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第七話 帰宅

「ごめんっ!」



「いや、大丈夫。 時々あることだから」



「っ! 本当にごめんなさいっ!」



「いや本当に大丈夫だからっ!」



 何事もなかったかのように照明が時々点滅する連絡水晶版とどこから現れたのか寝転がって毛づくろいをしている一匹の猫だけしかいなかった寂れた公園に、行きとは逆の現れ方で再び地上に戻ってきた二人。驚いて逃げた猫の代わりのように、二人のやり取りが深夜に響く。



「後でなんか奢るからっ」



「そこまでしなくてもいいよ」



 顔を赤らめながら恥ずかしそうにペコペコと頭を下げる冬美に対し、綾人は今日だけではないのだろう繰り返されるやり取りに苦笑を浮かべる。


 本部に戻ってしばらくしたあと、我に返った冬美は桜子から髪が見えないようにとフード付きの黒いコートを渡され、お礼と謝罪を述べながらエレベーターへと乗り込んだあと、今に続く。


 かなり反省している様子だが、コートの中に来ているスーツの内側には、ぎっしりと血液入りの試験管が入ったままだ。


「そういえば綾人くん、肋骨とか大丈夫だった?」



「あぁ、なんとかな」



 冬美が我に返るまでの間、綾人は医務室に行って診察してもらっていた。軽い肺挫傷と診断され、一週間は運動禁止と言われている。



「学校にはなんて連絡するの?」



「まぁ、喘息って言えばなんとかなるだろ」



「あんずちゃんにも?」



「だな。 それにしてもLie、いくらなんでもやりすぎだろ」



 まだ少し痛むのだろう。胸をさすりながら恨めしそうに愚痴をこぼす。そんな様子を心配そうに見る冬美は綾人の頭をそっと撫でる。幼馴染だからこそ自然と行える仕草だ。やられてる本人は少し恥ずかしそうにしながら特にその手をどかすこともなく、されるがままになっている。内心、嫌がっているわけではないようだ。


 二人はそのまま来た道とは別の道を歩き続ける。


 来たときより比べて短い時間で目的地についた。冬美の家である。冬美は現在一人暮らしで、両親は別のところに住んでいるらしい。


 明かりのついていない、一人で暮らすには少し大きめの家の玄関のドアに鍵をさして、そっと開ける。



「お邪魔します」



「どうぞ」



 家に入ると自動的に明かりがついた。二人はそのままリビングに向かう。帰るだけならわざわざ綾人が家の中まで入らなくてもいいと思うかもしれないが、これには少し理由があった。



「風呂にお湯張ってあるよな?」



「うん。 急いで着替えてくるね」



「よろしく」



 髪に血液が付き、しかも固まってしまうとなかなか一人では完全に取り除くのが難しい。髪が長いとなおさらだ。しかも冬美の髪の色は淡いピンクなのですごく目立ってしまう。なので任務で血を浴びてしまったときは綾人が風呂場で冬美の髪を洗ってあげているのだ。



「あ、もしよかったら試験管、奥の部屋にしまっておいて」



「ったく、自分でやれよな」



「ごめんごめん」



 自分の部屋から腕だけを出して冬美はまだ血がびっしりとついているスーツを渡す。綾人はそれを受け取り、奥の部屋の扉を開ける。中にはいくつもの冷蔵庫があり、その中で一番右端の冷蔵庫を開ける。


 開けるとすぐに、濃い鉄の匂いが押し寄せ、続いて所狭しと冷やされている大量の試験管が見えてくる。綾人はスーツから新たな試験管を入れ、そっと閉めた。スーツを洗面所にある洗濯機に放り込んで、リビングに戻る。



「おまたせ」



「そろそろ冷蔵庫一個分くらいは捨てたほうがいいんじゃないか? あのままだと後が大変だぞ」



「まぁ、それはそうなんだけどね」



 冬美は罰が悪そうに顔を背ける。まぁ、誰でも気に入っているコレクションをおいそれと捨てる事はできないのは綾人もわかっている。しかし、集めているものがものだから家においておくのはよろしくない。とわかってはいるが、まだまだ幼馴染には甘い綾人のことなので今回もスルーしてしまう。



「早く洗うぞ。 俺はもう眠い」



「ここで寝てもいいよ」



「あんずに不審がられる」



「冗談だよ。 むしろ私があんずちゃんのところに泊まりに行きたいくらい」



「いつでもどうぞ。 そのほうが喜ぶだろうし」



「じゃあ近いうちに」



 さっきまで暗殺任務をこなしていたのが嘘みたいに、和やかな会話をしながら綾人は冬美の髪を丁寧に洗っていく。

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