Part.5
綾はエレベーターで足早に1階へ戻る。
だんだん大きくなる、笑顔の葵と美羽の姿に、綾も自然と口元が緩む。
「お待たせしました~」
綾が軽い口調で言う。
「お、来た来た♪」
葵が明るく返し、美羽はパッと笑顔を向ける。
「ねぇ綾、この子”美羽”ちゃんっていうんだって! 超かわいくない!?」
葵が子どものように訴える。
「え~~~、ちょっと撫でていいすか?」
綾は美羽の頭にそっと手を乗せる。
美羽は顔を赤らめて、照れ笑いしながら目を伏せた。
「あ~~~、こういう子、我が家にほしい」
「はぃい!?」
綾の発言に葵は笑い、美羽は恥ずかしそうに「えへへ……」と肩をすくめた。
葵はフロアの時計を見ると、突然立ち上がった。
「ねぇ、みんなでパフェ食べようよ!」
突然の提案に、ぽかんと葵を見つめる美羽。
(そういえばあの日も、いきなり「パフェ食べよ!」って言ったっけ)
綾は一瞬、小学生の頃の葵を思い出し、にやりと笑った。
「おっ、いいねぇ! 一緒にどう? お姉ちゃんが奢ってあげる!」
綾は美羽の前にしゃがみ、笑顔で美羽に言った。
「え……良いんですか……?」
美羽は目を丸くして、二人を交互に見つめた。
「美味しいもの食べたら、もっと元気になるよ!」
葵がにっこりと語りかける。
「綾、ごちそうさまで~す♪」
「あんたはダメ!昨日お小遣いもらったってドヤってたでしょうがっ!」
ちっ…と腕を振って見せる葵と、そんな葵をジト目で見る綾。
そのやり取りに、美羽がふふっと笑った。
「……もうすっかり元気だね」
微笑む綾の言葉に、美羽は大きく頷いた。
「よし、行っくぞ~!!」
3人は立ち上がり、出口へ向かう。
出口に来ると、美羽は思わず身をすくめた。
外では依然として暴風が吹き荒れ、窓の隙間からはその轟音が響いていた。
「スカート、持った?」
葵が振り向き、心配そうに聞いた。
美羽はハッと思い出し、手繰り寄せたスカートを右手で握って見せた。
「こう……ですか?」
葵は満足げに頷く。
「うん、良い感じ!」
すると葵は、美羽の右手に触れる。
「じゃあ、最後に魔法をかけます♪」
葵は、美羽の親指を中に入れる。
「じゃんっ! もう風なんてこわくないよ♪」
美羽はパッと笑顔を咲かせて、葵を見上げる。
葵がにっこりと微笑むと、美羽はその笑顔のまま、もう一度手元を見つめた。
「あっ!ホントだ!親指すごっ!」
声を上げたのは綾だった。
綾も自分のスカートを握って、葵に見せる。
「え、綾、知らなかったの?」
「だって、そんなこと教えてくれなかったじゃん!早く言ってよ~」
「どやぁ♪」
「さっすが、"経験者”は違いますね~♪」
「う……うるさい、黒パン忘れたくせに!」
「こら、バラすな!(笑)」
(えっ……)
美羽はそのやり取りに目を見開いた。
(綾さんも……私と同じだったんだ)
(……ごめんなさい)
綾が美羽を見ると、美羽が申し訳なさそうな顔で綾を見ている。
綾は美羽の前にしゃがみ、優しく頭を撫でた。
「そんな顔しないで、美羽ちゃん。あたしは大丈夫。ね?」
その笑顔に、美羽は安堵したように頷く。
「よし、じゃあ開けますよ~……って重っ!」
葵が出口のドアをグイっと開けた。
3人はカフェへと歩き出す。
吹きつける暴風が、美羽の髪をかき回す。
けれど美羽は、満足そうに微笑む。
どんなに風が吹いてもびくともしないスカートと、魔法の右手。
それを交互に見つめながら、美羽は空を見上げる。
(空……きれい……)
(風……気持ちいい……)
(私……すっごく楽しい!!)
そんな美羽の後ろ姿を、葵は愛おしそうに見つめる。
そんな葵に、今度は綾が無言で語りかける。
(葵……ありがとう)
その時だった。
――ぴょんっ!
空を見上げた美羽が、跳ねた。
葵と綾は、その後ろ姿に思わず目を見開く。
ほぼ同時に顔を見合わせる2人。
お互い口元を「ニッ」とゆるめ、目でハイタッチを交わした。
(おわり)