第二十四話 難航
「あのさぁ、勝手に行動するなよ。 コスモポリタン?」
「みゅっ!?」
冬美は驚き、手に持っていた資料を床に落としてしまった。声の主がいるであろう後ろを、恐る恐る振り返るとそこには不機嫌そうな表情をしている綾人の姿があった。
冬美は気まずそうに自分の髪を触る。
「なんか急に調べたくなってね。 それよりもカルーソー、取り調べの人はどうしたの?」
「さぁ? 寝てるんじゃない?」
ちょっと拗ねた感じになっている綾人。その服装は清掃員の装いをしている。取り調べの人と同様、どこかのタイミングで気絶させたのだろう。
高等生にもなって精神年齢の低さが目立つ綾人。そのたびに冬美の母性本能が少し刺激される。まぁ、この場ではなんの関係もない話だけど。
「ちょっとこっちも掃除お願い」
「あ、はいっ」
綾人は冬美にメモ用紙を渡すと、呼ばれた方向に走っていった。そこには、『帰るときは必ず教えて』と、暗号で書かれていた。
冬美はいたずら心に火がつきかけたがすぐに鎮火させる。仕事中だからあんまりふざけすぎるのは流石にだめだ。
伝えないでこっそり帰るのはまた今度にしようと、心のメモに記入する。
たくさん並べられている書類を見上げ、再び作業に戻る。
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「終わったよ〜」
「遅かったな」
「まぁね。 どうせならこの仕事体験しようかなと思って」
「行動パターンがわかっていれば溶け込みやすくなるしな」
綾人と冬美は鉄格子を境に話をしている。あのあと綾人は、再び自ら取調室に戻り、終わったあと大人しく留置所に入れられた。一方冬美は、怪しそうなものをすべて調べたあと、前から興味のあった仕事を全力で楽しんでいた。
綾人は冬美の満足げな表情を無表情で見つめながら、あっさりと留置所の鍵を解除し、自由の身となった。
「はいどうぞ」
「どうも」
冬美から諸々の道具を渡され、暗闇の中二人は役所を脱出し、仮住まいへと走っていった。
家につくと二人は、道具を所定の位置に戻したあと並んでソファーに腰を埋めた。
冬美は机の上に、今日取った写真を一枚一枚書類順に並べた。特にめぼしい写真はないが、なにがヒントになるかわからない。
あれから三十分ほど経ち、写真を凝視していた二人がようやく顔を上げた。
「あんまり手がかりなかったね」
「だな。 何かしらあるとは思ったんだけど、空振りか〜」
「そんなに簡単に見つかるほど、相手はやわじゃないってことだね」
「こりゃ骨が折れそうだ」
綾人は机に広がった写真を一箇所にまとめながら、ため息をつく。三日間の疲れが一気に襲ってきたようだ。
「なんか、ゴールの見えない努力って精神的にめっちゃ疲れるんだけど」
「当たり前でしょそんなの。 そう思うなら早くベッドに行く」
「冬美は寝ないのか?」
「私も寝るよ。 なれないことばかりでもうクタクタ」
冬美も絞るように大きく伸びをする。
冬美がベッドに横たわったのを見届けてから綾人は電気を消す。
「おやすみ」
「おやすみ〜」
…………ちなみになりすましのために気絶させた女性警備員は、二人があの場を立ち去るときに置いていったスイーツ食べ放題券を使用し、予定外の休暇を満喫していた。
どうやら彼女は、親に強制的に進路を決められていたらしく、長年の鬱憤が爆発したようだ。
もちろんこのことは、冬美がリサーチしたうえでの計画であり、見事にはまったようだ。




