15.覚醒
本部に戻るとアスナはルーシアの補助で入浴を行い、アスナの放置していた胸の位置まで乱雑に伸びた髪の毛を本部のメイドたちが綺麗に肩より少し上あたりまで揃えてカットした。
ルーシアはアスナの為の洋服をユージスから受け取ったのだが、どうやら本部の中には子供服がなかったらしく探し回ってきてくれたらしい。
アスナの洋服はシンプルなワンピースだが、ベースが淡いピンク色で袖は半そでのパフスリーブになっていて女の子らしさを感じる。ワンピースの裾のふわふわのフリルも可愛らしい。
体格が良くて美丈夫のユージスが、このワンピースをどうやって見つけてくれたのか、普段顔色を変えることが滅多にないユージスが目の下が少し赤くなっているので、相当恥ずかしい想いをして探してくれたのだろうという事が想像できる。
アスナは救出した特は薄汚れていたため深い緑の髪色をしていたのだが、体をきれいにした後は美しい若葉のような緑の髪色に変わっていた。ヘアカットの効果も相まってふわっとした優しい印象を感じる。
***
アスナの支度が終わってから皆で遅い昼食が始まったが、アスナは食事マナーなどの一般教養すら受けていなかったらしく、優しくルーシアがアスナをサポートしながらとなった。
「敵と遭遇することもなく、安全に本部まで戻ってくることができた。そしてアスナ嬢の覚醒はこれからだが、奇跡的に全ての覚醒者がここに揃ったことになるね。魔法連携も非常にスムーズだったし、今回の任務はとても良い結果だったと思う。
だけど、安心はできないだろうね。アスナ嬢にはこの後【覚醒】をしてもらうけれど、まずはしっかり魔法を学んで、任務に参加できる状況になってから国王陛下に謁見したいと思っている。それまではしばらく本部で寝泊まりしながら、心と体を休ませ自分と向き合ってほしいと思っているんだけど。どうかな?」
「ここに住むの?」
ディーンは国王に謁見するまではアスナが隠れていたほうが安全確保のためにも必要だと考えているようだが、アスナ自身は不安を隠せないようだった。右隣に座って食事をしていたアスナの瞳が、左右にわずかに揺れている。両ひざの上に乗った両手もかすかに震えているように見える。
「そうだよ。部屋は沢山あるからね。ここにいた方が安心できると思うよ?」
「・・・・」
「あの・・」
黙り込んでしまったアスナの不安そうな様子に、黙っていられずルーシアは思わず声をかける。
「良ければ私がアスナちゃんを預かっても良いですか?今日折角仲良くなれたので、彼女さえよければ魔法の特訓の間一緒に過ごしたいです!」
「わ・・私もお姉さんと一緒にいたいです!!」
私の提案にアスナはぱぁっと顔を綻ばせ即座に返事をする。ディーンは瞳を大きく見開いて驚いているようだったが、アスナの喜ぶ顔を見て言葉を渋らせているように思われる。
「仕方ないね。それじゃ魔法特訓は1~2週間行うつもりだからその間ルーシアにアスナを任せて良いかな?」
数秒固まっていたディーンだったが、団長らしい笑みを浮かべルーシアにアスナを任せた。
≪ルー?俺との時間が無くなってしまう事への埋め合わせ。期待しているからね?≫
ふいに指輪の通信でディーンの甘い声がルーシアの耳に届き、ルーシアは思わず両耳に手を添えて頬を朱に染める
ルーシアの様子を確認し満足そうにディーンは微笑むのだった。
***
月に照らされた夜の訓練場の中央にディーンとアスナは立ちアスナは前を見つめコクコクと頷いている。
恐らくキリアンの時と同じように風妖精のルカがアスナを導いているのだろう。
両者をそばでディーンは見守っている。
私たち覚醒者は妖精の姿を見ることは叶わない。しかし妖精の魔力を感じて気配を確認することはできる。そして、自分と同じ属性の妖精たちとであれば念話することもできるのだ。
ディーンは【全覚醒者】であり全ての妖精に愛されている為、どんな属性の妖精とでも話もできるし、妖精たちはディーンを非常に好ましく思っている為仲介役が適任なのだ。私たちユージス、キリアン、ルーシアは、少し離れた場所で成り行きを見守っていた。
アスナの体が淡い緑の光と風に包まれ、光と風が落ち着くと彼女の若葉のような淡い緑の髪の毛は、エメラルドグリーンのような青緑の美しいグラデーションの色味が加わっていた。
ふわっと浮き上がる美しい髪はヘアカットしたことでより美しさを際立たせていた。
アスナはまたコクコクと斜め上あたりに向かって頷くと、満面の笑みでルーシアの元へ走り寄ってくる。
「お姉さんっ!!私成功したみたいです♡」
一番にルーシアの元へ駆け寄りにこにこ微笑むアスナの姿に、ルーシアのハートはアスナの矢でしっかりと撃ち抜かれてしまっていた。
「アスナちゃん!おめでとう。これから一緒に頑張ろうね!私のことはお姉ちゃんでいいんだよ?」
アスナはルーシアの言葉に感極まってぎゅーっと抱き着き「ルーお姉ちゃん!ルーお姉ちゃんって呼ぶね!!!」
嬉しそうに声を上げる。
思い立ったかのようにルーシアから離れると、悪戯を思いついた少女の顔をしたアスナは皆の顔を見渡した。
「私すぐに使える魔法使をルカに教えてもらったの!みんなで飛ぼう!!」
4人の合意を得る間もなく、アスナの掛け声とともに爽やかな風がルーシア達5人を包み体がふわっと宙に浮く。
「「「「 !!!!! 」」」」
4人は驚き体をジタバタさせるが、どうやらアスナの魔法で浮かされているようだ。自分の意志で飛ぶことはできないらしい。落ちないか不安な4人は体を強張らせ動揺が隠せない。
「あはは!お姉ちゃんたち大丈夫だよ!落とさないから!一緒にお城の周りを飛んでみようよ!私に任せてね!」
自慢げに宙で胸を張り空を指さす。4人は顔を見合わせアスナに身を任せることにした。
≪何かあっても私が助けられるから安心してよいよ。≫
苦笑した声音でディーンは腕輪から全員に念話で声をかけた。
「ひどい!私は落としたりなんてしまいもんっっ!」
ぷんぷんと憤慨するアスナだったが、先ほどやっと覚醒したばかりのアスナの言葉を流石にすぐには信じることは難しかった。
ディーンが告げたように万が一の場合はディーンが何とかしてくれるだろうという考えと、それぞれの魔力なら空から落ちる程度なら自分の魔法のアレンジでどうとでも身を守れるだろうと無言で頷き合う。
アスナの魔法は4人の不安を簡単に打ち消し安定した浮遊で空をゆったりと風に乗って移動した。ドラゴンに乗るより気持ち良いし、自分の魔力を使うわけでもないので空を十分に満喫できた。
皆すぐにアスナの魔法に適応し、されるがままに空を楽しんだのだった。きっとこの魔法であれば、キリアンの土魔法高速の移動と同じように、空も安全に移動できるのだろうと確信できた。
覚醒者たちは自分たちのあまりにも優れた能力に自信にあふれ、元王妃派たちへの追い込みも今日のようにスムーズに進むだろう。そう信じて疑わなかったのだった。




