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第二十四話 腰痛持ちの可愛い子!?

 ティアが腰を痛めてから数日後、僕とエリーナは軽めのクエストや情報収集をこなし、仮拠点で雑務に追われながらも、彼女の回復を待っていた。ティアは治療を受けつつ、なんとか日常動作ができるまで回復したようで、宿の廊下を小走りできるまでには戻ってきた。


「やった! 大丈夫そうだよ、シヴァル! もう腰も痛まないし、いつでも迷宮に行けるわ!」

「ほんと? 無理してないよね?」

「うん、可愛い女の子の回復力は伊達じゃないんだから!」

「可愛い子ってみんなタフなの?」


 どこまで本当かは分からないが、ティアが笑顔で走り回っている姿を見ると、僕も安心してしまう。エリーナも「腰痛持ちにならないように運動不足を解消しなさいよ」と言いつつ、彼女のポンコツぶりには慣れた様子だ。




 そんな折、ギルドから連絡があり、あの礼装の鑑定がほぼ終わったという。早速僕たちは受付を通して担当者の元へ向かい、結果を聞くことにした。


「お待ちしておりました。例の礼装ですが……結論から言うと、大きな呪いの類は確認できませんでした。ただ、不思議な魔力回路が縫い込まれていて、古代の儀式用具の一部であった可能性が高いですね」

 担当者が分厚い書類をめくりながら言う。この国の歴史に詳しい学者が調べたところ、深部に存在したとされる古代教団の装束に近いという見解が出ているらしい。


「古代教団……あの深部に眠るという封印と関連あるのかな?」

 僕が尋ねると、担当者は「可能性は高いでしょう」と頷く。

「もっと専門的に解析すれば、どんな術式が隠されているか分かるかもしれません。ただ、強い呪いは検出されなかったので、普通に着用しても恐らく危険はないと思いますよ」


「わーい! じゃあ私、もう着ちゃってもいいんだね!?」

 ティアが身を乗り出して喜ぶ。担当者は苦笑しながら「念のため自己責任で……」と言いつつ、礼装を丁寧に手渡してくれた。まるでウエディングドレスのように白く美しい生地に、金糸の刺繍がきらめいている。


「わあ……綺麗になったわね。私が洗ったのもあるけど、さらにギルドでクリーニングしてくれたのね?」

「一応、研究用にホコリを落とす作業をしたので……少し見栄えが良くなっているかもしれません」

 担当者がそう答える。確かに元の汚れが嘘のように真っ白な衣に生まれ変わっている。これならティアが飛びつきたくなる気持ちもわかる。


「まあ、どうせ可愛いアレンジをしたいって言ってたから、またフリルつけるのかもしれないけど……」

 僕が呆れ半分で言うと、ティアは目を輝かせながら「そうよ! リボンも追加してピンクに染めたり……あ、でも元の刺繍を生かしたほうが綺麗かも……うわあ、どうしよう!」と興奮状態だ。隣でエリーナが「もう好きにしなさいよ」とあきらめ顔で肩をすくめる。


 ひとまず礼装を受け取り、ギルド職員に礼を言ってから宿へ戻る。すると、宿のロビーで見覚えのある女性――ライラが待っていた。


「こんにちは。礼装を受け取ったそうね。私も気になっていたのよ……どんな結果だった?」

「呪いはないって! えへへ、これで私の可愛いバリアがさらに強化されちゃうかも!」

 ティアが鼻息荒く自慢すると、ライラは「ふふ、あなたらしいわね」と笑みを返す。


「私もちょうど、もう少し大規模な調査が入る前に、あなたたちに会っておきたかったの。闇ギルドがさらに深部へ食い込もうとしている噂があるし、もし大きな衝突が起こったら、しばらくゆっくり話せないかもしれないから」

「なるほど……まだ闇ギルドの動きが活発ということですね?」

 僕が尋ねると、ライラは苦い表情で頷いた。


「ええ、彼らはしぶといわ。盗賊や魔物を操るだけでなく、深部の封印に干渉しようと何度も試みている。もし封印が弱まれば、一気に踏み込んで扉の先を手中に収めようとするはず」

「そんな……私たち、はやくクラスをあげて対処しなきゃ……」

「焦らなくていいわよ。無理に対抗しろとは言わない。あなたたちはあなたたちのペースで力をつければいいと思う」


 ライラの声は優しいが、その奥には覚悟のようなものが感じられる。きっとギルド上層部や騎士団は、近いうちに大規模な作戦を立てることになるのだろう。

 そして、その時に僕たち下位〜中堅ランカーがどこまで関われるか――。


「私、可愛いだけで終わりたくないから……いずれは深部にも行きたいの。ライラさん、私たちを役立てるかな?」

 ティアがまっすぐライラの目を見て言うと、ライラはその表情を和らげて微笑む。

「ふふ、もちろん。下位ランカーの活躍を私たちは求めているわ。階層分割管理がある程度進んでも、あなたたちのような存在が必要になる。とくにティアさんの可愛いバリアは興味深いわね。私が知っている古代の秘術と少し似た現象があるのよ」


「えっ、そうなんですか!?」

「ええ。文献で見た限りだけど、自己暗示や信念によるバリア形成という言葉が出てくるの。もっと専門的に言えば、精神感応式防御魔法……詳しくはここでは言わないけれど、もし本当にその領域に踏み込めるなら、あなたは希少な才能を秘めている可能性があるわ」


 ライラはまるで研究者のように瞳を輝かせ、ティアの手を取ってじっと見つめる。ティアは可愛いバリアというワードに心奪われ、「やっぱり私ってすごいんだわ!」と大はしゃぎだが、ちょっと大げさな気も……。


「まあ、実際には基礎魔力の低さや、ドジな動きもあるし、そう簡単に扱えるものではないわ。素質を伸ばすには相応の訓練と精神集中が必要になるでしょうね」

「そ、そっか…………でもわたしやる気はあるわ!」

「なら、ひとまず冒険で経験を積むことね。深部の大規模作戦が始まるまでに、あなたがD級やC級に上がっていれば、もっと本格的な場所で活躍できるかもしれない」


 ライラはそう言い残し、また別の仕事があるらしく踵を返して去っていった。残された僕たちは、何とも言えない胸の高まりを感じている。闇ギルドとの決戦が近い予感がある一方で、ティアの可愛いバリアが本当に形になるかもしれないという期待が芽生えてきた。


「……私、やっぱり頑張りたい! 偽物も倒したし、腰痛にも負けず、次は闇ギルドの大きな陰謀をぶっ潰して、みんなを守るの!」

 ティアの瞳には強い決意の炎が宿っている。以前にも増して、前を向く力が増した気がする。エリーナは「何でもかんでも可愛い理論に結びつけるのは変わらないわね」と苦笑していたが、悪い気はしていない様子だ。


「よし……それじゃあ、当面の目標は実力を上げてD級に昇格だよね。仮に大規模作戦が行われるなら、下位のままじゃ参加すら危ういし」

 僕が提案すると、ティアも頷いて拳を握りしめる。

「そう! もう腰痛で寝込んでる暇はないわ! 礼装が使えるようになったら、それも活かして可愛いバリアを極めるんだから!」


「まったく……無茶しないでよ? また腰を痛めたら笑い事じゃ済まないんだから」

 エリーナは念を押すが、ティアは聞いているのかいないのか、「ひゃっほー!」と宿の廊下で走り回り、旅人や他の冒険者に迷惑をかけそうになる。僕は慌てて止めに回る。いつもの大騒ぎが帰ってきた。




 それから数日、僕たちはまた小さなクエストをこなしつつ、ティアの体力作りを進めた。腰への負担を減らすためにエリーナの魔法でサポートしながら走り込みをしたり、基本的な魔法石の使い方を再確認したりする。地味だけれど確実に力を磨いていく日々だ。


 実は礼装はまたティアの手元にから離れている。あれから古代教団関連の研究者が「もう少し調査に時間をください」と頼んできたという。少し残念だけれど、色々判明する可能性があるならしょうがない。


「……まあ、その間にさらに実力アップしておけば、礼装を手にしたときに一気に飛躍できるでしょ?」

「そうそう。私、可愛いし、今度こそ自分に足りないところを補ってバッチリ華麗なバリアを……ふっふっふ」

 ティアは鼻息荒く、珍しく鍛錬に前向きだ。ドジっ子ゆえに要領は悪いけれど、努力家な一面もあるのが彼女の魅力だ。僕はその姿を見て、頼もしさすら感じる。


 やがて、再査定の時期も近づいてくる。以前の査定でE級に上がった僕とティアは、D級昇格を目指す立場だ。クエスト成功数や魔物討伐実績は積み上がっており、魔術石碑の再集計次第では念願のD級入りが見えている。


「シヴァル、次の査定が楽しみね! 私たち、ずっとE級の上位ポイントを蓄積してるんだから、D級になってもおかしくないわよ!」

「そうだね。エリーナみたいにD級以上に行けば、もっと色んなクエストを受注しやすくなるし……そうなったら深部作戦にも参加できるかもしれない」


 ティアは笑顔で頷き、握りこぶしを作って「闇ギルド? 可愛い私の敵じゃないわよ!」と相変わらずの調子で宣言する。僕とエリーナは思わず顔を見合わせ、吹き出しそうになった。


「まったく、あんたのそのポジティブさ、嫌いじゃないわ。次のランク査定は私も楽しみにしてる。C級に届けばいいんだけど……まあ焦らず行くわ」

「エリーナももうD上位だし、順当にいけばC級上位……僕たちと合わせて、いずれ同じステージで肩を並べたいね」


 闇と光が交錯する迷宮で、確実に大きな動きが近づいている。深部の封印がいつ破られてもおかしくない、そんな緊張感が冒険者たちの間に広がりつつある。

 だけど、今の僕たちは不安だけじゃなく、希望や情熱を胸に抱いている。ティアの偽物騒動を乗り越え、闇ギルドの装置を破壊し、腰痛に負けず可愛いはバリアになるを証明しかけた彼女の姿に、僕もエリーナも大きく背中を押されているのだ。


「よーし、明日も頑張るわよ! D級になったら祝杯あげるんだから! 可愛いヒロインのパーティよ!」

 ティアが高らかに宣言する。その言葉に、僕はやや照れながらも笑顔で応じた。

「うん。君が腰痛で転ばなければ、きっと華麗に上達していけるはずさ」


 こうして僕たちは、新たなステージへ向けてまた一歩を踏み出す。礼装をまとった可愛いバリアの完全解放が先か、闇ギルドとの最終決戦が先かは分からない。でも、もはやどんな騒ぎが起こっても驚きはしないだろう。

 なにせ、僕たちの仲間にはドジで泣き虫で、でも誰よりもポジティブなピンク鎧の少女がいるのだから。そして、その可愛さと無謀な突進力は、確かに周りを巻き込みながら、少しずつ大きな奇跡を起こしつつある――。


 次の査定でD級入りを果たし、深部への道を切り開くために。ティアの可愛いバリアが本物の防御魔法として花開く未来を信じながら、僕は心の中で小さく拳を握ったのだった。



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