13.風の精霊の呼び出し
「みんな揃ったようだね。まずは状況報告を聞かせてもらおう。」
「はっ。元王妃派の火の属性家紋ラゲン伯爵とススト男爵が主に以前まで目立って動きを見せておりましたが今の時点では特に大きな動きはございません。引き続き注視致します」
「ユージス引き続き頼むよ。北のドラグリアの動きもある。ダンダル辺境伯が守ってくれてはいるが、元王妃のことでこちらをどう判断しているかはわからない。気は抜けないだろう。」
「はっ。承知いたしました。」
ユージスは北側の火の属性家紋の注視を行っているが、現在ダンダル辺境伯の領地で兵役をしているクリシス王子のこともあり、元王妃派がどのように動くか気を抜くわけにはいかない。そのことを踏まえダンダル辺境伯と連絡を密に取り合い状況把握は欠かさず行っているらしい。
「ルー。そっちはどうだい?」
「はい。元王妃派水属性家紋は、目立っているのはシスベリ子爵とビクオラ男爵でしょうか。今時点では筆頭家紋のメイシャス侯爵様がしっかり目を光らせて下さっております。また、エルガディオも積極的に各水属性家紋への訪問を行っておりますので目立った動きはございません。しかし、シスベリ子爵に関しては、1年前より西のノスラホートへ次男を留学させております。王家との交流も頻繁に行っているとのことで、私が拉致監禁された事件後も、シスベリ子爵は次男に会う目的でノスラホートを訪問しています。時期と1週間という訪問の長さを考えると気になります。ノスラホートの王族が裏で暗殺集団を取りまとめているとも耳にしております。今は大きな動きは見えてはおりませんが油断はできません。引き続き父エルガディオ伯爵には監視をしてもらっております。」
「ノスラホート・・先日のウォードル伯爵の侍従もノスラホートの訛りがあったと話していたよね?」
「はい。先日私が侍従と話をした時には、確かにノスラホートの訛りを少し感じました。」
「うん。ウォードル伯爵の侍従がもしノスラホートの出身であれば、元王妃の暗殺集団と関係があったとしてもおかしくはない。今は侍従ロッシー・ノートの調査を調査部に任せている。
万が一ノスラホートの暗殺組織と元王妃派が手を組んでいた場合は、国家問題にも発展しかねないだろう。慎重に動かないとならない。シスベリ子爵がノスラホートに頻繁に訪問しているのであれば、情報を横流ししていてもおかしくない。引き続き監視を頼むよ。」
「はい。承知いたしました。」
元王妃が断罪された後も元王妃派の動きを注視しなければならないのは、隣国との動きが国単位の争いの火種になりかねない状況はあったからだった。
【魔力抑制薬】に関しては、密輸ルートを確保して18年もの間違法取引があったことが契約書が見つかった。そのことにより東のアスタナ王国と交渉を行い、密輸を行ったキシュドナ伯爵家は取り潰しとなった。しかし、【魔力抑制薬】自体は魔力を持つ者が少ない武力国家のアスタナにとって、メルリドを牽制する手段として【魔力抑制薬】は重要視している。製造を止めることはないということだ。
もし【覚醒者】が【魔力抑制薬】によって能力封じられるデータの詳細が伝わっているとすると、今後こちらへ武力抗争を仕掛けられる可能性もないとは言い切れない。
南のジダルサ王国は中立国で争いを持ち込まない商いと流通の国と言われている。この国同士の争いには余程のことがない限りは関わってくることはないだろう。
西のノスラホート王国は学者の集まる国で、知識・研究を重視していて平和的思考と考えられがちだが、学者や研究者を国が守るために、裏では巨大な暗殺組織があり、その能力は非常に高いと言われている。
影で暗躍している為、他国へスパイとして送り出し情報を集めるだけでなく、暗殺者の貸し出しまで行っているという話も聞く。
ディーンが【全覚醒者】として生まれた時より、ノスラホートが危険視して暗殺者をメルリドに送り込み情報収集をしていたのだとしたら、5歳からの暗殺事件は【覚醒者】を狙いメルリドの力を削ぐため動いてる可能性も十分高い。
「キリアン。そっちはどうだい」
「まぁノスラホートの暗殺組織が関わってるってとこはおおよそ正解だろうね。土属性家紋は筆頭家紋のララート侯爵は、マジェスティ宰相と旧知の仲で連絡取り合ってくれてるから、俺が動かなくても宰相が頻繁に連絡してくれるんだよね。元王妃派のディングス男爵は特に動きはないから引き続きララート侯爵に任せちゃってるよ。
風属性家紋は多分フルスス伯爵が時期筆頭家紋になるんじゃないか?って噂が大きくって、ウォードル伯爵は焦ってるみたいだね。深夜の人の出入りがとにかく多い!向こうはばれてないと思ってるようだけどさ。動き的に暗殺集団が出入りしてるのは間違いないと思う。
調査中の侍従が、ノスラート出身でもおかしくないんじゃない?間違いなくなんか企んでるだろうね。しかもウォードル伯爵領地内のいくつかの街に暗殺集団がウヨウヨ動き回ってんのがすっごい気になる。ターゲットがいるんじゃないかなって俺は思うんだよね。」
「ウォードル伯爵が誰かを探しているという事かい?」
「あぁ。恐らく間違いないと思うね。俺の探知魔法の情報だけじゃなく、ボアも異常だってギャーギャー騒いでたからな。。。ほんとうるさいんだよあいつ」
土妖精ボアの話になると途端にブツブツ言いながらキリアンはイライラし始める。相当ボアはキリアンと一緒に居られて嬉しくて張り切って大騒ぎしているのだろう。
ディーンはその騒がしい状況を察し、キリアンに憐れみの眼差しを向ける。
「おいっ!王子同情すんなよ?同情すんならあいつを止めてくれよ?」
「ははは。俺はいつもボアには少し落ち着くよう促してはいるんだよ?ただキリアンが大好きなんだろうねぇ。」
笑いながら視線を逸らすディーンにキリアンはじっとりと睨みつける。
「とりあえず!ターゲットされてるやつをこっちが先に見つけたらなんかわかるんじゃないの?」
「そうだね。暗殺集団を大勢使ってまで探すっていうことは間違いなく重要人物だろう。
実はウォードル伯爵の領地に来てほしいと風妖精のルカからも呼び出しが来ているんだよね。」
「呼び出しですか??」
ユージスはすかさずディーンに問う。
「あぁ。先日少し話したけれど、風の妖精から1か月ほど前に助けを求められているんだよね。どうやら風の【覚醒者】の資格をもつ者が現れたらしいんだ。ただまだ幼い資格者らしくてね。いきなり覚醒させて強力な力を得ても自分の身を守るのは逆に難しいのではないかとルカは心配らしくて、今は資格者の魔法とルカの魔法で隠れているらしい。風属性の魔法は隠密活動に優れた魔法が多いから、身を隠したり、探知や盗聴も得意としている。暗殺組織からしたら喉から手が出るほど欲しいと思う。
恐らく十中八九ターゲットは風の【覚醒者】の資格者で間違いないだろう。
結婚式までは王都にいるべきだとは思っていたからルカには待たせていたけれど、今回は大きな争いになりかねない。だから【覚醒者】全員で来てほしいと頼まれているんだ。
妖精同士では連絡が取れるから、君たちであればスムーズに資格者を守ることができるだろう。」
【まじか。だからあんなに鬱陶しいくらいの暗殺者が街中にうろうろしてたんだな。あんな中で先頭になったら確かに大事にはなるだろうなーでも殺しちゃまずいのか?」
「できる限り穏便に済ませたい。こちらの命の危険を感じた場合は敵の生死は問わないよ。ただ連絡は迅速にしあえた方が良いからね!通信用魔道具が完成したから渡すよ。ブレスレットだがなるべく邪魔にはならないシンプルな装飾にした。今身に着けてみてくれるかい?」
3つのブレスレットをそれぞれに渡し、全員装着するのも確認するとディーンは説明を続ける。
「このブレスレットはそれぞれの属性ごとのイメージカラーの色で魔法石をはめ込んでいるけど性能は同じだよ。魔力を少し込めるだけで4人で念話が可能になる。資格者と合流したら同じ通信魔道具を渡すつもりだ。全員に通信が同時に届くから、任務時以外は使用しないようにね?」
「全員に同時に念話は届くという事は・・・プライベート向きではない・・ということですね?」
「あぁ。全員に聞こえるからな。内緒話はリングを使うようにね?」
ディーンはにこっと微笑みながらルーシアを見つめる。
「せーんぱいっ♡俺はいつでも先輩に通信で愛を囁けますよ?」
「キリアン。鬱陶しいから絶対やめなさい」
ににこにこしながらルーシアに話すキリアンの振り撒くハートをバシバシ叩き落しながらディーンは張り付けたような笑顔で説教する。
「ウォードル伯爵の領地ハーベスの街ヤンドにルカはいる。キリアンはヤンドにはもう行っているよね?そこまで転移魔法と土の高速移動魔法でヤンドまで案内してもらえるかい?」
「え。なんで高速移動魔法知ってんの?怖いんだけどー」
「はは。俺も土魔法は使えるし、応用ならイメージできるからね。キリアンなら俺たちを同時に運ぶこと位簡単だよね?」
「うーーーわっ【全覚醒者】ってえっぐいわー・・俺らの能力バレバレじゃん。まーそれが一番早いだろうけどさ。」
キリアンは口を尖らせながら不貞腐れているが、恐らくキリアンもそのつもりだったのだろう。
出発は明日の夜明け前。それまでに各自他の任務を終わらせ再度本部へ集合することになったのだった。




