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王太子と令嬢の婚約破棄 ーその第三者視点ー

作者: シロいクマ


飾り付けられた室内には、着飾った男子生徒と女子生徒が集っている。

各界の重鎮も参列していて、各国の大使も招かれている。

参列者たちのアクセサリーは、照明できらびやかに輝いている。


楽団が緩やかなメロディーを奏で、優雅さを引き立てている。

テーブルには贅を尽くした様々な料理が並べられ、その香りでパーティーを盛り上げている。

この国最高の教育機関たる学園の、卒業パーティーに相応しい舞台装置が揃えられている。


『 アイリス! お前との婚約を破棄する事をここに宣言する! 』

『 婚約を破棄していただき感謝いたしますわ 』


卒業パーティーに相応しい舞台装置が揃えられている。

揃えられているんだが、何とも言えない事態になっちまった。


ひな壇に上った第一王子が、婚約者の侯爵令嬢になんか言い始めた。

ひな壇に上ったんで、ここからは肩から上だけが見える。

学園内では前から噂にはなっていたんだが、本当に始めるとは思わなかった。

ファンタジーのお話じゃよく見るシーンだが、目にするとは思わなかった。


いきなり始まったお遊戯会に気をとられ、ウッカリ止まっていたフォークを動かす。

見た事の無い料理だから食べとないと損だ、婚約破棄なんか関係ないしな。

お子ちゃまのお遊戯会を見てるくらいなら、美味しい料理を食べてた方がマシだ。


「 この料理は初めて食べるな。 どこの国の料理なんだ? 」

「 アイゼナッハの料理らしいぞ 。 ほら、あそこに大使がいるだろ 」


友人がさりげなく示す方向には、隣国の大使の姿が在った。

大使は夫人を同伴しているようだ。


「 この料理は気に入った。 あの国にも行ってみるかな 」

「 お前、就職先がまだ決まってないんだろ? 大丈夫なのか? 」

「 まぁ何とかなるだろ 」

「 本当かよ。 困ったら俺の所に顔を出せよ。 お前一人の働き口くらいどうにでも出来るんだからな? 」


友人は男爵家の嫡男で、卒業後は父親の元で領地管理を学ぶ事になってる。

農業中心の領地だそうだ。


「 ホントに困ったら、そうさせてもらう 」


俺も今日で卒業なんだが、就職先がまだ決まっていない。

心配してくれる友人には悪いが、俺は卒業後にこの国から出る予定だ。

あんな奴らが、国の中枢に居る国に住みたくないってのがその理由だ。

あんな奴らってのは、ひな壇でお遊戯会やってるやつらの事だ。


俺も友人も一応卒業生だ、だからここに参加してる。

友人は普通の下級貴族だから、貴族の上の方の婚約破棄には関わってない。

俺はチョットと変わってるが普通の平民だから、婚約破棄に関わってない。

変わってると言っても本当にチョットだけだ。


普通って何だよ、ってツッコミは訊く気はない。


俺達も第一王子と同じ学園の、同じ学年だから噂話は訊いたことはある。

第一王子と、聖女と呼ばれてる侯爵令嬢の婚約者と、もう一人の聖女の三角関係っぽい話だ。

でも関わらないように避けてきた、上級貴族に関わったら面倒なだけだ。

あいつらは、平民とは違う価値観で生きてるらしい。


『 お前はユメカに陰湿なイジメを行ってきた! その行為は第一王子たる私の婚約者に相応しくない! 』


ユメカと呼ばれた女子生徒は、第一王子の隣で小さくなってる。

彼女の左腕は三角巾で覆われてる、そう三角巾だ。

誰が持ち込んだんだよって話だ、あれはこの世界には無いハズだ。

聖女アイリスに押されて階段から落ちたそうで、リハビリ中だそうだ。

治癒魔法でも治りきらないほど、大ケガだったらしい。

令嬢はそれをチラリと見てから第一王子に視線を移す。


『 証拠はおありになるんですの? 』

『 証拠は揃っている! 』


ザワザワとした雰囲気の中、ひな壇を囲んでいる卒業生と在校生に動きが在った。

第一王子にも方してる何人かが進み出たようだ。

その他の参列者はひな壇に近づかず、遠巻きに見てる感じだな。


『 お前のイジメを見たと言う者がこれだけいる! 言い逃れは出来ないぞ! 』

『 そう言われましても、私には身の覚えのないこと。 そこのあなた、何を見たのか教えて下さる? 』

『 わ、わたくしが見たのは・・・ 』


料理を味わいながら会場をさりげなく見回す。

お子ちゃまのお遊戯会を気にしているのはパーティー参加者の60%位だな。

それ以外は様子見ってところか。


俺は料理を静かに味わいながら、静かにだ、決して舌鼓をうつなんて事はしない。

鼓ってのは打って鳴らす楽器の事だ、舌鼓ってのは鼓みたいに舌で音を立てることだ。

って言うか、そんなことする奴がホントに居るのかって話だ。

クチャクチャ噛むやつは見たことあるが、舌鼓を打つ奴は聞いたこと無いんだが。


見っともないし下品だし舌鼓なんて俺は決してやらない。

友人がやってたら必ず注意する、本当に居たらだけどな。

ソバやラーメンのズルズルはありだ。


「 このワインはいけるな。 お前も飲んだらどうだ 」

「 俺は飲まんよ 」


友人がアルコールを勧めるが、そもそも俺は飲めない。

それにこの国の醸造技術は未熟だ、って言うかこの世界の醸造技術は未熟だ。


そう、俺が周りとチョットだけ違うのは、前世の記憶を持ってること。

前世でおっさんだった時の記憶だ。

でもチートって言うほど、知識は役には立たなかったな。


まず、歴史関係は役に立たない、当たり前だよな、違う世界の歴史なんだから。

英語も国語も役にたたない、俺にはマルチリンガルの素質は無かった。


数学は役に立つが、決定的じゃあない。

定理や公式で計算しても、測定手段が粗末なんだよ。

スケールで長さを測ろうとしても正確に測れない。

なんてったって、スケールその物に誤差があって1個1個バラバラの長さになってる。

世界標準の長さの基準なんてない。


電気系の知識は全滅だ、そもそも電気がない。

辛うじて有効だったのが、素材生成の基礎知識と金属加工の基礎知識だ。

こっちの世界の原子構造が、前の世界と似ててくれて助かった。


俺は鉄を中心とした、金属の精錬と量産に手を付けた。

元素記号Feの鉄は、金や銀と同じで元素だ。

但し鉄が金や銀と違うのは、純度が高いほど役立たずになるってところだ。

鉄は合金にして初めて真価を発揮する。

それ位は知ってた。


魔力で鉄鉱石から鉄を精錬できるらしいが、あれは純粋な鉄になるだろう。

鋼鉄やステンレスにするには添加物が必要だ、だが鉄鉱石にはその添加物は含まれていない。

だから鉄を精製してコイルスプリングや板バネを作ったり。


そんなモノは作ってない。


純粋な鉄(・・・・)で全てを作れることは無い。

例えばバネは、使用する製品に合わせて配合を変える必要がある。

正確に言うと、製品に在った鉄合金を使ってバネを作る。

スマホに使うバネと、車に使うバネと、ジェット機777に使うバネが同じ組成の鉄なんてことは無い。


鉄は元素だから鉄を精錬しても鋼鉄にはならない。

ステンレスも合金で希少金属の添加物が必要だ。

全ての添加物を用意するのは無理だ、鉄以上の重金属もあるんだし。


ファンタジーな世界だと、バネもスプリングも剣も鎧も盾も食器も農機具も同じ()で作れる。

全ての用途にピッタリな()合金が有るらしいが、俺はまだ配合に成功してない。

なかなか難しいんだよ、これが。

ファンタジーな世界には、ファンタジーな脳みそが必要って事だろうな。

俺には無理かも知らん。


この世界には魔法がある、ドワーフやエルフもいる。

手作りしてたら、品質や性能で勝ち目はあるはずもない。

だから俺が目を付けたのは、金属製品の大量生産方法の確立だ。

ドワーフが丹念に作った物に遠く及ばないのは知ってる、でも量産性なら負けない。

彼らが1本の剣を作ってるあいだに、俺は1万本の普通の剣と1万本の普通の鍬を作れる。


「 あら、ここに居たの 」


「 「 ・・・ 」 」


声のした方を見ると、いつもと違う、でも知った顔が在った。

俺と友人は軽くグラスを上げて歓迎の意を示す。


彼女はキャサリン、国の南の端っこの方に在る子爵家の長女だ。

もちろん俺達と同級生だ。

下に妹が二人いるが男兄弟はいないから、卒業後は婿養子をとることになるって訊いてる。


「 あっちに行かないの? 」


キャサリンは顎で(・・)ひな壇の方を差した。

顎を使ってなんてレディーらしくは無いが、彼女はそういう性格なんだよ。


「 興味ないな 」

「 関わりたくない 」


俺と友人はそう言ってグラスを軽くぶつけ合う。

参加しなけりゃ、勝ちとか負けとか大騒ぎすることもない。

名誉? 名声? まったり生活にはそんなものは全く必要ない。


「 相変わらずね 」


キャサリンはその辺を周回してるトレイから飲み物を受け取ると、そのまま俺達に合流する。


「 ま、私もなんだけどね 」


そう言いながら俺の皿を物色するキャサリン。


「 あら美味しそうね 」

「 待て待て。 せめてフォークを使ってくれ 」


俺の皿から料理を摘まもうとした彼女を止め、持っていたフォークを渡す。


「 食べさせてはくれないのね? 」


汚れちゃいそうなのよね~なんて言いながら、ドレスを誇示する。

お高そうなドレスでなかなか似合ってる。


「 しょうがないな。 ほれ 」


ドレスで着飾った彼女の努力に免じて、俺はフォークでキャサリンに食べさせる。


「 ありがと。 あら美味しい 」


「 だろ? 」


俺達は三人で、スパイスが~いや火加減が~とか言いつつ料理を食べる。

お子ちゃま達のお遊戯会はまだ続いてる。

お子ちゃま達には関わらない、それが一番だ。


-----------------------------


「 お。 そろそろか 」

「 そうらしいな 」

「 なんのこと? 」


「 劇のクライマックスが近いって事だ 」

「 ? 」


キャサリンは判らないらしいが、俺と友人は感じ取った。

平民や下級貴族は、上の方の貴族に気をつけて生活してる。

命にかかわるから敏感にならざるを得ないんだよ、面倒だけどな。


ボーイやメイドの動きが変化した、ホールの外が何となく騒がしい。

それでだ、参加が予定されてるのにまだ来てない人物がいる。

導き出される結論はひとつ。


「 せめて口の周りは綺麗にしとけ 」


俺はナプキンでキャサリンの口の周りを拭く。

普段は綺麗に食べるのに、ドレスを着てる今日に限って目いっぱい口に押し込んでる。

いや、俺が食べさせなきゃ終わるんだが食べたがるからさ。

口の周りが綺麗になったころ、ホールが静かになった。


「 ご登場ってな 」


俺が小声でつぶやくのと、王様と妃様がホールに入るってアナウンスがあったのはほぼ同時だ。

さてどうなるのかね。



『 何を騒いでいる 』

『 父上! アイリスとの婚約を破棄・・・ 』


「 始まったわね 」

「 だね 」

「 ・・・ 」


俺達は黙って成り行きを見守る、料理食べながらだし見てもいないけど。

第一王子の婚約者アイリスは学園内で、昔は極悪令嬢って言われてた。

平民出の少女をイジメル極悪令嬢だってさ。


アイリスはそんな事を気にもしないで、自分の父親を手伝ったそうだ。

いくつもの発明や発見で領は大いに栄えてるんで、領民はアイリスを聖女って呼んでるんだと。


ケガ人や病人に優しくて、診療所の改革にも手を出したとか。

健康になるには食事に注意が必要だってさ。

6大栄養素とかビタミンとか。

領民が健康になったって事で、彼女は聖女と呼ばれることになったらしい。


『 お待ちください! 』


お遊戯会に、新たな人物が登場したようだ。


「 やっと来たわね 」

「 やっと? 」

「 あれ誰? 」


友人と俺の口から、各々別の質問が飛び出した。


「 彼は第二王子よ。 前から聖女様を狙ってるって、女子の間で噂があったのよね 」

「「 ・・・ 」」


「 その隣は騎士団の副団長で、王都一番の商人の息子もいるわね 」

「「 ・・・ 」」


「 あと・・・その左は隣国スキールの王子じゃなかったかしら。 全員、聖女様の味方だそうよ 」

「「 ・・・ 」」


「 アイリス様のことね 」

「 そっちか 」


聖女、聖女、聖女って、聖女が多すぎだろ、識別するのが大変だっての。

そういや、最近は勇者は減ってるけどモブは増えてるな。

夏が近いからかな、夏には増えるよな。


第一王子を奪ったユメカ聖女は、西の外れの男爵家の養女だとか。

元は平民だったって話だ。

何でも、船乗り特有の病気を治したんで聖女と呼ばれているとか。

あと、魔力でなんでも治してしまうとか。

三角巾も彼女の考案だそうだ、包帯よりも扱いは楽だし安上がりだし良いと思う。


「 船乗りの病気には酸っぱい果物が良いんだって。 二人の聖女が言ってるから、間違い無いらしいわよ 」


二人の聖女様は、船乗りの間で有名だった奇病を治療した。

お互いに情報を公開して、対策の周知を図ったらしい。

とっちが先かで争ったけどな。

まぁ、最終的に船乗りの病は無くなった、聖女の注意を守ってればだが。


それでだ、船乗りに多い病気、壊血病にビタミンCが効くのは正しい。

それにビタミンCは酸っぱいのも正しい。

でも、果物の酸っぱさはビタミンCだけじゃない。


リンゴ酸とかクエン酸とか、果物由来のナントカ酸は全て酸っぱい。

ナントカ酸が壊血病に効くかと言うと、そうでもないから注意が必要なんだけどな。

果物を山ほど食べれば効果は在るとは思うが。

スッパイ果物を山ほど食べるか・・・自分で試したいとは思わんな。


それより、聖女は二人ともこの世界の人間じゃないのは確定だ。

皮膚や髪の色から推測して、俺と同じ転生者なんだろう。


-----------------------------


『 私が何も知らないとでも思ったか! 』


ホールに王様の大きな声が響いた。

正直ウルサイ。


「 たぶん、王家の情報網で調べたんだと思うわ 」

「 やっぱりあるんだな、王家の暗部って 」

「 在るって聞いてるわ。 上級貴族は独自の情報網が無いと、やっていけないって話だし 」


キャサリンの家は子爵で、親である上級貴族から情報を流してもらうんだとか。

情報って大事だよな。

表とか裏とかで、色々とやってる貴族は特に重要だろうな。


俺達が知ってる範囲では、ユメカ聖女は上手く立ち回ってたように見えた。

あからさまに媚を売るだけでなく、誘惑するのでもなく。

計算外だったのは、もう一人も転生者だったことだろう。


『 ・・・私も調べさせた! 言い訳は通用せんぞ! 』


また王様の大きな声がホールに響いた、キャサリンが持つグラスの水面が小さく揺れた。

お遊戯会から離れているせいで、ところどころ上手く聞き取れない。

人垣で声が遮られてるってのもある、興味は無いから支障はない。

食事中のBGMとして最低なのは認める。


アンギャ ーウンギャーがしばらく続き、そのうちホールに近衛兵が入って来た。

王子様が連れていかれるのが見えた、第一の方だ。

聖女ユメカの頭が見えなくなった。

腰砕けになったのか、それとも膝から崩れ落ちたんじゃないか、多分だが。


「 これで終わったのかしら? 」

「 どうかな 」


キャサリンが俺の右腕にしがみ付いた。

しがみ付かれると、持ってる皿が揺れて料理が落ちそうになる。

落ちるともったいないから、落ちる前に食べ切ることにする。


婚約者を裏切った男と、それをそそのかした女。

二人は罰を受け、残った婚約者は自由の身になる。

彼女は彼女を助けた者たちに支えられて、ハッピーエンド。


「 これで終わるなら、それこそお仕舞いなんだがな 」

「 え? 」


俺の呟きは、キャサリンにだけは聞こえたらしい。

皿の上には肉と野菜の蒸したものが乗ってる、絡めてあるソースがサッパリで俺好みだ。


「 サッパリ、スッキリ、ザマァエンドって事かね 」


お子ちゃま達が自分勝手に大騒ぎする。

本人達は楽しいんだろうな、周りは大迷惑なんだが。


次のストーリーじゃ、アイリス聖女の逆ハーレムで内輪もめでも起きるのかな。

他国の王子様も入ってるから、国際紛争になったりしてな。

年食っただけのお子ちゃまが支配する国だからな、大丈夫じゃないだろうな。


俺が転生者って知られても面倒だし、ヤッパリ国を出た方が良さそうだ。

帰ったら最後の荷造りを始めるとしよう。


そう決めて友人を見ると、両手でワイングラスを握りしめてる。

残ったワインが揺れてるから、震えてるんだろうな。

キャサリンも震えてる、俺の腕をつかんだ両手がそれを伝えてる。


ホールも静かだ、衣擦れの音もほとんどしない。

誰も彼もがジッとしてる、王子様が死を賜るってのは大事なんだろうな。

俺は料理を食べてるけどな、関係無いし。



ホールに近衛兵の足音が響いた。

今度は第二王子が連れていかれた、副団長も商人の息子も連れてかれた。

今度はアイリス聖女が崩れ落ちたらしい。


「 何だ? 何が起きたんだ? 」

「 判らんな。 ちょっと前に行ってみるか 」

「 え? チョット待って、興味無かったんじゃないの? 」


友人とキャサリンを連れてひな壇に近づく。

若干、二人を引きずり気味なのは容赦して欲しいところだ。

できれば王様の声が聞こえる距離に入りたい。


『 ・・・アイリス、お前にも罰は受けてもらう 』


王様が言い終わるとアイリスも連れていかれた。

俺達がひな壇に近づいた時には、お遊戯会をやってたお子ちゃま達は誰も居なくなってた。

そして誰も居なくなったってか。


「 やるじゃん、王様 」


今まで王様の顔を見たこと無かった、オマケに名前も知らないが。

結構気に入った、それに引っ越ししなくても良さそうだな。


-----------------------------


ホールに音楽が戻って来た、参加者のざわめきも戻って来た。

酒や料理も追加された。

一部の参加者は強制排除されたが自業自得だな。


「 君たちの事はキャサリンから聞いているよ 」

「 何をお聞きしたのか存じませんが、半分は誇張されていると思いますよ? 」

「 あら、そうなの? 」


にこやかにほほ笑むキャサリンパパとママ。

穏やかな性格にみえる、でも子爵様で貴族だから内面は違うかも知らん。


俺と友人はキャサリンの両親にご挨拶した。

でだ、こういう時は友人にお任せだ、俺は平民で貴族のマナーは知らんからな。

ニコニコ笑って黙ってるに限る。


王様と王妃様は退場してる。

ホールの空気はまだぎこちない、無理やり元に戻そうとしてるって感じだ。

この国最高の教育機関たる学園の卒業パーティーだから、意地で続けてるんだろうか。


「 最後はどうなったの? 」


キャサリンがパパに訊いた。

俺達は全てを聴いてた訳じゃない、聴く気も無かったし、聞こえなかったし。


「 元第一王子は廃嫡の上で死を賜った。 副団長と商人の息子は死刑だ。 第二王子も廃嫡の上死を賜った 」


死を賜るってのは極刑の事だ、平民言葉に直すと死刑だな。


「 聖女の二人は、聖女の称号をはく奪されて幽閉される 」


本当は死を賜るところなんだが、国や民への貢献に免じて減刑したんだと。

でだ、元聖女の幽閉場所はお互いの敵地になるそうだ。

聖女Aは聖女Bの領地で、聖女Bは聖女Aの領地で幽閉される。


「 命に反して厳しくされることは無いだろうが、決して楽では無いだろうね 」


病死や餓死させるなって王様の命令があるらしい。

だからって、優雅で快適な生活にはならないだろう。

自分の所の聖女が牢に入ったのは目の前の女のせいだ、って事で甘くならないだろうと。


それで、聖女って称号は周りが言い始めたんで正式呼称じゃない。

聖女って呼ぶなよって王様が正式に発令することに、何か意味があるんだろう。

他の罪人と変わらんぞって事かもな、知らんけど。


「 なぜ、こんなことに? 」

「 君はどう思う? 」

「 そうですね・・・ 」


ある医者が居る。

診察に来た患者に異常はありませんと伝える。

しばらくして、同じ患者がまた診察に来る。

診察のあと医者は伝える、病気です、治りませんと。


ある医者が居る。

診察に来た患者に、病気ではないが気になることがあると伝える。

食事と運動に気を付けましょうと伝える。

しばらくして、同じ患者がまた診察に来る。

診察のあと医者は伝える、健康ですと。


「 どちらの医者に掛かりたいか、ではないでしょうか 」

「 面白いたとえ話だね 」


キャサリンパパとママは笑ってる。

どっちの医者が信用されるかは言うまでもないだろう。

病気になるまで知らんぷりの医者なんて、俺には不要だ。


「 そうだね。 結局は・・・ 」


結局は、国を割るような騒ぎを起こしたからの処分だそうだ。

最悪は内戦だが、内戦にならくても良い事なんてない。

自分の立場を考えないで、周りの迷惑を顧みないで、勝手に突っ走った。

お子ちゃま達が欲望だけで行動した。


元第一王子はバカ過ぎて、第二王子はバカでオマケに人の婚約者を欲しがった。

副団長も商人の息子も、他人の婚約者を欲しがった。

危険性に気が付かないままにだ、アホとしか言いようがない。


元聖女ユメカもそういう理由だそうだ、元聖女アイリスに在らぬ罪を着せようとしたしな。

他人の婚約者を奪おうとする奴は、全員有罪で良いと思う。

自分で奪われようとしてる婚約者は、人間辞めてもろてだな。


「 アイリス様も勘違いしていたようだね 」

「 勘違いですか? 」


アイリスは第一王子の婚約者として、それなりの教育を受けていたと。

王城での教育もあったし、派遣されてきた教師役の貴族も居たらしい。


「 アイリス様は、もっと早く相談するべきだったんだよ 」


アイリス元聖女は、婚約者の第一王子とそれなりに上手く付き合ってたらしい。

ユメカ元聖女がちょっかいをかけ始めて、徐々におかしくなったと。

王城にも行くし、王城から派遣されてた教育担当の貴族とも会ってたらしい。

それにも関わらず、第一王子の様子が変わったこと、他の女の影が見えること。

それらを報告しなかった。


いずれは義母になる王妃にも、話さなかった、相談しなかった、報告しなかった。

王妃とのプライベートなお茶会にも参加してたのにだ。


「 第一王子との結婚を、快く思っていなかったと思われても仕方ないだろうね。 婚約を解消するために、第一王子を利用したとみなされるよね 」


自分の無罪の証拠を集めるって事はだ、相手の有罪を証明するって事に近い。

アイリス元聖女はそれをやってたと、コッソリ、内緒で。

それって婚約解消を狙ってたって事だからな。

バレたらそりゃあ責任は取らされるさ、特に息子を失った親にバレたら間違いなく。


「 仮にだよ。 早い段階で、王妃様に相談していたらこうはならなかっただろうね 」


ユメカ元聖女がちょっかいを出し始めた段階でだ、『 第一王子の様子がおかしいんです 』 って言ってたらどうなったか。


第一王子は怒られるだろうな。

怒られるだろうが、それで言動を改めれば丸く収まる、ハッピーエンドだ。

言動を改めなくても、どれだけ最悪でも1人(・・)の王子を失うだけで済む。


アイリス元聖女はその可能性を放棄した。

自分の事を最優先して行動した、貴族らしいっちゃ貴族らしい行動だな。

何にも考えてないお粗末なやり方だが。


早い話、パーティーで婚約破棄をやる時点で両方ともアウトって事だ。

もう遅い~ってやつだな。


問題は小さいうちに解決するのが一番だ。

最後の最後で犯人を見つけると、世間じゃ名探偵って呼ばれるらしい。

最初の犠牲者が出た時点で犯人を捕まえるのが、本当の名探偵だと思うのは俺だけか。


「 周りの男の子には相談したみたいだけどね 」

「 チヤホヤされるのが好きなんでしょう 」


おっと、つい口を出しちまった。


ホストにハマル女性がいる、1人のホストに貢ぐんだと。

それで人生をダメにするらしい、そこまで嵌るんだそうだ。

でもだ、ホストクラブじゃ一人のホストを中心に、複数のホストが相手をするんだと。

周り中からチヤホヤされるんだとさ、それを気に入るか気に入らないか。


気持ち悪かったと言って二度と行かない女性もいる。

嵌ってのめり込む女性もいる。

そこんところは個人の趣味や感性の違いなんだろう。


「 アイリスは1人じゃ物足りなかったんでしょう。 欲が深く、自己中心的な人物だったと言う事じゃないですかね 」

「 評判は当てにならないってことかな? 」

「 そういう事でしょうね 」


ハーレムとか、逆ハーレムとか。

それを狙ってますって周りに知られたら、気まずくなるって思うのは俺だけか。

実際に行動してなくてもさ、それをヤリマス~ってバレたらさ、知人友人に引かれると思うんだよ。

平気なのかね、気にならないのかね。


少なくとも俺はアイリスの行動には引いた、アイリスを支援したヤツラにも引いた。

そんな奴らが中央に居る国には居たくないと思った。


『 貴方のせいで私は二人の息子を失った。 もっと早くあなたが相談してくれてれば、こんなことにならなかった 』

王妃様がアイリスに、最後に言った言葉だそうだ。


『 悪いのはあんたの息子でしょ! 相談? 知らないわよ! 察してよ! 』

アイリスの最後のセリフだそうだ。



「 ところで。 うちの領にはいつ引っ越してくるんだい? 」

「 引っ越しですか? 」


キャサリンパパが何言ってるのか理解できん。

言語は理解できるんだけどな。


「 パパ、それはまだ・・・ 」

「 キャサリン。 こう言う事はハッキリさせておかないとね・・・ 」

「 ・・・ 」


笑顔のままフリーズする俺の前で、キャサリンとパパとママが話し合ってる。

どうやら、公式の場で男性が女性に料理を食べさせるのはプロポーズになるとか。

さっきまでやってたな。


だが、この国にはそんな習慣は無い。

コッソリ友人にも訊いたんだが、貴族の風習としても無いんだと。


「 古くから我が領に伝わる伝統的な儀式でね・・・ 」


ファーストバイトとか何とか言うらしい。

そういや、前の世界で欧米とかの結婚式の動画で見たことがある。

何時かは知らんが、キャサリンパパの領地には欧米からの転生者でも居たんだろう。


それよりだ、キャサリンと結婚すると俺は貴族の端っこに加わるらしい。

俺のまったり生活に貴族が必要かと言うと、まったくもって必要じゃない。

マッタリダ~とか言いつつ、貴族に関わって暮らすなんて俺には出来ない。


折角、王様がマトモそうだって判って、引っ越さないで済みそうだったのに。

やっぱり引っ越しになりそうだ。


キャサリン達はまだ話してる。

パーティーが終わったら、やっぱりこの国を出て旅に出よう。

丁寧に謝罪の手紙を書いておけば良いだろう。

人を嵌めようとしたんだ、俺に出来るのはそれまでだ。



そうそう。


お遊戯会に出席してた留学中の隣国の王子様は、国に強制送還されたってさ。

あとはあっちの国で処分されるそうだ。

旅行中はアホみたいな王子が居る国にも、近づかない様にしよう。


旅のルートを再検討しないとな。


-----END-----


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ジャンル間違ってます 直してください
もしかして王様やるやんって、王子2人を処分したこと?王妃は知らんかったけど、王は知ってた。そのうえで息子二人に言わなかったということは、王妃の息子2人以外に息子がいて、それを王太子にするために今回のこ…
>>『貴方のせいで私は2人の息子を失った。 もっと早くあなたが相談してくれてれば、こんなことにならなかった 』 いや王様が王家の情報網で調べてたんですよね? つまり知った上で無視してたのは王様も………
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