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 ルイースの腕に閉じ込められたまま連れてこられた先は、豪華な調度品が並ぶ一室だった。

 広々とした部屋には調度品の他に、沢山の本が並んだ棚があり、奥には大きな天蓋付きのベッドが見える。


「適当に座っていてください。今、茶を用意させます。ああ、それよりも着替えが先ですかね」


 ルイースがパチンッと指を鳴らすと、黒とレースを基調としたタイトなドレスに身を包んでいた。


 なんともまあ、好みをよく分かってらっしゃる事。と感心しつつ、中央にあったソファーに腰掛けた。


 シャルロッテとて、一人前の魔女だ。ここから逃げようと思えば逃げれるだろうが…後々面倒な事になりかねないのでここは黙って従う事にした。


 しばらくすると、数人の侍女が飲み物と食べ物を持ってやって来たが、チラチラとこちらを伺う視線が煩い。


 その視線は興味と言うよりは、嫉妬に近い。


 眉目秀麗、魔導師としての腕前も一流以上。更には女性の影がない独身となれば、使用人だろうとワンチャンあるかもと狙うのは世の常。


 何処の馬の骨か分からない女が突然部屋にいたらそりゃ不快に思うだろう。


 用意された茶を啜りながら、冷静に今の状況を見ていた。


「さて、まずは貴女の名を教えていただけますか?」

「…好きなように呼べばいい。名など幾つもあって忘れたわ」


 暗に教えるつもりはないと言うと、ルイースは「困りましたね…」と呟いた。


(簡単に魔女()の名を知れると思うなよ)


 ほくそ笑みながらルイースを眺めていると「そうですね」と答えが出たようだ。シャルロッテはどんな名が出るのか少し楽しみに耳を傾けた。


「では、ハニーと呼ばせていただきましょうか?」


 ブー!!!


 口に含んでいた茶が勢いよく吹き出た。


「おまッ!!何を言って!!」

「おや?どんな名でもいいと仰りましたよね?」


 更に「私の事はダーリンでお願いしますね」と付け加えられ、シャルロッテは口元を拭いながら狼狽えている。


(な、なななな!!)


 確かに、なんでもいいと言ったが…!!


「そんな恥ずかしい言葉、耳にするのも口にするのも御免だ!!」


 当然却下だと言うが「それでは約束が違います」と睨みつけてきた。


「そもそも、それは名ではなく愛称でしょう!?」

「ですが、名が分からないので…」


 チラッとあざとくこちらを見てくる。


 シャルロッテはどうも調子が狂うと思いつつ、小さな声で「…………シャルロッテ」と呟いた。


「え?」


 よく聞き取れなかったルイースが聞き返すと、大きな溜息を吐きながら自身の名を口にした。


「シャルロッテ。私の名前」

「それは、本来の名ですか?」

「随分と疑い深いんですねぇ?」

「まあ、相手が魔女となれば、ね?」


 お互いに牽制するように睨み合うが、最初に折れたのはルイースだった。


「では、シャルとお呼びしても?」

「お好きにどうぞ」

「ふふっ、貴女ぐらいですよ。この私に名を教えてくれないのは」

「それはそれは、どうもすみませんね。魔導師様に媚びを売る理由がないんでね。それより、早く本題に入ってくれる?」

「ああ、そうですね」


 こちらとて暇じゃないというオーラを前面に出しながら問いかけた。


「貴女には私の傷付いた心を癒す義務がある」

「…そんな義務聞いた事ないわよ」

「あははは!!何とでも言ってください」


 碧眼の綺麗な瞳は真っ直ぐシャルロッテを映していた。冗談を言っていないという事は聞き返さなくても分かっていた。だから尚更、シャルロッテは頭を抱えて俯いた。


(冗談でも嘘だと言って欲しかった)


 傷付いたって…遊んでそうな顔してる癖に随分と純粋じゃない?今どき珍しいけど、一度寝ただけなのに代償が大きすぎる。


 シャルロッテは意を決して顔をあげた。


「…確認だけど、私が魔女だって分かった上で言ってる?」

「当然」

「そう…じゃあ、改めて言う必要はないわね。答えはノーよ。そんな馬鹿げた話聞く価値もないわ」


 魔女相手に義務も常識もないわ。


「いいこと?大事にしていた初めてがなくなったのなら、それを生かして色んな女と関係を持って御覧なさい。経験が貴方を変えてくれる。初めてなんてちっぽけなものだと思うわよ」


 騒ぎ立てるのは最初だけ。他の者と関係を持てばその気持ちも落ち着いてくる。ここで早まることはない。


「本心は?」

「冗談じゃない。面倒くさい。…―あ」


 思わず本音が漏れ、慌てて口を塞いだが「クスクス」と愉し気に笑われた。


「残念ですが、私は貴女を逃がすつもりはありません」

「へぇ?たかが魔導師の癖に魔女に楯突くの?」


 すぐさま魔法陣を張り巡らせ、部屋に閉じ込めようとする。だが、シャルロッテは余裕の表情を崩さない。


 天才と呼ばれているが、シャルロッテからすれば所詮は未熟な魔導師。そんな小童に負けるわけがない。


(経験値が違うのよ)


「フッ」と笑みを浮かべると、パンッと強く手を叩いた。その瞬間、張り巡らされていた魔法陣が消し去った。


 ルイースは驚きを隠せず目を見開いて言葉を失っている。


「じゃあね。純粋で可愛くて愚かな魔導師さん。悪い魔女の事はお忘れなさい」


 妖艶に微笑みかけるシャルロッテに「待て―」とルイースが慌てて手を伸ばしたが、その手がシャルロッテを掴むことはなかった。






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