1.私たち婚約しました
「お嬢様、サーディン第1王子殿下がいらっしゃいました。旦那様が貴賓室でお待ちです。」
「ありがとう。今行くわ。」
デビュタントから3日たち、今日はディーンお兄様(サーディン第1王子殿下)の来訪日。手紙で今日婚約の話を来ることを事前に知らせを受けていた。
今日王家より婚約の申し込みが届いたばかりなのだが、ディーンお兄ちゃんは気を使って同日に来てくださったのだ。
「お父様、ルーシアでございます。」
「入りなさい。」
ノックをして声をかけて入室すると、ソファにはお父様、お母さま、ディーンお兄ちゃんの3人がすでに腰掛けて待っていた。
「お待たせして申し訳ございません。サーディン第1王子殿下にご挨拶申し上げます。本日は我が家までわざわざお越し下さいまして誠にありがとうございます。大変光栄でございます。」
「ルーシア嬢先日ぶりだね。婚約が待ちきれなくて早々に来てしまったのだ。気にしないでほしい。」
「ありがとうございます」
形式的な挨拶を済ませると、私はディーンお兄ちゃんの向かいに腰掛けた。
両親は、先日突然の公開求婚を私が受けたことでまだどう対応すべきか見定まらずにいるようで、冷静な応対をしているように見受けられるお父様も態度が少し緊張感を感じているのか、私まで表情に出てしまいそうでわざとにっこりとディーンお兄ちゃんに向かって微笑んだ。
「先日は相談もなくデビュタント会場で公に求婚をしてしまい驚かせてしまったこと、申し訳なかったと思っている。」
「謝らないでいただいて結構です。娘はお話を伺っていたとのことでしたので、確かに驚きましたが娘が納得しているのであれば私たちが口は挟むつもりはございません。」
「ありがとう。実は今日はもう少し婚約についても、私のことについても離さなければならないことがあったので訪問させてもらったのだ。伝えられる範囲のみではあるが話をさせてもらってもよいかな?」
「はい。こちらもお話を伺いたいです。私共も拝聴したほうがよろしい内容でしょうか?」
「そうだな。ある程度はエルガディア伯爵にも聞いておいてほしい。【覚醒者】についての件なので共有すべきと判断している。」
「承知いたしました。それでしたらよろしくお願いいたします。」
【覚醒者】という国の重要機密に触れかねない案件の為か、更に表情は硬いようだがお父様もお母様も冷静に立ち振る舞ってくれている。私は中途半端にしかまだ話を聞いていなかったのでどう振舞うべきか様子を伺うことにした。
「私は生を受けてすぐに【全覚醒者】としてこの白髪をもって生まれた。
当時白髪の【全覚醒者】のことを知っていたのは、その場では国王陛下と宰相のみだったらしい。そのくらい【全覚醒者】が何なのか皆知らなかったと聞いている。
それ故国王陛下はこの事を重く受け止め恐れた。私の持って生まれた魔力は膨大で、暴走しないか案じられた。公になれば危険因子と判断され命を狙われる可能性も高かった。文献でも【全覚醒者】の脅威さを語られた文面を私は確認している。王妃殿下もご存じではなかったらしく、白髪にショックを受け気を失ったと聞いている。
私は生まれてすぐに王家が元々用意していた【全覚醒者の為の館】で15歳まで暮らした。
館は要塞のように外敵を阻んだが、想像以上に多くの暗殺者に狙われるようになった。
5歳以降は昼夜問わず暗殺者が館の周り囲み、全て当時の護衛たちが返り討ちにしていたが、敵は魔力抑制薬にまで手を出してきた。
15歳の年にいつからか気づかない位の微量の魔力抑制薬を使用人に盛られていたらしく、暗殺者に囲まれた時に魔法によって薬の効果が急に強まり私は魔法が半分近く使えなくなった。
私の魔力は膨大だったからそれでも移動魔法は使うことができたが、範囲魔法や連続魔法は制限がかかり、暗殺者に周りを囲まれて瀕死の重傷を負ってしまった。使用人たちに気を許しすぎた己の不甲斐ない話だが・・そのおかげで私はルウェラ湖でルーシア嬢と出会うことができたんだ。」
「娘とですか??・・・まさか・・・娘が覚醒者になったのは・・・」
「そうだ。瀕死の状態にあった私をルーシア嬢が救おうとしてくれたことでルーシア嬢は覚醒した。」
「・・・・」
お父様はなんて返事をしたらよいかためらってしまっている。それは仕方ない。
あの件が原因で私とお姉様は政略婚約に振り回されたのだから。
それでも私は良かったと思っている。今ディーンお兄ちゃんといられるのだから。だから黙って話を聞くことに専念した。
「【覚醒者】は非常に稀有な存在だ。一人国に存在するだけで人間兵器とさえ言えるほど最強の魔法が使えるのだから。だからこそ私も暗殺者に昼夜狙われたし、魔力抑制薬を盛られた。
私だからまだ逃げることができたが、10歳の覚醒したばかりのルーシア嬢がもし暗殺者に狙われ、魔力抑制薬を盛られていたらと考えるとぞっとするよ。だから、エルガディア伯爵がルーシア嬢にすぐ婚約者を用意したのは妥当だったと私は理解している。
しかし、私はルーシア嬢と出会い妻にしたいと思ってしまった。私の力が足りず婚約を申し込むことが叶わなかったが、だからこそ私は力を手に入れるべく魔法剣を習得した。
国王陛下に魔法剣を極めたことをご承認いただき、王国魔法師団団長就任の命を受けこれまで国の為に尽力してきた。
今の私であれば隣国から戦争を仕掛けられようと、ルーシア嬢守る自信があるし、そして今後は次代の王となるに為公務も公に行う。
ルーシア嬢はこの国にとっても私にとっても宝だ。彼女は聖女といっても過言ではないほどのあまりある能力も兼ねそろえているし、国母となるにふさわしい。
だからどうか私にルーシア嬢と添い遂げさせてほしい。」
告げ終わると彼は深々とお父様に頭を下げた。
部屋の中が時が止まったようにしんと静まり返っている。お母様と私はお父様を見守るしかなかった。
「私に頭を下げるのはお止め下さい。」
お父様は声をかけた後、コホンと咳払い話を始めた。
「まさか第1王子殿下と娘がそのような昔から知り合っていたとは全く存じ上げませんでした。あの時は娘も家族に気を使って言い出せなかったのでしょう。娘を長い間想い続けて下さった気持ちはとてもよく理解できました。私から異議を申し上げることはございません。娘が婚約を望むのであれば私は全力で力添えさせていただきたく存じます。」
「ありがとう。エルガディス伯爵の気持ちはわかったよ。
ルーシアにはもう少し二人で話をしなくてはならないんだ。申し訳ないが二人の時間をもらえないだろうか?」
「承知いたしました。私どもは下がりますのでこちらでごゆっくりお話しください。」
「ありがとう。そうさせてもらおう。」
お父様とお母様は立ち上がり一礼すると部屋を後にした。
「ルー。やっと二人きりになったね。」
ずっと黙って様子を伺っていた私にディーンお兄ちゃんは、隣に座りなおしてから優しく微笑みかけてくれた。
「やっと全部話ができるよ。さっきの話でおおよその話はできたのだけど、ここからは私たち【覚醒者】同士でしか明かせない話がある。」
「【覚醒者】同士でしか話せないこと・・ですか?」
「そうだ。私たちの様な特殊魔法の使える魔力量の多い人間を【覚醒者】と呼んでいるが、もう一つ呼び名があることをルーはもう知っているだろう?」
「【妖精の愛し子】のことですか?」
私の返答にディーンお兄ちゃんは頷いた。
「妖精の愛し子であることは覚醒者しか知らない。妖精たちが覚醒者を覚醒させるときにその話をするからだ。昔その話を他に明かした時、未知の存在に【覚醒者】を恐れるものも多く表れ、自国内で争いが起きてしまい覚醒者も何人か命を落としたと聞いた。だから妖精たちは覚醒者の意思を無視して覚醒させたりしないし、覚醒した後は、様々な助言をすることになっているんだ。」
「そうだったんですね・・だからアシュは覚醒者のことを周りになるべく離さないように教えてくれていたんですね・・」
「そうだよ。恐らく他の覚醒者の事も話も聞かなかったはずだ。覚醒者同士であってもいきなり存在を認知してしまった場合疑いあってもおかしくない。お互いが強い能力を持っていて寝首を取られるかのうせいだってある。最悪な場合最大の敵が味方であるはずの覚醒者になることだってあるんだ。」
(最大の・・敵?)
今まで【覚醒者】が敵になるだなんて思ったことはなかった。それでもディーンお兄ちゃんの話は現実であるかのように胸に深く突き刺さった。
「それでは・・・私たちは孤独に戦うしかないのですか?」
震えそうな手を両手でぎゅっと結び突然独りぼっちになったかのような孤独が心にずんとのしかかる。
「大丈夫だよ。俺がいる。・・・アシュ・・・アシュは近くにいるな?」
『いるよー!』
(????!!!!)
ディーンお兄ちゃんの声にアシュが反応したことが信じられない。
「声が・・・アシュの声が聞こえるのですか?」
「ああ。聞こえているよ。初めてルーと出会ったとき、アシュとルーが話していたのも聞いていた。ただ、あの時は仲間と思っていた人間に裏切られた直後でね・・しばらく俺が覚醒者であることはルーに離さないようアシュに伝えていたんだ。」
「聞こえていたんですか?あの時聞こえてません!みたいな態度取っていたから全く気づきませんでしたよ!」
「すまない。本当は求婚した後話したかったが、翌日ルーは領地に戻ってしまっただろう?あの後アシュが俺のところに来て、婚約の話を聞いたから俺は身を引いたんだ。それでもルーの幸せを守りたかったから、何かあったすぐに知らせてほしいとアシュには頼んでいた。
おかげでまさか俺に婚約のチャンスが回ってくるとは思いもしなかったから、アシュから知らせを受けてすぐルウェラ湖に向かったんだ。」
「あの時・・アシュの気配が途中からなくなった気がしたのはディーンお兄ちゃんの所に行っていたからだったんですね・・・だからあんなに慌てたように移動魔法で来てくれたんですね‥」
あの再開は奇跡だったんじゃなくて・・私のことを大切に思ってくれたアシュとディーンお兄ちゃんのおかげだったんだ・・・
苦しい思い出だと思っていたけれど・・・やっぱりあの湖は大切な場所だったんだ・・
『そうだよ!あそこならディーンもすぐに駆け付けられると思ったから!でも・・ルーが心配でなかなかそばを離れられなかったけどね』
「おいおい?ちゃんと声に出して話をしてくれよ?俺にはルーの心の声は聞こえないからな?」
私の頬をディーンお兄ちゃんは両手で挟み込んでぐいっと私の顔を引き寄せた。
「・・っご・・ごめんらひゃいっ!!」
頬を固定されて慌てる私をにこにこしながら見つめるとそのまま引き寄せてぎゅっと私を抱きしめた。
「本当に長かった。妖精の話は俺の口から離さないと変に誤解されたくなかったから。でももっと早くこの話ができていたらルーにつらい思いをさせなくて済んだんだ。ほんとうにすまなかった」
「ううん。ディーンお兄ちゃんが話してくれて本当にうれしい。アシュのことも、二人だけの秘密ができてうれしい!」
「! ・・・そう・・だな。確かに秘密なんだが・・・一応もう少し付け加えて話をすると、俺は【全覚醒者】だから、全ての妖精の祝福を受けて生まれているんだ。だから他の妖精とも話せるし、妖精を通して覚醒者と連絡も取っている。・・・・二人だけの秘密じゃなくてすまない・・」
「それはバチス侯爵様とも妖精を通してやり取りをしているということですか?」
「あぁ。そういうことだ。 ユージスとは副団長に指名した時に信頼に足る人物か判断した上で、火の妖精ロイを通して今は魔法師団の指示を下したりしている。」
「素晴らしい連携ですね!!あんな素晴らしい方が部下だなんてすごいです!・・っきゃ!!」
突然ぐいっと体を引き離され何事かと目を瞬くと、目の前のディーンお兄ちゃんの瞳は何故か暗く陰って怒っている??!
「ど・・どうしたの???」
「・・・素晴らしい方・・・というのは・・・ユージスに好意を持っているのか?」
じーっとものすごい目力で迫る彼に私の心はどうなってしまったのかと思うほど荒々しく胸の鼓動が速くなりどうしたら良いかわからなくなってしまった。
「・・・っあの・・・その・・あんなに優秀な方なのだから・・・すごいのは当然では?」
なんとか振り絞るように言葉を出したのに、全く彼は納得していない。
「俺はルーの事に関してだけは狭量なんだ。ルーによく思われるのは俺だけがいい・・・わがままでも・・俺だけがいいんだ。」
しょぼんとしたような切なそうな表情に私の鼓動は更に早くなった気がする・・
「す・・好きなのは・・・ディーンお兄ちゃんだけだからっ!!」
ジーっと見つめあった後彼はそっと離れるとソファに腰掛ける私の前にひざまずき小箱をスーツの胸元から取り出した。
(???)
彼の瞳は女の私から見ても美しく魅惑的で、じっと見つめられると吸い込まれてしまいそうで気持ちが落ち着かない。
彼はしばらくすると真剣な眼差しで、私への愛の想いを告げて私の前に小箱を開いて指輪を見せた。
「私サーディン・メルリドは、ルーシア・エルガディア伯爵令嬢を心から愛し、これからもずっとそばに寄り添ってほしいと願う。どうか私と婚約してほしい。」
「・・・これを私に?」
「あぁ。 婚約を受け入れてくれるのであればこの指輪を君に捧げたい。」
「嬉しい。喜んでお受けいたしますわ」
私の返事に花が咲き誇るように微笑んで、彼は私の左の薬指に指輪をはめた。
いつ私の指のサイズがわかったのだろう???と思うくらいぴったりだった。
指輪の中心には彼の瞳の様な美しい黄色のキラキラした宝石だった。後から聞いた話によると、この指輪は魔力を通すとペアの指輪の相手と話ができるらしい。勿論ペアの相手は私であって、彼の宝石は私の瞳と同じ赤い石をつかっているらしい。
(素敵すぎて死んでしまいそう!!)
『死んじゃ駄目よ?』
「アシュ?!」
「なんだ・・・また声に出さずに話してたのか?」
アシュの声に思わず驚いて知った私になんだか彼は機嫌が悪そう。・・・仲間外れにしてるわけじゃないんだけどね・・・アシュは心の声聞いちゃうから。
悪いことをしたつもりはないのにちょっとしゅんとなった私にくすっと微笑むと、ディーンお兄ちゃんは私の額にちゅっと唇を落としてから目と目を交わらせた。
「ルー。これからは恋人同士。将来は結婚もする仲だ。俺のことをそろそろディーンと呼んでくれないか?・・・罪悪感を・・感じる」
「・・・ディーン?」
「あぁ。もう一度呼んでくれ」
「ディーン。・・・大好き」
ディーンの瞳が近づいて思わず目を瞑ると優しく触れる彼の唇を感じた。
私たちは柔らかい唇の心地よさを感じ、幾度となく時間を忘れ唇の感触を確かめ合った。
そして婚約は無事に済み、私たちは結婚に向かって一歩前進した。
第二章まで続く長編になる予定です。
ゆっくりお付き合いください。




