8.囚われの令嬢
「ーーっルー!!ルーシア!起きてっ」
なんだか懐かしさを感じる声が私を呼んでいる。
「?!」
パチっと目を覚ますと涙を流しながら見下ろすミルティの姿が見に飛び込んできた。
「お姉様??これはどういう状況??ってぇえ?」
ミルティの泣き顔に困惑し、飛び起きようとしたとき自分の体が拘束され、大きなベッドの上に寝かされていることに気づいた。
「ここは???」
ひとまずベッドの上で起き上がり態勢を整えきょろきょろとあたりを見回すと、恐らくラデラ宮の来客用の一室ではないかと想像できる。
周りには調度品などはほとんど飾られてはいないものの、室内を照らすシャンデリアにしても、壁紙や床の絨毯にしても一級品であることに間違いなさそうで、黄金の装飾の多さからしてもラデラ宮で間違いないと感じた。
「私たちは王妃様に囚われてしまったのよ・・」
姉の目元は涙を流したためかうっすら赤く腫れているが、顔は真っ青で悲壮感を漂わせている。
「囚われた?・・・そういえば最後に紅茶を口にしてからの記憶が・・ない。お姉様は何故ここにいるのですか?赤ちゃんは大丈夫ですか?」
自分の状況は把握できたが、何故姉がここに囚われているのかがわからない。一体何が起こったというのだろうか?
部屋の隅に控えていた侍女らしき女性が部屋から退室していったのが見えた。
誰かを呼びにいたのだろうか?
「私はエルガディオのタウンハウスにもどって自分の部屋で確かに休んでいたはずだったのだけど・・気づいたらここにいたの・・ルーが目覚める少し前に私も起きたばかりなのよ。」
拘束されているのは部屋のベッドの上だったので二人とも体が痛くなるという事はなかったのだが、
待遇は良くとも拘束されていることには間違いはなさそうだ。
ルーシアは指輪に魔力を込めようとして自分の体の変化に気が付いた。
いつもであれば魔力操作は簡単にできるのに、指輪に魔力を込めるだけでも難しく感じる。
この異様な感覚に戸惑いが隠せない。また、誰に見張られているかもわからない為声に出さずディーンに呼び掛けた。
≪ディーン!!私の声が聞こえる???≫
≪ルー?連絡がなかったから心配したよ。今どこだい?≫
≪多分ラデラ宮の客室のどこかだとは思うの。紅茶を飲んだ後気を失ってしまったみたいで、今さっき目が覚めたのだけど、お姉様まで囚われているのよ≫
≪なんだって?二人とも無事かい?≫
≪えぇ。私たちは今のところ傷つけられてはいないわ。でも・・何故お姉様がここにいるのかもわからないし、指輪の通信も、さっき魔力を込めるのが難しかったの・・もしかしたら魔力操作がうまくできなくなっているのかもしれない。≫
≪・・ルー昨日あげたもう一つの指輪は今もつけているかい?≫
≪勿論つけているわ!≫
お茶会に参加する前にディーンはルーシアに「会いたい」とエルガディオのタウンハウスへ訪れ、お守りにと赤い魔法石のついたリングを渡していた。
≪よかった。昨日渡したリングを確認してみてくれるかい?≫
≪わかったわ!・・・あら??魔法石が青色になっているわ?≫
≪やはり・・ルーシア。その指輪は【魔力抑制薬】を飲んだ時に反応する指輪なんだ。≫
≪え?!それじゃ私は・・・≫
自分の体の異変の謎が明らかになりホッとしたと同時に、ルーシアは敵の正体を知り愕然とする。
≪あぁ・・今は魔力がほとんど使えない状況なんだと思うよ。普通の人間なら全く魔法は使えない状態だろうが、ルーシアは魔力量はとても多いからね。きっと俺に連絡する魔力は残っていたのだろうね。魔法封じとは違うから、ルーのフルリピストなら解除は可能だろう。だが今すぐ使うのは待ってくれないかい?≫
≪どうゆうこと?≫
≪俺が王妃とクリシスの罪を今回で白日の下に晒す。今ルーだけが逃げるだけなら簡単だと思うけど、それだけじゃだめだと思うんだ。本当は今すぐにも助けたいけど、後1-2時間耐えてほしい。もし難しそうだったらその時はルーと義姉の安全優先で動いて構わないから。≫
≪わかった。ディーンを信じて待ってる。気を付けてね!!≫
≪ありがとう。ルーも気を付けて!!≫
はぁぁーーー・・・通信を終えたあと、ドッと疲れを感じ溜息を吐く。
これからどうやって王妃と会うか考えているとクリシスと王妃が護衛や侍女を数人引きつれて部屋に入ってきた。
「やぁ!ルーシア。目覚めたみたいだね!」
「これは一体どうゆう事でしょうか?」
満面の笑顔で近寄ってくるクリシスの笑顔は不気味さすら感じる。
ベッドの脇までやってくるとルーシアの髪の毛を一束掬い頬を紅潮させながらそっと口づけた。
「ルーシアが兄上に騙されていてちっとも私たちの話に耳を傾けてくれないからさ。どうせ妃教育で王宮に今後引っ越す予定だったのだし少しばかり入宮が早まったところでなんの問題もないだろう?」
「確かに妃教育を行う際に入宮はいたしますが、今ではございません。しかも何故お姉様まで囚われているのですか?」
全く悪びれた様子はなく当たり前のように語るクリシス王子の言葉に苛立ちながらもルーシアは冷静に言葉を返す。
「それは貴女の侍女になるんだから一緒に連れてきたのよ。」
さも当然かのように王妃は告げてくる。
「?!お姉様は身重なお体なのです。結婚だって控えております。侍女になるなどありえません。私のことと関係ございません。ですのでお姉様を開放してください。」
あまりの身勝手な発言に頭に血が上りそうになるのを堪えながらベッドに座った状態で頭を下げ王妃に願いでる。
「それはできないわね。」
バッサリと言い切る王妃の表情は冷たく凍てつきそうな眼差しで私を見つめてくる。
「それは何故でしょうか」
「ふふ。貴女がクリシスの妻になりたいと願うのであれば解放してあげないこともないわよ?」
やはりお姉様は私との交渉手段として囚われていたんだわ・・私のせいなのね・・
王妃とクリシスの身勝手な振舞いで身重な姉をも危険にさらしてしまった自分への怒りで目に涙が溜まっていく。
「あぁルーシアが私と結婚したいと願ってくれるなんて最高だ・・ルーシアずっと大切にするよ」
返事をしていないのにクリシス王子はルーシアを抱き上げ自分の膝に乗せて抱きしめる。
「きゃっっく・・クリシス殿下お止めください。離してっ」
あまりにも大胆な王子の振る舞いに王子の腕の中で逃れようと身をよじらせる。
「ルー!私のことは大丈夫よ。何とでもなるわ。貴女は貴女のすべきことをしたらよいのよ。」
「お姉様?」
突然隣でおろおろしていた姉がいつもとは違う意思のこもった口調で私に声をかける。
「私はもう自分の願いを我儘で通してしまったわ。ごめんなさい。だから、ルーも今自分が本当に必要だと思うことをしてほしいのよ。」
やっと安定期に入る頃で、まだお腹の子供のことだって不安なはずなのに姉は力強い女性の顔をしていた。
ルーシアの頬を一筋の涙が伝う。
お姉様はダリオのことはともかく、普段はとっても優しくていつも私のことを考えてくれている。
こんな身勝手な人たちとは比べ物にならないわ!
「王妃様。第2王子殿下。どうか現実から目を逸らさないでください。貴方方がしようとしていることは、ただ王国内をかき乱しているにすぎません。こんなことをしても、サーディン殿下がいずれ次期国王となる未来は変わらないのです。」
「わかっていないのはルーシアだよ。兄上はたかが【全覚醒者】になっただけで父上の信頼も勝ち取り、ルーシアも奪い、魔法師団だって自分のものとして扱っている。でも兄上はこれまでずっと国から逃げ続けていたんだ。23年もの間逃げ回っていた人間が、いきなり王になるだなんておかしい!私はずっと王になるべく学んできた。それをいきなり奪われて黙っていられるわけがないんだ。」
「その通りです。サーディンは王に相応しくないわ。【覚醒者】の力も我がもののように扱い、白髪の異端な王など信じられるものか。【全覚醒者】などと王が世迷いごとを言わなければこんなことにはならなかったものを。」
王子と王妃の言葉は【全覚醒者】という存在を信じていないのが明らかであり、勝手な憶測で自分たちの都合の良いように捉えているようにしか思えない。
「【全覚醒者】は自称でなれるようなものではございません。国王陛下が【全覚醒者】であるとお認めになったからこそ次期国王にサーディン殿下は選ばれているのです。また、サーディン殿下の能力は、近くで見てきた【覚醒者】である私たちが一番よくわかっております。サーディン殿下に何かあれば、私たち【覚醒者】は全力でサーディン殿下を守ります。【覚醒者】を敵に回すような行為はどうかおやめください。」
「うるさいうるさいうるさい!!ルーシア!君は私のものだ!君の姉が傷物になってもまだ君は兄上の味方でいられるのかな?!」
「っきゃぁーっ!」
ルーシアの言葉にクリシスは怒りのままにミルティの体をベッドの下へ突き落した。
「お姉様!!殿下!なんてことを!!」
「大丈夫死にはしないよ。デビュタントで初めて会ったあの日から私は君が欲しかったんだ。もう離さないよ」
左腕に抱きしめながら右手をルーシアの頬に添えて王子は顔を近づけるのを逃れようと顔を背けようと力を入れる
やだっやだやだっ!ディーン早く来てっ!!
ドンっ!!!
突然部屋の扉が爆発し近くに待機していた護衛や侍女は爆風で倒れている。
「そこまでにしようか。クリシス」
心臓に突き刺さるようなさっきの籠った声が扉があったはずの煙の中から聞こえる。姿を現したのはディーンと国王。宰相の3人だった。




