第4話:壊れかけた風景
月曜の朝。いつもの学校、のはずだった。
昇降口の靴箱に違和感。
エミリアのロッカーが、いつもの場所にない。
掲示板を見ると、クラスの番号が変わっていた。
──2年C組? そんなのあったっけ?
教室に入ると、席が一つずれている。
黒板には「時間割」が貼ってあるが、どの授業も“なぜか懐かしい”と感じる。
けれど、何かが足りない。
そう──“昨日までの連続性”が、どこにもないのだ。
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「昨日って……何曜日だったっけ?」
思わずつぶやくと、隣の席の女子が振り向く。
「昨日? えーと、月曜日でしょ?」
違う。昨日は日曜だった。友達とカフェに行った記憶もある。
けど、その会話が、どの“友達”とだったか思い出せない。
頭の中に、空白が広がっていく。
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昼休み。
校舎裏の温室に向かう。もうエミリアの“居場所”になりつつある。
そこには、いつものように少女がいた。
割れかけた鏡の前で、何かをじっと見ている。
鏡の中には、知らない街の風景が映っていた。
──いや、知ってる。これは……昔の、幼いころに住んでいた町。
なのに、今の自分の姿が、そこに“映っている”。
混線。記憶と現実が、断片的に繋がり、重なっていく。
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その時、ミリエルが顔を上げた。
彼女の唇が、ほんのわずかに動く。
けれど、声は聞こえない。まるで、何かに“邪魔”されているように。
エミリア:「私……壊れちゃったのかな……」
温室のガラスに映る自分の顔も、少し歪んで見えた。
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夕方、帰り道。街の景色が妙に整いすぎていた。
信号、建物、看板、人の歩く速さ。
──まるで“誰かが作った風景”みたいに、完璧すぎる。
風が吹く。目を閉じる。
「でも……なんでこんなに、世界が“優しい”んだろう」
苦しいのに、怖いのに、どこかあたたかい。
それが余計に、エミリアの心を締めつけた。