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6.弟王子の執着







 「お嬢様・・このお花・・どういたしましょうか」

 困り果てた声で侍女のロゼは大きな花束をどこに飾るべきか悩みこんでいる。

 「第2王子殿下にも困ったものよね・・」

 はぁーっと深いため息を吐いてルーシアはロゼと花を飾る場所を探す。

 すでにルーシアの部屋はクリシスから送られた花束で埋め尽くされており、飾る場所は残っていない。廊下や玄関ホールも花で埋め尽くされている。

 先日のお茶会から1か月ほどの間に1日1-2回大きな花束が届くので飾る場所がどんどん減ってしまい花の咲くシーズンはすでに終わりかけというのにエルガディオタウンハウスは花で満開なのだ。

 普段からあまり部屋を飾らないルーシアにとってはかなり居心地が悪い空間に様変わりしてしまい体の疲れも自室で癒せない。

 「ロゼ悪いのだけどそろそろ本部に行かないとならないわ。花の飾りは任せて構わないかしら。」

 「はい。承知いたしました。頑張って飾り場所を探しておきます!」

 よしよしとロゼの頭をなでると気を取り直し移動魔法で出勤した。




***




 「おはようございます!」

 「ルーおはよう。今日も早いね」

 本部の執務室にはすでにディーンとユージスが執務を行っている最中だった。

 本当にこの二人は毎日仕事の開始時間が速い。

 私の到着した時間だって、朝食を食べて贈り物の片づけを終わらせてすぐ来たのだからかなり早いはずなのに、どう考えてもすでに何件か仕事を済ませたような二人の姿にちゃんと眠れているのか心配になってくる。

 「ルー。最近思うのだけど、君の出勤時間日に日に早くなっていないかい?」

 「気のせいだよ!・・・って言いたいところなんだけど、毎日第2王子殿下から届けられる大きな花束のお陰で安眠できなくなってきてしまって・・家にいるくらいなら仕事してた方がマシな状況なの」

本気で泣きたいわけではないもないものの、あまりにも毎日続く花束攻撃に涙だって流したい気分にもなる。

 思わずうるっと瞳を潤ませると慌ててディーンがそばに駆け寄って抱きしめる。

 「ルーをこんなに簡単に泣かせるなんて・・クリシスはどうやら突っ走りすぎているようだね・・」

ルーシアを優しく抱きしめる力とは真逆の怒りのこもった低い声でどうしてくれようかと考えあぐねる。

 「確かに困りものですね。王宮にエルガディオ嬢を住まわせたいのでしょうか」

 「ルーを王宮に?」

 「そういえば確かに王妃様もお茶会の時に王宮に引っ越してきて妃教育を始めるべきだって言ってたね!」

 ユージスの疑問にルーシアは思い出したかのように声に出した。

 「まさか・・・王宮の中は俺が手が出しにくいのをいいことに囲い込もうとしているのかな?」

 ディーンはにこやかに話しているが空気は絶対に氷点下なのではないか?という位寒々しい。

 王宮は特に王妃様が管理をされているというだけでなく、ディーンは昔から特別な館で暮らしていたため、王宮の中であっても妃教育を受ける姫君たちとは暮らす場所が全く異なった。

 その為、妃教育を王宮で暮らしながら行うとなった場合は、まずディーンが王太子用の部屋に移ってからでないと、暮らす部屋が離れ離れになり、なかなか会うことが叶わなくなってしまう可能性が高くなる。

王太子任命はまだ正式に行われていない為、王太子の部屋にディーンが移るという事は今の時点では難しい。そうなると、ルーシアがタウンハウスで暮らしながら本部で一緒に過ごす方がずっと寄り添って過ごすことが可能なのだ。

 「何があっても俺が王太子の任命を受けるまではルーの妃教育は始めさせられない。」

 3人は頷きあった。




***




 最初は大きな花束だけだった贈り物が、手紙でのデートの誘いが入るようになった。

いくらなんでも婚約者がいるので受ける義務はないのだが、あまりにもしつこくでーとの誘いの文面が織り交ぜられてくるためルーシアの精神状況はゴリゴリ削られていた。

 手紙で何度も「会うことはできない」と拒否しているのに、全く懲りる気配がなく何度でもトライしてくるのだ。

 ルーシアは元々もらったものは返す主義なので贈り物攻撃やデートのお誘い攻撃は心への打撃力がかなり強かった。

 目に見えてやつれ始めたルーシアを心配したディーンは苦肉の策として婚約者同伴で1度エルガディオのタウンハウスでお茶をすることにした。


 「今日はお招きいただきありがとう」

 満面の笑顔でやってきたクリシスをルーシアは苦笑いで出迎える。

 隣に立つディーンは無言で笑顔を張り付け空気を氷点下にしてクリシスを出迎えた。

 「なんだか思っていた出迎えとちょっと違う気がするんだけど?」

 クリシスはあえて空気を読まないスタイルで談話室への案内を受ける。

 「大したお構いはできませんが、いつも花束とお手紙をいただいてばかりでしたので、本日は気持ちばかりですが、お茶の席をご用意させていただきました。お口に合うと良いのですが」

 ルーシアが感謝の気持ちを述べると機嫌よくクリシスは紅茶を啜った。

 「とても爽やかなお茶だね。甘い茶菓子にも合いそうだね!」

 「はい。ハーブを何種類かブレンドしたものを今回はご用意いたしました。疲労回復の効果もございます。」

 「さすがルーシアだね。治癒に関しては誰もかなわないんじゃないかな」

 「ルーシアじゃないよ。エルガディオ嬢と呼びなさい。」

 ルーシアをほめたたえるクリシスにディーンは突っ込みだけは忘れない。

 兄王子の突っ込みを華麗にスルーして、自分の言いたいことを散々話し続けるクリシスにディーンは辟易しつつも、それでもルーシアを守るために牽制は忘れない。

さすがに一通り話も落ち着いたころ合いを見計らいルーシアも想いを言葉にし始めた。

 「第2王子殿下の届けて下さる気持ちはありがたいのですが、私はそれをいただく資格を有しておりません。サーディン殿下と婚約している以上これ以上のお心遣いは今後はご遠慮ひたいので、今後は受け取りを拒否させていただきますね!」

 「ルーシア?そんなこと言わないで?僕は仲良くなりたいがためだけに送っているんだよ。私の気持ちだけでも受け取ってほしいんだよ。」

 「お気持ちはわかりましたが、それを受け取る私の気持ちが追い付きません。お心に添えず申し訳ないですが、今後は受け取り拒否させていただきます。」

 「どうして???・・・・・こんなに気持ちを必死に伝えているのに。兄上より私の方が君を大切に思っているのに。なんで君はわかってくれないの?私にはルーシア。君だけなんだ。本当は僕が君の婚約者だって、デビュタントのエスコートだって私になるはずだったんだ。それを兄上が横から掻っ攫っていっただけなんだよ。」

 「え?」

 「クリシス。あれはどちらが早くに言ったか言ってないか?じゃないんだよ。私は父上と話をして、正式に許可を得ている。だから王命になったんだよ。クリシスの出そうとしていたものは王命ではなくただの求婚書だ。そんなものと私の王命を一緒にしないでくれないかい。」

 「まさか・・・私に連絡できない位忙しかったのは、この王命の為だったという事ですか?」

 「そうだよ。あの時点でクリシスが君にエスコートを求める手紙を出そうとしていたところだったから、私が不通に手紙を出すだけでは駄目だったんだ。王命で強制力が必要だったからかなりの労力が必要になってしまったんだ。」

 自分の知らないところですでに兄弟での争いが起きていたなんて知らなかった。それでも私を失わないために必死で動いてくれていたことに涙が出るくらい感動した。

 「ディーン・・私嬉しいわ。愛してる」

 「ルーの為ならいくらでも王命をもぎ取って見せるよ。そのくらいの力を今は俺は持っているからね」

気づけば二人の世界に浸っている二人を前にクリシスは悔しさで体を震わせていた。

 「ルーシア。君は気づいていないだけなんだ。君の本当の相手は私だ。私でなければならない。前の婚約者の時は私も半分は諦めたが、今は一歩だって引き下がるつもりはない。必ず君を取り戻す。・・・今日はこの辺で先に失礼しよう。」

 クリシスの表情は陰り瞳は暗く濁っているようにすら見えるのに、怒りのような闘志だけはギラギラと目の奥に灯っているかのようだった。

クリシスが立ち去った後花束の贈り物攻撃もクリシスからの手紙もピタッと来なくなった。

 これで落ち着いたのかとほっとしたのもつかの間。そこから1週間もせずにまた王妃様からのお茶会のお誘いが届くのだった。





















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