1.転生
数ある素晴らしい作品の中から、私のような初心者の書く稚拙な文章を見つけてくださりありがとうございます。
この小説は、私のライトノベル好きが高じて、思わず自分でも書き出してしまったというもので、初めての作品ですので、何かと読みにくかったり、意味が不明な点などもあるかとは思いますが、今後も努力して、まずはこの物語の序章でもある、神話編を書ききることを目標に頑張りたいと思いますので、どうか暖かい応援、よろしくお願いします。
本当に稚拙な文章なので、評価やコメントを求めたりはしません、読んでいただけるだけでありがたいと思っています。
何かご指導いただけることなどありましたら、その際はよろしくお願いします。
俺は大概の事には動じることなく対処できる自信がある。
人にはよく何を考えているのかわからないと言われるほどに感情の起伏が極めて平坦な人間だ。
今まで50年近い人生を経て、色々な事を経験してきた、良い事も悪い事も沢山あったし、時には人に裏切られたと感じるような出来事もあり、時には心の底から誰かに感謝することもあった。
つまり、大概の事はもう既に経験しており、一度経験したことに対する私の思考は『それはもう知っている。』から始まるので、その後の対応も淡々とこなすせいか、人からは喜怒哀楽の薄い人間だという評価になるのだろう。
しかし、誤解を招く恐れがあるので、これだけは言っておく。喜怒哀楽の表現が薄いのであって、ないわけではない。俺だって人並みに喜ぶし、怒るし、悲しむし、楽しむ。
つまり、何が言いたいのかと言われると、感情表現は希薄ではあれど、普通の人間であるということだ。
そして、普通の人間は、こんな状況になれば、普通に狼狽えるし、混乱するのである。
『ん?何処だココ?』
『え?身体は?身体がない?』
『視界ははっきり見えている。のか?』
『夢?周りには何もないし、真っ白な空間?でも、ホワイトアウトのような感じではない、白トビとも違うし、マンガやアニメで見るような天国みたいな感じというのが一番形容できている気がするな。耳は聞こえているのか、聞こえていないのか、もしくは音がしていないのか、わからない。』
『うん、そうだ。今のこの状況がさっぱりわからない。何なんだコレは、誰かいないのか?いや、やっぱり夢だろう、ありえないだろう、こんな状況。目が覚めたら思い出そうとしても思い出せないヤツだろうきっと。』
俺の名は城元憲、今、突然何もない白い空間で覚醒した。
俺は出張の帰路、事前に鞄に入れておいたはずの電車のチケットを紛失してしまい、やむなく深夜バスのチケットをとり、その移動途中、眠気に誘われ、そのままバスの座席で、心地良いとはお世辞にも言えないシートに身をゆだね、仮眠をとっているはずだった。
少なくとも、俺の記憶によるならば、そのはずだ。というか、それ以降の記憶は、ないような気がする。
「貴方はキモトアキラですね。」
俺は唐突に名前を呼ばれ、思わず振り返ると同時に「はい!」と勢いよく返事をしてしまった。
『おぉ、びっくりした。思わず返事をしてしまった。』
『あ、返事した声はちゃんと出ていたな、自分の声も空気の振動的な普通の聞こえ方だったから、発声はできているのかな?耳もまぁ聞こえているとして大丈夫だろう。』
『で、今のはどこから聞こえたのだろう?視界には何もないように見えるけど。』
『あ、いる、いかにも神様っぽい感じの服を着て、頭に冠っぽいものをかぶっている人が、しかも光ってるし、遠目でも綺麗な女性だとわかるオーラを感じる。』
俺が女性を認識すると、その女性は高速で移動してきたというよりは、テレビの画面の切り替わりのような感じで、突然目の前に現れ語り始めた。
「私はイアロと言います、あなた方人間達の間で云うところの神です。」
「キモトアキラ、貴方は今たいへん混乱していることでしょう。本来なら、貴方の人生はまだまだ続くはずでしたが、貴方は我々神の手違いによって死んでしまったのです。」
「我々神からのせめてもの償いとして、貴方を別の世界に転生させ、その世界で生きてゆくうえで有益な力を与えます。」
「貴方が望む力を、どんな力でも一つだけ与えますので、希望を言ってみてください。とはいっても混乱の最中だと思いますので、先に色々と質問してくれてもかまいませんよ。」
その美しい女性の語る言葉には、何から何まで信ぴょう性を感じない。自分を神であると言い、俺はその神によって死んだと言い、しまいには最近流行りの異世界転生とチートスキルのゴールデンコンビ。職場の若い部下にライトノベルが大好きすぎる者がいて、とにかく異世界やスキルの話しかしないので、最初は話を合わせるのに苦労したが、最近では彼の言っていることが普通に理解出来る程に覚えてしまっている。そんな彼のおかげで、今の話も理解は出来るが、それはあくまで物語の中の話であって、現実に起こる話ではありえない。つまり、この動揺しない俺が、極めて取り乱している。
『は?死んだ?何時?どんな状況?』
『いやいや、待て待て待て待て、神様の手違いで死んだ?業務上過失致死?』
『いや、落ち着け、神様に人間の法律は関係ない。で、お詫びに異世界転生?有益な力って、チートスキル持ちってやつか?』
『中二病の子供でもあるまいし、五十手前のおっさんに、今更異世界で勇者にでもなれっていうのか?だったら元の世界に戻して、何事もなかったようにしてくれればいいよ、って、それはできないのか。出来るのであればそもそもこんな告知なんてしなくても、俺が知らないうちに元通りにしてしまえば良い話で、それが出来ないから特別待遇をしてあげますよってことなのだろう。だいたい手違いで死んでしまったとしてもだ、神様が俺に説明さえしなければ、俺はそんなこと認知のしようがないじゃないか。つまり、俺に知らせたうえで、俺の同意をとり、俺の希望どおりにしましたよと、俺の意思に則った措置を講じましたよという体裁が必要ということか?今回の事は神様間で共有されていて、明らかに今目の前にいる神様の過失であることが知れ渡っており、これをそのまま放置することは神様間のルールか何かによって、禁じられているということなのか?しかも、その罰がこの神様にとって深刻な問題となりうるということだ、些細な問題なら捨て置けば良いという話になる。つまり、今この状況下において、俺は神様に対して優位に立っているということなのか?人間のこの俺が?』
俺は取り乱しながらも、冷静に状況を分析しようと努めた。これまで何度も窮地に立たされたことはあるが、考えることを放棄しさえしなければ、何とかなることの方が多かった。ダメならその時また考えれば良い、常に考えることを止めさえしなければ、きっと対処できるはずだ。
俺はイアロと名乗る自称神からの告知を受けた後、わずか数秒の間で考えを巡らせ、そして、イアロにとってはけっして開示したくはないであろう致命的な質問を投げかける。
「ではまず、私が神様の過失によって死んでしまった、という事実を私に告知した理由を教えてください。」
神を名乗る者イアロは今明らかに動揺した。俺はこれまで仕事で何度も交渉をしてきた、そして、相手が動揺した瞬間が最大のチャンスであることを知っている。今、イアロの額からは汗が流れ落ち、俺に向けていた視線を外して右斜め上を向き、後ろ手に手を組んで吹けもしない口笛を吹いている。今時マンガでもこんな白々しい描写をするだろうかという程にわざとらしい仕草で動揺を隠そうとする神イアロ。
先ほどの推理と今のこの仕草で、俺は完全に現在の状況と、イアロという神を見定めることが出来た。いや、平たく言うなら、マウントを取ったのだ。
出会いからおよそ20秒で神へのマウントを取る男、それが城元憲 48歳 会社員 既婚 子供無し 飼い猫1匹 只今絶賛死亡中。
「こ、告知した理由ですか?それは、その、えぇと、何と言いますか、質問してとは言いましたけど、なんでもお答えすることが出来るわけでもないので、他に何か聞きたいこととかありませんか?例えばどんな感じで死んだのかとか、家族はどうしたとか、色々とあるでしょ?」
イアロという名の神の動揺は激しく、あからさまに話題を変えようとしている。憲はイアロに対して冷ややかな目を向け、続けざまに問いただす。
「死んだ事実が変わらないのであれば、その過程については特に重要性を感じません、先程貴女は私が神の手違いで死んだと言いました。つまり、どういう経緯で死のうが、私の死という事実に対して、神である貴女に責任の所在があることが明らかとなり、しかも、その事実を私に告知しつつ、私を異世界へ転生させ、おまけにチートスキルも付与するという、いわば謝罪の方法までおも開示したということは、貴女にはそれを開示しなければならない理由があるということになる。つまり、私の死をうやむやにしたり、無かったことにするには貴女にとって受け入れがたい不都合がある。と、そう考えなければつじつまが合わない。なぜなら、私にその情報を告知しないで、起きた事をうやむやにし、単に人間が一人死んだということにすれば良いだけの話なのにそうしなかったということは、そうすることのできない事情があったと考えるのが妥当です。次に、仮に私の死が私個人の話ではなく、例えば天変地異か何かで大勢の人間が死んだとして、私がその中の一人だった場合。もしそうならここにはもっと大勢の人間だったものが殺到しているはずですが、見渡す限りそのような雰囲気も感じない。ということは、やはり今回の死者は私一人の可能性が高い。そうすると、必然的に離れた場所にいた家族に異変があるとは考えにくい。であれば後は私の死で悲しんだとか悲しまないとかそういう話は聞きたいとは思いません、聞いて気持ちの良いものではないですから。それに、家族の今後の生活に関しては、私の生命保険で住宅ローンはなくなるし、保険金も降りるでしょう、あ、遺体はちゃんとありますよね?それに、会社の業務中であったことを考えれば、会社からの補償も受けられるだろうし、年金受給までの残り20年弱であればなんとか食つなぐことも出来るでしょう。そもそも妻はしっかりしているので、私がいなくなったとしても、最初は混乱するでしょうが、残りの人生幸せに暮らしてくれると信じています。心残りがあるとすれば、残してきた猫の事くらいですが、それも、妻が愛情を注いでちゃんと面倒を見てくれると思うので、心配ではないです。私達夫婦にとって、あの子は飼い猫ではなく、本当の子供のような存在で、家族同然なんです。だから、もう会えないと思うと心が苦しみで張り裂けそうですけどね。ということで、私にはなんの落ち度もないにもかかわらず、実際に命を奪われたし、死後にこうやって自我が残っていることで、今後どれだけの期間続くかも想像できない精神的な苦痛も受けるということになります。私の知る限りでは、元居た世界の基準で考えるなら、それはもう最上級の補償を受けてもまだ足りないというのが被害者としての感情ということになりますね。その点について神様はどうお考えでしょうか。」
イアロは俺に気おされて、どんどんと縮こまっていき、一言だけ。「大変申し訳ありませんでした。」と、とてもか細い声でかろうじて答えた。
完全に場の空気を掌握した俺が、組んだ腕の右手人差し指をピンと伸ばし、勢いもそのままに続ける。
「ではもう一点、先程の貴女の説明で不明瞭な点が一つありましたので、その点についても確認しておきますが、貴女は私が我々神の手違いで死んだとおっしゃいました、その言葉のニュアンスだと、大勢の神々が集団で手違いを犯したと聞こえます。どの神がどのような手違いを犯すことで私が死んでしまうという結果になったのか、余すことなく全て開示していただきたい。」
もはや、イアロは俺の眼前で正座しながら頭を垂れている。
その美しい瞳からはポタポタと形容するにはあまりにも多すぎるほどの涙を滝のように流し、整っていて程よい高さの鼻からは鼻水まで垂れ下り、黙って結んでいれば妖艶とも云えるであろう唇はだらしなく半開きとなり、涎までたらしている。
そんなイアロが俺を直視することもできずに頭を垂れたままの姿勢で一言つぶやいた。
「・・・です。」最初の方は全く聞き取ることが出来ない程に声が小さいイアロ。
「え?なんて?」大きな声で極めて威圧的な声色の俺。
「全て私のせいです、ごめんなさい。」と、言うか言わないかのうちに「ア~ンア~ン」と泣き出すイアロ。
そんなイアロを見た俺は「フム。」と一息ついてこう続ける。
「つまり、私は貴女の過失によって死んだのですね。」
今までは状況を整理できずに必死で頭を回転させていたこともあり、冷静さを保つことが出来てはいたものの、いざ自分が死んだという状況を把握し、理解が現状に追いつくことで、死んだという現実が実感として俺に重くのしかかった。
「今日は、家に帰ったら明日から三連休だったんですよ。妻がね、以前から食べたいといっていたオムライスがおいしいレストランがあるんですが、そのお店の予約がとれたので、二人で行く予定だったんです。でも、私が死んだのであればそれどころではないですよね、葬儀やら何やらの準備で忙しいだろうし、かわいそうなことをしたな。普段からあまり何かをねだることの少ない人だったから、だから、そんなささやかな希望くらい叶えてあげたかったんですけど。モコちゃんも夜に私がベッドにいないと探して鳴くんですよ、あぁ、モコちゃんっていうのは、うちの猫ちゃんです。私がベッドに入ると必ず布団に潜り込んできて、私の右腕を枕に寝るのが決まり事なんですよ。寝顔がとってもかわいいんです。モコちゃんもしばらくは夜鳴きするだろうな、かわいそうに。二人にはもう会えないのか…。」
俺は、自分の目から大粒の涙が零れ落ちる感覚に戸惑った。
「あれ、おかしいな、身体はないはずなのに、なんだか涙が止まらない感じがする、いい歳しておはずかしい、でも、なんだろうこれ、こみあげてくるこの気持ち、涙が止まらない感じがする。」
人は感情を持つ生き物だ。その感情というものは、些末な出来事であっても時に大きな揺らぎをみせることもある。
大局的な見方をすれば、取るに足らない出来事かもしれない、しかし、個として考えた時、妻に会えない、愛する飼い猫に会えないという、他人からみたら些細なことであっても、俺にとっては何物にも代えがたいものであり、失うとなればそれは異世界への転生とチートスキルによって新たな人生を歩むことが出来るという、極めて稀有で幸運ともとれる状況を手にすることが出来たとしても、手放しで喜べるものではない。
何もない白い空間に、ただ憲の嗚咽のみが響き渡る。
イアロは待った、俺の気持ちが落ち着くまで、只々静かに俺を見守るように。
どれ程の時間が経ったのか、イアロは只静かに正座のまま待った。
そしてイアロの足は限界を超え、音もなく崩れ落ちた。
そんなイアロの苦悶など気にも留めずに、只々気持ちの整理に努める憲だったが、イアロの最初の説明で、気がかりな点が実はもう一つあった。
彼女は「望む力を、どんな力でも一つだけ与えます。」と言った。それはつまり、イアロが提示した能力の中から選ぶのではなく、俺が希望した能力をイアロが付与するということになる。
「状況は理解できました、納得はいってはいないけど、飲み込むことは出来たと思います。そのうえでもう一度確認しますが、私が望む能力を貴女が付与してくれるという理解で良いのですね。」
流石は神を名乗るだけのことはあり、崩壊していた足は瞬時に元通りとなってすっくと立ちあがるイアロ。
「はい、それは約束したとおり、どんな希望でも叶えて差し上げます。空を飛べるようなりたいでも、世界最強の戦士になりたいでも、魔力量が限界突破でも、有り余る財力で一生遊んで暮らしたいでも、なんでもかまいません。なんなら転生先の世界の魔王になりたいでも大丈夫です。」
俺は表情一つ変えずに言葉を返す。
「最後の方はもはや能力ではない気もしますが、まぁ良いでしょう。貴女が私の望む能力を間違いなく与えてくれるという言質はいただきました。神である貴女が、矮小な人間である私との約束を違えるとは思わないので、遠慮なく願いを叶えていただくとしましょう。」
その美しい顔立ちが、最高の笑顔で彩られ、辺りのトーンが一段明るくなったかのような錯覚を覚える程にイアロは微笑んだ。
「はい、約束はお守りします。」
「では、私が思い願う現象を、私の何かしらの言動をトリガーとして現実化する能力をお願いします。その現象についてや回数の制限は一切無しで。」
「はい?」
目が点になるイアロ。
「ですから、私が思い願う現象を、私の何かしらの言動をトリガーとして現実化する能力をお願いします。その現象についてや回数の制限は一切無しで!です。」
イアロは再び額から大量に流れ落ちる滝のような汗を手で拭いながらも、やっとの思いで「それはいくらなんでも…。」と述べる。
「ほほう、貴女は最初に何でも願いを叶えると言い、先程再度確認した際も、どんな希望でも構わない、約束は守ると言ったにもかかわらず、いざ私が願いを言うと、それはできないとおっしゃるので?」
「えぇと、それは我々神の力と同等というか、神の力すら超えている気がするのですが。飛びたいとか、強くなりたいとか、魔力がとかそういうのじゃなくて?」
「そういうのじゃないです。繰り返しますが、私が思い願う現象を、私の何かしらの言動をトリガーとして現実化する能力をお願いします。その現象についてや回数の制限は一切無しで!!です。」
「生涯で3回とかじゃなく?」
「回数制限無しで。」
イアロは「コホン。」と一つ咳払いをして続ける。
「実は、世界毎に細かいルールがありまして、貴方がいた世界には魔法という概念は存在していませんよね、それは科学の進歩によって、魔力という概念が衰退し、存在しなくなったから魔法もなければ魔物もいないのです。逆に貴方がこれから転生する世界には電力を蓄積するという概念がありませんので、科学は発達していませんし、特に必要性もありません。そういった世界毎の均衡を破壊する行為に対しては、その世界を担当する神が是正します。つまり、なんでも願えば叶えられるとなると、相当な問題が発生することになるので、難しいと思います。」
その美しい顔を引きつらせながら、イアロは俺を引き下がらせようと説得を試みるが、俺はニヤリと口元を歪ませて言う。
「なるほど、不可能ではなく難しいと。」
憲は腕を組みながら続ける。
「つまり、可能であるにもかかわらず、貴女の労力負担が増えるので、もっと簡単に、能力授けたからあとは自分で何とかしてね、私はもう知りません。という状況を期待していたので、私が申し出た能力を授けたくはないとおっしゃるので?」
最早ひきつった顔から滝のように流れる汗を隠そうともせずにイアロが言う。
「そ、そんなことはないんですが、確かに貴方の言うように、貴方が無制限に世界の理を覆すような願いを叶え続けると、私はその調整にかかりっきりになってしまって、世界の管理ができなくなってしまうので、そうですね、わかりました、無制限というのは流石に難しいので、年一とか、いや、月一くらいでどうでしょう。」
「確かに貴女への負担が大きくなることで、貴女の集中力がおざなりになり、私のような不利益を被る者が増えるのは本意ではありませんが、実際のところ貴女が調整をしなくてはならないような世界の理を無視する願いを頻発するつもりもありませんので、では、こうしましょう、無制限は譲れませんが、貴女の調整を必要とするような願いに関しては、日に3回を限度とするというのでどうでしょう。」
「いや、いや、いや、いや、無理、無理、無理、無理。せめて10日に1回くらいじゃないと、私の体がもちません。」
「私の体はもうありませんけどね。まぁ良いでしょう。では3日に1回を限度としましょう。これ以上は引き下がれません。貴女が神であり続けるためにも、このくらいの苦労と努力はしていただきたいものです。今までの話の流れでおおよその察しはついていますよ、神である貴女が私に対してここまでの待遇を申し出るということは、神としての存続が危うい状況でもない限り、まず考えられない。つまり、貴女は私の願いを叶えざるを得ないということなのではないですか?」
「ギクッ!」
「今ギクッ!って言いましたね。初めてききましたよ、そんなセリフ。」
「そ、そ、そうですか?私そんなこと言いました?」
「えぇ、はっきりと聞こえました。しかし、まぁ安心してください、3日に一回のペースで世界の理を覆すような願いなど思いつくこともないでしょうし、するつもりもありません。例えば、これから私が転生する世界で、突然発電所を作れだのインターネット網を構築しろだの言いませんよ。魔力を利用した念話とかで事足りるでしょうし、電力も魔力で代替出来る感じなんですよね?私だってそこまで悪目立ちしたいわけでもありませんので、その辺りはうまくやるつもりです。」
「本当ですか?」
「本当ですし、神様なんだから私が嘘をついてるかどうかくらいわかるのではないですか?」
「えぇ、まぁ。」
「では、もう一度条件をまとめますが、まず、能力については、私の思い願った現象を、現象の制限を設けずに現実化する能力ということで、回数の制限についても原則ないこととするが、世界の理を覆すような願いに関しては、発動後72時間のインターバルを要し、72時間を下回る間隔で発動を試みた場合は、その願いを無効とする。現象発動のトリガーに関しては、誤発動防止のためにも頭の中で[ファクトチェンジ]の文字をイメージして念じる。といった感じでどうでしょうか。」
「えぇっ!?」
「え?」
「お願い事を叶える時って頭でイメージするだけなんですか?」
「何か問題でも?」
「いや、普通そういうのって、何か決めポーズとか、長い詠唱とか、そういう感じなんじゃないですか?」
「そこに食いつきましたか。いや、別にこだわりがあるわけではないのですが、誤発動防止の観点で言えば多少のメリットはあるかもしれませんが、長い詠唱なんて緊急を要する場合なんかは邪魔でしかないでしょう。ポーズに至っては、もし体の一部が欠損するような事態に陥った場合、もはや発動不可能になる可能性だってありますからね。しかも貴女のことだから詠唱でもポーズでも派手なエフェクトとかつけそうで怖いし。」
「ギクッ!」
「また言いましたね。」
「癖なんですかね?」
「知りませんよ。とりあえず、そういうことでよろしければ、そのようにお願いします。あ、ところで、転生先の世界って時間の概念は私の元いた世界と同じなんですか?それによって若干話が変わってくる可能性ありますが。」
「時間はおおむね同じと考えて問題ありません、一日は24時間です。歳月という意味では若干の差はありますが、それは転生してからでも。」
「わかりました。あとは特に確認が必要な事項はないというか、問題があったとしても、得られた能力でどうとでもなると思うので、転生に進んでいただいて結構です。」
「わかりました。それでは転生しますね、どうか新しい人生を、存分に楽しんでください。」
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。
もし、次が気になるという方がおられましたなら、なるべく早く次の投稿ができるよう努力いたしますので、少しの間お待ちいただきますようお願いいたします。
今後も、なるべく設定やキャラクターにブレが出ないよう、慎重に書いていこうと思いますが、もし、何か整合性のとれない内容などありましたら、コメント機能などでご教示願います。