3.王国魔法師団は覚醒者を勧誘する(後)
「絶対だめだよ!」
厳しい表情でディーンは私をぎゅっと抱きしめキリアンを睨みつける。
「っだ・・・団長!落ち着いてください!!」
美しい天使の様なディーンがキリアンに会ってから明らかに態度がおかしい。
(そ・・そんなに私に対して狭量なの?!)
『そりゃそうだよ!ルーのことを8年前からずーっと好きなのに、ぽっと出少年が【覚醒】を出汁に交際迫ってきたらねぇ』
水妖精のアシュはしらっと会話の中に入る。
(そんなに???)
『恋慕の強さなら、ルーより間違いなくディーンのほうが強いし、ディーンの執着はほんと凄いんだから!
他の妖精たちにも聞いたけど、ルーが学園で困っていないかとか、家族とうまくやっていたかとか、さりげなく定期的に報告させてたって私知ってるしね!って・・あ・・ディーン怒んないでよーこれはフォローだよー?』
(報告?!)
今までの自分の生活を知られていたかと思うと、私は恥ずかしさがこみ上げて顔から湯気が出そうなくらい熱くなってしまう。そんな私を抱きしめたままディーンはむすっとしている。
「そんなに見せつけないでくれます?別に俺は覚醒者になりたいと思ってないし構わないんでー」
「そ・・そんな!せっかくの才能をこのままにするのですか?!」
私はキリアンの言葉に思わず声を荒げてしまった。
「俺は別にそんな能力なくたっていいんですよ。むしろそんな能力あったらこき使われそうだし・・面倒な目にも合いそうだし。
先輩が付き合ってくれるなら損しても構わないかなって思っただけだし。」
「・・・」
キリアンは【覚醒者】になることの責任の重さや、命を狙われる危険性もわかっているのだろう。
そう考えると無理に勧めることは彼にとっては良い事ではないのかもしれない。それでも自分たちと仲間となって王国を共に支えてほしい気持ちに揺れ動き言葉に詰まってしまった。
「君が考えていることは間違ってはいない。確かに【覚醒者】になる。ということは、良い事だと断言はできない。」
ディーンは私を抱きしめていた腕を外し、キリアンに向き直るとまっすぐに告げた。
「もし覚醒した場合は、君は王国魔法師団に入団関係なく私の下につくことになる。
私だって信頼できない部下を持ちたいとは思わない。だから無理強いするつもりはないし、ルーシアも譲るつもりは一切ない。
妖精の祝福を受ける気がないのであれば私たちはこれで失礼するよ。」
きっぱり言い放ったディーンは立ち上がり、私の腕を掴み移動魔法で魔法師団本部へと戻ってきた。
「ディーン・・本当に良かったのかな?」
魔法師団本部のディーンの執務室のソファの彼の膝にしっかりと乗せられて、後ろから抱きしめられながら問いかける私を彼は愛おしそうに口づけを落とした。
「嫌がる人間を【覚醒者】に勧めてもよい事にはならないんだよ。覚醒者同士が万が一敵対したら、それこそとんでもないことになる。
もしヴィトラが俺に敵意を向けてきたら俺は容赦なく返り討ちにする。そんな危険性はない方が良いだろう?」
「それはそうだけど・・」
「それよりも俺たちは婚約者同士だよね?もっと甘い時間を過ごしてもよいんじゃないかな?」
本部に戻ってからのディーンの甘さに動揺が隠せないのに彼の煽りは止まらない。いつ唇が触れ合ってもおかしくない位近くにディーンの顔が近づいて目を逸らすこともできない。
物欲しそうに訴えかけるディーンの瞳は男性なのに物凄い色気で頭の中がくらくらして目が回りそうになってしまう。
(こっ心が苦しいっ!ドキドキしすぎて辛いっ!!)
『ちょっとちょっと!ルーが苦しいって訴えてるけど?ルー死んじゃうよ?』
「アシュー!!」
心臓が止まりそうなくらいバクバクして、限界一歩手前だった私に救い船を出してくれたアシュに私は泣きそうになって歓喜してしまった。
「俺はもっとくっつきたいしそれ以上ももうしてもよいと思うのだけど?」
(!!!!!)
ディーンはくすっと妖艶な微笑を浮かべ、まるで今にも舌なめずりでもしそうな美しいオオカミに見えてしまった。
「だ・・だめです!ま・・まだ無理ですっ!」
ボンっと音が鳴ったかのように顔が更に真っ赤になり耐え切れず両腕でディーンの胸を押して立ち上がった。
「は・・・はやっ・・早すぎますっ!!帰ります!」
耐えられなくなった私は早口で告げると移動魔法を使って颯爽とエルガディオのタウンハウスへと戻った。
***
『ちょっとは落ち着いた?』
帰宅して自室のソファに深く体を沈みこませると、私はクッションを抱きしめながらため息を吐いた。
「少し・・」
『あの子はルーが大好きだから必死なんだよね。顔にはほっとんど見せてないけど、心の声なんて聞かせられたもんじゃないのよ?すごいんだから!』
(何がすごいんだろう・・)
『そりゃールーに○○したいとか○○○して○○とか・・そりゃもう凄いわよ?』
「いっ言わないでいいから!!私の心に今返事しないでっ!」
アシュの悪気のない18禁用語の連発に、収まっていた顔の熱は沸騰しそうなほどに熱くなり半泣きになった。
『ごめんごめん。別に揶揄ってるわけじゃないけど、ルーは恋愛はゆっくりじゃないと無理そうね。』
なんだかアシュに溜息を吐かれているような感じがしてきまり悪く私はクッションに顔をうずめた。
『それで、ボアとキリアンのことはあの子が言ってたみたいにもう放置ってことにするの?』
(・・・・)
「私は・・・」
言葉にしたい思いが纏まらなくて言葉に詰まる。
『私はこのまま放置でも仕方ないとは思うわよ?ディーンとの関係はあの状態だと危険とは思うわ。でも、ボアは寂しいでしょうね。』
「寂しい?」
『そうね。私たちは人よりも長く生きているし、どちらかというと魔力の塊のようになっているから死ぬという概念がないのよね。だからルーが思うよりかなり長く存在しているわ。祝福も何人もしたわね。
でもね?簡単に愛し子に出会えるわけじゃないのよ・・。私だってルーに出会うまでは100年近く出会えなかったわ。前の愛し子は短命だったからね。』
アシュの寂しそうな声音に私の心は先ほどまでの熱を失い、まるでおもりがぶら下がったように沈みそうになる。
『ボアの前の愛し子も短命でね。やっと久しぶりに出会えて・・まぁ・・有頂天になっちゃったんでしょうね。
そりゃもう耳鳴りがするくらい周りの妖精に見つかった見つかったって喜んでいたわ。
私たちは魔力に引き寄せられる。強く魅力的な魔力をもつ者を見つけることは、私たち妖精にとってなかなか終わりのこない長いときの中で、心を癒してくれる救いのように、愛おしくて堪らないのよ。』
私が思うよりずっと妖精さんたちは長い時の中で、【覚醒者】を望んでいるのだろう。まるで存在する理由のように感じる。
「私・・もう少しヴィトラ様とお話ししてみたい。
うまく言えないけれど、警戒心が強いのだとしたら、ちゃんと交流すれば妖精さんとも仲良くなれる可能性はきっとあると思う。
私はアシュがいてくれてこの8年一人ぼっちじゃなかったわ。いつも心の支えになってもらえてどれだけ救われたかわからない。
それに、ヴィトラ様からは強い魔力を私でも感じるわ。たとえ覚醒しなくても、今の時点でも他の優秀な魔法使いより強いと思う。
だからヴィトラ様自身もわかっているから周りを警戒しているのだと思うの。
これから先【覚醒者】にならなくたって、命を狙われる可能性は高いと思うわ。だから、私たち【覚醒者】や妖精さんが仲良くなることは決して悪い事とは思わない。味方になって助け合えたらディーンともうまくやっていけると信じたい。」
きゅっとクッションを握りしめ自分自身の心と向き合い、自分の言葉に後悔を残さないよう言い切った。
『・・・・・ルー。本当に愛しい子。貴女だったらできる気がするわ。
貴女の魔力は癒しを感じるから、そばにいるだけでもキリアンには良い影響を与える可能性は高いわ。私も協力する。』
「ありがとう。アシュ」
それから私とアシュは、ボアとキリアンを仲介するためにほぼ毎日短い時間であってもキリアンの元に顔をだし、彼の警戒心を解くために話をするため学園に足を運んだ。
最初は条件を何度も口にされてどう返したら良いか迷ったけれど、それでも辛抱強く他愛のない雑談や、キリアン自身の事を聞いていくうちに、彼はとても臆病だけど優しい少年なのだとわかった。
やっぱり周りから自分の魔法の能力が桁違いに優れていることで、良い人間関係を構築してこれなかったんだと感じた。
ディーンは私が学園にキリアンに会いに行くことを、反対してかなり不貞腐れた声を出していたし、過剰なスキンシップも私の心を振り乱してくれたけど、それでも私を信じて任せてくれている。
少しずつキリアンとの心の距離が近くなり一か月近くたったころ、思いもかけない事件が起こってしまったのだった。
***
≪ルー今話せるか?≫
「ディーン?どうしたの?」
そろそろキリアンに会いに行こうかと用意していると、突然のディーンからのコールが聞こえてきた。
≪ボアから連絡があったのだが、ヴィトラが攫われた!≫
「攫われた?!どういうことですか?!」
≪今は事情を話す時間がない。とりあえず本部に来れるか?≫
「承知しました!直ぐ向かいます。」
≪待っている≫
特殊能力がなくても十分すぎる魔力を持つキリアンが何故さらわれたのか?相手は何の目的でさらったのだろう。
この約1か月の間かなり仲良くなれてきていたのではないかと感じていた私は、体中が冷え切って背中を冷たい汗がつたい指が震えているのがわかる。
(助けなくては!何があったのか自分の目で確かめる!)
私は魔法師団の団服に着替え、執事長のルスターに状況を伝え移動魔法で本部へと向かった。
本部の入り口に移動した後急いでディーンの執務室に向かうと、そこにはディーンとユージスの姿があった。
「ルーシア来たね。それでは手短に状況を共有する。今ヴィトラは王都東のマルテ住宅街付近の路地裏の倉庫にいるのは間違いないらしい。攫ったのは土属性のザワン子爵の手のものだと確認できた。
妖精たちの情報から暗殺者を支持しているところまで把握できている。
ヴィトラはどうやら魔力抑制薬を使って弱体化したところを連れ去られたらしい・・」
「!!!・・まさかその手口は。」
ディーンの言葉にユージスは何かに気づいたように焦りを感じたように声を荒げた。
「あぁ。・・俺の時と同じだ。・・・王妃が関係しているかもしれない。攫ってどうするのかは検討がつかないけれどね。」
「王妃様?!・・そんな・・」
私の体は驚愕し体をこわばらせた。
「魔力抑制薬なんてこの国じゃ作られていないものだったからね。誰でも簡単に手に入れられるものじゃないんだよ。
もしかしたら俺たちがヴィトラの元を訪れていたことも起因しているかもしれない。皆油断できない状況だ。注意を怠らないように。」
「「 はいっ! 」」
私とディーンはキリアンの魔力を感知して状況を確かめるため倉庫の近くに隠れ、ユージスは火の妖精ロイの誘導とディーンの指示で魔法師団員を率いて暗殺者を逃がさないよう倉庫付近一帯を囲み、もう一部隊は王都のザワン子爵のタウンハウスを監視した。
「・・・倉庫を入ってすぐの入り口に3名、倉庫内奥には魔力の強い暗殺者3名と、ザワン子爵とその部下が5名ほどいるようだ。」
ディーンは私の耳元で淡々と妖精からの状況報告を教えてくれる。
「人数が多い事と、魔法抑制薬がどのように使われているかまだ分からない。本当であればルーを連れていきたくないんだよ。」
「いえ。私も行きます。」
「・・・そうだよね・・わかっていたよ。倉庫内で離れた時は指輪のコールで情報共有をしよう。万が一何かあっても必ず俺が助けるからね。まずは水球で敵を捕縛していけるかい?なるべく生け捕りにしたい。」
「承知しました!」
状況報告をしつつも心配でたまらないディーンに私は返事をしてから彼の左手を取り身体強化をそっとかけた。
ぽうっと一瞬私の手から小さな淡い光がディーンの左手に吸い込まれる。
「ルー?」
「身体強化です。足の速さと体の軽さを感じられるはずです。」
「ありがとう。必ず無事にヴィトラを救出しよう!」
ディーンはぎゅっと私を抱き寄せ額に唇を落とすと、ぞくっとするような美しい微笑で告げると彼は先に走りだした。
私も自身に身体強化魔法をかけるとディーンの後を追った。
倉庫の扉を開けると私たちはすかさず待ち構えていた敵を水球で捕縛し、足音を立てないように奥へ進む。
「ここからは両サイドから別々に侵入しよう。危ないと思ったら隠れているんだよ?わかったね?」
耳元で囁くように指示を受け私はこくんと頷き、左の扉からそっと中に忍び込んだ。
≪ルー中に入ったかい?≫
「はい。入りました。水の錯覚で姿を隠しているので見つかってはいません。」
≪優秀だね。俺も今侵入している。どうやらヴィトラは何か尋問されているようだ。慎重に向かわなくてはならない。
・・・と言いたいところだが悠長にしていられる状況ではないらしい。暗殺者は一か所にまとまっていない。俺が全員一度気を失わせる。その後水球で捕縛してくれるか?≫
「承知しました。お気をつけて!」
小さな声で返事を返すと、身を隠したまま静かにキリアンの姿が見える所まで近寄った私は驚愕した。
横たわったキリアンは、逃げないように両足首が切断され体中裂傷の傷を負っていた。何とか意識は持っている様子だが朦朧としている状況は明らかに危険な状態だとわかった。
(なんとひどいことを!!!!!)
悲しみよりも燃え上がるよな憎しみに支配され、全身の毛が逆立ちそうになるのを堪えてディーンの攻撃を待つ。
突然ふっと倉庫内が暗くなった
ビシャーーーーーンっっ
物凄い落雷の音が響き渡ったと同時に幾筋もの雷が敵に落ち、一瞬で全員気を失った。
「ルーシア捕縛を!!」
ディーンはキリアンに走り寄りながら私に指示を飛ばした。すかさず倒れた敵全員を水球で捕縛して、私はすぐにキリアンの元に向かうと、ディーンはキリアンの状態を確認していた。
「ヴィトラ様!!!」
叫ぶようにキリアンに声をかけ横たわるキリアンの手を取った。
「魔法抑制薬だけを使われた様だが・・傷が深すぎる。ルー頼めるか?」
「はいっ!!」
[[ フルリピスト ]]
白く眩しい光がキリアンの全身を包み込んだかと思うとその光はキリアンの身体に吸い込まれ、キリアンの身体は足も再生し、何事もなかったかのように眠っていた。
「ルー。ヴィトラを助けてくれてありがとう。」
「お力になれてよかったです。殿下の魔法も物凄いものでした!!」
「あぁ。室内だし殺さないように調整したけど私の持つ特殊魔法の一つだよ。無事に気絶させることができて良かったよ。」
【全覚醒者】の特殊魔法を初めて見たので魔法制御であんなに鮮やかに一瞬で敵を気絶させたディーンの力に感嘆した。
その後ディーンの指示を受け、ユージスたちが倉庫内にやってきて敵を本部の牢へ搬送させた。
「俺はヴィトラを抱いて本部へ戻ることにする。ベッドで休ませれば数時間もせずに目を覚ますだろうからね。」
「私も一緒に行きたい。目覚めたらヴィトラ様とお話がしたいの。」
「そんな顔をされたら妬いてしまうよ。俺以外をそんなに心配するなんて・・」
キリアンを抱き上げたディーンを見上げ、目を潤ませてお願いすると眉を下げ苦笑しながら悲し気にディーンは囁いた。
「ディーン。・・私の心はいつもディーンのものだよ?でもヴィトラ様はお友達だからお願い。」
「わかっている。一緒に行こう。でも俺もそばにいるからね。」
「うん。そうしてほしい。」
私たちは本部に戻りキリアンは救護室のベッドで休んでいる間、私たちは執務室で状況の報告と確認を行った。
「・・・では今回の件はやはり魔法抑制薬の入手ルートは王妃派経由ということで間違いないのだね?」
「はい。間違いありません。
ザワン子爵の証言で暗殺者を王妃派のソウェトナ侯爵により斡旋をされていたようです。
暗殺者たちに関しては・・水球捕縛解除後牢で自害されてしまいました。ほんの一瞬だったのですが、かなり徹底して管理された優れた暗殺組織の者たちのようです。」
「そうか・・やはり組織化した暗殺者集団を囲い込んでいるようだね。魔法抑制薬は見つかったかい?」
「はい。今回は強めの液を使用していたようです。瓶をザワン子爵から押収しております。」
「わかった。ではザワン子爵とソウェトナ侯爵家以外で暗躍している家紋がないか調査も頼む。俺の方でも妖精たちに引き続き調べてもらう。」
「承知しました。」
ユージスは一礼すると執務室から退室した。
ディーンは神妙な面持ちで窓の外を見つめながら考え事にふけっているようだったが、私はそっと寄り添うようにソファの横に腰掛け彼の手に自分の手を添えた。
「・・・母上は・・私を王にしたくはないんだよ」
そうつぶやいた彼の表情は泣きたいのに泣けなくて行き場を失った悲しみを抱えているかのように感じられた。
「そばにいるから。どんなことがあっても。一緒・・でしょ?」
「・・ありがとう」
こつんとお互いの額をあてて瞼を閉じたディーンはそっと囁いた。
どのくらい時間がたったのだろう?
時間を忘れ二人で何も話さずに手を握り合い寄り添って過ごした。
窓の外が薄暗くなり始めたことに気づき、私たちはキリアンの元へ向かった。
キリアンはすでに目を覚ましていて、どうやら食事まで済ませていたらしい。ベッドの上では体を起こし暇だったのか本を読んでいたようだ。
「ヴィトラ様!お体の具合は大丈夫ですか?」
「先輩!先輩が直してくれたんですよね?ありがとうございます。足もなかったはずなのに・・」
「ご無事で何よりです。」
元気そうなキリアンに安堵して涙腺が緩み、キリアンの手を取りたくなったがそこはディーンがさりげなく私の腰を引き寄せ止められた。
「ヴィトラ。無事で何よりだったよ。何があったのか聞かせてもらえるかな?」
私の鼓動が早鐘を打つ間も、ディーンは何事もないかのように、さも当然に椅子に腰かけ彼の膝の上に私を座らせた。
「今回は魔法師団の人たちにかなり迷惑かけてしまったみたいだし、ちゃんと話すよ。」
不貞腐れつつも感謝はしているようで、少し目線は逸らした後話してくれた。
キリアンの話によると、今日午前中にザワン子爵令嬢に相談があると学園のカフェテリアに呼び出され、その後いつもの木の下で読書をしようと向かう途中、ボアが何を飲まされたとうるさく問い詰めてきたので相手にせずに歩いていたところ、気づいたら知らない男数人に囲まれていて、突然攻撃を仕掛けられ気を失い、気づいた時にはあの倉庫に縛られて大勢に囲まれていたらしい。
その後ザワン子爵から、私のことやディーンのことを聞こうとしてきたので、無視し続けていたら魔法で逃げれないように両足を切断され、質問を避けるたびに魔法で痛めつけられたらしい。
いつもなら囲まれる前に【常時探知】で気づけたはずのに魔法が使いにくくなって気づけなかったらしい。
尋問の中には、
(魔法師団に入団するつもりなのか?)
(まさか【覚醒者】になるのか?】)
(王妃派に加わるか?)
などがあったらしい。
「俺は王妃派とか興味ないし、魔法師団も興味ない。だから放っておいてくれって感じだったんだけどなー」
とわざと軽く笑って告げた。
「ヴィトラ様。私が何度も学園に会いに行ってしまったがために、このようなことになってしまって申し訳ございません。」
「先輩?!」
「でも今回のことで改めて理解しました。ヴィトラ様は覚醒しなくても、すでに優れていることが周知されいるのでしょう。そうでなければ魔法抑制薬まで使われることはなかったはずです。しかも、魔法薬は強いものだったと伺っています。王妃派に来るよう勧められたことを考えると、今後私が関わらなかったとしても同じことは起こるでしょう。」
「・・・先輩・・でも俺は・・」
「私は絶対にヴィトラ様を守ります!今回のように何かあっても駆けつけます。私を信じていただきたいです。
妖精様の祝福は確かに責任も重いですが、妖精様はヴィトラ様の支えにきっとなってくださいます。」
「・・・」
重い空気が流れ、キリアンは俯き表情は読み取れない。
「ヴィトラ。私は君のことを信用してはいない。」
「っはぁ?!」
(??!)
突然のディーンの言葉にキリアンは怒気を含ませ声を荒げた。
「だが、俺はルーシアが信じる君を信じる。」
しんと部屋は静まり返るが、先ほどの重い空気は消え失せキリアンはぽかんと口をあけ固まった。
「・・・・なんだよ・・・なんなんだよ・・・俺は味方になるかなんてわからないんだぜ?
・・・妖精とだって仲良くできるかなんてわかんねーし・・今だって先輩と付き合いたいんだけど?」
「他はどうでもよいが、ルーシアだけは許容しない。」
徹底したディーンの言葉にキリアンの表情はむすっとして彼を睨みつけるもディーンは全く動じなかった。
「あーもー・・・わかったよ。何年もうるさい妖精から逃げてたのに、今更祝福受けるなんて面倒しかないけどさ・・・
やるよ。【覚醒者】ってやつになって先輩と王国を守ってやるよ。」
「ヴィトラ様!!」
「先輩さすがにもうその呼び方はやめてよ!キリアンって呼んでほしいんだけど!」
「キリアンだな?わかった。」
「・・・あんたじゃないんだけど???」
「あんたではない。俺はディーンだよ。殿下でも良いんだけどね。」
「・・・」
キリアンはむすっとしているが、ディーンのキリアンに対する呼び方を拒みはしなかった。
「では私もキリアンと呼びますね!」
「先輩のことはルーって呼んでいいですか?」
「良いわけないだろう」
ディーンは後ろからギューッと私を抱きしめキリアンから更に離した。
彼らは似たような言葉の押し問答をしていたけれど、確かに私たちの絆が強くなったと感じることができた。
これからもっと楽しくなりそうな予感に思わず微笑んでしまった。




