第二話 内緒
「はぁ、腹くっち」
あんずはどこかの世界から持ち込まれて今はやっている『方言』を使い、満足そうにため息をついた。
大きいサイズのケーキを二つ食べたばかりなのにさらにご飯を大盛りで三杯も食べた相変わらずの大食いっぷりのあんずを見ていると、お腹にやさしいおかずを作ったのはあんまり意味がなかったかもしれないなとつい思ってしまう。
あの小さいお腹にどうやったらあれだけの量が入るのだろうか。
「おにぃは今日も仕事あるの?」
「あるよ」
「そっか。 気をつけてねっ」
「あんずも夜更かしせずな早く寝ろよ」
「はぁい」
家は綾人とあんずの二人暮らしでときどき幼馴染のよしみで冬美が家事の手伝いに来てくれる。両親は綾人が十歳の時に行方不明になり、今でも消息不明だ。
このことがきっかけで綾人は夜に仕事をするようになった。家賃や色々な書類を書くときの保証人などの援助は職場の上司が面倒を見てくれているがその対価として仕事を任せられているという形だ。
ちなみに仕事内容は妹にも内緒にしている。
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街から明かりが消え、あんずもすっかり深い眠りについた頃に、風通しを良くするために開けたままにした窓から人影が現れる。
「綾人くん」
冬美は二階の窓からひょっこりと顔を覗かせてあんずの隣のベッドで寝ている綾人を呼んだ。
ちなみにこの世界は転生の中心となる世界のくせに魔法が存在しないので今の冬美は一階の下屋根の部分に乗っかっている状態である。
小さな声で呼ばれた綾人はすでにぐっすりと寝てしまっている。冬美はそんな綾人を起こすため、軽々と窓から部屋へ侵入し綾人の肩を叩く。
「綾人くん、仕事だよ。 早く起きて」
「もうちょっと……あと五分」
「毎回子供みたいなこと言わないで」
冬美はため息を付きながら綾人の体を揺さぶり続けた。
かなり眠たそうにゆっくりと体を起こした綾人の服装は寝間着ではなく、冬美と同じような全身黒ずくめである。
夜中に黒ずくめの格好をした年頃の男女が家を抜け出すというシチュエーションは色恋沙汰の想像をする人も多くはないだろうけど実際は全くそんなことはない。
むしろ捉え方によっては真逆のことをしているかもしれない。
二人が向かった先は寂れた公園にポツリと一つだけ置いてある連絡水晶板(とあるせかいでは公衆電話ともいう)である。
「毎回思うんだけどさ、二人で入るには小さすぎないか?」
「綾人くんが寝坊したり道に迷ったりするからでしょ」
「うっ……すみません」
冬美はため息をつきながら水晶板を操作する。しばらく何やら打ち込んだあと胸元からカードのようなものを取り出してかざす。するとガラス張りの壁が曇り、同時に足場が下がっていく。
完全に頭まで見えなくなったあと、新たな足場が現れ壁の曇りは完全になくなる。
残ったのは何事もなかったかのように照明が時々点滅する連絡水晶板とどこから現れたのか寝転がって毛づくろいをしている一匹の猫のみだった。




