表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

第3話:夕暮れ、猫とすれ違う

春の終わり。

いつもより少しだけ日が長い。

放課後の校門をくぐったとき、エミリアの目の前を一匹の猫が横切った。

──真っ白な毛並み、青い目。

あれは、昔飼っていた猫「ルナ」にそっくりだった。

しゃがみ込むと、猫はすぐに寄ってきて頬をすり寄せてくる。

「……ルナ?」

違うってわかってる。

でも、なぜか懐かしくて、涙がにじんだ。

「おーい、エミリア!」

ふいに声がして振り返ると、クラスメイトの悠人はるとがいた。

「一緒に帰んない? たまたまそっちの方向だからさ」

偶然だった。けれど、エミリアの心は少しだけ跳ねた。

──密かに好きだった相手。

二人きりで帰るのは、たぶん初めて。

話すうちに、些細なことで笑い合う。

でも、その笑いの中に、ふとした違和感が混じる。

「おまえって、たまに変なこと言うよな」

「……そっちこそ」

淡くて甘くて、でもどこか不安定な空気。

その夜、エミリアはまたアルバムを開いた。

──小学校の卒業写真。

修学旅行の集合写真。

悠人と写った写真を探す。

だけど、どのページをめくっても──彼の顔の部分だけが、塗りつぶされていた。

インクが滲んでいて、誰なのか分からない。

しかも──

どうして、悠人が自分のアルバムに一枚も写っていないの?

さっきまで一緒に帰ったのに。会話もしたのに。

ベッドに横たわりながら、エミリアは思う。

もしかしてこの世界は、

「私が覚えていないこと」が“どんどん増えている”のではなくて──

「誰かが、私の記憶を削ってる」のかもしれない。

いや、

……もしかしたら、私自身が“そうなるように”世界を書き換えてる?

頭の奥に、ふとそんな言葉が浮かぶ。

書き換える? 構文? 何を?

──そのとき、窓の外。

青白い光の中に、片翼の少女が一瞬だけ浮かんだ気がした。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ