20.王太子叙任式と心の赴く先
今朝方王都に戻った【覚醒者】たちは、謁見の間にて膝をつき頭を垂れる。
国王陛下よりサーディン・メルリド第一王子は、王太子の王冠を授かり、王太子に正式に叙任されることとなり、再度【覚醒者】4名もディーンの後ろに控え、新たな【王太子の守護者】として国王陛下より叙任されることとなった。
このことにより、【覚醒者】4名は正式な王太子の直属の魔法騎士となったのだった。
謁見の間には、玉座に座る国王陛下。階段下には宰相閣下。左右に属性魔法の筆頭家紋の代表者が連なった。
火属性筆頭家紋はユージスの代わりにダンダル辺境伯。水属性筆頭家紋はメイシャス侯爵。土属性筆頭家紋はララートル侯爵。風属性筆頭家紋はフルスス伯爵が筆頭家紋として参列した。
ウォードル伯爵は、今朝方ロッシーから提供された暗殺者を証人として投獄されており、伯爵の処刑と家紋取り潰しはほぼ確定となっている。
ウォードル家のアスナ・ウォードルは被害者であり、【覚醒者】でもあるため、フルスス伯爵に養子縁組を行いアスナ・フルススと名を改めることとなった。
元王妃派は今後大きな動きを見せることはないだろう。ディーンは近隣の国と内々に交流を重ねていて、争いが起こらぬよう根回しも進んでいる。筆頭家紋の貴族たちは王太子であるディーンに叙任式のあと忠誠を誓う事となった。
***
叙任式の後王宮では王太子殿下と、【覚醒者】のお披露目の為の夜会が催された。
国内の魔法属性筆頭家紋の推薦する貴族たちと、王族が招待する貴族、外国の来賓客が参加できる特別な夜会となった。
「まもなく入場となります。王太子殿下ご準備願います。」
「わかった。-ルーは夜会で一緒に入場するのは、デビュタント以来の二回目だね。」
「そうだね!もうデビュタントから7か月以上たつなんて信じられないけどあっとゆう間だったなー。」
「ドレス姿もデビュタント以来だ。また綺麗に着飾ったルーを見ることができて嬉しいよ。」
ルーシアのドレスは、ハートカットネックに大胆なフリルがウェストまでおりている。透け感のある色とりどりの淡い色の生地が、幾重にも重なり様々な色を浮かび上がらせる。更に、フィッシュテールラインのドレスも、同じフリル生地を幾重にも重ね、ボリュームをだすことで優しいく愛らしい印象を創り出し、スカートの裾から見える膝から下の美しい足のラインを際立たせていた。ウェスト部分やドレスの至る所に、さりげなく夜空の星のようなオーロラのように輝く小さな宝石が散りばめられ、遠くからでもドレスの美しさが良くわかる。また、ドレスの宝石と同じオーロラのように輝く美しい魔法石を大証いくつもあしらった2連のネックレスと、耳元にはディーンの瞳と同じ黄色い宝石に、幾重にも束ねられた細いゴールドチェーンがシャラシャラと歩くたびに揺れ動く。耳元からデコルテまでを輝かせるアクセサリーも、ドレスと共にディーンから贈られた。
美しく着飾ったルーシアをディーンは愛おしそうに見つめる。先ほどルーシアを迎えに来てくれた時も、あまりの美しさに放心し、その後思わず抱き着こうとして侍女たちに止められてしまった。
きっと会場中の男たちはルーシアの美しさに感嘆するに違いないだろう。
「ありがとう。ディーンもかっこいい!」
ルーシアもディーンの美しい容姿にピッタリの貴公子の装いに目を奪われる。
ディーンは夜空のような濃紺のジュストコールとマントを纏い精錬された貴公子の装いであった。
襟元と袖とマントを彩る金の豪華な刺繍は、美しいバラと蔦模様が施され、ディーンの美しい白髪を際立たせる。白い光沢のあるシャツ、クラバット、ジレ、パンツはジュストコールとの色のコントラストをより美しく際立たせている。また、マントを留める宝飾にはさりげなくルーシアの瞳と同じ真っ赤な宝石をあしらっている。
片耳のチェーンピアスは、ルーシアのイヤリングと似ており、バラの代わりに真っ赤な宝石の下に細いゴールドチェーンが幾重にも重なりシャラシャラと動くたびに揺れている。
多忙を極めていたルーシア達ではあったが、ディーンは少ない時間で宝石や生地などを選び、最短で仕上がるように大勢の服飾師を集め、叙任が決まった2週間前から用意を始めていたのだ。
入場の声掛けの後、ディーンとルーシアがゆっくりと会場に入場すると、そこには見知った顔の貴族たちが勢ぞろいしている。
今夜は国王陛下も参加するため、厳かな雰囲気はあるものの、貴族たちは二人の美しい姿に感嘆の声を漏らし、見惚れるものが大勢見受けられる。
国王陛下の言葉を頂戴した後、ファーストダンスをディーンとルーシアが躍る。
ゆったりしたワルツに身を任せ、舞う二人の姿は幻想的で、夢を見ているかのように神秘的な美しさを放っていた。
「ルー。皆が君の美しさに見惚れているのがわかるかい?」
「いいえ。皆が見惚れているのは、ディーンの美しさですよ。」
クスクスと微笑み合う姿は美しくまるで二人だけの世界にいるかのように互いが見つめ合いダンスを堪能したのだった。
「この後他の者がルーと踊ってほしくない・・このまま部屋に戻りたい気分だよ。」
「ふふ。今日は久しぶりの夜会だから、皆様いご挨拶もしなきゃ。」
「なるべくダンス以外は俺から離れてはいけないよ?」
しゅんとするディーンがとっても可愛らしい。ルーシアはクスクス微笑みながら彼の腕をしっかりと掴むのだった。
「せーんぱいっ!俺とおどってください!!」
「いいや。ルーシア嬢。私がお相手願いたい。」
ダンスを終えて下がってくると、意気揚々とキリアンが声をかけながら近づいてくる。しかし、すっとルーシアの前に歩み出たのは長い黒髪を一つに束ね、麗しい黒のジュストコールを纏ったロッシーだった。
「まぁ!来てくださったんですね!」
ルーシアは思わず驚きの声を上げてしまうのは仕方ない。今朝方までノスラート王国で、別れたばかりなのに、王族らしい風貌でメルリド王家の夜会に参加しているのだから。
「サーディン王太子殿下に直々にお招きいただきました。ロッシェン・ノスラホートと申します。以後お見知りおきを。」
「急な誘いに応えてくれて感謝します。ロッシェン殿下。」
ロッシーの挨拶に、ディーンが紳士の微笑みを返す。ルーシアは思わずロッシーと呼ばず良かったと冷や汗をかく。
「外せない公務以外でならいつでも馳せ参じましょう。我々の仲ですからね。」
ロッシーとディーンは今朝方デルタの本拠地にて誓約書を交わしていた。その為お互いの言葉に嘘偽りはないのだが、流石に昨夜まで敵対していただけあり、どんなに素敵な微笑を浮かべていても、腹の探り合いのように感じてしまう。
「ではルーシア嬢。是非私と一曲この後お願いしたい。」
ロッシーは恭しくお辞儀して許しを乞う。すでに2曲目のダンスは始まってしまっているので、終わった後にはなるが、横やりを入れられたキリアンの表情は陰っている。
流石に王宮の夜会なので口を尖らせたり、乱心はしないが不満なのはよくわかる。
「承知しました。ではそのあとキリアン一緒に踊りましょう」
にっこり微笑んでキリアンを見つめると、機嫌が直ったのか表情が明るくなり満足げだ。
少し斜め後ろにいるディーンの気配が重苦しいような気はするけれど、振り向かないでおくことにする。
ロッシーにエスコートされてダンスホールへ歩み入ると、ロッシーは嬉しそうにルーシアを見つめてくる。
「ご機嫌がよろしいようで何よりですわ。」
「えぇ。昨夜お会いしてから、もう貴女に触れることは許されないのではと覚悟していましたから。こんな嬉しいことはありません。」
先ほどの社交辞令の微笑とは明らかに違い、彼は優しく愛情がこもったようにルーシアに微笑みかけてくる。
「それは昨夜の制約を信じておりますから。今後無暗に拒否などいたしませんわ。」
「勿論です。自分の命がかかっていますからね。今回思いもしない良い関係を築けたことは、本当に感謝しているのですが、私は貴方を自国に招けなかったことだけは非常に残念に思っているのですよ。」
ロッシーがダンスの最中に、まるで私を欲するような言葉を紡ぐので、動揺が隠せず自分の微笑みが引きつっていないか不安で仕方ない。
「私自身は大した力は持っておりませんわ。全て王太子殿下のお力故ですので、誤解なさらないでくださいませ。」
「いいえ。確かに連れ去る前までは、牽制の為としか正直考えていませんでした。でも、ルーシア嬢は敵の本拠地にいるにも拘らず、王太子殿下を信じ、自分の信念を曲げなかった。正直ロッシーを前にして、今まで自分の意思を通したものなど、昨夜まで一人もいなかったのですよ?ルーシア嬢。貴女は貴い女性です。」
「お・・お止め下さい。過分なお言葉ですわ。私はそのような人間ではございませんよ?」
ルーシアは否定しても、ロッシーの熱のこもった眼差しは冷めることがない。
ダンスの最中なのに居心地が悪くて仕方ない。息遣いを感じるたびに意識してしまう。まるで彼の熱がこちらにまで伝わってしまうのではないかと錯覚してしまう。
「先ほどから王太子殿下がかなりご立腹なようですね。流石にこれ以上は、ルーシア嬢を困らせるのはやめた方が良さそうです。」
彼は残念そうに微笑むと、先ほどまでの熱は嘘かのように彼は爽やかな微笑みで見つめてきた。
「ですが、私は許されるなら貴女が欲しい。その気持ちは変わらないことを知っていて欲しい。ルーシア嬢が困った時はいつでも誓約書関係なく馳せ参じますよ。」
爽やかな微笑みなのにとんでもないロッシーの言葉にルーシアの頬は朱に染まる。
「あの・・えっと・・こちらの都合の良いように、私は解釈してしまいますよ?」
「それで構いません。」
狼狽えながらも返事を返すルーシアに、ロッシーはにこやかに頷き返事を返した。
ロッシーとしっかり話をしたのは機能が初めてだったというのに、自分に対してこんなにも執着を見せる彼の姿は、嫌悪というよりも感服してしまった。
あの短時間でルーシアの人となりを把握し、自分の慧眼を信じ、行動に移すスマートさは尋常ではない。
ディーンの行動力、判断力も素晴らしいが、ロッシーも負けてはいないと感じる。ルーシアは純粋に、素晴らしい人材に出会えたこと。そんな彼が味方になってくれると申し出てくれたことに感謝の気持ちでいっぱいになった。
「ありがとうございます。これから良い関係が築けるように、私も励みますね!」
満面の笑みで言葉をロッシーに返すと、彼は瞳を大きく見開きじーっとルーシアを見つめる。
「やはり貴女は素晴らしい人だ。」
ロッシーは耐え切れなくなったのか思わず破顔してくっくっとロッシーらしい笑い方をしたのだった。
ダンスを終えてキリアンの手を取ろうとすると、ディーンの眼差しが痛いほど突き刺さるのを感じる。流石に耐え切れず彼の方を向くと、耐え難い表情でユージスの隣に佇んでいる。
他の誰とも踊らず、ユージスもご機嫌をとろうとしてくれているようだが、先ほどのロッシーとのやり取りがお気に召さなかったらしい・・・。
「先輩!王子のことは放っといて、今は俺に集中して!」
甘えるような声音でキリアンはルーシアに懇願する。
「ごめんなさい。折角の機会だもの。楽しみましょう!」
にこやかに微笑むと二人はダンスのステップを踏んでいく。少し軽快なダンス音楽はキリアンには踊りやすいようだ。
「俺、覚醒者になって良かったって思ってます。」
「??キリアン。いきなりどうしたの?」
急に話始める言葉に驚くが、キリアンの顔は花が咲き誇るかのように綻んだ。
「自分の狭い視野が、覚醒者になって、みんなと仲間になれたことで広がったんですよ。人と付き合うのも辟易してた俺が、仲間の為なら自ら動いてもいいかなって思えるくらいには変わったんですよ。」
「確かに!最初はすっごくやる気なかったものね!」
「言い方言い方!ーー確かにそうなんだけど、周りの偏見の目や態度は鬱陶しかったんですよ!でも、そんな俺に暇さえ見つけては先輩は声をかけに来てくれたじゃないですか!」
「私よく学園に足を運んでたね!なんだかもう懐かしく感じちゃう。」
「ははは。あの時が俺一番幸せだったかも!先輩を独り占めできたし。」
「独り占めって・・っふふ・・確かにあの期間があったからより仲良くなれたよね。」
少し寂し気に笑うキリアンに、クスクスと微笑みながらルーシアは言葉を返す。
出会った当初は思春期真っ盛りのようにディーンにも突っかかっていたキリアンが、今は人懐っこく笑えるようになって、ルーシアは自分のことのように嬉しく感じた。
「俺先輩には笑顔でいてほしいから、邪魔はしないけどさ。でも俺が先輩が好きなのは本当だよ?」
「キリアン?」
「その顔はやーっぱり信じてなかったよね・・俺ずっと本気だったから。王子に勝てるなんて思ってないけど・・でも先輩にはちゃんと俺のキモチ知ってほしい。」
「キリアン・・・ちゃんと受け止めてあげれてなかったね。ごめんね。」
「俺のキモチわかってくれたなら構わないよ。」
「ありがとう。私キリアンのこと大好きだよ!仲間としてだけど、本当に大切に思ってる。気持ちをちゃんと受け止めてあげられていなかったけど、キリアンの気持ちを知っても私の気持ちはディーンのものなの。それはごめんなさい。でもあなたの気持ちはちゃんと大切に受け取ったからね。」
「うん。ありがとう。・・俺先輩が結婚しちゃう前に、どうしてもこの話をしたかったんだ。今日やっと話できて良かった。」
「私も嬉しかったよ!ありがとう。」
キリアンの瞳は寂しさが滲んで見えたけれど、ルーシアは、自分の気持ちに嘘は付きたくはなかった。嬉しかった想いはちゃんと受け止めて、受け止めてあげられない想いはごめんなさいをしたいと思った。
キリアンは格好良いし、文武両道、覚醒者で魔法のセンスも抜群に良い。きっとこれから大勢の女性がキリアンに恋することだろう。今だって踊る私たちの姿を周りの令嬢たちは羨ましそうに見つめているのがわかる。
私は彼の良き仲間でありたい。今のキリアンはとっても素直で、人懐っこくて、愛される性格をしている。そんな彼の性格が私のせいで歪んでなんて欲しくないから。
「キリアン。これからも仲間として仲良くしてくれる?」
「当たり前だろ?」
くしゃっと顔を破顔させ、キリアンは笑った。私はディーンと共にこの笑顔が守られるようにこの国の平和のために生きたい。ルーシアは心の底からそう思った。
「あーあっ。王子にもう先輩返さなきゃなんないのかー。」
いつもの太々しい態度のキリアンがいつの間にか戻ってきている。折角王宮の夜会で大人しくしていたのに残念極まりない。
ルーシアは苦笑しながら待機しているディーンに目を向けた。
ディーンはじっと私を見つめ熱い眼差しを向けている。
(私・・・愛されているんだ・・)
自然と愛情を感じた。
恋はドキドキわくわくばかりではない。時には相手を想い切なさを感じたり、不安を感じたり、自己嫌悪したり、自分の未熟さを痛感したりしてしまう。
その感情に流されて、八つ当たりしたくなったり、嫉妬で相手を傷つけたくなったりしてしまうのだ。
でもディーンは私を信じてくれるし、いつも寄り添って愛情を感じさせてくれる。今だってきっと、私が他の人とダンスをするのいやだったのだろうけど・・何も言わず見守ってくれた。
いつも私のことを想ってくれるからこそ私も彼を信じられる。
「ディーン」
「もう一度、私と踊ってくれるかい?ルー」
「喜んで。」
ゆったりと流れる音楽に合わせ、踊る二人の時間はまるで止まったかのように互いの瞳を見つめ合い想いを確かめ合うように音楽の流れに自然に乗っていく。
「ルー。狭量でごめんね。」
「ディーンはとっても心が広いと思うわ。」
「そうかな・・俺はルーのことになると我慢が効かなくなるよ。」
切なそうに囁くディーンにルーシアはきゅんと胸が高鳴る。
「ディーンは優しいよ。ちゃんと見守ってくれていたじゃない。」
「・・・・・」
うまい言葉が思いつかないのかディーンはふっと顔を逸らす。
「人の気持ちは簡単じゃないでしょう?嫉妬だってするし、束縛だってしたくなる。・・でもディーンは一生懸命私を想って動いてくれているってわかってるよ。」
「ルー・・・」
ディーンはルーシアに向き直り、苦しく切なそうな瞳でルーシアを捕えて離さない。
「愛してる。誰にもルーを触れさせたくない位。」
強い意思を宿した瞳でルーシアに囁く。
「私も愛してる。いつも守ってくれてありがとう。」
ルーシアは瞳を逸らさず心の底から感謝の気持ちを込めて微笑んだ。
「こんな俺だけど・・一緒にいてくれるかい?」
「はい。喜んで。」
ディーンの表情は緩み優しい微笑みが戻ってくる。
「ルーがあまりにも魅力的だから国外にまで目を光らせなきゃいけない。もうどこを見渡しても敵だらけだよ。」
不貞腐れたような物言いでディーンはクスっと笑い呟くが、彼の瞳は歪んではいない。
「私はディーンだけだよ。これまでも。これからも。どんなことがあっても心は貴方のものだから。だから、ディーンの負担も私に背負わせてね。」
「ルー・・。ありがとう。来春には王位も次ぐことを国王陛下とも話は済んでいる。妻となり、俺と共にこの国を支えてくれるかい?」
「喜んで。」
二人は互いに微笑みあうと、音楽に合わせながら抱き合って踊り、幸せな時間を噛みしめる。
これから先、二人には立ち向かうべき大きな壁はいくつも立ちはだかることだろう。国を平和に導きたい想いとは裏腹に、覚醒者たちの能力を脅威と捉え、敵も向かってくることもあると思う。
それでもきっと自分たちなら支え合っていけると信じられる。
ディーンが平和を信じ、争いをなくそうと尽くしてくれるから。ルーシアが彼を心から信じられるから。そして、仲間たちが彼らを支えたいと願うから。
妖精に愛される彼らは、愛する者の為歩みを止めることはないだろう。
fin




