表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

第1話:放課後の空が、やけに静かだった

――カタン、と、何かが落ちる音がした。

教室の窓際。机にうつ伏せていたエミリアは、目を覚ました。

もう誰もいないはずの教室。

けれど、黒板にはまだチョークの粉が浮いていて、

時計の針は“3時17分”を指したまま止まっていた。

それでも、チャイムはちゃんと鳴った。

「……あれ?」

帰り支度をして廊下に出る。

誰かの笑い声が、妙に遠くで響いている。

近づけば近づくほど、靄の中に溶けてしまうような声だった。

下駄箱で靴を履きながら、エミリアは友人たちと何気ない話を交わす。

「今日さ、体育なかったよね?」

「ううん、あったよ? 2限目」

「……そっか、そうだったっけ」

会話のテンポが、どこか変だった。

相槌のタイミングが一拍ずれていて、

自分だけが別の脚本を読んでいるような、そんな感覚。

──おかしい。けど、変じゃない。

そんな日が、ここ最近ずっと続いている。

帰り道、公園を抜けた先のベンチに、誰かが座っていた。

金色の髪が、風に揺れている。

白いワンピースの裾が、草の上を撫でている。

少女は、こちらをじっと見ていた。

だが──その存在を誰も気にしていない。

通り過ぎる人も、隣にいたはずの友人さえも、その子に目を向けない。

エミリアは思わず立ち止まった。

「……あれ、誰?」

少女はなにも言わず、ただ、見つめていた。

まるで──“思い出しかけた夢”のような表情で。

その夜、エミリアは布団の中で目を閉じながら考えていた。

止まっていた時計。妙なテンポの会話。誰にも気づかれなかった少女。

そして──今日一日が、まるで「作られた物語」のようだったこと。

「なんか最近、全部……“ちょっとだけ”おかしいんだよね」

誰に向けた言葉でもなく、声に出す。

部屋の隅に置いたままのぬいぐるみが、何も言わず彼女を見ていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ