第三話 組織
「遅いわよっ!」
「「すみません!」」
連絡水晶板から降りてきて早々出会ったのは、長髪高身長でオネエ口調を使うゴツい筋肉とトレーニングウェアがよく似合ってる綾人の職場の管理人であり師匠だ。
ちなみに綾人も含め誰も彼の名前を知らない。そのため綾人と冬美は師匠と呼んでいる。
「もう。 綾人くんのせいで私まで怒られたじゃない」
「すまぬ」
「ちゃんと反省してるの?」
「そりゃもうめいいっぱい」
早口で謝罪する綾人の様子からは全く反省の色が見えない。それでも許してしまうのはきっと幼馴染だからゆえのことなのだろう。
冬美は追加の文句を本日三度目の深いため息にこめて吐き出す。
「喧嘩はそこまでにして早く行くわよ。 さっちゃんが怒っちゃうわ」
「「はい」」
さっちゃんとは夢野桜子という女性の名前である。桜子は綾人と冬美の直属の上司である。
たくさんの水晶板が並んでいる部屋を通り抜けた先に五つのドアが見える。そのうちの真ん中の部屋が桜子の部屋だ。ドアの上についているプレートには『班長室』と書いてある。その左には『副班長室』がある。
綾人達三人はまっすぐ『班長室』に向かう。
「それじゃ、あっくんがいちばんまえね」
「師匠が先に行ってくださいよ」
「いやよ。 あっくんのせいでおくれたんだから」
「……はい」
綾人はうなだれながら一番前に行く。その後ろには師匠、最後に冬美という順番で並んだ。
綾人は二、三度深呼吸をしたあと、勢いよくドアを開けて左に避ける。
はたから見るとふざけているようにしか見えないが、これにはちゃんとした理由がある。
「ほら。 やっぱりさっちゃん怒ってる」
「ですよね~」
師匠の両手指先には小型のナイフが挟まれている。レプリカではなく本物だ。
このナイフは勢いよく開けられた班長室から飛んできたものである。綾人がもし左に避けなければ間違いなく顔に刺さって死んでいたことだろう。
綾人が恐る恐る部屋を覗くとそこには、高そうな椅子に座り足を組んで先程飛んできたものと全く同じ小型ナイフを人差し指でくるくると回している女性の姿があった。
「ちっ。 あともう少しで死んだのにな」
「殺さないでください」
綾人は、桜子に向かって深々と頭を下げる。今回はきちんと反省しているようだ。
冬美は、綾人の対応の違いにぷくっと頬を膨らませ私もナイフを突きつけたほうがいいのかな? などと思っているが彼女は優しい性格だからそれを実行することはないだろう。
「今回遅れた理由は……いうまでもないな」
冬美と師匠が一斉に綾人の方を指さした。
桜子にとってもいつものことのようで特にそれ以上言及することなく話が続く。
「今回の仕事はAー78で起きている連続殺人犯の始末だ。 転生を行ったものにはすでに話を通している」
「今回は全員でいくんですか?」
「そうだ。 今回はグループでの犯行だからな。 先住民も含めて処理する」
「わかりました」
冬美の質問に桜子が答える。A−78は無数にある世界の一つで、ここはまだ発展途上の世界なので自警団組織の出来がまだ良くない。これではこの世界の人達が転生者を罰することはおろか、捕まえることもできないので綾人たちに任務を依頼されたのだ。
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綾人たちは、転生人暗殺部隊という特殊組織の一員として働いている。主な仕事は転生先の世界では処理しきれない転生人犯罪者の偵察と暗殺。運動神経のよく比較的若い世代を集めて活動してるが、なかなか条件の合うものがいなくメンバーはたったの三人+管理人だけである。
肩書は師匠が管理人、桜子が班長、綾人が副団長で冬美だけ肩書がない。冬美は他にも仕事をしていてそこでの肩書は『第六部地球人専用転生員』だ。学生の中で特に忙しくしていると言っても過言ではない。
メンバーにはそれぞれコードネームが付けられている。師匠は『カーディナル』、桜子は『Lie』、綾人は『カルーソー』、冬美は『コスモポリタン』である。




