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第十七話 波乱の集会、そして新たなる境地へ

 迷宮の深層部に扉があるという噂が広まり、上級ランカーやギルド幹部、さらには貴族や各国の大使までもが興味を示し始めた。王都では急遽「迷宮管理に関する集会」が開かれることになり、仮拠点の冒険者たちにも参加の声がかかった。

 僕とティア、エリーナはE級、D級とはいえ、この迷宮の最初期から活動していた準当事者として招かれ、胸を弾ませながら会場へ向かった。



 王都のギルド本部付近にある大広間。普段は大規模会議のときしか使われないらしいが、今日ばかりは冒険者が詰めかけ、壮観な光景だ。C級やB級クラスはもちろん、A級の豪傑らしき人までちらほら見受けられる。

「……すごい人数ね。ちょっとビビるわ……」

 エリーナが低い声で言う。ティアも圧倒されているのか、珍しく大人しくなっていた。


 壇上にはギルドマスターらしき人物が立ち、深層部の扉に関する情報や、闇ギルドの潜伏対策について説明している。

「現在、上位ランカーの先行チームが扉の封印を解く術を調べている。また、闇ギルドと盗賊団が暗躍しており、冒険者同士のトラブルが相次ぐ。よって安全確保のため、ギルドは新たに階層分割管理を導入する――」


 要するに、中層の一定エリアまではD級以上の冒険者が警戒線を張る。その内側には下位ランカーも自由に入れるが、さらに奥へ行くにはそれなりのランクが必要、という体制になるらしい。

「つまり、E級の私たちは、今以上に奥へ行くのは難しくなるってことか……」

 僕は少し悔しいが、安全のためなら仕方ない。ティアはふくれっ面だが、「まあ、闇ギルドに襲われるよりマシか」とすぐに納得したようだ。


 しかし、その説明が終わった直後、会場がざわめきだした。どうやら偉い貴族の一人が意見をぶつけているらしい。

「下級ランカーなど、足手まといでしかない。深部の扉を開くには、優秀な冒険者をまとめて投入すべきだ!」

「俺たち弱い者はどうすればいいんだよ! 結局、指を咥えてまってろというのかよ?」

 一気に騒然となる会場。そんななか、ティアがいきなり立ち上がって、ステージの方に駆け寄ろうとする。


「何するんだ、ティア!?」

「ちょっと言わせてもらうわ! 下級ランカーは足手まといなんて言わせないから!」


 まさかの行動力で、ティアは来賓や騎士団の制止をかいくぐり、壇上に飛び乗ってしまった。その場にいた貴族や上級冒険者が「なんだこの娘は」と驚きに目を見開く。

 エリーナと僕は慌てて止めに入ろうとするが、ティアの目には強い決意が宿っている。


「見ての通り、私はとっても可愛いE級のティア・ティリーナよ! 確かにまだまだ弱いかもしれない。でも、私たちみたいな下位ランカーだって努力すれば魔物を倒せるし、迷宮に貢献できるの! それを足手まといなんて、一方的に決めないでよ!」

 会場がざわめく。貴族は「何を身の程知らずな……」と呟くが、ティアは負けじと声を張り上げる。

「私、実際にオーガも倒したし、幽霊(?)退治だってしてきたわ! この迷宮は、強い人だけのものじゃない。弱くても頑張ってる人を排除するなんて、おかしいじゃない!」


 鼻息荒く、半ば涙目になりながらの主張。会場の冒険者たちの中にはクスクス笑う者もいるが、中には「その通りだ!」と拍手を送る人も。

 ギルドマスターが困惑しつつも、静かに手を挙げて人々を制止した。

「……確かに、強者が深部攻略を優先するのは当然だ。しかし、下位ランカーにも守らなければならないフィールドがある。大規模な秩序維持には、あらゆる階層の冒険者が必要なのだよ」

 彼はティアの目を見て頷き、続ける。

「きみたちのような底辺から這い上がる力も、無視はできないということだ。私たちは段階的な制度を導入するが、下位ランカーの活躍を完全に排除する気はない。むしろ、そちらの範囲での活躍にはきっちり報酬やポイントを与えるつもりだ」


 ティアはやや驚きつつ、ギルドマスターをまっすぐ見る。と、その隣に立っていた貴族は苦々しい顔をしているが、これ以上は何も言えないようだ。会場に微妙な空気が流れたあと、少しずつ拍手が広がり、騒ぎは収束に向かった。




 その後、ティアは騎士団員に「もう下がってください」と促され、ようやく壇上を降りる。僕とエリーナは冷や汗まみれで「まったく無茶を……」と言いながら彼女を迎える。

「つ、捕まるかと思った……」

「ご、ごめん。でも、なんか言わずにいられなかったのよ!」

「まあ、あんたらしいけど……」


 周囲の冒険者たちが、興味深げにこちらを見ている。中には「やるじゃん、下位のクセに」「ふふ、確かに可愛いかも」などと囁く声も。ティアは照れ隠しか、ピンクの鎧のフリルを必死に整えながら「そ、そうでしょ!」と鼻をすすっている。

 泣く寸前だったはずなのに、どうにか踏ん張ったらしい。さすがに人前で大号泣は恥ずかしかったのか、必死にこらえた結果だろう。




 集会後、ギルドは階層分割管理を本格的に施行。僕たちE級は「中層前半」までの探索と保護が許されるが、それより先に行くにはもっとランクを上げなければならない。

 ただしギルドの公募として「中層前半の安全確保に参加した冒険者にはボーナスポイントを与える」という新方針が打ち出された。下位ランカーにとってはありがたい施策だろう。

「私たち、まずはここで地道にポイントを稼いで、D級かC級を目指すって感じかしらね」

「そうだね。深部に行きたい気持ちはあるけど、無理して突っ込んでも危ないし……」

 ティアもうんうんと頷く。

「うん、私、さっき大勢の前で偉そうに言っちゃったし、ここで結果出さなきゃね! 大丈夫、私が世界を平和にしてみせるわ! 可愛さを振りまきながら!」

 ……相変わらずスケールが大きいのか小さいのかわからないが、意気込みは一人前だ。




 それからしばらく、僕たちは中層前半を中心にクエストをこなし、魔物の討伐や不審者の通報など、安全確保の任務にいそしんだ。以前ほど逃げ腰にはならず、ドジも微減したティアの働きもあって、順調に実績が積み上がっていく。

 ある日、ティアと僕が比較的強めの魔物(大きめのウォーウルフ)を倒し切った報告をギルドへ提出すると、「これは大きな加点になるね」と職員が太鼓判を押してくれた。


 さらに運が良かったのは、エリーナが別の依頼でレア素材を入手し、ギルドに納品したことだ。この連続でポイントが一気に伸び、ついに……。

「シヴァルさん、ティアさん、すごい。あなたたち、もうE級の上位ポイントまで来ていますね。このまま行けば次の再査定のとき、D級入りも夢じゃないですよ」

「えっ、D級……?」

 あまりの嬉しさに、僕は耳を疑った。下位ランカーの最下層から抜け出しただけでも奇跡と思っていたのに、今度はD級――いわゆる中堅レベルを視野に入れられる位置にまで来ているというのだ。


「やったじゃない! シヴァル!」

「うん、ティアもね!」

 二人でハイタッチし、ピョンピョン飛び跳ねる。もう嬉しさが止まらない。エリーナは少し呆れ顔で「良かったわね、でも私の背中はすぐに越えさせないわよ」と微笑んだ。


 僕たちが泣いて笑って騒いでいるうちに、確実に実力はついてきた。ティアは相変わらずドジるし、泣く時もあるけれど、迷宮やクエストの実践を通して成長している。

 いつか深部へ行き、闇ギルドと真っ向から戦う日が来るのかもしれない。扉の謎が解かれたとき、僕たちにも新たな舞台が巡ってくるだろう。


「私、まだトンチンカンな挙動がでちゃうかもしれないけど、それでも大丈夫。だって、私には可愛い鎧も仲間もいるもん!」

 ティアが笑う。過去の大泣きが嘘のような明るい笑顔。ちょっと涙ぐんでいるけど、今度は嬉し泣きに近い。

「よーし、さらに頑張って、いつかC級になってみせるわ。そしたら大きなクエストにも挑戦できるもんね!」

「そうだな。一緒にもっと強くなろう。僕たちならやれるはずだ」


 こうして、ティアの大騒ぎと大泣きを挟みながら、僕たちは確実に階段を上っている。

 見上げれば、迷宮はまだまだ深く、その先には闇が広がっている。だが、同時に光も見える――自分たちが成長しているという希望。


 大粒の涙を拭きながら、ティアは今日も高らかに叫ぶ。

「可愛いは正義! そして私は、正義を貫く下位ランカー代表よ!」

 彼女の声がギルドのホールに響き渡り、周囲の冒険者たちが苦笑いしながらも拍手を送る。

 その光景を目に焼きつけながら、僕は心から思う――この仲間となら、どこまでも行ける、と。


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