蝕レポ
いい~、喫茶店じゃないかあ。昭和レトロな雰囲気に、コーヒーの香りとタバコの煙が漂う。受動喫煙がどうのこうのとうるさく言う女子供はお断り――とでも言いたげな佇まい。まさに、会社員たちの憩いの場って感じだ。ここにしよう。
おれは、人を殺したあとは必ず外食することにしている。
いつからそう決めたのか覚えてないし、はっきりとした理由はない。ただ、殺しのあとに自炊する気にはなれないし、冷凍食品で済ませるのも味気ない。こうして、普通の人々の中に紛れて食事をすることで、自分も社会の一部であると思いたいのかもしれない。ああ、孤独な仕事なのさ。
さて、今日いただくのは……オムライスに決定。メニューを開き、最初に目についたものを頼む。それがマイルール。
待つこと十分ほど。運ばれてきたオムライスには、店主こだわりのデミグラスソースがたっぷりとかけられ、仕上げに細かく刻まれたパセリが彩りを添えている。ふむ、なかなか期待できそうだ。
まずは割ってみよう。スプーンを入れると、表面の卵がふわりと裂け、中からほのかに湯気が立ち昇る。顔を出したのは、ケチャップライスだ。鶏肉、玉ねぎ、それに黒コショウか。シンプルで余計なものがない。その潔さがいい。では、いただくとしよう。
……おお、想像を超えるほどではないが、下回ることもない。うまい。
卵の弾力が実にいい。スプーンで割く感じが、あの感触を脳裏に蘇らせる。ナイフで皮膚を切り裂いたときの、柔らかく、ぬるりとした抵抗感。中から赤いものが覗くところもそっくりだ。
それに、このゴロッとした鶏肉。あの男の背中にあった粉瘤袋を思い出す。
ナイフで喉を裂いたあと、服を剥ぎ取ると、そこにはぽっこりと、大きな粉瘤が浮かび上がっていた。周囲をナイフで切って取り出したのだが、そっと先端を突くと袋がぷつりと破れ、中から熟成された垢の塊がボロンと出てきた。茶色く変色したその塊を嗅いでみると、腐ったチーズのような刺激臭がした。ああ、何度か嗅いだから、今でも鼻の奥に残ってる。ちょっと癖になりそうだった。
お、このオムライスにもチーズが入ってるじゃないか。うん、濃厚でコクがあってうまい。
小太りな男だった。仰向けに転がすと、腹の脂肪がぷるんと波打った。それで……ああ、このオムライスを男の身体に見立てると……そう、こんなふうに腹にナイフを入れて、一の字に切り開いたんだ。
あのときはミスしたな。腸まで切ってしまったせいで、ブッビ、ブブッ、ビビッブブとガスが漏れ出し、あたりに強烈な屁の匂いが立ち込めた。さらに、肛門からもプウウウと屁が漏れ、続いて糞が搾り出された。
ズボンを脱がせ、陰茎と陰嚢を切り取ったときに糞を見たのだが、ちょうどこのデミグラスソースのような濃く、重たい色合いだった。ああ、いい味してる。さすがは店主のこだわりだ。深みがある。
それから、臓器を取り出し、電動ノコギリで首と手足、それから指を一本ずつ根元から丁寧に切り落とし、冷水でざっと洗って、それぞれ袋に詰めて冷凍庫へ。あとは引き取り専門の業者に任せて、退勤というわけだ。
なぜそこまで細かくする必要があるのか、どう処分されるのかは知らないが、それでいい。この業界は、余計なことを知る必要がないのが気楽でいいところだ。
「きゃああああ!」
なんだ? 悲鳴……。あの席のカップルか。
「ど、どうした?」
「こ、これ、ソーセージじゃなくて、人の指……!」
……おれのミスかな?