Part.2
「……うわぁぁぁああああああっ!!!」
突然の叫びに、前を歩く2人の高校生が振り向く。
そこには、泣きながら両手を振り回す少女の姿。
2人は思わず息をのむ。
(あの日の――)
(私)
(葵)
――小学5年生の夏の日。
通風口の風にスカートを押し上げられて泣いた葵。
葵に何が起きているのかわからず、それでも夢中で助けに向かった綾。
あの日の葵と、目の前の少女が重なる。
(……助けなきゃ!)
綾が走り出す。
その背中に我に返った葵は、意を決して後を追う。
綾は素早く自分のベストを脱ぐと、美羽の腰元にぐるりと巻き付ける。
「葵、スカートお願いっ!」
「オッケーッ!」
葵はぐしゃぐしゃになった美羽のスカートに手を伸ばす。
そのとき、突然吹きつけた風に、葵のスカートが膨らむ。
(うわっ!!)
一瞬、手が戻る。
しかし、美羽の怯えた顔に我に返る。
(……えぇい、知るかっ!!)
葵は自分のスカートから手を放し、美羽のスカートをまとめる。
(あたしは黒パン穿いてる! この子よりはマシっ!!)
そのとき、視界の端にもう1枚のスカートが目に入る。
(……あれ? これ、あたしのじゃない……)
心臓がドクンと鳴る。
(綾っ!?)
葵は綾に目をやる。
美羽にベストを巻き付けた綾もまた、スカートから手を放している。
(あんた今日黒パン……!!)
綾のスカートが大きく膨らむ。
綾は唇をギュッと結び、表情をこわばらせる。
(やばいっ!!)
葵はあわてて美羽のスカートを束ねる。
「綾、もういいよっ!!」
綾はハッとして、ベストを急いで自分に巻き直す。
その指が少しもつれているのが、葵にはすぐにわかった。
(綾、ありがとう)
綾が自分のスカートを整え始めたのを見届けて、葵は美羽に向き直る。
美羽は怯えた顔で葵を見上げている。
葵は美羽の前にしゃがみ、美羽を見上げて優しく微笑んだ。
「はい、これ持って」
束ねた美羽のスカートを差し出す。
「こうやって持つんだよ?」
葵はもう一度立ち上がると、もう一方の手で自分のスカートを握って見せる。
美羽はスカートを受け取ると、震える手で葵の真似をする。
「ちゃんと持った?」
美羽は黙って頷いた。
葵は綾に目をやる。
スカートを整えた綾が、にっと笑って、しっかりと頷く。
「よし、じゃあ走るよ!」
葵はスカートを押さえながら、美羽の手を引いて走った。
綾もそのあとに続いて走り出す。
(デパート……あのデパートまで!!)
時々、後ろの美羽と綾の様子をうかがう。
(綾……あたし、あの日の綾みたいに守れてるかな)
フラフラついてくる美羽の手を握り直し、葵は走った。
(つづく)