2.王国魔法師団は覚醒者を勧誘する(前)
≪ルーおはよう♡もう起きたかな?≫
なんて幸せなのだろう。ディーンからのコール≪おはよう≫で起きるのが最近の私のルーティーンになっている。
「ディーンおはよう♡今起きたよ。」
(はぁぁっっ♡幸せだーーーーー!!)
掛布団をぎゅーっと抱きしめコロコロ転がっていた私は、ふぅっと息を整えてからベッドから起き上がった。
確かに今起きたのは本当だが、毎日朝私が目覚めるだろう時間を伝えておいたからディーンは同じ時間にコールをくれるようになった。
コールは指輪の持ち主にしか聞こえないので、本当に特別に感じる。だから私はディーンのコールを逃さないよう毎日ちょっと早くに目覚めて布団の中で待機している!・・なんてことは内緒。
≪かなり急なのだが、今日の午後時間はあるかい?≫
ベッドを降りて窓の外を眺めているとディーンが珍しく今日の予定を聞いてきた。
「何かあるの?私は今日は魔法師団の訓練場に顔をだそうかな?と思っていたから特に予定はないよ?」
≪ちょうど良かった。それなら今日はユージスと他の妖精たちとお茶をしないか?ルーは魔法師団に入団してくれたし、今後ルーには大切な役割を任せることも考えているからしっかりと【覚醒者】同士の連携もとれるようにしたい。
どうかな?≫
「ぜひっ♡」
私は指輪に向かって思わず笑顔で返事をしてしまった。
そう。私はディーンと婚約をしてから王国魔法師団に入団の誘いを受けて今は一団員として在籍している。
〔王国魔法師団〕は、現在ディーンことサーディン・メルリド第1王子殿下が団長として団員を統括している。
以前は優秀な魔法使いは誰でも入団を国が強制していたようなのだが、人間同士の折り合いが難しかったらしく、勢力争いやくだらない喧嘩も多く、団内では人間の汚い部分が多く見受けられたらしい。
当初在籍者だけでも何万人という団員がいたそうなのだけど、彼は周りの反発をもろともせず団員の選定をやり直したらしい。
副団長のユージスに指示を出して各属性の筆頭侯爵に伝令を送って選抜。更にそこから1か月たたずに彼とユージスで属性ごとの魔法使いたちとの面談を行い、現在は団員は約100人いるかいないか?位に団員は少なくなり精鋭でまとまっている。
騎士団のように常に国を守っているわけではないのだが、魔法特化のメルリド王国にとって優秀な魔法使いの揃う〔王国魔法師団〕は最強と謳われている。
今では王国魔法師団は花形職として男女ともに人気の高い憧れの仕事として有名なのだ。
【覚醒者】一人でも十分王国を守れる力はあるので100人に絞って精鋭を揃えることは効率も良いし団結力も非常に高まっていることだろう。
魔物のと討伐だって数人派遣されて数時間で終えて移動魔法で戻ってくる優秀さなので、皆があこがれるのは納得できる。
そんな精鋭の揃う魔法師団の、大切な役割を任せたいと期待してもらえるなんて嬉しすぎて顔の表情筋が緩んでしまう。
***
王宮内の魔法師団訓練場のすぐ横に魔法師団本部があり、今その魔法師団本部の談話室には私とディーン、ユージスが腰掛けてお茶をしている。
私たちの周りには姿は見えないが、明らかに魔力の塊がいくつも存在していることが認識できる。
「さて、それでは紹介させてもらおうかな?」
ティーカップをテーブルにそっと置いてディーンは話始める。
「ルーシア。彼はユージス・バチス。デビュタントでもすでに面識はあったと思うけど、【覚醒者】の一人で火の妖精ロイに祝福を受けている。ユージスの特殊魔法は灼熱の塊を流星のように降らせることができる。・・使うことはないとは願っているけれど、もしその魔法を行使した場合国は全壊してもおかしくないだろうね。恐ろしい力を持ってはいるけれど、俺に忠誠を誓ってくれている。安心して頼ってもらって構わないよ。」
「そのような最高の賛辞をいただけるなんて。大変光栄ですね」
ユージスはふふっ微笑み喜んでいるようだ。
「俺は優秀な人間はしっかり評価する。ユージス。彼女はルーシア・エルガディオ。【覚醒者】であり水の妖精アシュの祝福を受けている。ルーシアの特殊魔法は万能治癒魔法だよ。死んでいなければ全回復が可能だし、失った身体でも修復できる。聖女といっても過言ではない能力を持っていると俺は思っているよ。それ以外の水魔法のスキルセンスも抜群だ。」
「か・・過大評価しすぎです。バチス侯爵様未熟ではございますが、どうぞよろしくお願いいたします。」
あまりにも多大に褒められ恥ずかしくて頬を紅潮させながらもユージスに挨拶をした。
「とんでもない。こちらこそエルガディア嬢をご紹介いただけて大変光栄です。私のことはバチスで構いませんのでどうぞよろしくお願いいたします。」
「はい。ありがとうございます。私もルーシアと呼んでいただいて・・・」
「だめだよ」
(!!!)
私の言葉に少し怒気を纏いつつ隣に座っていたディーンは私を声で止めた。
「え?」
「ユージスはエルガディア嬢と呼べばよいよ。ルーシアの名前を呼んで良いのは俺だけだろう?狭量な俺の心がまだ理解できないのであれば今からでも二人きりでじっくり教え込んでもよいのだよ?」
私の腰を引き寄せ顎をくいっと持ち上げて彼の顔が近づけてくる。色気攻撃で首まで紅潮し、鼓動の速さが尋常じゃない。
イチャイチャしている姿をユージスに見られてしまうと恐れつつも心が追い付かなくて体が熱くて悶えてしまう。
コホンっ
「殿下。私はエルガディア嬢とお呼びしますので、本題に戻されてはいかがですか?」
爽やかな微笑を浮かべ良く通るユージスの声は甘い空気をスパッと断ち消した。
「そうだね。あとでじっくり話そうね?ルー」
「・・・は・・はぃ」
圧力を感じる微笑を私に向けた後、本題に戻りディーンは話を再開させた。
「実は今この部屋の中には各属性の妖精にも集まってもらっている。妖精の中でも祝福を行う事ができる者たちだ。二人とも姿は見えずとも魔力で感知はできるな?」
「「はい」」
私たちの返事にディーンは頷いた。
「私は全ての妖精の意思疎通することができる。万が一【覚醒者】が私を裏切ったとしても、妖精は私を守るために動くだろう。まずそのことは頭にしっかり覚えておいてほしい。
もうわかっているとは思うけれど、【覚醒者】は2名だけだなんだ。それ以外の風と土の【覚醒者】はまだ現れていない・・・ことになっているんだよね。」
「どうゆうことですか?」
すかさずユージスはひっかかりのあるディーンの言葉に質問した。
「覚醒してはいないけれど覚醒できる存在は把握している。・・ということだね。」
(!!!!!)
「まさか【覚醒者】の資格をもつ者が誰かわかっているということですか?」
「そうだね。妖精が見つけてはいるのだけど、妖精の声かけに反応を示さないようなんだよ。」
「反応を示さない???」
思わず私はつぶやいてしまった。
「そうだよ。【覚醒者】は妖精の祝福で覚醒するけれど、声が聞こえにくい状態であったり、妖精の声を拒否する場合もある。
・・・まぁ・・俺もかなり信じがたいがそれが今の状況のようなんだよね。」
「それでは・・その【覚醒者】の資格をもつ者は・・どうなるのですか?」
「このまま精霊の祝福を受けなければしばらく・・何年何十年、風と土のせ【覚醒者】は表れないだろうね」
「そんな・・・」
私たちは言葉を失った。
もし【覚醒者】が現れなくても国が不安定になることはないだろう。しかしこれからの王国を守っていく上で、【覚醒者】は間違いなく大切なのだと思う。
「実は妖精たちも困っていてね。何年かは俺も対処が難しく対応しなかったのだけれど、【覚醒者】の資格を持つものに今回会ってみることにしたんだ。土妖精のボアが俺を案内するから間違えることはないと思うよ。
ただ、俺は人間関係は不得手なんだよ。今まで信用できるものしかそばに置かなかったからね。自分から歩み寄ることは苦手なんだよね。」
「ユージスには今まで通り団をまとめいつでも動けるようにしておいてほしい。」
「承知いたしました。」
ユージスは真剣な面持ちで返事を返し、ディーンはそれを確認し頷き私と向き合った。
「ルー君には俺と一緒に資格を持つものに会いに行ってほしいんだ。資格者は・・ハーディング魔法学園の在校生とだからね。」
「私でよければご一緒します。・・学園の・・在校生なのですか?」
「ありがとう。ボアは何度も話しかけているようだが全く相手にされないようでね。どうやら拒否されているらしい。・・・今もボアが俺のそばで大泣きしていてうるさくて困っているんだよ。」
彼は困った表情で溜息を吐いた。
「承知しました。なぜ拒否なさっているかは存じませんが、私にできることがございましたら全力で補助致します。」
「心強いよ」
彼は微笑むとすっと立ち上がり起立を正したので私とユージスも立ち上がり今後の指示を仰いだ。
***
「先輩が俺の恋人になってくれる条件で、祝福受けてあげます!」
(なんですって???!!)
とんでもない条件を突きつけてきた彼は私ににこっと微笑ウィンクした。
-数時間前ー
新緑の爽やかな空気を感じ、私とディーンはハーディング魔法学園の門に足を踏み入れた。
「卒業してまだ2か月ほどなのに懐かしさを感じてしまいますわ」
「色々なことがあったからね。・・・ところで何故かしこまった口調なのかな?」
ディーンは微笑んでいるのに声音はなんだか刺々しい。
「これは・・お仕事ですので。プライベートではございません。私は団長と共に【覚醒者】の資格を有する者に面会する為に参ったのですから、それ相応の態度で臨ませていただきます。
ご理解下さいませ。」
「俺の婚約者はとても分別が備わっているようだね。寂しくもあるが仕方ない。私も公務として励むとしよう。」
くすっと二人は微笑み合うとお互い口調を外向きに整えてボアの案内に従った。
学園裏の50m程前方だろうか。木の下で本を読んでいる少年を見つけると、ディーンは苦い表情で話し始める。
「どうやらあの少年が土属性の【覚醒者資格者キリアン・ヴィトラ伯爵子息のようだ。・・ボアの騒ぎ声で頭が痛いよ」
苦痛の表情を浮かべながらこめかみを抑えつつ彼は教えてくれた。
「妖精さんのお話が聞こえないのは残念ですが、嬉しくて仕方ないのでしょうね。」
「いや・・ルーシアにこの声が聞こえないのが幸いだよ」
彼は苦笑してから私を見て微笑んだ。
木下までたどり着くと、そこには少年が難しそうな本を読んでいた。
ミルクティのような色の肩下まで伸びた頭髪はリボンで結われ、少しまつ毛にかかる前髪の下には美しい淡いアメジストの様な紫色の瞳が垣間見え、すっとした鼻筋と薄い唇は中世的な美しさを感じられた。
年は15,6歳だろうか。ほんの少しだけあどけなさを感じる。
「読書中失礼するよ。君はキリアン・ヴィトラ伯爵子息で間違いないかな?」
「・・・誰?」
本から目を逸らさずに声だけの返事を返すキリアンに少しその場の空気が凍ったように感じる。
「私はサーディン・メルリド魔法師団団長として今日は君に会いに来たんだよ。」
「・・・」
「私はルーシア・エルガディアと申します。本日は団長と共に貴方に会いに参りました。」
ディーンの挨拶には興味を示さなかったキリアンは、私の挨拶を聞くと本を乱暴に置いてすくっと立ち上がり私の前にやってきた。
「ルーシア先輩ですか?!先輩に会いに来てもらえるなんて俺めちゃくちゃ幸せです!」
ものすごい速さで私に挨拶をしたと思うとあっとゆう間に私の左手を取り手の甲に口づけを落とした。
(!!!!!)
「な・・・ルーシアを名前で呼ぶんじゃない!手も取るんじゃない!!彼女は私の婚約者だよ。」
怒気を含ませ私とキリアンの間に割って入り牽制した。
「別にただの挨拶じゃないですか。器が小さいんじゃないですか?」
王子相手とわかっていないのだろうか?キリアンは不躾な態度を隠さず嫌味を吐いた。
「ここは学園だよ。その様な挨拶をする必要はないはずだし、エルガディア嬢と呼びなさい」
ディーンは厳しい口調でキリアンを諭した。
キリアンは怪訝な表情でディーンを見返したが、気を取り直したのかディーンの後ろに控えた私を覗き込んだ。
「先輩♡会いに来てくれたんですよね?ここじゃなくて場所を変えてゆっくり話しませんか?」
にこにこと微笑みながら私に提案してくるキリアンを苦虫を噛み潰したような表情でディーンは睨みつけながら提案に同意した。
学園長に了承を得て談話室に入った私の横にはディーンが腰掛け、キリアンは私たちの向かいに不貞腐れつつ腰掛けた。
「で?俺に何の用ですか?」
礼儀をどこかに忘れてきたかの様な態度に私の胃が痛くなりそうだ。先ほどからずっとキリアンはディーンに対して不服そうな態度を隠さない。
「どうやら私のことはお気に召さないようだけど、今日は君の話を聞きたいと思って会いに来たんだ。」
「俺は貴方と話したいとは思っていないけど?」
ぴりぴりとした空気の中でもディーンの瞳は陰りが見えるものの表情を崩さずに淡々と続ける。
「君は妖精の声が聞こえているだろう?何故返事を返さないんだい?」
キリアンはぴくっとほんの少しだけ反応した。
「なんで妖精とか意味わかんない事言っちゃってるんですか?頭おかしいんじゃないの?」
キリアンはしらを切ってディーンを馬鹿にするような態度をとり、ディーンの瞳は怒気を纏い始める。
いてもたってもいられなくなった私はすかさず割入った。
「団長発言することをお許しください。」
「・・わかった。許可しよう。」
心配そうに見つめる私を溜息をついてディーンは頷いた。
「ヴィトラ様。私は【覚醒者】として水の妖精様と意思疎通ができる能力を持っております。実は土の妖精様から今回団長は依頼を受け、ヴィトラ様と妖精様がお話ができるよう仲介するためにこちらに参ったのです。」
「え?聞こえてくる変な騒々しい声って妖精なんですか?毎日うるさいから無視してたんだけど・・妖精ってうるさいんですね。」
「なっ!」
キリアンは呆れ果てたような顔をして妖精の愚痴を漏らし、私は理解できず固まった。
(そんなに妖精さんはおしゃべりなの?!!)
『あー一緒にしないでね?うるさいのはボアくらいよ!私はうるさくないでしょう?』
突然アシュが私に話しかけてきた。
(アシュ!ヴィトラ様がおっしゃっていることは本当なの?原因はなんなのかしら?)
『そりゃ勿論ボアが騒がしいのが原因なんじゃないかしら?あとは・・キリアンって子はもの凄く警戒心が強いみたいね。
突然姿形が見えない妖精から話しかけられたらびっくりするのもわかるけど、あの子はボアを妖精どころか邪悪なものとして認識していたんじゃない?』
(邪悪なもの・・それじゃ妖精さんだと認識してもらって仲良くなれば覚醒者になってもらえるのかしら?)
『なるんじゃないかしら?特別な存在になれるのだし。・・ただ』
(ただ?何なの??)
『ディーンと折り合いがつくかは心配ねー』
(・・・確かに)
私はしばらくアシュと話ていたので黙っていた私をキリアンは何故かしゅんとしながらこちらを見つめ、ディーンは・・・アシュと私が心で話しているのを察して機嫌が悪そうだ。
「ヴィトラ様。声の主が妖精様だとご理解いただけたのであれば、【覚醒者】となるための妖精様からの祝福を受け入れてくださいますか?」
私は気を取り直しキリアンを見つめると、キリアンはうーんと思案するように腕を組んで考え始めた。
「君にとってもよいことだと思うのだけど?」
アシストするようにディーンも声をかけた。
「俺の条件を受け入れてくれるならいいですよ?」
私はぱあっと表情を明るくし、ディーンも少し軋む空気を緩めた。
しかしその直後・・・キリアンは私にとんでもない条件をだしてきたのだ。




