あとがき
作者の蒼井凌です。今作もお読みいただき、本当にありがとうございます。
今作は、前作『葵と綾、そして風』に続き、“風とスカート”をめぐる物語です。「“見られる怖さ”に向き合う」というテーマはそのままに、今作ではもう一つ、「記憶の継承」という想いを込めて描きました。
通風口にスカートをめくられるまで、スカートの裾を気にしていなかった前作の葵。それに対して、美羽は親友の仕草を真似することで、日常的にスカートを押さえるようになっていました。でも、"どう守ればいいのか"までは知らなかった。自分を守らなきゃという気持ちだけが先走って、結局、守りきれない――そんな美羽の姿は、切なくて、痛ましくて、作者としても胸が痛みました。
そんな彼女に手を差し伸べたのが、高校生になった葵と綾。綾はかつて葵を助けたように美羽に寄り添って、葵は同じ痛みを知る者として、自分の記憶や「守る術」を美羽に託していく。そんな感情のバトンリレーのようなものを、この物語では描きたいと思いました。
――ここでひとつ裏話を。実は当初、美羽を助けに来るのは「通りすがりの大学生のお姉さんたち」の予定でした。ところがいざそのシーンを描こうとしたとき、ふと「……この“お姉さんたち”、葵と綾でいいんじゃない?」と思い至り、2人の再登場が決定しました。その後、「大学生よりも高校生の方が自然かな」と思い、美羽を助ける存在は「高校生になった葵と綾」となりました。
この決定が、物語に思わぬ広がりをもたらしました。もし、彼女たちが大学生だったら、風の強い日にスカートで歩くことはなかったかもしれません。でも、高校生で制服姿だったために、彼女たちもまた「自らを犠牲にして誰かを守る」立場になり、綾の葛藤を描いたPart.4の誕生にもつながりました。そうしてもうひとつのテーマ――「誰かを守った人の苦しみ」にも、自然と触れることができたのです。
さらには今後、高校生になった葵と綾の物語も広がりそうで、「なんかこれ……シリーズ化してきたな」と作者が一番驚いています(笑)。
スカートがめくれる――たったそれだけのことが、時に本人の心に深い傷を残す。その怖さや恥ずかしさは「些細なこと」では済ませられない。今作を通じて、私自身も改めてその重さと向き合うことになりました。
繊細なテーマではありますが、だからこそ、これからも誠実に、丁寧に描いていきたいと思っています。
「葵と綾」の物語は、これからも続いていきます。前作『葵と綾、そして風』(無印版 / 初稿版)とあわせて、今後もご覧いただけたら嬉しいです。
また次の物語でお会いできることを楽しみにしています。
蒼井 凌