第5話:光と共に、天より降る者
街が、壊れ始めていた。
それは誰にも気づかれない、けれど確かに“終わり”の兆しだった。
エミリアは、朝から何度も“同じ教室”に戻ってきた気がしていた。
隣の席の子が、さっきとは違う制服を着ている。
先生の声が、まるで録音されたものみたいに“抑揚が同じ”だ。
「……なんで、こんなに整ってるの……?」
昼休み。廊下の窓から見た外の景色は、“昨日と同じ雲”が浮かんでいた。
帰宅後、家のリビングでは両親が食卓に並んでいた。
けれど、母の顔が──少しずつ、歪んでいく。
TVの画面はノイズだけを流し続け、
カレンダーの日付が、一日進んでは戻り、また進む。
エミリアは、叫んだ。
「……もう、いやっ! こんな“ウソの世界”なんていらない!」
その瞬間、温室の天窓が砕けた。
そして、目の前に現われたのは──それは、あの少女だった。
ひとつの翼だけを持ち、瞳に静かな決意をたたえた存在。
ミリエル。
彼女は、ゆっくりとエミリアの前に降り立つ。
そして──初めて、言葉を発した。
「あなたが、決心してくれたので──ようやく……あなたに触れられるようになった」
エミリアの目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
「……ミリエル……わたし……ずっと……」
何も言葉が続かないまま、ただ光の中で二人は見つめ合っていた。
けれどその時、世界がわずかに軋んだ。
温室の鏡が──音もなく、静かに崩れ落ちていった。