的なものであるということでして、何者かが、何らかの意図をもって、防壁を破壊し、パラディオールに混乱を生じさせようと画策したということになります。そして、遡るとその前日には陛下の暗殺未遂がありました。さらにその数日前には、ハーコッテへの魔物の侵攻がありました。これらは全て偶然、私の行動によって全て未遂に終わりましたが、もしこれらの事件が全て成就していたとしたら、ヤーパニの中でも最大級の戦力を誇る北部の軍が、ほとんど機能しなくなるという状況に陥っていたはずです。となると、その状況下で最も得をするのは誰なのかと考えた場合。」
「ヘミエミルか。」
皇王陛下が、私の話を遮ってその名を口にしたことで、最早疑う理由はほぼ無くなったともいえた。
「陛下もそのようにお考えになられますか。」
「彼の国とはこれまでも色々といざこざが絶えないからの。」
「そうでしたか、これで私の推測も裏付けられた気がします。サルモアが危機に晒されている可能性が高いと思われます。」
「しかし、今からサルモアまでとなると。しかも、海戦であろう。分が悪いの。」
「もし、お許しいただけるのであれば、私が向かいます。一人で。その方が早いので。」
「なんと、行ってくれるのか。」
「私としましても、国同士の争い事には極力関与したくはないのですが、最早私も領地を賜った貴族という身分ですし、今回の件には、私も少々思うところが御座いますので。それに、海上での事故であれば外交的にも面倒なことにはならないと思います。むしろ、こちらの艦隊を出した場合、これはもう開戦ということになりますので、色々と無駄なお金もかかります。私の到着が万が一間に合わなかった場合は、後の処理については皇都の軍部にお任せさせていただくことになりますが、いずれにせよ、ヘミエミルの艦隊は私が殲滅してまいります。」
「すまぬの、しかし、其方が我が国に来てくれて本当に良かった。朕はこの件について、速やかに対処するよう下知することとする。その後の事はこちらに任せるがよい。」
「ありがとうございます。それと、私は今回直接敵兵を殺すようなことはせず、敵艦を叩くつもりです。しかし、海上で船を失えば、ほとんどの者は命を落とすとは思いますが、それでも生き延びた者については、ヤーパニの奴隷とせず、海難事故の被害者として、ヘミエミルに送り届けていただきたいのです。」
「それはどういうことじゃ。」
「はい、今回の件、我々は実質的にはほぼ被害を受けておらず、受けた被害も概ね回復出来ております。そして、海上を進む艦隊にしても、こちらはまだ何も気が付いていない状況でした。ヘミエミルにしてみれば、ことごとく目論見を打ち砕かれた結果となりますが、その全てが偶然によるものであって、こちらの軍事行動によって阻止されたものではありません。であれば、我々には何も知られておらず、しまいには遭難者を送り届けてよこすおめでたい国として、油断を生じさせることが可能となりますし、私には、ヘミエミルに間者を忍び込ませる算段もございます。つまり、敵国との外交においても、軍事作戦上においても、後の先を取ることが可能となります。表面上は恩も売れますし。」
「なるほど、しかし、其方は恐ろしい程に頭が回るの。しかし、其方の言うことはもっともじゃ、其方の策を全面的に許可する。」
「はっ。ありがたき幸せ。それでは早速行ってまいります。」
「キラよ、頼んだぞ。」
「はっ。」
ヘミエミル国海軍 第一師団旗艦 戦艦グラービル艦橋
「アト1ジカンホドデ サルモアガミエテクルトオモワレマス。」
「フム、ワレワレガコウジタ3ボンノヤ、イズレカヒトツデモジョウジュスレバ、ヤーパニガ サルモアニサクセンリョクナド ナクナルハズダ、シカモ、ドノサクモ ヒトスジナワデハ カイケツデキヌダロウ、ナニセ アイテハマモノダカラナ。ウァーッハッハッハ。」
ヘミエミル艦隊の旗艦であるグラービルの艦橋、総司令官であるマーリ提督が、航海長の報告に、上機嫌で返す。
彼らが向かうサルモアは、そもそもが商業都市であり、軍備はそれほど高くはない。
加えて彼らが弄した策によって、北方からの援軍が来ないというのであれば、進軍がかなり楽になる。
海軍の艦隊30隻に加え、海兵を乗せた揚陸艦25隻の総勢55隻の大艦隊で、最早マーリ提督には勝ち筋しか見えていない、なんなら今回の作戦行動にしても、洋上のバカンスくらいの気持ちだったかもしれない。
「ゼンソクゼンシン、シンロ コノママ、ソウイン ダイ2シュ セントウハイチ。オウハジンケイ ニテンカイシテ ススメ。カンシ オコタルナヨ。」
海面は穏やかで、太陽の光が反射して、世界がキラキラと輝いているようで、その海面を横に大きく広がった船団が波の形になって進む様はまるで、どこまでも精巧に作られた、ミニチュア模型のようだった。
「シカシ、コノシズケサ…。フッ キユウダナ。コノウミガ ワシヲ ウラギルコトナド アリエヌハナシダ。コレマデモ、ウミハ ツネニ ワシノミカタ ダッタノダカラナ。」
マーリ提督は、海面に反射する光に、一瞬目を細める。
勝利は揺るぎないものであり、作戦の失敗などありえない。
ほんの一瞬、胸をかすめる不安など、一陣の風でかき消される程度の違和感でしかない。
彼はそう思うことで、喉の奥に痞える小骨を飲み込むことにした。
私は今、ヤーパニ皇国のリュチョス領海上都市サルモアの南西30海里程の地点の上空150mの辺りで浮遊している。
ちなみに浮遊や飛行は当然風魔法を使うのが一般的で、特別珍しい魔法ではないが、私の場合は、そこに若干の闇魔法を添えて、重量を軽減しているので、尋常じゃない速さで飛ぶことが出来る。
私の眼前には、雄祐と大海原を進軍中の、実に50隻を超えるヘミエミルの艦隊があった。
私に背を向けて、ひたすらサルモアを目指す艦隊は、これから自分達の艦隊が海の藻屑となることなど、誰一人として予想できなかっただろう。
「さて、海での事故と言えば、突然の嵐とか、怪獣襲来とかかな。」
私はまず、こういうのは雰囲気が大事だろうと、とりあえず黒のローブと木製の杖をクリエイトで作成し、自らを悪い黒魔導士テイストにコーディネイトし、続いて、風魔法でだんだんと波が高くなるように調整したあと、水魔法で厚い雲を作り、同じく水魔法で大粒の雨を若干加速させて降らせ、辺りを暗転させてから、盛大に雷の魔法を艦隊の進行方向に落としていった。
おそらく航海士は何の前触れもない突然の嵐に面食らっている事だろう、国民的海賊マンガの美人航海士でもないかぎり、この状況を潜り抜けることは不可能だとは思うが、ただ、嵐で船が数隻転覆したので進軍を断念しましたでは、今後再び戦争を仕掛けてくる可能性を残すことにもなるので、私は、水魔法を使って巨大な海水製怪獣を作成し、艦隊の旗艦がいる辺りの下から、海面を盛大に盛り上げて出現させ、周囲の艦船をことごとく殴りつけて轟沈させた。
「コレハイッタイ、ナンダトイウノダ、ナニガオコッテイル。コウカイチョウ、コレハッ、ウゥォオォオォォォォ!」
この時マーリ提督は、航海士を呼びつけて、怒鳴りつけてやろうとしていた、しかし、突然の得体のしれぬ怪物の出現に、その怒りをぶつけることもなく、言葉にならぬ咆哮と共に、旗艦グラービルもろとも海面に叩きつけられ、海の藻屑となった。
艦隊殲滅にかかった時間はおよそ10分程度と、若干魔王討伐より手こずった感があったが、それでも、直接攻撃をして殺すということはせずに、あくまでも海難事故を装う必要があったので、これもまたやむなしと、納得することにした。
「私、ちょっと魔法の使い方わかってきたかも。」
今回の件で、魔法の微妙なコントロールにも慣れ、今後はもっと色々なことが出来そうな気になるのだった。
ヤーパニ皇国リュチョス領近海。
ヤーパニ皇国海軍上層部ではなく、皇王陛下から直接のお下知により、サルモア駐留のヤーパニ皇国海軍の巡洋艦数隻が、先日海上で突然起きた嵐の被害状況調査の為、サルモアの南西10海里程の海域を巡行中、先頭を走る艦の船首と海上を漂う木片が接触。
すると、次々と西から船の残骸らしき物が流れてくるのを確認した為、3隻の巡洋艦は西に航路を変更すると、おびただしい数の船の残骸が座礁しているのを確認。
発見出来た遺体は優に300を超えていたが、その中に数名の生存者を発見したので保護、サルモアの診療所で治癒魔法を受け、7名が命を取り留めたが、残り2名は治癒の甲斐なく命を落とした。
ヤーパニ皇国海軍は、遺体や遺留品を回収したところ、遺体、生存者共に全てが魔族であったことから、ヘミエミル国に連絡したところ、海上にて演習中であった第一師団の艦隊が、嵐にあい消息不明となっているとの回答を得、生存者とともに、遺体や遺留品についても、全て返還した。
というストーリーが公式発表されたが、実際のところは、私が全て回収し、サルモア駐留の海軍に引き渡したというのが真実。
さらに、遺体の中から1体、それなりに階級の高そうな軍服を着ている、(おそらく将校と思われる。)遺体を選び、遺体には申し訳ないが、改めて海に沈め、その遺体の容姿に酷似した器ドールを作成し、ライブラ分体を仕込んだ。
その将校の脳を解析し、ある程度の記憶についてはエクスポートが可能だったので、そのまま活用させていただく。
生存者7名の中に、そのライブラ分体(モデルとなった将校の名前はアンソニー・ライカス少佐というらしい。)を仕込むのは造作もないことだった。
ライブラ本体曰く、ライブラ分体が一人でもいれば、そこから周囲の生物にカメラ機能を付与するのは、簡単らしいので、これで、今後ヘミエミルで起きることは、全て私の知ることとなる。
「これで私を出し抜けるのであれば、むしろ褒めてあげたいくらいね。」
私は今後のヘミエミルの動向如何によっては、魔族という種族に対して、徹底的な対処も厭わないと覚悟を決めると同時に、これ以上命を粗末にするような行いは厳に慎んでほしいと願った。
一連の騒動は、実は国家としては、相当な危機であり、それを単独で回避したキラ・パラディオール侯爵の功績は計り知れないものだったことは、言うまでもない。
何者かによって黒竜が動かされ、それに伴いカーミオの魔物がハーコッテに侵攻。
皇王陛下暗殺。
パラディオール領魔王領側防壁破壊による魔物の襲来。
ヘミエミル国海軍艦隊撃破。
それらの何れもが、たった一人の少女によって、全て未然に防がれるなどという事実を、誰が予想しえただろうか。
しかも、国防という視点以外にも、世界的な功績と言えるであろう、黒竜討伐に、カーミオ大森林平定、魔王討伐、魔王領整備。
特に黒竜については、ヤーパニのみならず、近隣のワルラやエプシオも頻繁に被害を受け、大陸を超えた地域にまで被害を拡大させていた。
それら全ての問題を、僅か10日足らずで全て解決するという偉業を成し遂げたキラ・パラディオール侯爵は、望むのであれば、この世の全てを手にすることも可能だったはず。
実際問題エプシオやワルラ、ジャブラダの三国からは、皇国に対し、属国となりたい旨の申し出があり、皇王はこれを受け入れ、これによりヤーパニ皇国は全世界の半分を占める大国となり、それまで不安定だった世界情勢も、一応の落ち着きを見せたのである。
しかしながら、キラ・パラディオール侯爵は、パラディオール領に旧魔王領を吸収するのみで、それ以上の報奨を受け取らなかった。
いや、受け取ることが出来なかったと言った方がよいだろう。
数ある功績の中でも、キラが成したと公表されているのは、黒竜と魔王の討伐のみで、それも、ヤーパニ皇国軍の総司令官として、という枕詞が付けられる形で世界に公表されていたので、全てを結びつけるのは困難なはずだったが、それでも世間では、彼女の事を聖女であるとか軍神であるなどと噂する者が後を絶たなかった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
感謝の言葉しかありません。
よければ次のお話も読んでいただけるとありがたいです。
どうぞよろしくお願いいたします。
追記~
海里の単位を勘違いしていたので、一部修正しました、申し訳ありません。
あと、本日も誤字を報告してくださった方、本当にありがとうございます。
いつも、丁寧に読んでくださり、感謝の言葉しかありません。
今後ともよろしくお願いします。