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19.二人の王子










ーーーートントン・・トントン


 「なんだ」

 「サーディン王太子殿下とお連れ様がいらっしゃいました。」

 「通せ」


 扉が開くとそこには魔法師団の制服にマントを羽織ったディーンとユージス、キリアンの3人が現れた。


 「サーディン王太子殿下!」

 堂々と立ち振る舞うディーンにルーシアは駆け寄る。


 「ルーシア。無事で何よりだよ。」

 ルーシアを抱き寄せ、ディーンは心の底から安堵したように微笑み、ユージスとキリアンも心配していたであろう様子で、ルーシアの無事を確認出来て胸をなでおろしているようだ。


 「このような国境までお越し下さりありがとうございます。」

 ロッシーはルーシア達の再会の挨拶が終わるのを見計らいディーンに声をかける。


 「貴殿はご自身が何をしたのかわかっているのか?」

 「これまでのことを含めルーシア嬢とアスナ嬢をこちらまでお連れしたこと、深くお詫び申し上げたい。」

 ディーンの凍てつくような言葉にも粛々と受け入れ深く頭を垂れて言葉を重ねていく。


 「私はノッシェン・ノスラホート。ノスラホート王国の第三王子です。ロッシー・ノートという名は、暗躍組織で使用している裏の名前(仮名)でございます。

 お許しいただけるのであれば、私とメルリド王妃派閥との関係性から全てお話させていただきたいです。」

 「いいだろう。」

 頭を垂れながら許しを乞い続ける姿に、ディーンも声を荒げることなく受け入れた。


 「痛み入ります。どうぞソファへおかけください。」

 ロッシーはアルドにお茶を用意させ、それぞれが腰掛けると話を始めた。


 「私はノスラホート王国内の暗躍組織を統括しております。メルリド王国に全覚醒者である貴殿がご誕生された際、私もメルリドの情報を得て存じておりました。メルリド国王陛下が、貴殿の存在を誕生後の状況を秘匿していたこともあり注視しておりましたが、メルリド王妃陛下の状況もこちらでは把握しておりました。デルタと関わりが生まれたのはクリシス王子がご誕生され3歳になったころでしょうか。メルリド王妃陛下からの書状をもって、ソウェトナ侯爵が私に面会を求めました。それが王妃派閥が貴殿を狙い始めた頃の話に繋がります。

 ノスラホートは武力をほぼ持ちません。暗躍組織ですらあくまで暗殺や密偵程度。戦争になれば大敗は明らか。当時私はメルリド王妃の派閥に断りを入れるという選択はありませんでした。その代わりあえて下の者を選び貸し出しました。」


 「元王妃からの書状は今も残っているのか?」

 「ございます。少々お待ちください。」

 ロッシーは頷くと右手を自身の胸の前にかざした。彼の小指のリングがポウッと淡く光ると書状が現れ、ロッシーはためらうことなくディーンに渡した。


 「拝見しよう。」

 

 書状には確かに元メルリド王妃の直筆のサインが記されていた。

 内容は暗殺組織の人間を50人借りたいということ。また、その際の知り得た情報は秘匿とすること。これに従わない場合はメルリドの風属性魔法の部隊がデルタを襲うという強迫まで記されていた。

 このような一方的な書状は普通一国の王妃が送るなど考えられない。だが、ノスラホートにこの書状を送った時期は、まだノスラホートの暗躍組織はまとまり始めたばかりとメルリド王国は把握していた頃だろう。

 ノスラホートからしてみれば、元王妃の武力行使を避けられるなら避けるにこしたことはないと容易に想像できる。


 「50人借りたいと記されているが、私は襲撃を受けた際恐らく全員倒した記憶がある。それ以降の暗殺者は何故貸し出したのだ。」

 「ご自身が全滅させたこと把握されていたのですか?流石ですね。」

 「当たり前だ。逃がすわけにはいかない。」

 ロッシーはディーンの言葉に感嘆しているようだが会話は猿芝居のように感じられるのは何故だろう。


 「それならその後の元王妃派の暗躍の際に同行していた暗殺者たちは貴殿の部下ではないのか?」

 「いいえ。私の部下を貸し出しました。」

 「何故だ。」

 ディーンの表情が陰るがロッシーは表情を変えず粛々と返事を返していく。


 「貴殿が危険だと感じていたからです。50人の暗殺者がたとえ弱い部下だったとしても、それなりの訓練は受けさせていました。そこに魔力抑制薬の服用で貴殿は弱っていた。それにも関わらず全員返り討ちにして裏切ったとはいえ、ご自分の元部下さえ半殺しにして捕らえたのです。危険以外の何物でもないでしょう。」


 「私が把握した場合に報復するとは考えなかったのか?」

 「その時は私が責任を取るつもりでした。それ以降に貸し出した暗殺者たちはこちらも多くの部下を失ったのだと主張して、最低限度の人数しか貸し出しませんでした。また、貸し出した者たちには秘匿の精神干渉魔法も施しておりましたので。ある程度は言い逃れる予定でした。」


 「・・・・・」

 あっさりと暴露していくロッシーにディーンは呆然とするが、すぐに冷静さを取り戻し追及を続ける。


 「では今回のアスナを捕まえようとしていたのは?かなりの数の暗殺者をウォードル伯爵の領地に送っていたことは確認できている。」

 「素晴らしいですね。大勢送り込んだことをご存じだったとは。アスナ嬢の件は暗殺が目的ではなかったので最後という名目で貸し出しました。勿論万が一ウォードル伯爵が殺す命令を下したとしても拒否するよう伝えましたし、守らなかった場合は精神干渉魔法が発動するよう仕掛けておきましたから。」


 「殺さなければ貸しても構わなかったと思ったという事か?」

 「バレて作戦が失敗した場合は、私が責任を取るつもりでしたよ。でもアスナ嬢もルーシア嬢も私は欲しかったので本気で成功させるつもりでした。」

 それまで淡々と対話をしていたディーンだったが、明らかに様子が変わりルーシアはびくっと震える。


 「何故二人を欲した。」

 ディーンの周りには魔力が放出し始め空気がどんどん重く圧力を感じる。


 「彼女たちを自分の部下にすることで、貴殿という驚異を祓いたかったのですよ。」

 「私は何があっても二人を助けるし、貴殿を許さないぞ。」

 「はい。それが今回一番の私の失策でした。ですので謝罪させていただきたい。」

 今にも飛び掛かりそうな暴力的な魔力に周りのルーシア達でさえプレッシャーを感じるというのに、ロッシーは謝罪をして頭を下げ許しを乞うのだがおびえる様子は一切ない。


 「私が貴殿を許すとでも思ったのか?」

 地割れでもするのではないかと思うような声音でディーンは問う。


 「貴殿が許さなくとも私にできるのは誠心誠意謝罪することのみ。今貴殿にお伝えした話に偽りはございません。ただ、ノスラホート王はこの件には一切関わっておりません。あくまでデルタの統率者ロッシー・ノートとして行った愚行でございます。罪は私が背負います。それでも足りぬのであれば、私の魔道具の制作の技術知識を特許申請が通っているもの以外全て差し上げても構いません。」

 ロッシーは頭を下げたままディーンに言葉を返す。その言葉は猿芝居のような会話とは違う気がする。


 「嘘偽りではないと制約魔法を行使できるか?」

 「かまいません。」

 きっぱりと即答するロッシーをしばし無言でディーンは見つめる。

 

 「面を上げられよ。貴殿には制約魔法を行使していただこう。制約内容を今用意する。」

 ディーンはそう告げると両掌を胸の前まで上げて魔法で書状とペンを出し、内容を記していく。

 書き上げた書類に手をかざすと魔法制約の書状内容を完成させた。そこにはサーディンメルリドの名前も記されている。

 ロッシーは受け取り書状を確認すると、驚愕してディーンを見つめる。


 「本当に・・・この内容で良いのですか?!」

 「勿論。それが我がメルリド王国にとっても、今後良い方向に進むと私は判断した。撤回はしない。」

 「承知しました。私もこの内容でよろしいのであれば非常にありがたい。」

 ディーンの言葉にしばし固まったが、ロッシーはすぐにペンを走らせた。一瞬ではあったがディーンの言葉を聞いたロッシーの表情が、一瞬泣きそうに見えたような気がした。


 ロッシーがディーンに書状を返すと、ディーンは魔法で締結させた。


 誓約書には、ノッシェン・ノスラホート第三王子とサーディン・メルリド王太子は生涯友好関係を継続させること。

互いの国に危険が迫った場合は必ず助力すること。

この二つが記載されていた。

また、この二つが守られない場合は破った者は自分の命を捧げることとされていた。

 これは両社が守るべき内容であり、ノスラホートとメルリドが二人が命ある限り和平が続くと確約された証拠でもあった。


 「私は本当に貴殿を誤解していたようだ。貴殿と話ができたこと心から感謝する。ルーシア嬢もありがとう」

 ロッシーは晴れやかに微笑み礼を述べたあと、ディーンと固く握手した。


  「今後のことだが、私のことはディーンと非公式の場では呼んでくれて構わない。制約の通り助力も惜しまない。」

 「ありがとう。私のことはロッシーと呼んでくれると助かる。ノッシェンは公では、ただの第三王子なのでね。私もできることはなんでも助力するつもりだ。」


 「助かるよ。早速だがロッシー。助力を願いたい。」

 「何でも言ってくれ。」


 「元王妃派の残党を一掃したいんだ。ウォードル伯爵の他にも暗躍している元王妃派の貴族がいるんじゃないかい?」

 「なるほど。俺が把握している限りではデルタと関係あるのはウォードル伯爵だけだ。だが、ノスラホートに留学に来ているシスベリ子爵の令息の付き添いで良く王城へ訪問している。一度王家主催の夜会でノッシェンである俺に挨拶にきたな。まだ大きな動きを見せる様子はないが、ノスラホートにわざわざ出向き公では大した力も持っていない俺に媚び諂うのだから暗躍組織と関わりたいと言っているようなものだ。プレッシャーでも与えておけば大人しくなるだろう。他にはとくにはうちでは把握はしていないな。」


 「そうなんだね。想定内で良かったよ。それであればウォードル伯爵のみ断罪で良いだろう。その際暗殺者の承認が欲しいけれど、譲り渡せるような粗相をした暗殺者はいるかい?」

 ロッシーはにやりと怪しく笑う。


 「いるぜ?俺に隠れてウォードルから賄賂貰ってたクソヤローがなぁ。」

 突然態度が変わったロッシーにディーンは一瞬目を見開いていたがすぐに表情を戻す。


 「それなら処分したい奴がいればついでに寄こしてくれてかまわないよ。悪いようにはしないから。」

 ディーンはにっこり微笑むが顔は笑っていない。2人の様子を見たルーシアは、意外とこの二人気が合うのでは・・・と心の中で呟いた。





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