12.魔王城
数ある作品の中から、私の作品を見つけてくださり、ありがとうございます。
稚拙な文章ではありますが、読んでいただける方に楽しんでもらえるよう頑張りますので、今後ともよろしくお願いします。
御前試合の翌日、私は皇宮に隣接されたゲスト用の宮殿に宿泊していて、そこで朝を迎えていた。
ハイゼンスリーブ卿はカーミオ大森林についての協議があるとのことで、昨夜の晩餐会は欠席し、一足先にハーコッテへの帰路についていた。
一方私は、早速今日にもムーシルトに入り、そのまま魔王領への侵攻を開始する旨皇王陛下に申告していたので、その予定で準備に取り掛かろうとしていると、皇王陛下からの書状と、ムーシルト駐在官への書類が届いたとの知らせを受け、内容を確認すると、概ね昨日のお下知と同様の内容が記載されていた。
あくまでも、今回のムーシルト入りは、新領主として自領や居城の視察という名目となっており、魔王領への侵攻は、後日私が総大将となり、大軍勢を率いて大々的に開始するとの内容が記載されており、国内や対外的な書面としての体裁を整えたものだった。
昨日の打ち合わせどおり、私はムーシルト城に入場し、最終防衛ラインの視察と称して魔王領に入る算段で動くため、早々に出発の準備を終え、昨日ディロン内務大臣から受け取っていた皇王陛下への挨拶文を使いの者に託すと、そのまま出発した。(この挨拶文無く出発してしまうと、皇王陛下への不敬罪が適用されてしまうとのことで、昨日の内に内務大臣が定型文のようなものを書いて、そのまま使いの者に渡すようにとの言葉とともに、書簡を受け取っていたのだ。)
私は当日中に魔王領に入りたいと思っていたので、魔導バイクを飛ばして、途中の街や村はスルーし、真直ぐにムーシルトの居城へと向かった。
道中、漠然と魔導バイクに跨っていても仕方がないので、ライブラに魔王領についての確認がてら、色々と情報を整理することにした。
「ライブラ、魔王領全域のマップは出せる?」
[回:可能です、ヤーパニ皇国及び魔王領、竜谷のマップを脳内に展開します。]
「ありがとう、って良いね、地名入りじゃん。なるほど、ムーシルトからさらに西に進むと魔王領なんだ、隣接してるわけじゃないのね。まぁ、当たり前か、で、この魔王領との境目に細長く伸びてるのは防壁なのかな。」
[回:南の海沿いから北にかけて、魔王領及び竜谷とヤーパニ皇国の境界に防壁が設置されています。ムーシルト城の西南西約100キロの地点に、ヤーパニ皇国最終防衛拠点が設置されています。]
「100キロもあるんだ、でもまぁ当たり前か、最終防衛ライン突破されてすぐに街があったんじゃ、一般人も逃げるに逃げられないからね。で、ムーシルトから最終防衛拠点までが100キロだとすると、この魔王領の中心辺りにある点が魔王城ってことだとすれば、さらに100キロ近くありそうだね、80キロくらいか。」
[回:概ね正解です。]
「ちなみにさ、今回もカーミオの時みたいに、マップでロックしてフリージングアローで殲滅ってパターンでいけるんだよね?」
[回:可能です。ただし、魔王領に入ってすぐのヤーパニ皇国との境界付近から、かなりの範囲にアンデット系の魔物が分布しているので、セイリアルフレームの上位互換であるサンクチュアリを推奨します。セイリアルフレームより広範囲かつ高威力でアンデット系魔物を殲滅することが可能です。]
「サンクチュアリね、了解。」
[告:補足説明を実施します。サンクチュアリは術者が放出する魔力量によって、その範囲が決定されるので、マスターが全力でサンクチュアリを展開した場合、範囲、威力共に過剰展開されることが予想されます。魔王領全域をカバーする程度であれば、魔力を1000程度に調整する必要があります。]
「それってさ、調整しないで、例えば全力で展開した場合って、どんな影響がでるの?」
[回:サンクチュアリには必要魔力の下限はありますが、上限がないため、一気に魔力枯渇症状を引き起こし、戦闘不能状態になります。]
「おっと、マジか、でもいきなり魔力を調整しろと言われても、どうやれば良いの?」
[回:サンクチュアリの展開及び魔力調整の補助が可能です。サンクチュアリの展開及び魔力調整の補助を実施しますか?]
「ライブラさん流石だね、その時はお願い。そろそろ見えてくるかな、ムーシルト。」
[回:この丘を登りきるとムーシルトの城が視認出来ます。]
「もう少しじゃん!」
私は、魔導バイクのグリップを握る手に、自然と力が入るのを感じた。
ムーシルトに到着すると、門衛が何やらあわただしいように見えた。
もしかすると私が来ることが伝わってバタついているのかとも思ったが、なにやら空気がピリピリしているように感じる。
門を通る際に、皇王陛下からの書状を提示すると、愛想のない雑な応対をしていた衛兵が一瞬氷ついたような顔をしたが、瞬時に切り替え「少々お待ちいただけますか。」と述べて門衛詰所に下がると、すぐに上官と見える衛兵を引き連れて戻ってきた。
上官らしき人物は、私に成体するなり俊敏な動作で敬礼をし、厳しい表情で語り始めた。
「キラ・パラディオール閣下、お初にお目にかかります、私はこの東門を預かる通関所長を任ぜられておりますヘイズ曹長と申します。実は先程、西側最終防衛拠点であるトベルより、魔物が防壁を破り領内に侵入、現在駐在兵団300名で応戦中との急報が入り、急ぎ軍を編成する必要があるため、兵を招集せよとの通達がありました。着任早々恐れ入りますが、これより城にて軍議が開始されますので、急ぎ登城をお願いいたしたく存じます。」と切迫した声で報告してきた。
私は報告を受け、そのままヘイズ曹長に「それでは、ここの衛兵さんの何方でも構いませんので、城に人をやって今から私が言うことをそのまま伝えてください。軍議はとりあえず必要ありません、トベルには私が向かいます、護衛なども必要ないので、慌てて追いかけてくることのないように伝えてください。魔物の群れは私が殲滅いたします。ちなみにこちらの被害状況の報告は来ているのでしょうか、被害が出ているのであれば、その救護に全兵力を上げて対処するように通達してください。あ、これ置いていくので、必要であれば使ってください。だいたいはこのポーションで治るはずなので。そうそう、それと、一応念のため西の門の外に兵を配置してください、数は100人もいれば事足りるとは思いますが、その程度の人数なら配置できるでしょう。」と伝えて、次元収納から出した100本程のポーションが入った木箱を預けると、そのまま西側の門から出て、トベルへと向かった。
西の門を抜け、しばらく進んで森に入った辺りで、ライブラに声をかける。
「ライブラ、このままバイクじゃ時間かかるから、マップの座標指定で転移しようと思うんだけど、トベルからバイクで5分くらいの場所で適当な場所に転移お願い。」
[回:了解しました。転移を実施します。]
「おぉ、丁度いいね、砦が見える位置。」
私はそのまま魔導バイクで砦に向けて飛ばしつつ、状況を確認すると、砦から少し北に行った辺りが騒がしく、衛兵の集団と魔物が戦っている様子であったが、衛兵の陣形に乱れを感じた。
「ライブラ、あれって話をしてたアンデット系の魔物ってことかな。」
[回:その通りです。アンデットの魔物からの攻撃で、一部の衛兵が感染し、見方に襲い掛かっています。]
「とりあえず、サンクチュアリで魔物を殲滅してから、感染者の対策を考えるとしよう。」
[回:サンクチュアリを使用することで、感染者も無力化することが可能です。感染者は一時的に意識を失いますが、体力の回復にともなって覚醒します。ヒールの使用で即時回復することも可能です。]
「素晴らしい、じゃあやるか、魔力量1000ね。」
[告:マスターの魔力ゲージを視覚化します。]
「ライブラ、ナイスアシスト!よし、サンクチュアリ!」
私がサンクチュアリを発動させると、私を中心に光の図形や文字が広がって行き、既に端の方は視認できないところまで広がっていき、今度は視認できない程遠くから上空に半球を形成するように私の頭上に光の束が戻ってきた。
私は衛兵たちが唖然として動きを止めているのを確認すると、少々声を張り、全軍を指揮する貴族風に指示を飛ばした。
「私は、本日付けでこのパラディオール地域の領主を拝命したキラ・パラディオール侯爵である。動ける者は怪我をした者や意識を失っている者を砦まで搬送し、待機せよ。意識を失っている者については、意識が戻ったとしても動かすことなく、私が戻るまでそのまま休養させること。アンデット化については既に治癒を済ませている、再度襲い掛かることはないので、怪我人と同室で休養させても差し支えない。それと、指揮官はいるか。」
私が指揮官を呼び出すと一人の兵士が前に出て「指揮官殿は先程アンデットに襲われてアンデット化してしまい、現在あちらで意識を失っておられます。」と報告してきた。
私は、その兵士に「貴殿の官職・氏名を述べよ。」と指示すると、その兵士は姿勢を正して私に成体しつつ敬礼をすると「パラディオール方面軍トベル防衛大隊所属デイビス軍曹であります。」
「よし、デイビス軍曹、馬に乗れる者2名を選出し、現状をまとめ、ムーシルトへ伝令を出すこと。ちなみに、現在確認されている中で、死者はいるか。」
「いえ、先程のキラ閣下のお話ではアンデット化は問題なく、解消されているとのことでしたので、死者は出ておりません。通常であればアンデット化した時点で死者としてカウントするのですが。」
「了解した、それでは先程の指示通りに動くように。」
「はっ!ちなみに閣下はどちらへ。」
「私はこれより魔王城へ向かう、っていうか、この話し方疲れるので元に戻しますね、私もともと貴族でも何でもないので、こういう話し方してると舌を噛みそうになるんです。」
「それはかまわないのですが、魔王城へ向かうというのは、どういうことでしょうか。」
「えぇとですね、私皇王陛下より魔王討伐を仰せつかったのですが、そのうち皇都から軍を率いてというでしたけど、お金もかかるし、死人は出したくないので、私一人でこれから魔王城に行って、討伐しちゃいます。」
「はぁ、はぁ?」
「まぁそうなりますよね。そうだ、お城自体は壊さなければ後々使いようがあるかもしれないので、そのままにしようと思ってましたが、お城の外はどうでも良いので、外にいる魔物ここから全部やっつけちゃいましょう。デモンストレーションです。」
『ライブラ、ここから魔王領全域の魔物ロック出来る?』
[回:可能です。……サーチ及びロックが完了しました、全ての魔物に対し、フリージングアローを発動しますか。]
『ライブラちょっと待って、もう少し派手目の魔法ってないかな、ここにいる皆さんに視覚的に楽しんでもらえそうなやつ。』
[回:炎系統の魔法は見た目も威力も申し分ありませんが、周囲への影響が懸念されます。森林火災を引き起こす可能性が高くなります。周囲の土から弾丸を形成して射出するストーンバレットを推奨します。]
『それじゃそれで行こう。』
私は魔法使いが謎の言語を操って詠唱をしているかのように振る舞い、日本語で「ナムアミダブツナムアミダブツコノヨノヨコシマナルモノヲウガテ、ストーンバレット!」となえると、私の周囲の地面が捲れ上がり、土の中の無機物が一度粉状になったかと思うと、一つ一つが人間の拳大くらいの円錐状に再結合し、一瞬空中で滞空状態になったあと、凄まじい勢いで射出された。
その場にいた兵士は全員が全員ストーンバレットが飛んで行った方の空を見上げて唖然とし、口々に今のは何だったんだ、ストーンバレットって単発の魔法じゃないのか、そもそもあんなデカいストーンバレットなんて見たことがない、あればバレットじゃなくてキャノンだ、など等、それぞれが思い思いの驚きの言葉を述べていた。
私はそんな兵士達に向かって、大きな声で言った。
「今の魔法で、魔王領の地表にいる全ての魔物を殲滅したので、もう防壁の外に出ても問題ありません、そこの壊れた防壁の修理も必要ないでしょう。これから魔王城へ行って、魔王を討伐してくるので、皆さんは安心して待っていてください。昼食を食べ終える頃には戻ると思います。」
私は言い終えると、そのままくるっと回れ右をして、崩れた防壁を超えて魔王領に侵入した。
兵士達は遅れて歓声をあげていたが、振り返ることもせずそのままある程度進むと、魔導バイクを出して魔王城へと向かった。
途中、ドロップアイテムの回収を忘れていたので、ライブラに回収を依頼し、以後ドロップアイテムの自動回収モードに設定してもらい、止まることなく魔導バイクを走らせると、小一時間程で魔王城が見えてきた。
魔王城に入ると、ゲームのように迷宮的な空間が広がるわけでもなく、普通に正面に大きな階段が設置されており、その先に通常とは別の観音開きの大扉が設置してあった。
ライブラにサーチをしてもらったが、1階にはどの部屋にも魔物の反応はなく、正面の階段上の大扉の奥に集中している様子で、私の侵入にも気が付いているようで、魔王を奥に据え、その周囲を囲うようにその他の魔物が身構えているようだった。
普通に考えれば当然のことで、魔王が最も重要な存在であると仮定するならば、魔王城のいたるところに魔物を配置しても、接敵しない可能性もあり、その分の戦力が無駄になる。
それならば、一か所に集まって魔王を護衛しつつ一点集中で最大火力をぶつける方が圧倒的に効率が高いと考えるのは、魔物でも魔族でも人でも同じこと。
やはり奥に進むにつれて、高レベルのモンスターが現れ、勇者パーティーを削っていくというのは、魔王を倒される前提の布陣でしかない、魔王戦の直前に得た経験値で覚えた上位魔法で魔王を討伐なんて、魔王からしたら直前の中ボスが戦犯だと断罪したくなる話だろう。
私はそのまま魔王がいるであろう大扉を開扉して、中の広間へと進む。
私を認めた魔王とその配下達は、私に向かって何かを叫んでいるように聞こえたので、ライブラに翻訳を依頼してみるが、ライブラでも何を言っているのかわからないようだったので、もしかすると言語ではなく咆哮なのかもしれないという可能性は感じつつも、一応ファクトチェンジで魔物の言語を理解できるようにすると、魔物が私に話しかけていたことが判明した。
魔物軍団の中でも特に強そうで、魔王配下の中でもリーダー格っぽいヤツが「貴様は何をしにここに来た。」と言っているようだったので、私は魔物の言葉で「お前たちの後ろにいるその魔王を倒して世の中を平和にするためですが。」と答えると、手下リーダーは「残念だがそれは叶わない、魔王様を倒すには神の衣と刃を持って挑まねば不可能、それに、倒したとて、またすぐに復活してこの地を再び手中に収めるであろう。」と私を軽く煽るよな事を言うので、私は「アームズ」と言って神装衣を装着し「もしかしてコレのことでしょうか?」と言うと、手下リーダーの後ろに控えていた魔王の顔色が変わった。
現在私の目の前には魔王含め20体以上の魔物がいる、そして、私は神装衣を装着している、恐らくこのままこの剣を横薙ぎに一振りしただけで目の前の魔物は消えてなくなる。
私も別に戦闘狂というわけではないので、このまますんなりと終わらせたとしても特に問題はないが、一応年末の格闘技番組を楽しく視聴することもあったし、オリンピックの柔道やボクシングの世界戦なんかも、テレビで放送されていればビールを片手にあーだこーだ言いながら楽しく観戦していた。
つまり、別に戦闘シーンが嫌いというわけでもないし、少なからずそういった格闘家の中でも勝利を収めて何かしらの称号を得る人達に憧れる気持ちも持ち合わせているので、誰に見られることも無い戦いではあるが、そこは少しだけヒーローっぽい事をしてみたいという茶目っ気を出すことにした。
今現在の自分の身体は、常識の範疇を超えた身体能力を有している、ということで、昔見たカンフー映画の主人公のように、素手で相手をすることにした。
剣を鞘に納め、やったことはないが、一応それっぽく腰を落として拳を握り、構えをとる。
すると、こちらの様子を窺っていた魔物達が一斉に襲い掛かってきた。
突き出された槍を側転しながら飛翔してかわし、私を見上げる魔物の頭部に膝を入れて撃破「一つ。」続いて私の着地を狙って振り上げられた剣を、人差し指と中指の2本で白羽取りしつつ、その勢いを利用して再度飛翔し、天蓋を蹴って急降下しながら踵落としで頭蓋を割る「二つ。」左右から薙ぎ払われた槍と剣の間を回転しながら飛んでかわし、それぞれ柄と束を手で押して魔物の首と胴に突き刺す「これで4つ。」
その後も廻し蹴り、後ろ廻し蹴り、バック&ブロー、回転蹴り等々、思いつく全ての恰好良さそうな攻撃で、次々と魔物を倒して行く。
魔物との攻防を繰り返しながらも、頭の中で『これ録画出来てたら、そこらのアクション映画よりも恰好良い動画になったんじゃないかな。』などと漠然と考えていると。
[告:魔王討伐証拠映像として俯瞰視点より記録しています。後刻再生が可能です。]
『マジで!?すごいじゃん、これ皇都に映画館とか作って流したらボロ儲けじゃない?』などと、脳内でライブラを大絶賛しつつ、その他の魔物を倒し続けた。
魔物も残り魔王含めて4体となった時、私の前に立ちはだかる人族の平均値よりやや背の高い魔物が、短い棒状の物を中断に構え、その短い棒から赤い光が伸びて、刃が形成されたかと思うと、その光の刃で切りかかってきた。
私は一度後ろに飛んで回避しつつ、ライブラに尋ねる。
『ちょっとライブラ、あれ何?ライ〇セイバーじゃん!めっちゃカッコいいんですけど、あれ欲しい!!!』
[回:倒して奪う他、クリエイトで作成可能です。]
『私あの構造物の原理が全くわからないけど、大丈夫なの?』
[回:不足している部分についての理論補完が可能です、実施しますか?]
『します、します、します!』「クリエイト!」
クリエイトを唱えた私の右手には、あの最初の三部作に登場した光剣(緑の刃バージョン)の柄が握られていた。
私はその光剣を両手で中断に構え、魔力を込めると、緑に発光した刃が伸びるのを目の当たりにして、テンションが急速に爆上がりする。
ここからはスター〇ォーズEP3の『アナ〇ン対オ〇ワン』のあの戦闘シーンみたいな感じで行こうと、嬉々として赤光剣の魔物に襲い掛かる。
赤と緑の光の刃が交わり発する火花にいちいち興奮するが、いまいち雰囲気が出ないなと思っていると、部屋の中が明るすぎることに気が付いた私は、ストーンバレットで天井の照明用魔道具を破壊し、窓腋に纏められた厚手のカーテンの纒紐をエアロソーで切ると、部屋の中が薄暗くなる。
完全な闇ではないにしても、薄暗くなることで光の刃の交錯が映える。
私は頭の中で『コレ、コレ!』と興奮しながら、相手の剣戟を自分の身体や光剣をクルクル回しながら受けつつ、魔物が疲れて止まった瞬間に、自分も止まって例のあのシーンの再現などと一人で楽しんでいた。
そうして、しばらく光剣による戦闘を楽しんでいたところ、相手が私目掛けて突いてきた光剣の刃を、私が自分の光剣の刃を巻き付ける様に受けて上にはね上げると、魔物は光剣を落としてしまったので、普通に取りに行こうとした。
私はその行動を見て思わず叫んでいた。
「ちょっと待って、そこは歩いて取りに行っちゃダメでしょ!」
魔物は私が何を言っているのかわからないという様子で小首をかしげる。
私は右手を突き出して魔物を制し「いいから、そのままそこにいて、あ、右手をこんな感じで出していて、違う違う、もっとこう、そう、そんな感じ。」と言って、魔物に細かい指示を出すと、風魔法を使って魔物が出した右手に光剣を飛ばして持たせる。
そう、今は只戦っているわけではない、あの戦闘シーンの再現なのだ、つまり、光剣を落としたら、フォ〇スで拾わなければならないのだ。
そうこうしているうちに、私もフ〇ースで光剣を拾いたくなったので、わざとピンチを装って、自分の光剣を後ろに大きく弾き飛ばされ、相手が私目掛けて光剣を振り下ろそうとする際に、右手を突き出して、フォ〇スで首を絞めているように見せかけて、風魔法を操って魔物の首を絞める。
相手が首を押さえてもがいているうちに、倒れたまま左手を伸ばして風魔法で自分の光剣を手繰り寄せ、そのまま魔物を下から逆に袈裟斬りしつつ、飛び上がって宙返りし、綺麗に着地した。
私は満足していた。
この世界に来てから今日で7日目、この1週間で最も充実した時間を過ごすことが出来た。
いや、もしかしたら前の世界での人生の中でも、これほどまでに自分が楽しいと感じて体を動かしたことはなかったかもしれない、そのくらい私の心は満たされた。
しかし、つい忘れてしまいそうになっていたが、今日の目的はそこにいる魔王を討伐することだった。
配下も最初に叫んでいた魔物を含めて残り2体を残すのみだが、早く帰って先程の光剣での戦闘を再生してみたいという気持ちの方が、圧倒的に強いので、面倒だからそのまま魔王に近づきつつ、持っている光剣で残りの魔物2体を瞬殺し、杖を掲げて何かをしようとしている魔王も一突きで倒す。
すると、「おのれ人間如きが、我をこの姿にさせるとは、大したものだ。」などというセリフとともに、RPGゲームよろしく第二形態へと変身しようとしたので、変身が完了するのを待つことなく、再度一突きで倒す。
第三形態もあるようだったが、変身している途中に「まだ変身している途中だったデショボワッ。」くらいで以下略。
こうして人類を苦しめ続けていた魔王という存在は、この世から消えてなくなった。
カーミオ大森林同様、このまま放置すればいずれは復活するのだろうが、私はこの後しっかりと事後処理をする予定なので、地上で魔王やその配下が猛威を振るうということは、金輪際ないはずである。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
感謝の言葉しかありません。
よければ次のお話も読んでいただけるとありがたいです。
どうぞよろしくお願いいたします。