17.魔封じの首輪
王太子任命と覚醒者の知らせが王国や近隣諸国へ公表した夜、ウォードル伯爵の王都にあるタウンハウスの一室で、ウォードルは顔面蒼白でブルブルと震えながら対面に座る男に頭を垂れる。
「本当にさーーーー呆れて物も言えないんだけど?
デルタ散々こき使った癖にまんまと覚醒者には逃げられちゃってさぁ。挙句の果てには逃げられたことにも気づかなくって?国の公表で知るとか間抜けすぎなんじゃねーの?
あんたそんなんで次期風属性魔法の筆頭になれると思ってんの?」
「も・・・申し訳ございません・・・四六時中探し回ったのですが、王太子に・・先を越されてしまいました。
・・し・・しかし今アスナはエルガディオ伯爵のタウンハウスに身を寄せているという事はすぐ確認が取れましたので今度こそ・・」
「は?もう信用なんてできるわけねーだろ?馬鹿にしてんのか?」
「っ・・・・。」
暗闇に飲み込まれそうな静寂の中で、テーブルに置かれたランプが揺らめき、うっすらとロッシーの顔を照らす。
その表情には温度を感じられず、ロッシーの突き刺さるような容赦のない言葉に、ウォードル伯爵はただただ口を噤んで俯くしかできない。
「俺がやる」
ロッシーは表情を消したまま静かにそう告げたのだった。
***
「ルーお姉ちゃん。明日はいよいよ殿下の王太子任命式だね!!」
「そうだね。楽しみ?」
アスナとルーシアは、エルガディオのタウンハウスのルーシアの自室のベッドで横になりながら、明日の任命式の話を楽しそうに語り合う。
「うん。そしたら私たちは王宮に住むことになるんでしょう?」
「そうだよ。ここよりも広くてとっても素敵なお部屋だよ。」
「ルーお姉ちゃんのお部屋もとっても素敵だよ!王宮で暮らすのはとっても楽しみだけど、ここで暮らしたことは私にとっては宝物みたいな時間だもん。」
目をキラキラさせながら、今まで過ごした日々を思い起こすアスナを、ルーシアはにこにこ微笑みながら彼女の頭を撫でる。
「一緒に眠れなくなるのは寂しいな・・ルーお姉ちゃんは殿下と一緒にこれからは寝るの?」
悲しそうにしゅんとするアスナがかわいくて仕方なくても、ルーシア自身これまでディーンと共に過ごす時間を待ちわびてきた。8年以上の想いは婚約を経て、常に彼と一緒に過ごしたいという欲求に変わっていた。
仲間と過ごす日々も大切だが、ディーンとの日々は簡単に8年前奪われてしまった。その過去があるからこそ早く結婚したいと思うし、少しでも長く一緒にいたいと思うのだ。
アスナが仲間に加わった当初は、彼女が生活に馴染みやすいようにそばにいてあげたいと思い一緒にいる提案はしたが、アスナが覚醒者として自立できた今、自分が常に一緒にいる必要性はないとルーシアは考えていた。
「私とディーンは8年離れ離れだったからね。明日からは一緒に寝て、一緒に過ごしたいと思ってる。アスナちゃんと一緒に眠れないのは寂しいけれど何かあればすぐ駆けつけるからね。」
「ルーお姉ちゃんは殿下と今まで離れ離れだったの?」
「うん。お家の都合で一緒にいられなかったの。だから、今はすごく幸せだよ。」
「私・・寂しいけど、ルーお姉ちゃんには笑顔でいてほしいから、殿下に一緒のお布団は譲ってあげる!」
「アスナちゃん。ありがとう。もうアスナちゃんも立派なレディだね!」
「うん!」
女の子だけの会話を楽しんだアスナは、しばらくルーシアとの会話を楽しんでいたが、眠さに勝てずルーシアの横ですやすやと寝息を立て始めていた。
眠っているアスナを起こさないよう起き上がるとバルコニーに目を向ける。
「レディの寝室に不法侵入とはそれ相応の覚悟があるのでしょうね?」
ルーシアは静かに誰もいないはずのバルコニーへの入り口に向かって声をかける。
「おやおや。気づかれてしまいましたか。流石ルーシア嬢ですね。」
すうっと誰もいなかった場所からロッシーの姿が現れた。
「風魔法を扱うんですね。ウォードル伯爵の侍従さん。」
「覚えていただけていたとは光栄です。はい。私は風魔法を得意としております。」
「あなた・・ノスラホートの暗殺組織の人よね?」
「んーそうですねぇ。疑問形で問われて親切にお答えする必要なないのですが・・・まぁ貴女でしたら良いでしょう。どうせ今から私にさらわれるのですから。
ルーシアが思っている通り。俺は暗殺組織デルタのトップだ。」
最初の畏まった態度が嘘のように返事を返したロッシーは太々しい態度で自分の正体を簡単に晒した。
「ノスラホートとメルリドは争う必要はないはずです。何故愚かな王妃派に手を貸すのですか!」
「--その話めんどいからさーとりあえず攫われてもらえる?」
言葉と同時にロッシーはアスナの枕元は瞬時に移動し抱き上げ、カシャンとアスナの首に首輪をはめ込んだ。
「な・・アスナちゃんに何をしたの!!」
一瞬の隙を突かれルーシアは慌ててアスナに駆け寄る。
「あーダメダメ。ちょぉっと待っとけよ?今お嬢ちゃん洗脳してっから。」
「!!!やめて!!」
ロッシーは左手でアスナをかついだ状態でさっと右手を彼女の頭に触れると薄紫色の淡い光が一瞬光った。
アスナを取り返そうと近づいてもさっと身をかわされてしまい、攻撃しようにもアスナをかついでいるのでそれも叶わない。
「さてルーシア。あんたにもこの首輪をしてもらおうか。」
ロッシーはにやりと怪しく笑い首輪をルーシアの前に差し出す。
「するわけがないわ!!アスナちゃん!起きて!」
「無理無理ぃ~このお嬢ちゃんは今俺に洗脳されてっからね?そう簡単には目を覚まさねぇよ。」
「アスナちゃんが貴女の魔法なんかに屈するわけないわ!!」
「言ってくれるねぇ♪ルーシアの気の強さも俺は好きだぜ?ただ残念ながらこのお嬢ちゃんは、しーっかり洗脳にかかっちゃってるんだよなーコレがあるからな」
くっくっと馬鹿にしたように笑いながら、ルーシアに差し出した首輪をゆらゆら揺らして見せる。
「私は貴方に好かれても嬉しくないわ。その首輪がなんだって言うのよ!」
「これは魔封じの首輪だ。」
「魔封じですって?!!!」
「そうだ。ただ残念ながら完全には封じ切れてはいねぇけどな。それでも俺の魔法には抗うほどの魔力抵抗は難しいようだぜ?」
ロッシーは嬉しそうに首輪とルーシアを交互に見つめる。
「それならなおさらそんな首輪しないわ!」
「は?これは命令だ。あんたが付けなきゃこのお嬢ちゃんだけ俺が連れ去ることは簡単なんだぜ?このお嬢ちゃんを見捨てるつもりか?薄情だねぇ」
わざとらしくアスナを憐れみながらルーシアを煽り続ける。
「俺は簡単に自国に魔法で戻れる。俺が戻ればこのお嬢ちゃんを探すのは難しくなるぜ?一緒に来なくて本当にいいのか?」
「・・・・」
気配を消す能力もルーシアでなければ気づかないほどだろう。ここまで気配を消す魔力は普通の魔法師には無理だろうとわかる。ロッシーの言葉に偽りがないとルーシアは察した。
覚醒者ではないにしても相手の実力がわからない状況で安易にこちらの魔法は晒せない
相手も魔力感知が得意だったら下手に魔法は使わない方が良いだろう。
(アシュ!いるわよね!)
『もちろんっ』
(わかってくれているとは思うけどこのことをディーンに知らせてほしい!)
『それは勿論♪だけどルーはどうするの?』
(私はあの人についていくよ)
『え??!ちょっとちょっとちょっと?!まさか魔封じの首輪付けるつもり?!!!』
(アスナちゃんのあの様子はおかしいわ。本当に洗脳にかかっているのかもわからないけど、これだけ騒いでいるのに彼女が目覚めないのはおかしい。私の魔法なら解けるかもしれないけど・・あの人に私の手の内を今見せるのが正しいとは思えない。まずは状況を把握したい。ノスラホートが動く理由もわからないもの!)
『そ・・そんな・・あの首輪・・本当に魔力封じとしての効果あるみたいよ?私感じるもの!ディーンもきっと心配するよ!!』
(ごめんね・・でもあの人さっき完全に魔力を封じることができていないって漏らしていたじゃない?それなら私なら最悪な場合フルリピストで解除できるわ!だからみんなを連れてきてほしいの!!あの人にはアシュのことは見えていないから、一緒にアシュにもついてきてもらって、場所が特定できたらすぐ皆を連れてきてほしい。お願いできる?)
『ルー・・・ぅうーーー・・・もぉーーーーーわかったよ!!必ず私が皆をルーの所に連れていく!!』
(アシュありがとう)
「わかったわ・・私も一緒に行きましょう」
「意外と物分かりいぃねえ♪んじゃ自分でコレつけな」
ポイっと放り投げられた首輪を受け止めると自分の首にカシャンとはめ込んだ。
簡単にはまった首輪は一瞬で魔力を封じ込んでしまったかのように感じられた。
しかしロッシーが言っていたことは本当だったようで、かなり微弱ではあるが自分の魔力が漏れ出しているのは感じた。
「それじゃ行くぜ」
ロッシーは無詠唱で魔法陣を発動させ青白い光と共に3人の姿は消えたのだった。




